再会の約束
◇ ◇ ◇
「そうだ、もしよかったら少し灯りを分けてくれないでしょうか?思ったより洞窟が暗くて怪我をしそうなんです」
「おめぇ、それ逆だろうよ。俺が欲しいわ」
普通に考えて洞窟住まいの者に言う内容ではない。その場の全員は、酔っぱらいの分際で至極まともな思考を即座に返す酒の精霊に「大人」を感じつつ、ギドは交渉を続ける。
「じゃあ次来る時に油を満タン&倍にして返します」
言った瞬間ギドは乗せられたことに気付く。
「明日にでももう1回来ますので……」
アルスもへりくだる。
「まぁ、じゃあそれ1個貸してやるよ。返せよ」
「「「「ありがとうございます」」」」
ランタンを取り外して帰路につく。ランタン1個と浮遊蝋燭2つの灯りと浮遊蝋燭1つの灯りではかなり違う。何とか帰る事が出来そうだ。パーティは足を進めた。
「また明日往復しなきゃなんないんだよねー、ここ……」
ミリアムが目を光らせて呟く。
「まぁ、仕方ないよ。準備不足だった。また明日往復すれば報酬は倍だからな。ラミザリアに服を買ったとしても多少は貯まるんじゃないか?」
「あの、本当にすびまぜん。あど、この服が気に入っているので、ごのままでいいです」
(血みどろのローブをリアルに気に入ってそうで怖い)
「まぁ気にすんな!ラミザリアは10,000Gまでは受けとる義務があるぞ」
酔っ払った父親のポケットマネーである。
「そうそう、アタシのお古よりは……」
「お古がいい///」
ラミザリアはモジモジとして何やら妙な雰囲気である。
「ウォッホン」
アルスの鼻の下に髭が生えた。
「警戒を怠るなよー」
ギドが現実の方向を指差す。
「そこ出っ張ってるよー」
「うぉお」
「引っ張るなウォッ」
ギドとアルスはそのまま洞窟のこぶに足を引っ掻けて転んでしまった。一番現実を見ていたのはミリアムだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「警戒を怠るなっすよー」
ミリアムは半目でギドを見ている……。
「いてぇ……」
「ぅ……てぇ」
「怪我はありま"せんか?」
「ああ、大丈夫だ」
「こっちも大丈夫だ」
楽しみながら進めば暗い洞窟も案外に楽しいものかもしれない。そう思い込む事によって無理にでも陽気に振る舞う彼らではあったが、狭い洞窟の中、暗闇に対峙しながら進む時間は確実に精神を消耗させていたし、疲労をも蓄積させていった。
ラミザリアは暗闇こそ怖がらないものの草履で岩肌の上を歩くと言う精神を消耗させる歩みに限界が来ていた。足は怪我こそしていないものの、その足は冷たく、疲れ果てていた。その様子にアルスは気付いていた。
「ラミザリア、魔物もあまり居ない事だし、おぶってやるよ」
「樽は2つ私が持つよ」
「さ、早くおんぶしてもらいなよー!」
「ありがどう……」
アルスは樽を腹に抱えるようにして持ち、背中でラミザリアを背負った……。ラミザリアの樽は同じようにギドが腹に抱えた。アルスは暗闇で一時的に失っている視覚情報を触覚に回して背中に集中する。
「敵がいたら私が魔法で迎撃してるからその隙に体勢を立て直してね」
「もちのロンロン」
暗闇に盗賊の短剣が光る。
「その後は任せろ……ふんはふんは!」
アルスはゆさゆさと上下に揺れる。
アルスは役得を得た。隊列はギドとミリアムの前衛に後衛はアルスとアルスの背負ったラミザリアと言う形に収まった。後半はペースが遅くなりはしたが、何とか無事に洞窟の入口に辿り着く事が出来た。外はもう夕方と言った状態で茜色に染まっている。
「あり"がとうございまじた。ここごらは歩けまず」
ラミザリアはアルスの背中から降りてギドから樽を受け取った。
「いきましょうが」
足取りは軽くはないが、暗い洞窟を出た解放感はそれだけで彼ら彼女らを安心せしめた。秋の空気が肺に満たされる。煌めく西陽が身体を暖める。
外は良いものだ。
◇ ◇ ◇
1時間後、4人は酒場の中で夕食をとっていた。
「「「「かんぱーい(")!」」」」
それぞれの飲物を手に乾杯する。
ギドは薄めたエール
アルスは薄めた精霊の葡萄酒
ミリアムはミルクティー
ラミザリアはレモン風味水
