巨乳テイムテイムその2《陥落》
「何か用ですか?」
ギドは目の前に現れた巨乳に明らかに警戒する。
「もしよかったらパーティに入れて欲しいなーってぇ」
怪しい人はヘラヘラした笑顔で胸の谷間を見せている。
「……断る」
「話くらいは聞いてよぉ……」
怪しい人はヘラヘラした笑顔から微笑と言った顔になってゆっくり近付いてくる。
「いや、間に合ってる」
ギドは愛想笑いで返すも余裕はない。谷間へと視線が行く。
「うん、でもそれが正しい反応だよぉギド君」
怪しい人は指を宙でくるくると回す。
「……私の名前をどこで聞いたのか教えてくれないか?」
ギド氏、少しだけ真顔となる。
「その反応も正しいわよぉ。じゃあその質問に答えましょ。私はここのマスターから君の名を聞いたんだよぉ」
(そりゃそうだ、パーティが欲しいなら普段この辺にいる冒険者の名前くらい聞いててもおかしくはない)
「そうですか、じゃあ失礼します」
ギドはすれ違って出口を抜けようとする――
「その行動はまずいよぉ。私の正体を確かめる前にここを出るのは得策じゃないわねぇ……これだけ怪しいんだから」
(自分で怪しいと自覚していながらこの態度と言うのも大分酷い話でけしからんおっぱいだ)
「……あなたは何者ですか?」
「私は、そこのアルス君のお姉さんのお友達ですよぉ。アルス君が居なくなってお姉さんが寂しがってますのでぇ、連れ戻しに来たのよぅ」
突然現れた女はヘラヘラ笑いながらアルスを見ている。
「姉ちゃんか……」
アルスは何やら勝手に納得している。
この怪しい人を見て姉の友達と納得すると言う事は姉ちゃんという人が何なのかは想像もつかない。ギドはそんな顔をしている。
「お姉さまですょお」
怪しい人は色っぽく言い直す。
「俺の事は諦めてくれ…と言ってくれないか? もう暫くは家に帰りたくないんだ」
「まぁ、そう言うのは解ってましたしぃ、構いませんよぉ。でもぉ、でもぉ、そのまま帰ったら怒られるのでぇ、少しだけお話出来ないかなぁ? もう少しだけ一緒に居たいなあなんて思うんですけどぉ……?」
謎の女の表情がにこやかに崩れる。
(だからパーティに入れろと?)
「なんでそんな話の流れになるんだ」
「そんな訳でギド君。私もパーティに入れてくれないかなぁ? 私はテイムテイム。嫌でも付いていくよぉ」
「断ります。では私達はこれで……」
ギド達はその怪しさに弾かれるようにテイムテイムを通り抜け、酒場を出る。そして薬草ヶ丘の方向に向かって早足で歩き始める……。
◇ ◇ ◇ ◇
「ついてきてるな……」
ギドは背後を確認もせずに気配だけで言い放つ。
「ほっておきましょう」
何故かラミザリアが怒ったような顔をしている。
「アルスのお姉さんってあんな変なお友達いて大丈夫ー?」
「姉さんもあんな感じだから大丈夫だと思う。多分同類……じゃないかな」
アルスは顔面蒼白だった。
「アレが嫌で出てきたのか?」
「概ね間違いじゃないな」
ギドの疑問は的中した。それはその場の皆が抱えていた疑問でもあった。そして、ラミザリアはくるりと振り返った。そして背後のテイムテイムに向かって息を吸う。
「あなた、アルスはあなたを嫌いと言ってます」
「今はあなたじゃなくてあなた達よぉ。酒場にいた強そうなお兄さんも一緒ぉ」
「おう、おめーら、このお姉さんの言うこと聞いといた方がいいぞぉ、ちなみに俺はゴロツキだぞぉ」
「嫌です」
「あんだてめーはよぉ~」
「ラミザリアです」
「ラミザリアだぁ? 性病みたいな名前しやがって……陰気くせぇ顔にお似合いだがな……はっはっは」
「ラミザリアちゃん! ここは言い返して!」
「そうだそうだ! 言い返してみよう」
「やれば出来るよ!」
「うううう! お前に性病を感染させてやろうか!」
ラミザリアは犬歯を剥き出しにしてそう言った。
「あ? お前が相手してくれるってのか?」
ゴロツキは動きを止めた。
「ラミザリアちょっと違うね」
「うん、ちょっと違う」
「その調子だやっちまぇーーーー!!!」
ミリアムのテンションが爆発した。
「なんだてめぇら舐めてんのか!!」
「舐める舌ごと解体してやる!」
ラミザリアは吠えた。
「今のは良いよ!」
「ナイスファイト!」
「やっちまぇーーーー!!!」
ギドとアルスとミリアムはファイティングポーズわ取ってラミザリアを応援している。
「じゃあ強そおなお兄さぁん、実力でわからせてちょうだい」
「合点焼酎の助!」
「え?何てすか?」
「来る!」
ゴロツキが間合いを詰めてくる。それに対してミリアムが竹の杖を前に出して牽制する。その下でギドが低く構える。ギドは、手刀を喉仏に直撃させる事で行動力を奪えると考えているのだろう。いつもの短剣攻撃の延長だ。
アルスは殺傷力を抑えるために弩の矢の鏃を取り、構え直す。いざとなれば武器の使用も辞さない構えだ。
「おりゃー」
思いがけない、そして間の抜けたラミザリアの一撃から戦闘が始まる。片手で振りかぶった竹の杖の一撃はゴロツキの手に簡単に捕まった。
「お前ら素人かぁ?」
「それはどうかな?」
アルスの右手から放たれた弩の短矢がゴロツキの右脛に激突する。
「んぎぃ」
「ちょっとちょっと! 武器は反則よぉ。勝負ここまでぇ。強そうなお兄さん下がってぇ」
ゴロツキを下がらせたテイムテイムが胸を強調して表に出る。
「いくわよぉ、悪い子にわぁ……魅了ぅ」
「な"」
「ん"が」
アルスとギドは急に前屈みになる。
「むむむ! こんな町中で魅了を使うなんてー!」
ミリアムは吠える!
