27 不遇な開発要員の誘致
巷では今、ヨコハマシティの話で持ちきりである。
去年、全プレイヤーに対する投資の話が持ち上がり、資金に余裕のある者達からの大量の投資で計画は順調に推移した。
その見返りになるのが膨大な土地であり、土地取得の機会はここで訪れる事になったのである。
これで住所のあるプレイヤーの数が一気に増えると思われ、住民からのクエストも活発に受注する事になるだろう。
そういう意味ではオレ達は色々と先行していたんだなと思うが、これからは地味に楽しんでいけるようになるだろうな。
投資は名出しと匿名で行われ、その統計が出ていた。
その中でも匿名のあるプレイヤーからの投資額が群を抜いており、一等地をかなり取得出来るらしく、それが噂になっていた。
それがどれぐらいの大きさかと言うと、シティの2割にも及ぶらしい。
そもそも、国が半分を取得し、残りの半分をプレイヤーに開放するという計画で、それを投資額に応じての開放になっていた。
つまり、残り5割のうちの2割を個人が所有する事になったのだ。
◇
「どうしよう」
「あはは、使い道無いの? 」
「お前、何かに使えよ」
「そう言ってもさ、あんなにたくさんとかどうすんのよ」
「雑貨屋2号店」
「んで、周囲にビニールハウスとか? 」
「確かに夫婦って事になっているから転居でも構わんが、やっぱり同居も捨てがたいんでな」
「でも、妹さん達が大きくなったらさ、裏庭とか困るんじゃない? 」
「まあなぁ、今でも言葉にはしないが、遊び場にならないから不満そうではあるな」
「どうせ一般住宅なんだし、家族で移転したら? 」
「そうか、その手もあるな。その場合、お前も来るんだろ」
「えへへ、新居、新居」
「まあ、配達はプロに任せれば良いし、お前さえ良ければそれでも良いか」
「賛成~賛成~」
「それはそうと、お前が入っていたギルドの事なんだけどな」
「どうしたの? 」
「あれ、うちに来れないか? 」
「うーん、今でも確か、攻略組だとは思うんだけど、今じゃアタシも完全に生産やってるからなぁ」
「フレンドはどうなんだ」
「何人かは抜けたけど、まだ残っているよ」
「狩りに飽きたんならうちで警備の仕事でもやらないかと思ってな」
「なになに、そういうの作って良いとか? 」
「いわば専属と言うのかな。うち関連の警備をやる代わり、優先的に回復薬を回すと」
「ああそれいいね。うん、聞いてみるよ」
◇
移転計画を親とも相談し、妹達が中等部に上がる寸前を目処に移転しても構わないと言われる。
妹達もクラスメイトと別れるのは寂しいけど、広い庭になると言ったらあっさりと賛成した。
やはり工房やら畑やらで手狭なのが嫌だったらしい。
投資で譲渡になった土地のうち、海に面している場所を港にし、トキオ湾経由での輸送路の確保の計画も立てる。
その手のプロジェクトは専門ギルドもあり、委託すれば問題無くやってくれる。
ガテン系とかわざわざVRでやる人が居るのかとも思ったが、意外に多くてびっくりした。
古式ゆかしき餅撒きなんかがやりたいって人も居たし、現場にはもう出られないお年寄りのプレイヤーなども多いと聞いた。
若々しい身体になってはいるものの、長年培った技能の恩恵でスキルは簡単に生え、そのままギルドの結成に至ったらしい。
そういう人達が集まってひとつの建築専門クランを拵えたらしい。
『箱物同好会』
リアルの平均年齢が高いせいか、どうにも名前が変だけど、腕は確かなので問題ない。
家族とも色々話し合い、自宅と庭の確保と研究所と工場とビニールハウスなどなど。
後は道路の整備に港の建設、それに輸送船の発注。
それと、小松の関係者の誘致を国と相談し、経費持ちで敷地内に誘致と決まる。
投資で得られた敷地のうち半分を小松の関係者に委ね、残りの土地を家族と工場で使う事になる。
そうする事で国も輸送ヘリが使えるようになり、割り当ての土地を有効活用出来るようになる。
見返りは様々な規制緩和となり、計画は順調に走り出した。
警備のほうも話はついた。
それと言うのも元小松のメンバーとの交流のほうが受け、ヘリに乗れるとか言ったらその手の趣味の連中が大挙してさ、ヘリのライセンスまで受けられる事になってさ、警備用にヘリの発注までやる事になったんだ。
ハントのほうもやる事はやるらしいんだけど、気分転換と言うか、別の事を色々やってみたいって事で、参加者がかなり増えたんだ。
あちこちのギルドからの参加申し込みがある中で、こうなったら専用のギルドかクランを作ろうって話になったんだ。
んで今は警備メンバーの選出とギルド名の相談と、元ギルドから出向になるか移籍になるかの相談なんかをやっている。
◇
-情報掲示板・建築板-
「回復薬の工場を民営というのもとんでもないな」
「始祖さんだろ」
「ああ、あれが出来れば相当な供給になるぞ」
「もう予約とか要らなくなるんだな」
「値段も下がるかな」
「あんまり下げると他の調薬師が困るじゃろうが」
「そりゃあな」
「おーい、港に手が足りねぇぞ」
「道路がもうじき目処が付く。そうしたらそっちに回るからよ」
「助かるぜ」
「まだ計画始まったばかりだろうに、もう道が出来るのかよ」
「整地だけだ。舗装はまた別のギルドだが、オレ達ではやれんからな、そっちに回るってだけだ」
「なら、港の整地を頼む」
「任せろ」
「魔導重機の試運転、やっても良いって聞いたんだが」
「もう完成したのかよ」
「あくまでも試運転だ」
「それならよ、港の構内の石板敷設を手伝ってくれ」
「了解した」




