裏山改造作戦その2《明日の予定は?》
ラミザリアが犬鬼の解体とフレッシュゴーレムの作成を行っている脇で、ミリアムは今日採取した触媒を使って魔法を用意していた。アルスは籠を作っていた。ギドは籠の背負い紐を編んでいる。
「犬鬼の睾丸は……魅了に使えるけど……これ使う機会ないのよねー。睾丸10個につきちょっとづつ効果は上がるけど……そもそもその触媒だけじゃ殆ど効果ないし、面と向かって町の人間相手に使えるものでもないし……、素材は溜めとくか。火矢でも変換しとくかなぁ」
「火矢って威力はあまり無いよな。牽制くらいには使えるけど」
ギドがミリアムの痛い所を突く。
「その通りだよー。水包くらいなら倒せるけど、人間より弱い犬鬼すら火矢だけでは倒せないのよねー」
「何とかもっと戦闘向けの魔法は作れないかな?」
「爆裂キノコ5個と魔術キノコ3個で火球弾が出来るよー。なんなら今作れるけど、多分当たり所次第では犬鬼も死なないかもしれないから、今作るのもどうかなーと思う。それより、あと30個くらい爆裂キノコ集めて、魔術キノコを足して爆裂とか作った方が使えると思うんだよねぇー。それなら多分巨人鬼にもダメージが通るし、豚鬼も一撃で倒せるか致命傷にはなると思うから……ギドを前衛にしてクリティカル狙いなんて危ない戦い方しなくても良いと思うし。
あと蛇の頭とか集めて、町で鎖買って、蛇鎖巻とか作っても良いかも。地面から蛇が出てきて脚に巻き付いて噛みつく奴。どんな敵でも少しは足止めになるから、足止めしているうちに弓矢と杖でタコ殴りしてもいいし、逃げてもいい」
「秋だからキノコが取れやすい時期ではあるんだよなー」
ギドは冒険者の手帳を眺めつつ呟くが、暗がりのためにあまり見えてはいない。
「秋だからねー。キノコ全般取りやすいはずだよー」
「明日は町に酒を卸しに行ったあと買い物をして、次行くのは薬草ヶ丘だから、その後裏山を探してみるか。蛇とか、いるかな」
ギドは手帳を仕舞う。
「蛇が触媒になるなら取っておけば良かったな。言ってなかったがはじめて裏山に来たときに見かけたぞ」
アルスは籠を編みつつ話に入ってきた。
「惜しいー!」
「情報交換は頻繁にやっていこうか、ラミザリア、聞こえてるか?」
「聞こえでます」
皆を気にして少し離れた場所でフレッシュゴーレム作成をしているラミザリアが答える。
「そう言えば明日は酒樽を酒場に届けて1,300G×4の5,200Gが手にはいるけど、何か欲しい物はあるか?」
「「「……」」」
各自思い思いの顔をしている。
「とりあえず夜の灯りにランタンと油が必要だと思うから幾つかまとめ買いしようと思う。今日は竹の松明に燃料はその辺の木材を使ったが、煙が出るし、洞窟内ではさすがにあの松明で火は焚けないだろう。酸欠になってしまう。」
各自思い思いの酸欠で苦しむ様子を思い浮かべている。
(みんな大丈夫か……?)
「あと食事用の塩と油も買っておこうと思う。アルスには今後もウサギとか鳥とかを狩って貰って、それをパーティーみんなの食材にさせてもらおうと思ってるし、銀杏やしいたけも焼くだけじゃなくて、味付けとか必要だと思うからな」
アルスはそれに答えて無言で親指を上に向ける。
「それから、解体用の糸鋸と短剣も欲しい。ラミザリアと……あとミリアムの分も必要かなと思っている」
「ありやとー!」
「ありがどうございばす」
「あと、1日1回は町で食事をしよう。何だかんだで食べ盛りだからな」
ギドはパーティーに飴を振るう。実物の飴はないのだが。
「以上だ、えー、さっきの欲しいものとかは大丈夫か?」
「はいはーい! 触媒用に鉄の鎖が欲しいです! 防具屋で売ってる600Gの奴です! それがあれば敵の足止めが可能な蛇鎖巻が使えるのでいざと言うとき役に立ちます!」
「これから寒くなるだろうから清潔な毛布も買った方がいいかもしれん。ラミザリアが今解体してるが……コボルトの毛皮では夢見が悪くて寝付かれないだろう?」
ミリアムとアルスから意見が出る。
「そうだな。出会った初日のラミザリア……みたいになってしまうのは流石に衛生上問題だろう。じゃあ優先は毛布からにして、鎖はお金が余ったら買おう」
「「了解!」」
「明日のスケジュールは、町へ酒樽を卸しに行ったあと買い物&昼食。その後は薬草ヶ丘で薬草採集。触媒や薬や食料、それから香水にして使おう。明日は少し遅めにして、日が明けたら出発しよう。眠くて敵わん。日暮れまで時間があったら少し裏山を回ってみようか。犬鬼がここまで増えてるなら何かあるかも知れん」
ギドは眠そうだ。
「賛成。とりあえず朝に少し組み立ててたから、籠は寝るまでに4つ出来そうだ。明日は問題なく行けるはずだ。もし早起きできたら鳥でも狩ってくるさ」
「頼む、朝御飯の事まで考えてなかった」
ギドは目を閉じている。
「ラミザリアちゃん、もう出来たー?」
3名がラミザリアの方向を見ると、死体をバラバラにしてその中に佇んで作業をする笑顔のラミザリアの姿があった。
「もうすぐ終わりまずよ」
改めて微笑むラミザリアの背後に月が輝いていた。
魔法の威力の目安として、ファイアアローは棒付きの打ち上げ花火にガソリンを魚の醤油容器に入れられるくらい纏わせたもの程度です。敵に向かって多少追尾します。当たれば痛いですし、火傷も延焼もします。しかし、衣服に燃え移ったりしない限り致命傷にはなりません。スケルトンは火に弱いので、10発程受けたら燃えてしまうかもしれません。
ファイアボールは1発1,000円の打ち上げ花火を縦に飛ばすようなもので、着弾と同時に範囲を60cm程度に抑えて爆発します。衝撃が凄まじく、鍛えていない大人の腕なら骨折させる程の威力です。爆発と共にお魚の醤油容器1個分のガソリンが飛び散りますので延焼効果もあります。
普通のハードレザーアーマーの胸や、堅い木の盾あたりで受けるなら、衝撃のダメージを多少受ける程度で何とか耐えられます。生身に当たると大怪我は必至!コボルトなら腕を吹き飛ばす威力です。しかし、オークの身体ならば6~10発くらい当てねば倒れません。頭や顔に当たれば2~3発でノックアウトです。
爆裂は対人地雷程の威力があり、コボルトは木っ端微塵。オークならどこに当たっても死亡か重傷です。しかし、オーガは頑丈なので、この程度では骨折程度の傷も期待できません。せいぜい身体の一部分の打撲裂傷火傷程度です。頭に当たらなければ100発程度は耐えます。爆発による衝撃での殺傷を目的としているため高温になりはするが、延焼効果はほぼない。




