22 不遇な国内事情
雑魚を引き渡し、父さんとあいつとの話も終わり、あいつは連行して行った。
「友達か」
「うん、そうだよ」
「良い友を持っているな」
「ありがと、父さん」
それからは特にトラブルも発生せず、好天な朝を迎える。
オレの水魔法は皆に周知され、朝の洗顔の担当になった。
「おお、冷たくて目が覚めるな」
「けど、不味いっすよ、その水」
「そりゃ純水だしよ」
「飲むのには向かないっすよね」
「お茶とかコーヒーには合いますよ」
「おお、成程な」
「後は水割りとか」
「おい、キルト、お前、酒を飲むのか」
「飲まないよ」
「いいか、いくら成人でも酒は20才からだ、良いな」
「うん、分かってるよ、父さん」
「それならそれでいい」
15才で成人な世界だけど、酒とタバコは20才までは禁止という変わったルールに基づいている。
リアルでも合成酒なら15才から飲めるのに、どうして中は20才なのかが分からなかったが、平行世界の設定で21世紀末なのだとしたら、天然酒で20才未満禁止もあり得る話だ。
タバコも有害だった頃の名残りなのだとしたら、あり得る話ではある。
リアルの主流のタバコは無害になっていて、オレが愛用しているのは『クラビレット・ルビライドルス』って銘柄になる。
どっかの言葉で『草原を渡る風』って意味らしいが、何処の言葉なのかは知らないんだ。
無害で習慣性の無いタバコのうち、こいつは無煙タイプなのに味が好みなんだ。
もっとも、このゲームの中にその銘柄は無いので、今のところはどちらも嗜んでない。
製造元と提携しないかな? なんてね。
◇
乾燥の卵スープは簡単だから毎回、お湯で戻して使っている。
後はそいつに具を足してやるだけで、簡素だけど朝の食事になる。
フリーズドライのご飯は味気ないが、卵スープに入れてやると、おじや風になる。
他の具も乾燥物が主流になるが、適当に入れてやればそれでそれなりの品になる。
後はインスタントの味噌汁とお茶があればいい。
大体の日本人は味噌汁さえ飲ませておけば文句は出ないものらしい。
「隊長の息子さんって、色々と便利っすね」
「うむ、オレも意外だったが、キルト、お前はどの方向に進むつもりだ。オレは今まで生産職だと思っていたが、戦いも大したものではないか」
「えと、採取するのに町の外に出るからさ、戦えるようにならないと危険だと思ってたらこうなってた」
「必要からの事か。それにしてはかなりだと思うぞ」
「ありがとう、父さん」
「メシの後は今日の予定地まで進む。道がかなり悪くなっているらしいが、何とか到達出来れば良いが」
「じゃあお昼ご飯は? 」
「たまには保存食も良いだろう。昼はそいつだ」
「うん」
どうやらかなり道が悪いらしく、ノルマ確保の為にノンストップで移動するらしい。
やはり整備出来ない道は年々悪くなるだけなので、そのうち通れなくなるだろう。
その見極めと補修の必要性の調査もするらしい。
回復薬の高性能化で道の整備の為の人員派遣も不可能ではなくなるようで、後々は整備プロジェクトが組まれる可能性もあるとか。
その実績作りもあっての回復薬大量受注らしい。
毎月5000本がコンスタントに出せるなら、長期プロジェクトも可能になるからと。
実は特殊班がその対策にあたるとか。
特殊と言うからオレは、強力な怪物を相手にする特殊なのかと思ったら違っていた。
周辺の道路状況の把握や修復可能かどうかの調査、後は使用可能な設備の調査などをする部署らしい。
確かに放棄された工場はいくらでもあるが、今は回復薬も高性能化されている。
当時は放棄せざるを得なかったが、旅人の存在する今ならば対処も可能になっている。
それを踏まえて再稼動可能な工場の捜索と確保などもやっているとか。
その計画は300回復になった頃から立案され、500回復で承認されたとか。
ならば次の950回復で保険になりそうで、大量備蓄の売り先確保の予感である。
実は更なる構想もある。
どうやら容器の性能も加味されるようで、今はクリスタルガラスが一番だが、水晶の容器も可能らしい。
そして水耕栽培で魔力水での性能を聖水が凌駕し、そしてどうやら回復薬で栽培すると肉厚の厚い葉になるようだ。
今その試作品と言うか、栽培の試行錯誤をやっている途中だが、確立すると物凄い事になるだろう。