テーブルには人数分の酒場特製シチューと、柔らかい方のパン。大皿に入ったコールスロー、レモンと酢と塩を混ぜたドレッシング、綺麗に切られているローストビーフ、燻製にされたチーズ……等々が並んでいた。
「えー、今晩はラミザリアちゃんのパーティ加入とバッカスの洞窟初攻略のお祝いを兼ねてかなり豪勢な食事になっております。なんと、今回貰ったお金の半分近くは使いました。明日は薬草を取る籠を作りにいく裏山とランタンを返しに行くバッカスの洞窟の2回チャレンジなので、精をつけておきましょう!」
アルス「イエーイ!」
ミリアム「フゥー!」
ラミザリア「ア"ー!」
「「「「乾杯!」」」“」
「明日は少し忙しくなるな」
グラスを傾けてアルスが呟く。
「仕方ない。今日は用意したもので足りない事があるってわかったし、用意は沢山しておかないといけないからな」
ギドがグラスをスライドさせてアルスのグラスにカツンと軽くぶつけた。
……夜も深まって行く。
「明日はラミザリアちゃんの服と革靴、靴は私のも良いかなー?と背曩を買って、裏山に行くんだよね。それで薬草摘みに使う籠と松明作りかな?あとは~隣光とか使えたら楽だよねー。発光キノコあると良いね」
「あれば良いなぁ」
アルスはおっさんのようなため息をこぼした。
◇ ◇ ◇ ◇
「さて明日だけど、往復だと結構時間ロスするよな。ミナトの町→裏山→ミナトの町→バッカスの洞窟→ミナトの町だと早朝に出ても日が暮れた頃にしか帰れない」
ギドが話を仕切る。アルスはグラスを見詰めている。
「裏山に泊まれ"ば良い"んじゃない"でずか?」
「ああ、うん。でも昨日ほ豚鬼居たしー、多分、安全って事はないのよねー」
「でもあの洞窟に出来た籠とか置いてったら町との往復しなくて済むし、楽と言えば楽なんだよな」
ギドは自分のグラスでアルスのグラスをカツカツ叩くも無反応だった。
「閉じた洞窟があ"るなら、蓋をじて清めておげば住めまずよ」
「そうなの!? じゃあこれ言い案じゃない? 私達現時点で矢やら触媒やらで背曩パンパンだし、あの洞窟が使えるなら倉庫にしちゃえば良いんじゃないかな?」
「……出来るのか?」
ギドはアルスを見るも、机に伏せていて話が出来そうにない様子だ。
(しかし……何となく薄目でラミザリアの方を見ている気がするが、まあいいか)
「洞窟の外に内臓撒い"たり、お香を焚いだり、色々なにおいをつけておけば魔物はよってこない場所にでぎます。洞窟の中は入り口を塞いで魔物が入らないように“した上で、人のにをいを定期的につけると洞窟に魔物が発生しなくなりまず」
「宿屋代も高いからそうしようよー」
「確かに良いアイディアかもしれんな……竹林が近いし麒麟蔓の蔦が豊富だから竹で家具は作り放題だぞ」
アルスがむくりと起き上がった。
「でも、洞窟って今日のあれだぞ?物凄い暗いだろ?それに毎回麒麟蔓を刈らないと山にすら入れないぞ」
ギドはアルスのグラスをカンカンとつつくが中身は空になっていた。
「でも倉庫兼寝床って考えたら秘密基地みたいで良いんじゃないー? 楽しさ優先でー♪」
ミリアムも飲み物を飲み干して言い放つ。
「まぁ、とりあえず洞窟に蓋をして作った籠を一晩置いてみよう。何も問題が無かったら拠点を作ろう」
ギドは話をまとめる。
「あ、でも今はグリントさんを追いかけるから拠点は急がなくてもいいんじゃないかなー?」
「旅の道中は……魔王城の近くの巨人鬼が出る荒野や、魔物の出る森を越えないといけないらしい。少なくとも今の装備だと巨人鬼と出会ったら全滅は必至だから、装備や魔法は整えなければいけないと思う!」
アルスはキリッ!としている。そんなに拠点が作りたいか。
「特にミリアムは軽装過ぎるからな」
ギドも飲み物を飲み干した。
「靴を履け靴を」
アルスの追撃が決まる。
「私も"軽装ですごめんなざい……」
「ラミザリアちゃんは仕方ない」
アルスは優しい様子を見せる。
「仕方ないよ!」
ミリアムは……まぁ、優しい。
「あの、私……そんなには急いでいないので大丈夫です……。父の足跡をたどれただけで安心しましだ。あと、皆で居るのがたのしぐて……。ァダヂ……本当“に一緒にいて良いんでずか?」
「勿論、俺達はパーティだからな」
アルスが今日一番格好いい台詞を吐いた。
覚える事
・翌朝裏山に籠を作りに行く。
・バッカスの洞窟にランタン返しに行く。




