23 不遇なる開発部隊
「嘘……だろ」
「どうすんだよこれ」
道が無かった。
いや、その名残りは確かにある。
ただ、峠から先は山崩れの如く、山肌が露出してどうしようもない状態だ。
広大な範囲で起こった地滑りと言うべきか、山裾の集落だった場所が土砂で埋まっていた。
「こいつは迂回するしかないな」
「あれ、怪物の死骸じゃないっすか」
「土砂崩れで暴れたか何かで埋まったか」
「遭遇しなかったのはありがたいが、この状況では幸か不幸か分からんな」
遭遇が危惧されていた怪物の死骸。
どうやら地盤が緩んでいたところで何かがあって崩落となり、それに巻き込まれて死んだらしい。
それはそれでありがたいが、そうなると当初のルートが絶望的なので、一度戻る事になった。
皆のモチベーションの低下を危惧し、山裾でまたしても豪勢な食事を準備する。
「お前はめげねぇな」
「こういう時こそしっかり食べないとね」
「ああ、そうだな」
獲物を確保して肉料理。
でかい岩を見つけてその上で石焼肉。
火魔法が無ければやれない事だけど、大量人数は無理なMP量。
まあ、総勢6人ならではの調理法とも言えるかな。
山菜の残りも焼いたから、食えるなら食ってくれ。
食後に迂回路に回るものの、今度は道に段差が出来ている。
段差の辺りのアスファルトは破損し、段差も60センチはあるだろう。
父さん達は更なる迂回路を相談しているが、ここでちょっと一言。
「ねぇ、スロープ造らない? 」
「そうか、無ければ造れば良いのか」
「やれやれ、参ったな」
「いかんな、どうにも思考が硬化していたな」
「よし、道を造るぞ」
「「「「おおおっ」」」」
割れたアスファルトを横に置き、段差を崩してスロープにする。
それだけではきついと、割れたアスファルトをそこに載せていき、簡易舗装とばかりに火魔法で炙る。
溶けて固まればそれなりの道となり、当座のしのぎだが、6人での作業ならこれぐらいが精々のところ。
そして何とか数時間で通れそうなスロープが完成し、車を先に進める事になる。
「本当に便利だな」
「ソージ、お前、魔法はダメだったのか? 」
「講習会には出たんですけど、どうにも難しいと言うか」
「うちの班ではお前だけなんだからな、坊主を見習って頑張ってくれよな」
「瞑想してさ、身体の中の異物と言うのかな、それを感じて動かすんだよ」
「いや、だからその異物ってのがどうにも分からなくてな」
「こう、もやもやっとしているのを、さーっと動かして」
「キルト、それじゃ分からんぞ」
◇
それからしばらくは順調だったが、道が冠水している場所に差し掛かる。
どうやらそのせいで道がかなり脆くなっているようで、うっかり進むには不安がある。
さて、次はどうするのかな。
皆は地図との相談に入り、オレは周辺の調査に入る。
つらつらと見ていくと、破壊すれば水が抜けそうな岩を見つけた。
アイテムボックスから、ちょっと危険なガラス瓶をその場所に挿していく。
こいつも黒い歴史になりはするが、消してしまえば問題無いだろう。
さあて、ロマン武器の登場だ。
と言うか、電動工具の魔導化と言うべきか。
魔導式ロータリーハンマードリル……これは実はプレイヤーメイドの工具になる。
採掘に使えるハンディな工具の開発から出来た作品で、出先での採掘をするのに手掘りじゃやってられないと開発したらしい。
ただ、かなり高いので需要はイマイチとの事で、ちょっと割引してもらって買った品だ。
穴を開けてガラス瓶を挿していく。
かなりの数のそれを挿した後、危険なので離れて……『火球』
高熱の炎の玉……いわゆるファイヤーボールなんだけど、これが最大の火魔法だ。
他ゲーじゃもっと強力な魔法もあると言うのに、やはり科学主体の世界のせいか、魔法も大した事無い。
ともあれ、それをそこにぶつけると、派手な爆発が起こった。
皆はなんだなんだと注目するが、今はそれを気にしても仕方が無い。
真っ赤に溶けている場所に水魔法で注水してやると、バキバキという音と共にひび割れが入り、それが水面下にまで及んで水が浸入していく。
そして周囲の土砂を流し、最初は少しずつ、そしてそれは次第に水量を増していく。
いくつかの破片を押し流し、脆くなった岩は少しずつ削られて、小さな滝を形成していた。
父さん達がこちらに近付いた頃、まるで虫歯が抜けるように岩が向こうに転がり、広がった隙間からは濁流が滝となって流れていく。
やれやれ、これで何とかなるかな。
「おいおい、水を抜いてんのか」
「どっから持ってきたんだ、あんな爆発物。おい、キルト」
「えーと、そのね、もう持ってないよ」
「危険物は届出しないといけないんだぞ」
「うん、次からはそうするよ」
「いや、禁止だ」
「はうっ」
どうやらダイナマイトもどきのガラス瓶は禁止のようだ。
ちゃんと衝撃対策もしてあったけど、それでも無理みたい。
父さんも心配性だよな。
戦闘職向けの切り札になるかと思うが、威力的にはもう少し欲しいところだな。
それでも有効だと思うから、完成に持っていくからな。
なんせ武器の限られた世界なんだし、有効な武器は多い程、有利になるはずだからさ。
