30 不遇だった錬金術
これで終わりです。
リアルが忙しくなり、警備の仕事も夜だけになっていたものの、それもきつくなって遂に辞めた。
惜しまれたが寿退社と言ってやると、それなら仕方が無いねと言われ、祝ってくれた。
そうして個人商店の経営のノウハウの伝授を受け、営業の傍らそれに従事していく。
それでもゲームは辞めてない。
でも、それも少し怪しくなってきた。
時の流れは留まらず、戻らぬ存在の時は短い。
妹達がそれぞれ相手を見つけ、両親と共に臨んだ結婚式は2回。
それで気が抜けたのか、母さんの具合が悪くなった。
最上級の回復薬はもとより、万能薬のレシピまで探しに探し、なんとか処方したものの寿命には勝てず、どうしようもないままに儚くなった。
それで更に気が抜けたのか、鍛えていたはずの父の容態も悪くなる。
そうして翌年、同じ場所に眠る事になり、オレ達の気力まで怪しくなった。
実は彼女のほうの実家でも同じような事になり、21世紀末な時代設定の割りに、早死にする住民達。
双方共に親を失い、リアルの親のほうに比重が移り、次第にログイン時間は短くなっていった。
それでも拵えたスタッフは忠実に、工場と雑貨屋の経営をやっていく。
そうして代替わりの如く、子供に事業を渡して悠々自適になり、ますます足が遠のく事になる。
拵えたスタッフ達も、新しい事業主に従うように設定しておいたし。
それで特に問題は起こらず、潤沢な回復薬の流通と共にあちこちの都市の復興は進んでいった。
◇
リアルでの事業にもすっかり馴染み、家族と共に過ごす日々。
ログインする事もなく、傍らの存在と共にどれぐらいの時を過ごした事だろう。
ある時、あのゲームでの大型アップデートの話を知る。
久方振りに共にログインしてみると、世界の様相はかなり変わっていた。
あちこちの都市は再開発され、すっかり復興が終わっており、リアル準拠な世界になっていた。
聞くところによると大陸の隕石の排除は終わり、後は海洋の隕石を残すばかりだという。
魔法による水中呼吸の目処も立ち、それと元に科学での排除もやれるようになっており、完全排除は時間の問題と言われていた。
雑貨屋はチェーン化されており、工場からの回復薬が供給され、全世界へと出荷されていた。
関係者の元を訪れたが、誰もオレ達の事を知る者は居らず、子供達も何処に引っ越したのか分からないままになっていた。
かつての実家に行ってみると、そこにはスーパーが建っており、かつての面影は全く無い。
店のあるじも知らない人で、元の持ち主の事は知らないと言われる。
まるで最初から居なかったかのような扱いに、妙に物悲しくなった。
あいつの実家も同様で、もう面影は無い。
「ねぇ、あそこに行ってみましょうよ」
「そうだな。あそこなら、もしかして」
「きっとあるよ」
それは山の中腹にある、景色の良い墓地。
かつて双方の親を見送った場所。
それぞれの家の墓を探し、見つけて共に拝む。
「やっぱりここで暮らしていたんだね」
「ああ、違う世界に来てしまったかと思ったが、確かにここで暮らしていたんだな」
「もう、誰も知っている人は居ないのかなぁ」
「探せば居るかも知れんが、他の町に行っているとしたら、探すのも大変だろうな」
「もう、行けるようになったのね」
「そうみたいだな」
◇
大型アップデートの内容は、隕石排除後の世界について。
どうやら第二弾への移行になるようで、その下準備のような事をやるらしい。
そうして隕石による侵略の出来事は過去の物語となった世界での新たな冒険が語られるらしく、詳細はまだ不明との事。
運営からのメールが届いていたのでそれを読む。
『仮想都市トキオをご利用いただきありがとうございます。このたび、第二弾への移行の為の下準備と称し、様々な変更を行います。つきましては世界の様相もかなり変わる為、現在所持されている所有物の所有権も変更になります。ただし、それに対する補償も行いますので、どうかご容赦ください。後、これだけは残して欲しいという要望がございましたら、スタッフと協議の結果、残させていただく事になります。大きな建造物は無理かも知れませんが、新しい世界に残しても不都合が無いと判断された場合、それを移設させていただきます。どうかこれからもこのゲームをよろしくお願いします。スタッフ一同』
◇
「あれ、決めたのか」
「うん、あれしかないよ」
「それはもしかして、山の中腹にあったりはしないか? 」
「あはは、同じだね」
「トキオを見下ろす場所だから、新しい世界になっても問題ないよな」
「そのうち別荘とか展望所とか言われると困るけどね」
「まあ、そうなったら仕方が無いさ」
「そうだねぇ」
「外でも12年か」
「中はもっとだったけど、楽しかったね」
「ああ、そうだな。それで、第二弾はどうする? 」
「情操教育になんないかな」
「ほお、子供に参加は良いが、お前はどうするんだ」
「え、それはぁ、つまりぃ」
「お前にしては溺愛にならなかったのが不思議だったが、中でのみか、あの性癖は」
「まあね。さすがにリアルであれは引くでしょ」
「親依存になっちまうから心配していたんだ」
「それぐらいは考えてるって」
「おみそれしました」
「あはっ」
不遇と言われた調薬も、今ではすっかり人気の職のひとつとなっている。
結局、錬金術は実装されてないという認識のまま、次なる物語に移行しようとしている。
さすがに500ポイントはやり過ぎだったようで、最前線のトップでもレベル317な現在としては、どうしようもないポイント数なのだろう。
見つけたオレが言うのも何だけど、あれは不遇のままで良かったと思っている。
錬金術が無くてもこうしてゲームクリアになったんだし。
たくさんの皆様に読まれて感無量です。
まさかこんなに多くのブックマークをしてもらえるとは思っておらず、それに見合わぬ出来になって再考の連続のなりはしたものの、それでもまだまだ未熟な作品だと思います。
手抜きのように言われても仕方の無い出来ですが、今の私にはこれが精一杯のところです。
描写が苦手なのは致命的なので、それを何とかしたいと思ってはいるものの、中々巧く文章になってはくれません。
取って付けたような描写になり、消してやり直しているうちに、どうしようもなくなってしまう事も多々あり、技量の拙さを痛感しています。
参考になるかと他の人の作品を読んだところ、その隔絶した差に参考どころの話ではなくなりました。
どうにもダメですね(汗
それでも、こんな私の話を読んでいただき、ありがたいと思っています。
本当にありがとうございました。