経費と性能が。
現在のところ、魔力水での生産が主流だが、そのうち聖水での生産になるだろう。
そして回復薬での生産になれば、現在の回復量とは比べ物にならなくなるだろう。
ただし、精神回復薬に対して直接的にマナを含ませる研究は巧くいかず、やはり素材の段階での最良品の組み合わせが問題になるらしい。
付与魔法は武器に対しては効果があるらしいが、回復薬には使えない代物のようだ。
そういう検証も攻略掲示板の雑談コーナーで見たからな。
皆さん、応用に関しては色々と検証しているが、基礎の事はすっかり既成事実化されているようで、やはり盲点のままらしい。
後、錬金術を使ってどうにか出来ないかとも思っているが、残念ながらまだまだレベルが低くて使い物にならない。
回復薬を練成したらさ、『回復タブレット』なんて物が出来て喜んだのもつかの間、効果半減になっていたんだ。
だから250回復のタブレットや、475回復のタブレットもありはする。
だけど、どうせ作るならもっと回復量の高い回復薬で作りたいと思い、表に出してない品になる。
なにはともあれ、1000回復にまで漕ぎ着けた訳だが、それを水耕栽培に使う事で更なる効果が見込めるようだ。
推定で数倍の効果になりそうで、夢の3000回復も不可能では無いのかも知れない。
そうなれば回復タブレットでも1500回復は確保出来るだろうから、あれも製品として出せるかも知れないけどね。
この世界の魔法はそこまで強力ではないものの、回復魔法の存在もあって回復薬の需要は補助の役割を担っていた。
もちろんソロの前衛職には無くてはならないものだけど、パーティを組むに従って、補助的な役割に落ち着いていた。
それが高性能化するに従い、回復職の効果を抜くに至ったのが現在の状況となり、だからこその需要の拡大になっている。
そう言うと回復職が不遇になりそうだけど、ポーションがぶ飲みなんてのは攻略最前線ぐらいのもので、普通のパーティでは回復が間に合わない時の為の保険の位置取りなのが現状とも言える。
だからこそ個人工房での供給でも何とか間に合うのであり、そうでなければとっくに情報公開していた。
元々、調薬は不遇の位置取りであり、当初はここまでの高性能化は誰も予想していなかった。
なので今のプレイヤー人口のうち、回復職が占める割合がかなり多くなっていて、回復薬の不足を補っている。
そんな中、情報公開して猫も杓子も作り出したとしたら、回復職が本当に不遇になりそうな予感もあり、公開に躊躇っていたとも言える。
それはともかく。
現在の戦闘職のHPをカバーする事が出来れば、瀕死からの全快が可能になる。
攻略最前線への供給がコンスタントにやれれば、この国の治安も良くなるだろう。
そうなれば復興もやれるようになるだろうし、地域の再開発もやれるようになるだろう。
500回復を自動生産しながら今は、そんな研究もやっている。
現在、攻略最前線ギルドを束ねるクランには、支援の意味で回復薬を流している。
寄付として無料配布のつもりだったが、タダというのは相手が何故か嫌がるので、格安での供給になっている。
もちろん転売許可を出しているので、上から下への転売で活動資金として潤うようにしてある。
確かに核エネルギーで金にはなるが、装備に何かと経費が掛かるのが激戦な最前線。
もちろん戦闘狂ばかりじゃない訳で、無い袖は振れないからと、最前線から撤退されては困る。
それにいくら復活するからとはいえ、デスペナルティの重いこのゲームでは、長期の戦線離脱となる。
更に入院で余計な金も掛かるとなれば、回復薬の安定供給は必須とも言えるだろう。
そんな訳で供給になったが、交換条件として内緒にしてもらっている。
漏れたら止めると言えば、誰にも言わんとトップは言ったが、漏れたからと本当に止める訳にはいかんのだからして、頼むから誰にも言わないでくれよ。
それはそうと、本当に上がらない錬金術だけど、レベル5になってくれないと困るんだよな。
灰色に染まったレシピが青くなれば、錬金術レベル5『生物錬金』で《ホムンクルス》《キメラ》《身体改造》が可能になるとか。
身体改造とかちょっとマッドサイエンティストっぽい言葉の響きだが、自分の身体に適用出来るのかな?
