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28 不遇な故郷との別離

  

 近隣の怪物一掃計画の名の元に、プレイヤーが参加して数年。


 遂に近郊から怪物の姿が消えて隣接都市の復興計画の一環である、ヨコハマシティの入植が開始された。

 トキオ在住のプレイヤーが大挙して、すっかりトキオの街が閑散となるかと思われた。

 しかし、宿屋難民と呼ばれ、あちこちの公園で起居していた者達が全て消えたので、全体的にそこまで減った感じはしなかった。

 元々、住民(NPC)が利用していた宿泊設備を旅人プレイヤーが居座ったようなものなので、これで元に戻ったとも言える。

 後は様々な生産職の店も移転する事になり、まずは店が持てなかった路上販売者が消えた。

 本来、リアルの首都はもっとでかいが、トキオはそんなにでかくない。

 東西南北の区と中央区の5つの区分は、そのままリアルの5つの区に酷似している。


 つまり、残りの区は未だ未復興のままなのである。


 もちろん、その復興計画もありはするのだが、それより先に近郊都市の計画が進んだだけの話だ。

 これからはヨコハマシティと協力の元、それらの復興をやっていく事になるだろう。

 それと共に更なる復興と各地の交通網の再現も。


 そしてゆくゆくはこの世界でのかつての姿を取り戻す事になる。


 討伐隊ではどうしようもなかった、中ボスやエリアボスに該当する怪物が消えた事の恩恵はでかい。

 それで一気に復興計画が軌道に乗った訳だ。

 聞くところによると、あのでかい蛇はあちこちに居るようで、でかい猪も同様の様子。

 そうして最も難関だったのが、あの崖崩れで埋まって死んでいた怪物だったらしい。

 もちろん、あれも各地に居るらしいが、北陸との連絡網を遮っていた怪物はあれで居なくなり、今ではかなりクリーンな上層部になっている。

 つまりそれだけトキオ鉱山の住民が増えた事になる訳だが、詳細のほうは知らない。


 ◇


 -情報掲示板・雑談板-


「ヨコハマシティに雑貨屋の2号店が出来るって話、聞いたか」

「そうらしいな。何でも工場が近くなるうえに、大量入荷がやれるからと、回復薬の専門店になるって話だ」

「オレ、そこの警備やるんだ。んでもって回復薬を安く手に入れると」

「うげ、そんな裏技が。オレもオレも」

「工場と雑貨屋の枠は埋まったらしいが、他にもあるから聞いてみろよ」

「そういや、空中警備はどうなんだ」

「お前、今頃そんな事を言っても遅いぞ。あれな、競争倍率が物凄くてよ、経験者優遇になっちまった挙句、リアルでのヘリ経験者が占めたらしいぞ」

「そんなぁ。ヘリの操縦とかやりたかったのに」

「あのな、警備ヘリの導入でよ、小型ヘリの生産をやるらしくてよ、個人でライセンス取ればヘリが所有出来るらしいぞ」

「そんな金、あるかよ」

「そうだよなぁ」


 ◇


 近隣の整備と復興の恩恵は、資源の確保という形で現れた。

 トキオで不足しがちな鉱物資源が得られるようになり、高騰していた金属類への供給と共に落ち着いた価格になっていく。

 そうなると屑金属からの精錬は、科学の方面では完全に赤字となり、補助金無しではやっていけなくなる。

 そんな訳でジャンク屋はオレの専属みたいな位置取りとなり、回収して固めてヨコハマシティの精錬工場に送られる事になる。

 もちろん中でやるのは錬金術だけど、そんなの外に見せる訳も無い。

 ちゃんと科学での精錬の名目で、帳簿は作成してあるし。

 脱税のようだけど、様々な規制緩和の恩恵で、オレの内職どうらくとして成立している。

 そんなある日の事、遂にスタッフが完成した。


 長杖スタッフじゃないよ。


 屑金属の精錬ばかりをやっていたせいか、レベルアップが遅かったけど遂に5に達成して成長薬となり、そこから更なる研究の果てに辿り付いたのが生体人形ホムンクルス

 最初は狼系怪物を模した人形から始め、それはそのまま妹達のペットになっている。