完全に水が抜けるまでに食事をしておこうと、皆は準備に取り掛かる。
現場の状況は、ダムの決壊によって盆地に水が溜まったのが原因のようで、人が行けなくなった結果での整備不良が原因らしい。
どうやら冠水は思ったより広範囲のようで、滝のような水音の割に水深が浅くならない。
「こりゃ今日はここで野宿かな」
「まあそれでも迂回すると思えば」
「ああ、そうだな」
食後にのんびりしていると、親父が妙に嬉しそうに……なんだろう。
「おい、小松から輸送ヘリを出してくれるってよ」
「うおお、やったぜ」
「ただし、回復薬を半分寄こせって言われてな」
「うっ、そんなにもですか」
「どうやらその手の開発が遅れているようでな、現在は250回復がやっとらしいぞ。しかも月産600本が精々らしい」
「かなり悪い状況ですね」
「そいつをケンロクシティと小松で分けているらしくてな、割り当てが毎月60本しか回って来ないらしい」
「それは酷いですね」
「ああ、だが製造元がそれで決めると逆らえないみたいでな、作業も中々はかどらないらしい」
「その対策っすか」
「500回復は倍だからな、そいつを使えば色々と融通が効きそうでな、助かると言われたら断れんだろ」
どうやら親父の同期らしく、古くから付き合いのある人が基地のトップらしい。
基地とは言うものの、今では周辺の整備もままならず、核エネルギー使用のヘリの開発はやれたものの、その活用ぐらいでは強みにならないとかで、今一番の需要の回復薬を交渉手段に使いたいらしい。
その代わり、輸送ヘリの活動限界までの往復輸送をやってくれるとかで、数時間後には到着するとの事。
予算はあれど回って来ない回復薬のせいで、滞っていた計画が進みそうな気配だとか。
のんびりしながら待っていると、バラバラという音が聞こえてくる。
「お、あれじゃねぇのか」
黒い豆粒のような物体が近づいて来る。
それと共に音が大きくなる。
「くそう、需要が無いならトキオにまわしてくれよな」
「ああ、戻ったら進言の予定だ。どうやらケンロクシティじゃ取り合ってくれないらしくてな、何かと肩身が狭いらしい」
「酷い話だぜ」
「そうだな」
都市間連絡も小松ではやれず、配置転換の希望も握り潰されていたらしい。
そもそも食糧供給もままならず、敷地の片隅には畑もあるらしい。
「現地に着いたら裏を探ってくれ」
「了解っす」
「こんな時代なのに汚職とか最低だぜ」
「ああ、人類の敵だな」
「全くだ」
ヘリが着陸するも、妙に騒いでいる様子。
聞けばここの水を抜くプロジェクトがあったらしく、その分の経費が丸々浮いたらしい。
もっとも、抜いた後は道の整備もあるようだが、そいつは抜いてからの話だとか。
この手の改修も小松にかなり押し付けているようで、本当に虐げられているようだ。
「その予算で往復はいけるだろ」
「ああ、だから薬の金は払うから頼む」
「良いのか? 1本1万だぞ」
「250回復で8000Pな現状だぞ。その倍の性能で1万ならお買い得さ」
「どうやらそこにも中間搾取がありそうだな」
「ああ、もうドロドロさ」
「とにかく要望書と嘆願書は全部引き受けるからよ」
「助かる。他に頼める奴が居なくてな」
どうやら基地の人員にも偏りがあるようで、開発班が50人なのに戦闘班が23人しか居ないらしい。
その23人で周辺の整備やら怪物の討伐やらをやっているようで、人員不足で核エネルギーの確保にも苦労しており、ケンロクシティに頼むとやたら高いらしい。
本当に色々と不遇な開発部隊の面々のようだ。
「カクセンが5つあるよ」
「本当か、坊主。頼む、売ってくれ」
カクセン……核エネルギーを満タンにして1000単位になった取得機器の事を指し、高額通貨として流通している。
1単位1000Pな現状から、カクセンは100万の価値なので、5つなら500万の価値がある。
大きさもトウモロコシぐらいの大きさなので、リュックにとりあえず入れておいて良かったな。
まあ、アイテムボックスにはもっとあるが、そいつを見せられないのは残念だけど。
なんせ今は資金に困ってないので、ハントの成果は工房で使う以外はひたすら死蔵になっている。
なのでまだまだ在庫はあるのである。
取得機器は新品なら数万はする代物だが、取引の際に空の機器と交換になる為、核エネルギーだけの価値での取引になる。
オレは取得機器も可能な限り買い取ってあり、まだまだアイテムボックスには大量に眠っている。
確かに今はいくらでも買えはするが、資材確保にも苦労する世の中だし、いずれは生産出来なくなるだろうと予測しているからだ。
中古の取得機器が壊れてしまい、新規に作れなくなったらいよいよ終わりになるだろう。
そうなった時に最前線へ供給する為にも、今はひたすら集めておこうと思っている。
全世界の隕石の排除と怪物の始末、これが世界滅亡対策の命題である以上、その対策は地域住民のひとりとしてもやるべきと思うがゆえだ。
だから今はひたすら金を稼ぎ、その時の為の準備をしているとも言える。
気力がヤバいっす。




