21 不遇なる存在
数回の加筆修正を経て、こんな感じになりました。
今の私にはこれ以上は多分無理です(汗
明日の予定を話し合っていると、近づいて来る気配を感じるようになる。
怪物かと思ったが、どうやら人……か。
こんな場所でこんな時刻にNPCがうろつくはずもない、となればプレイヤーだろう。
さて、プレイヤーだとして、どんな種類かってもう決まっているか。
こんな嫌な気配を出す存在と言えば、赤いネームの奴らしか居ない。
それにしても、こんな場所にピンポイントでPKが来る理由は何だ。
討伐隊の計画が漏れているのか?
いや、下手をすると告知の可能性もある。
なんせ討伐隊は国の組織だから、その手の事業を隠す意味は無いからな。
それを逆手に取って網を張る、という事も可能か。
しかしな、わざわざNPCを狙うというのも何だな。
蘇る存在が蘇らない存在を殺す。
確かに怪物相手の討伐も同じ意味ではあるが、近づく存在はそれをせずにわざわざNPCを狙って来るらしい。
さてと、話し合いはオレ抜きでやっている事だし、ここは迎撃といきますか。
催涙弾をこんなに早く使う事になるとは思わなかったが、折角作ったんだし、使い心地を知りたいと思っていたんだ。
ちょうど良いから実験台になってもらおうかね。
調子に乗って10個も作ってさ、たくさん買った香辛料を使い切っちまったんだ。
なんせこの世界、国と国が隔絶しているから、香辛料もやたら高いのな。
そんな訳で、道楽みたいな武器になっちまったんだ。
《隠遁》発動……そろりと皆から離れ、迎撃態勢のまま待機する。
小柄な、黒ずくめの、黒い武器で、静かに静かに歩いて……しかし、気配は丸分かり。
どうにも三流っぽい佇まいを見せる敵だが、見せ掛けじゃ無いだろうな。
確かに夜に黒い服は姿を隠しそうなものだけど、真っ黒ってのは良くない。
闇夜ではどんな色でも見えないし、少しでも灯りがあれば黒はかえって目立つ。
だから腕の立つPKは黒は使わないもんだが、それを知らないのかな。
この月明かりの中、真っ黒い存在が近づくのがよく分かるぞ。
いやはや、父さん達も感じたか、会話が計画の事から警戒へと移行している。
それぞれはそれとなく身構えているとなると、やはり優秀なグループなのだな。
「止まれ」
「おっと見つかっちまったか」
バレバレなんだけど、言わぬが花なのかな。
「なんだ、貴様は」
「さあ、なんだろうな、NPCさんよ」
「我々を保安局と知っての事か」
「それがどうしたよ。お前らはここで死ぬんだよ、NPCさんよ、ケケケッ」
「警戒ッ」
「「「「サー」」」」
「お、やる気かよ、ケケケ」
ヒョイ……バキッ……「何を投げやが、うっ、ゲホゲホゲホ……あがぁぁぁぁぁ……これはぁ、何だぁぁぁ、くそぅ、目が、いだだだ」
おお、かなり効果が高いな。
大枚はたいて作った甲斐があったってもんだ。
父さん達はいきなりの事に呆然となっているが、悪いね。
さてと、こうもあっさり無力化してしまうと、拍子抜けしちまうな。
隠遁のままそろりと後方に回り、組み敷いて武器を持つ手を後方に回して膝で押さえ、武器を取り上げる。
ここでちょっと中二病な台詞が頭に浮かぶが、どうしようかな。
「チェックメイト」
うわぁぁ、言っちまった。
いや、こういうの、一度で良いから言ってみたかったんだよな。
「キルト、か」
「こいつ、殺し屋っぽい。何か縛る物無い? 父さん」
「そのままじっとしていろよ、今ロープを持って来る」
「くそ、ドジっちまったぜ。NPC如きにこんな、くそぅ」
「なあ、赤ネームさんよ。オレの親父を殺すとか、どういうつもりだ? ええ、コラ」
「な、んだと。てめぇ、NPCの分際で」
「本来なら殺すところだが、捕縛で勘弁してやるんだ、感謝しろよ」
「てめぇ、覚えていろよ」