そこは調薬とのコラボで何とか出来ないかと思っているが、やれるならやりたい事がある。
実はさ、身長が伸びないんだよな、思った程。
医者に相談してみると、虚弱児上がりの弊害らしく、高身長は望めないらしい。
せめてリアルの身長にならないと、そのギャップでどうにも杵柄が完全に磨かれないみたいなんだ。
なので親にバレないように、成長期が終わるまでにそいつをやりたいと思っている。
幸いにも18才ぐらいまで成長期が続きそうなので、それまでにリアルと似たような身長になりたいものだ。
そして磨きたい。
思うように動けるこの身体ならば、かつてやれていた事もそれ以上も可能になるだろう。
当時は嫌で嫌で仕方なかったけど、今ならば極めてみたいとも思えるようになっている。
リアルじゃやれない事も、仮想世界ならば可能だからだ。
◇
昼食を保存食にしたせいか、今日のノルマ達成で山の麓に到着したのは良いが、山越えがどうにも不安のようだ。
山岳の道の状況が予想以上に悪いようで、もしかすると大型の怪物が生息しているかも知れないとの事。
その排除に保険を使う事になるようで、出ない事を祈るしかない。
なんせ保険は5つしか無いからだ。
元々、武器弾薬製造は外国の独壇場な設定だったようで、隕石墜落後の世界ではその調達がやれなくなった事もあり、各地の自衛隊の兵器は過去の遺物と化し、作れるのは小銃の弾ぐらいといった有様だったらしいが、それも時の流れと共に作れなくなり、今では特殊弾を少しずつ作るのがやっとらしく、年間生産量は微々たるものの拵えては各地に配布する、といった事をやるのが精一杯な現状らしい。
真鍮製の薬莢を作る技術はあれど、材料が無ければどうしようもない。
火薬に必要な硝石は古式で何とかなっても、先込め式にまで戻る訳にもいかない。
小銃だけはあるものの、撃つ弾がなければタダの鈍器に過ぎない。
今回の出張でも、要請を受けて譲り渡す事になっており、各班配布の数を減らし、10発の配布という侘しい事になっているとか。
それでも持参した弾は僅かに15発に留まり、往復で5発が保険という情けない事になっている。
それと言うのも3地区合同作戦で他の地区にも配布されるので、各町に少しずつの配布になるのだとか。
そのうち鉱山や製鉄工場が安定稼動するようになればそれも改善されるとあって、各団体はそれを目指しているらしい。
確かに武器練成で拵えたロマン武器っぽいのはあるけどさ、それは表に出したくない黒い歴史だ。
どうしてもダメなら出すけどさ、自己満足な武器だから出したくないんだよ。
そんな訳で、危機的状況にならない事を祈りつつ、野営の準備は進んでいく。
今回は比較的安全との事で、身体の伸ばせる野営になった。
そしてオレは夕食担当として、おかずの作成中だ。
山菜が採れたので鍋物にしようと思い、昆布を底に敷いてお湯を沸かしている。
「釣れたぞー」
川沿いの道になってから、いつかはやると思っていたが、遂にその手の趣味持ちが本領を発揮し、やり遂げたらしい。
川魚でもかなり大きいので、捌いてぶつ切りにしてやれば良いだろう。
本当は焼いたり煮たりしたいけど、人数分釣れと言うのはちょっときついだろうしね。
そんな訳で簡素だけど味噌を使ってあるからか、特に文句も出ない食事になった。
「毎日ご馳走だな」
「ああ、毎日保存食と諦めていたが、温かい食事はありがたいな」
「肉、焼けたよ」
「鍋に肉と、本当に豪勢だな」
「明日がヤバいからな、しっかり動けるようにならんとな」
「今は見えませんね」
「ああ、だから移動していてくれるとありがたいが、どうなるかはあいつを越えてみないと分からん」
たっぷり食って充分な休息を取って、万全の体制で臨みたい山場。
それをクリアすれば明日には到着との事で、皆のモチベーションは向上する。
料理がその一助になれば幸いだ。
◇
しかし、翌日、峠から見た道の状況は想定外なものだった。
殆ど書き直しに近い改修になりました。
確かに手を掛ければ掛ける程に良い作品になるかも知れませんが、いかんせん時間が足りません。
後、気力もかなり使うので、他の事がやれなくなりそうです。
その兼ね合いを見極めつつ、この後も改修していくつもりです。
どうかこれからもよろしくお願いします。




