29 不遇な過去からの脱却
過去話を少しだけ。
思えば幼い頃から辛かった。
上の2人の兄には何も言わないのに、オレにだけ強要された祖父の修練。
中学の終わりまでそれは続き、祖父が死んで実家に戻されたものの、すっかり他人の様相になっていた。
寝泊りは離れだと言われ、食事に向かっても会話が無い。
学校での事を話そうと思っても、無駄口扱いしてやれなかった。
元々年の離れた兄達との会話もまた無く、中学の頃には共に大学生だったせいもあり、共通の話題にも事欠き、自然と会話の無いままに過ごした。
その影響か、クラスでも対話する相手に恵まれず、いわゆるぼっちな学生生活になっていた。
祖父の修練のせいか、苛めは早々に終息したものの、コミュニケーションの能力は相変わらずのままだった。
そんな中、VRゲームでの体験がオレの唯一の救いとなり、中での体験のうちに能力は開発されていく。
そうして家を出て働く事を夢見るようになり、アルバイトで貯めた金を手に、卒業式が終わったら逃げるように都会に出た。
親に内緒で受けた入社試験で内定をもらい、意気揚々と出社したものの、回されたのは営業。
確かにコミュニケーションの能力は育っていたが、いきなりの営業は苦難の連続だった。
何とか2年勤めて成人した頃、会社の運営が思わしくなく、先行き不鮮明な噂が社内で囁かれるようになった。
どうにも不穏なので、次なる勤めを探しておくべきかと、色々探してみるもののまともな勤めは無理そうだった。
そうして遂に会社からの通達が成され、それを受けて自主退社となる。
僅か2年でも懲戒免職とは違ううえに、会社からの要請なので特別に退職金はもらえた。
期間が短いので失業保険も役に立たず、特別にもらった退職金のお世話になっているうちに、警備員の仕事が見つかる。
オレは大した事をした訳じゃない。
たまたま深夜のアルバイトの帰り、揉めているような騒ぎに遭遇し、悪いと思われるほうを攻撃しただけだ。
それはある会社に忍び込もうとして警備に見つかり、逃げようとして揉み合っている相手に対しての攻撃。
軽い当て身でおとなしくなったので、『それじゃ』って帰ろうとしたら名前と住所を聞かれたんだ。
名乗る程の者じゃないとか、そういうのも良いかなと思っていたんだけど、共犯の開き直りとか言われたのはとても不本意だった。
助けるんじゃなかったと思ったよ。
それでも年配のほうは信じてくれて、若い方を叱った後に、念の為にと連絡先を聞かれるままに答えておいたんだ。
後日、その会社から連絡が入り、無職と言ったら警備の仕事はどうかって聞かれてさ、ついお願いしますって言っちまったんだ。
そうしてその会社に行ったところ、あの若いほうの警備員が居なくてさ、年配の人に聞いたらそれこそ共犯だったって、何だよそれって思ったよ。
自分の事を誤魔化す為に、オレを身代わりにしようと思ったらしい。
んで、捕らえられた奴がゲロしてそれがバレ、そのまま同じ場所に送られたとか。
そして今もその会社の警備員として、3交代でのローテーションを組んでいる。
唯一の趣味がVRゲームと言うのも侘しいけど、それでも今のゲームはとても気に入っていて、そして未来に繋がった。
だから過去は辛かったけど、今は幸せなんだ。
◇
「ああ、疲れた」
「うん、疲れたよね」
「本当にオレで良かったのか? 」
「うん、良かったよ」
「そうか」
「あなた」
「なんだい」
後は言えない2人はアラサー
◇
「練習の甲斐があったな」
「あはは、うん、そうだねぇ」
これでリアルでもVRでも夫婦となったオレ達。
VRでの練習のせいか、リアルでは実にスムーズに推移し、初めての体験のはずが熟練の様相だった。
共に若くないので子供を忌避する必要もなく、直接対応の結果はすぐにも現れた。
それでもギリギリまでゲームに潜り、オレの発散に貢献してくれた彼女の献身には泣けた。
彼女の実家は個人商店ながらそれなりに大きく、いきなり後継と言われて焦ったが、他に文句を言う存在も居らず、義父母に色々と教わっている途中なんだ。
僅か2年だけど営業の仕事の経験が役に立ち、個人商店で不足だった営業に従事し、取引関係との円満な関係を築き、周囲に次第に認知されていく。
そのうちに息子が出来、そして娘が出来る。
一応、実家にも連絡はしてみたが、無しのつぶてで諦めた。
実子なのに成さぬ仲のようで、それなら仕方が無いと。
◇
ゲームのほうも相変わらずで、ヨコハマシティでの体験も充実している。
実は錬金術の取得ポイントを情報掲示板に匿名でリークしてやったんだ。
だけど初期ポイントの増やし方はリークしてないので、レベル500にならないと取得出来ないって噂になっていた。
そもそも、その情報すら余り信じてないようで、見せるつもりもないので相変わらず錬金術は無いと思っている者が大半の様子。
両親はかなりの年になってはいるものの、まだまだ若い者には負けないと元気でありがたい。
妹達は上の学校に進学し、将来は国の研究機関に入りたいらしい。
その為のバックアップは任せろと、至れり尽くせりの待遇にしてやっている。
実は回復薬の製造工場での体験のうちに、その開発に興味が向いたらしい。
移転してかなり経つが、元の実家はそのままにしてあり、妹達のトキオでの住まいになっている。
裏庭の工房は中身はヨコハマシティに移動したものの、彼女達の研究の為のあれこれを揃えてやり、今では彼女達の工房になっている。
庭のビニールハウスの中身は残して欲しいと言われて残したままにしてあり、彼女達の研究に使われている。
もちろん、ブルーベリーの樹も同様だけど、ケーキの材料にも使われているらしい。
浮いた話を聞かない妹達だけど、どうなるんだろうな。
歌詞のように見えるのは気のせいという事で(汗
え、ダメ? ダメなら削除するよ。