 どうやらオレに似たのか、もふもふが好きなようで、毎日の毛づくろいの名目でもふもふしているらしい。

 もちろんオレ専属のもふもふも居るんだけどな。


 そんな中、遂に人型の人形が完成し、研究所でのあれこれを代行するまでに至る。

 ネーミングセンスは修復不可能なまでになっているのであいつに任せたところ、自分にも一体欲しいと言われて追加で作成し、まとめて名前を頼んでおいた。


 あいつの元には『エミリー』

 オレの元には『ジロウ』『サブロウ』『シロウ』


 ◇


「おい、手抜きかよ」

「あはは、いやね、かえって新鮮かと思ってさ」

「今時、タロウとかワンコに付けるような名じゃねぇかよ」

「うん、君のペットがタロウだからさ、その続きでしょ」

「そりゃ確かに同じ人形だけどよ、続きと言われてもな」

「あはは、ごめんごめん。だけど、アンタが付けたらとんでもない名前になるでしょ」

「まあなぁ。オレも思い付かなくて任せたから、文句も言えないけどよ」

「ちなみに他の候補は? 」

「アインス、ツバイ……」

「安易だし、それ単に数だよね」

「ヒーフ、ミーヨ、イツム」

「あははははは」

「イーサン、リャンサン、サンサン」

「どうしても数から離れなれないのね」

「どうにも思い付かなくてな、だから頼んだんだ」

「それで、どうしても嫌なの? 」

「いや、そうじゃない」

「なら、良いじゃない」

「まあ、なぁ」

「んじゃアレしてあげるからさ」

「どっちで? 」

「あはははは」

「決めたから」

「え……そう、なんだ」

「ああ、決めたんだ」

「う、うん、それなら、いいよ」


 ◇


 急にしおらしくなった彼女だけど、それには訳がある。

 実はリアルで帰郷してみた時の事なんだけど、丸っきり変化が無かったんだ。

 静かな家庭は静かなままで、挨拶しても情が感じられないと言うかさ、NPCと言われても納得しそうな感じでさ、関係修復と思って、やっと決心して戻ってみたものの、そんな態度とかもう何もかもおじゃんだよ。

 だから早々に故郷から戻ってさ、あいつに打ち明けたんだ。


 ダメだったと。


 しがない下級職では養うのにきついと思って二の足を踏んでいたんだけど、いつまでもあいつをそのままにしておけないと思ってさ。

 他に居れば身を引くんだけど、そんな感じもなくてさ。

 あいつも憎からず想っていてくれると信じて、思い切って言い出してみたんだよ。

 そうしたら実家の親の事を言われてさ、それで関係修復にも思い立ったんだ。


 でも台無しだよ。


 それでもあいつの親とも話した結果は上々で、近いうちにって話にまで進んだんだ。

 それと言うのもあいつの家ってかなりでかくてさ、旧家まではいかないけどそれなりの家でさ、だから敷居も高かったんだけど、実家の話が功を奏したと言うか妙に同情されてさ、うちに来なさいって話になって、お婿に入る事になったんだ。


 その近いうちにって話をさっき承諾したって事さ。


 ◇


「凄いね」

「ああ、まさかここまで作り込んでいるとはな。R15でここまでの再現度とか、違法の匂いがプンプンとするぞ」

「だけど、お互いが成人でなおかつ、双方の同意があればってのが条件だし」

「まあ、これは練習だしな」

「あはは、うんうん。しっかり練習して本番では優しくしてね」

「ああ、任せておけ」


 ◇


 何処まで作り込んでいるのか、練習の結果が実になってしまった。

 双方の親たちはそれを喜び、妹達も喜んで世話をしてくれる。

 あいつも初の体験が出来たとそれを喜び、新米なオレ達の練習の意味も込めて、世話は色々とやった。

 ネーミングセンスの破綻の為、名前はあいつに任せておいた。


 ◇


「山之辺三郎と申します。このたびは……」

  

保険のR15はありますが、描写は無しです。

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