「立場が分かってないようだな」
「立場がどうしたってんだ」
「クエスト中でなければあっさり殺してたが、今はちょいと殺す訳にはいかんのよ。だからお前は命拾いをしたって事だ」
「ふん、そんなクエストとか知るかよ」
「次は確実に殺す。オレさぁ、最近殺しに飢えててさ、狙ってくれるならありがたいと思ってんだ。クククッ」
後ろから殺気をくれてやり、耳元で快楽系を装ってやると黙り込んでしまう。
いやはや、何でも体験してみるもんだな。
このご時勢に殺気のぶつけ方とかが役立つとは思わなかったよ。
嫌ってごめんな、じっちゃん。
死んで清々したとか、思ってごめんよ。
父さん達に芋虫のようにグルグル巻きにされた赤ネーム。
だけど、それじゃ万が一があるからな、ここはアレを使っておこうか。
PKKに大人気の捕縛アイテム、その名も……
「ほい、これで確実」
「嘘だろ、なんでNPCがこれを持ってんだ」
「よし、おとなしくしてろ。暴れたら首が絞まるからな」
自警団ギルドの詰所で見た隷属の首輪、保険で持っててまさか使うとはな。
工房に潜り込もうとした奴を捕らえて連行した時に、ギルドハウスの中を色々と見せてもらっていた時に発見したアイテム。
簡単に無力化出来るからと言われ、泥棒の捕縛対策に最適と思ったが、まさか赤ネに使うとは思わなかった。
ありがとう、カッフェさん。
貴方の特殊な趣味の品が生きたよ。
あの人、犯罪人捕らえたら隷属させて色々と仕事をさせてんだよな。
だからあの人から解放されたら真面目になる人も多くてさぁ、だから無下に禁止もさせられないって事になっているらしい。
「なあ、なんでこれを持ってんだ」
「カッフェさんから譲ってもらったんだ」
「てめぇ、NPCじゃねぇのかよ」
「余計な事を知らないほうが良いぞ。好奇心はネコを殺すって言うだろ。まあ、オレの場合はさっきの爆弾を食わせるだけだ」
「止めてくれぇぇぇ」
「引き渡すまでじっとしてろ。逃げようなどと思うなよ」
「ああ、分かったからあれだけは頼む」
赤ネは赤ネでもやはりチンピラか。
賞金検索したら15万だった……やっす。
一流は億の単位ってのも居るってのに、15万は無いだろ、15万はよ。
まあ、なによりも、NPC専門の赤ネハンターとか、許す訳にはいかんのよ。
さてと、ケインの奴に引き渡すとするか。
【今、大丈夫?……おお、キルトか、久しいな。それで、何の用だ……PK捕縛、名前はギャルソン……お、NPC専門の雑魚か。今何処に居る? ……トキオから北陸方面に100キロ地点……ああ、転移拠点の近くか……引き取りに来てくれる? ……それは良いが、単独か? ……いや、NPCに同行して移動中だ……よし、すぐ行く……マーカー設置しとくな……あいよ】
あいつに渡しておけば、後の処理はしてくれるだろ。
自警団ギルドのPKK部門、通称カイザーのメンバーだしな。
いくら雑魚でもNPC専門とか洒落にならんのでな、きっちり処理されてくれ。
カッフェさんの小間使いになる可能性が高いが、自業自得と思ってくれ。
「カイザーに連絡した。じきに来る」
「お前、プレイヤーなのかよ。なんでNPCと行動してんだよ」
「そんなに生き返らない存在を殺したいのか? 」
「あんなのただの電子データだろ」
「お前も同じだぞ。この中では同じ電子データに過ぎないのに、何言ってんだ」
「あいつらは生きてないだろ」
「そうか、続けるのか。なら、これから見かけたら殺す事にする。捕縛は今回限りだ」
「なんであいつらを庇うんだよ」
「クエスト中だからだ」
「そんなクエストがあんのかよ」
「わざわざ転移もせずに同行してよ、いきなり殺されて失敗とかになったら、どんな思いをすると思ってんだ」
「なら、もうこっちでは狩らねぇから良いだろ」
「NPCを狩るな」
「ちぇ、何でだよ。あいつらが楽なのによ」
