26 不遇職からの脱却
-情報掲示板・調薬板-
「えーと。新春から後口爽やか950回復の高級HP回復薬の販売を開始します」
「嘘だろぉぉぉぉ、オレの180回復ががががが」
「なあ、いい加減に教えてくれよ、頼むから」
「簡単な事なのにな、まだ気付かないのかよ」
「分からないから聞いてんだよ」
「お前ら、基本を忘れてんだよ。普通さ、使用前には洗うもんだろ」
「なっ……」
「洗う……だと」
「そ、そういや、オレ、洗わずに」
「市販のガラス瓶は汚れているが、自作なら綺麗なもんだ。だから回復量が増えたんだよ」
「そういう事かよ」
「ああ、ちなみに市販の薬草は農薬を使っているからな。未使用が欲しいなら中央公園で採取しろよ」
「農薬だとぉぉぉぉ、くそぉぉぉぉ。そんな要因も関係するのかよ」
「リアル過ぎるだろ」
「他の要因が関係するからレシピが簡単なのさ」
「そんな事になってたとはな。けど、教えてくれてありがとうよ」
「感謝すんぜ。これでオレも500回復が作れそうだぜ」
「ミネラルウォーターでも良いが、水魔法の水は優秀だぞ。なんせ純水だからよ」
「ぐはっ」
「水魔法か、くそぅ、スキルポイントが無いぃぃぃ」
「それからな、畑で栽培も可能なんだよ」
「それで畑とか売りに出ているのか。誰が買うのかと思えば、よし、買うぞ」
「花屋かと思ったら薬草植えられるのか」
◇
聖水の情報はまた後だな。
どのみち100万は寄付しないと売ってくれない品だし、稼いだら探してみるといい。
ともかくこれで後進の研究も進むに違いないが、新春からの放出でどうなる事か。
HP950回復薬、MP450回復薬、共に後口爽やかなクールミント味。
頑張って研究しないと売れない品になっちまうぞ。
そんな訳で今、1000回服薬を使った水耕栽培をやっている。
相当な肉厚な高級薬草は、またしても名前が変化した。
《聖なる薬草》
上質品
熟練の薬師の手によって生み出された奇跡の薬草
しかもこれ、肉厚なせいか、1枚の葉から10本作れるんだよな、回復薬が。
更に言うなら1000回復薬に溶かし込むと、もっと性能が上がるんだ。
原液で5000回復、適量まで薄めて3000回復になる。
《聖なる回復薬》
上質品
熟練の薬師によって生み出された奇跡の薬
3000回復・有効期限100年
ああもうこれは時停滞倉庫に入れなくても良いんだね。
興味のままに匿名でオークションに出してみた。
◇
-情報掲示板・競売板-
「何ともとんでもない品だったな」
「落札価格もとんでもなかったな」
「やり過ぎだろ、始祖さんよ」
「オレのHPフル回復するとかあり得ねぇ……by 肉壁」
「試作品は作ったものの、手間が掛かり過ぎて大量生産する気にもなれない」
「ああ、やっぱりそんな品かよ」
「それでも50万で売れるなら作るだろ」
「いや、それは無い」
「そんなに手間なのかよ」
「ああ、想像を絶するぞ。こいつはあくまでも限界に挑戦した品だ」
「なら当分は950回復のままなんだな」
「ああ、雑貨屋の取扱量は増やしてやるから、予約が要らなくなるかもな」
「それはありがたいぜ」
-情報掲示板・調薬板-
「500回復キター」
「500回復でりんご味キター」
「500回復でストロベリー味キター」
「後進が頼もしいな」
「けどよ、950とかどうやってんだよ。もう限界だぞ」
「てかさ、どうやったら3000回復なんかになるんだよ」
「はぁぁぁ、500で資金を作ってまた研究しねぇとな」
「水魔法を確保したものの、中央公園が混雑してんぞ」
「薬草が無いじゃねぇかよ。誰だよ根こそぎ持ってった奴」
◇
温室は今2段になっていて、畝では上級薬草で上は水耕栽培での聖なる薬草になっている。
追加投資の結果でやれるようになった訳だが、ラインも今では6系統になっている。
・後口爽やかHP950回復薬
・後口爽やかMP450回服薬
・水耕栽培用HP1000回復薬
・水耕栽培用MP500回復薬
・ブルーベリー味のHP3000回復薬
・ブルーベリー味のMP1500回復薬
この6系統である。
全自動に近い生産が可能になりはしたが、それでも色々と手間は掛かっている。
庭の一角に植えたブルーベリーの樹もそのひとつで、裏庭の殆どをオレの施設が埋めていて、ちょっと肩身が狭いのだ。
両親は何も言わないが、妹達の興味を引くようで、ブルーベリーは時々盗まれている。
それでもあいつら専用にと離れを作ってやったので、主にそこで遊んでいるようだ。
リアルの時はそこまでの事もないが、中の時はかなり流れている。
先日、親父と酒盛りをしたが、二日酔いの薬は必須だった。
2人して頭を抱えて薬を飲んだものだ。
中の時は一般公開になってから6年が過ぎており、妹達は小等部に入学した。
時の流れはオレの時より遅いものの、ログアウトしてログインしたらかなり流れている。
父さんも引退はしたものの、人手不足での要請があれば、危険の無い範囲での応援もやっている。
母さんは専業主婦な位置取りのまま、家政婦と共に家のあれこれをやっている。
家庭常備薬として肩こり治療薬を提供したので、今ではマッサージを頼まれる事もないが、暇な時にはマジックフィンガーも猛威を振るっている。
幼馴染のあいつとは結婚した事になってはいるものの、あいつは工房で寝泊りしているが、オレは相変わらず通いで両親と同居している。
もっとも、時々あいつの工房に泊まるので、双方の親たちは孫に期待しているが、それはちょっと無理じゃないかな。
さすがにそこまでやるとR18になっちまうと思うんだがな。
それでもその手の要望もあるようで、成人でリアル夫婦に限りとか、そんな制限付きでのアップデートがあるかも知れない。
錬金術のレベル少しずつ上がり、オレの身長は希望の高さになっている。
実は屑金属から金属インゴットにするのは基礎の基礎らしく、取得経験値は微々たるものらしい。
なので使いもしないのに武具やら防具やらを潤沢な資金で素材を買いあさり、ひたすら作っては売りの繰り返し。
儲けなど殆ど無いような苦行の後、何とかレベルが上がるという実感が湧いてきたんだ。
そうしてようやくレベル5になり、次なる段階に進んだという訳だ。
しかしなぁ、中の時で1年1レベルって泣けてくるよな。
それでもマッドサイエンティストと呼ばれそうだが、《伸草》と《増草》の発見と、レシピの確保で調薬で『増進薬』ってのが出来たんだ。
これは健康増進効果があるって事なんだけど、イマイチ成果の分からない薬になっていた。
ただ、それを成長薬にするのに錬金術が必要で、レシピは実は国の研究機関からの提供になる。
所属はしないものの、高性能回復薬開発で知られており、いくつかの情報の見返りに得られたものだ。
国に錬金術師は居ないらしく、科学の方面からの開発の軌跡があり、そこを錬金術にしたらあっさりと完成したんだ。
だけど、さすがにそれを漏らす訳にもいかず、こっそりと服用して成長期で誤魔化したという訳だ。
あいつには漏らしたけど、身長は欲しいけど体重は困ると、服用を諦めていた。