「丸腰のゴロツキ君を棒でつついて、あまつさえこんな危ない棒キレを弩で撃ったのよぉ?あなたたちぃ。私は自衛してるだけよぉ。魅了重ねが……け」
「んっ」
アルスは膝から崩れ落ちる。
「思春期の男の子でしょお、身体の自由効かないんじゃないかなぁ?アルス君。お姉さんに怒られない程度に悪戯してあげようかぁ?」
テイムテイムは屈んでよりそのまま地面に転がり込むようにしてアルスの顔を覗き込む。
「勿論私についてきてくれたらねぇ」
「ぃゃです」
「魅了、魅了、そろそろ弾切れよぉ、堪えられるかな?」
「アルスかんはって! もっともっと私とおはなししましょう」
「ラミザリア……!!」
ラミザリアがアルスとテイムテイムの間に割り込んで何だか良い雰囲気になる。
「そこだァ! そのまま根性抵抗してしまえー!」
ミリアムは適当に応援する。
「あなたこの子の事が好きなのぉ?」
「…‼!…!ゥ」
……アルスの腰が脈を打った。
◇ ◇ ◇ ◇
「好きですよ。仲間ですから」キリッ
「……」
ギドは立ち上がったアルスを見上げる。
「……」
しゃがんだ状態のテイムテイムも見上げる。
「どうしたんだい君達」
アルスは最も高い地点から皆々を見下ろす。
「……?」
「……?」
ミリアムとラミザリアは互いに何が起こったのかの把握をしようとするが、訳がわからずに見合わせている。
「解除、なんか勝ったのか負けたのか分からないわぁ」
「格好いいシーンのはずが台無しだな……」
抱き締めた紙袋から伸びるフランスパン的なパンが伸びている。酒場のマスターがそこには居た。
「マスター!」
間一髪で助かったギドが声を上げる。
「家の前で厄介起こされると困るんだよね。おちおち眠ってられねぇ」
「あ、ここマスターの家だったんですねー! 素敵な家!」
全員が目の前にある家を見上げる。2回の窓に沢山のサスペンダーが干されている。これはマスターの家だと皆が確信した。
「だろ、職場から徒歩4分だぜ」
「マスター……」
サスペンダーの数と職場への距離からマスターの苦労が偲ばれる。
「で、テイムテイムさんはこれからどうするんですか?ギド君達と戦いますか?」
マスターはフランスパン越しにテイムテイムに話し掛ける。威圧感ゼロなんだが台詞だけ聞くと格好いい。
「んー」
テイムテイムは立ち上がる。
「今日は帰るわぁ」
一瞬思案を巡らせた様な仕草を見せてその場で踵を返した。
「今日はと言わずもう来ないでください」
「あら、つれないこと言わないでよぉ」
アルスの呟きにテイムテイムが立ち止まる。
「ねぇ、あなた。ラミザリアちゃんだったかしらぁ? これあげるわぁ。この石鹸いい匂いするでしょう? これから必要になると思うしぃ、洗濯とかに使ってねぇ」
テイムテイムはラミザリアの前に出て謎の石鹸を手渡す。
「あとこれもあげるわぁ、ウサぴょんちゃんって言うの。大切にしてねぇ」
テイムテイムは手に持った薄汚いウサギの人形をラミザリアに手渡す。
「明らかにこれ貰っちゃダメな奴じゃないか?」
ギドは突っ込む。
「今のはいい発言よぉ。怪しいもんねぇ……。でも、そんなのどうでもいいくらいあなたに持っていて欲しいのよぉ、ラミザリアちゃん、貰ってくれるわねぇ?」
「貰っていいなら貰います。たたし、とうあつかおうと私の勝手にさせてもらいます」
「いや、どう考えても怪しいよコレ! ラミザリアちゃん」
ミリアムにすら突っ込まれる。
「いいの、多分゜コレは私のたたかい。受けて立ちます」
「ラミザリアちゃんはものわかり良いわねぇ、」
「ては失礼します」
ラミザリアは初めて皆の前に出て歩き始めた。
修正すると展開が怪しい。
こんな不自然じゃなかったはずだ……!