まあ、普通はそうなんだろうな。
オレもこのゲームをするまでは、そこまでNPCに何かを思う事は無かったからな。
だけどもういけない。
仮初だろうとこの世界で赤子から体験して、すっかり家族気分になっちまってんだ。
それに対する脅威など、見逃す訳にはいかんのよ。
今の家にだってどんだけの防犯設備をやっていると思っている。
稼いだ金は防犯設備やら家族のあれこれにかなり消えているんだ。
もちろん、貯金もしているが、そいつは後々世界に貢献する時の為だ。
オレはこの世界で生きているんだよ、地域住民のひとりとしてな。
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「誰だ」
「あー、怪しいもんじゃないっす。そいつ引き取りに来たっすよ」
「おい、キル坊、来たぞ」
「お、早いな」
「おーおー、雁字搦めか。しかも、隷属の首輪までとは周到だな」
「カッフェさんに矯正してもらって」
「くっくっくっ、まあ、それで無理なら何だが、まあ、いけるだろ。けど、殺らなかったのも珍しいな」
「今、親父と同行中でな」
「ああ、例のシステムか。オレも最初からやれるならやりたいもんだぜ」
「地域住民になれるしな」
「そいつはもうなってるぜ。小さいが家を持ったからな」
「ほお、何時だ」
「つい最近だが、周囲の対応と言うのかな、態度が変わったんだよな。やっぱりそいつがネックだったようだな」
「希少クエスト、やれてるか」
「今、そいつを検証しているところだが、ひとつ出て来ている」
「それなら祝いを渡さんとな、ほれ」
「おいおい、新製品かよ」
「試供品だ、50本渡すからそっちで分けてくれ」
「こりゃまた多いな……オークションの品だろ」
「そのうち安定供給になる」
「うちもそうだが、攻略最前線の奴らも感謝していたぞ」
「地域住民として、世界の敵を攻略している存在への支援さ」
「極秘で、な」
「目立つのが好きなら自分で店を出すさ」
「まあ、そうだろうな」
どうしてそんなに殺したいかな。
殺せばもう復活しないと言うのに、どうしてそんなに殺したいかな。
そんなに復活しない相手を殺したいなら、怪物をひたすら殺せば良いだろうに。
確かに仮想の存在かも知れないけど、NPCって不遇だよな。
◇
ケインとはオレが岬の山道で採取をしていた時に出会ったんだ。
あの頃はまだ隠遁レベルが低かったけど、それでも見つけられるとは思わなくてさ。
そこでオレが調薬持ちとバレたんだけど、戦闘スキルが無いと言ったら護衛してやるって言い出したんだ。
岬のダンジョンからの帰りに散歩していたとか、変わった奴と思ったけど話していたら気分の良い奴だと分かったんだ。
どれぐらいの品が作れているのかって聞くからつい、試作品を見せたら驚いてさ。
だけど誰にも言わないでくれと言うと、あっさりと頷くんだ。
まあ、それで馴染みになったから雑貨屋の彼女と同じく、失敗作を渡すようになったんだけどな。
でまぁ、帰りに怪物が出て、任せろと言われたけどつい手を出したと言うか。
それで戦闘スキルが無いって嘘だろとか言われ、それからハントに誘われる事になったんだ。
オレも出不精と言うか、調薬三昧で外に出る気力が出なかったと言うか。
だから引っ張ってくれる存在がありがたくてさ、お誘いがあれば大抵は承諾していたんだ。
そのうちにレベルが上がったけど、やっぱり戦闘スキルは取らなくて、それでも戦えるなら構わないと言って嫌がらなくてさ。
そのうちにあいつは自警団ギルド所属になり、カイザーのメンバーとなった。
だからお誘いは減ったものの、たまに気が向いたら誘ってくれる、ありがたい存在になっている。
今じゃカイザーのメンバーも何人かは知ってるけど、あいつとのハントが一番やり易い。




