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20 不遇だった討伐隊

 

 父さんがレベル51となりオレが48になった頃、いよいよ北陸への出張となる。


 既にHP950回復の薬とMP450回復の薬の備蓄はかなりの量となり、時停滞倉庫の中に納まっている。

 もちろんアイテムボックスの中にもかなりあり、バラでも持っている。

 現在の装備はしなやかな皮を使った鎧になっていて、動きを阻害しない高級品だ。

 武器はかつて買った愛用の日本刀であり、腰のベルトには小物入れが付けてあり、中にはHP950回復とMP450回復を入れてある。

 そして背中の重量軽減リュックには調理道具や調味料が入れてあり、野宿の為のあれこれと、着替えや乾燥食品なども入れてある。

 オレが便乗する父さんの班は、父さんを隊長とした5人パーティで編成されていて、オレを入れて6人になっている。

 公共交通機関が全滅なこの世界では、かつての道路も整備がされていないもののまだ残っている。

 とは言うものの、さすがに徒歩での移動では遠すぎるので、専用の乗物での移動になる。

 核エネルギーを使ったオフローダーのような乗物だけど、水陸両用っぽい高性能な車らしい。


 ケンロクシティへは数年に1度の訪問をしているらしく、今回は3年振りとの事。


 3年前と言えばオレがまだ学生の頃であり、父さんも何かと忙しいと言っていたが、あちこちへの出張があったのかも知れない。

 だからこそおちおち子供も作れなかったとも言えるけど、ようやく落ち着いたってところだろう。

 高回復薬がそれに貢献したのなら、頑張った甲斐もあったってものだ。


 何はともあれ、自宅の前に停まった車に乗り込めば、周囲から色々な声が……


「隊長のお子さんっすか」

「おいおい、妙にイケメンだな、こりゃ」

「隊長によく似てるっすね」

「坊主、いくつだ」

「16才です」

「おいおい、あんまりいじんなよ」

「ういっす」

「キルト、準備は良いな」

「はい、父さん」

「しっかり掴まってろよ」

「はい」


 仲間が居るせいか、父さんの口調が妙に若々しい。

 これも若作りの一種かな?

 リアルでは酔わないはずのオレだが、道が悪いせいか妙に気分が悪くなる。


「うえっぷ」

「おいおい、酔ったのか」

「今、薬飲む」

「酔い止めか、用意がいいな」


 作っておいて良かった、自作の酔い止め。

 魔力水を入れた水筒で薬を飲めば、気分の悪さが少しずつ収まっていく。

 中々の即効性があるようで、ありがたい限りだ。


「寝ててもいいかな」

「薬を飲んだせいか。ああ、寝ていろ」

「おうっ、着いたら起こしてやるさ」


 荷物の中から毛布を出して、片隅に敷いて丸まって寝る。


「なんか子犬っぽいな、くっくっくっ」

「そういやそうだな。けど、これで16には見えねぇな」

「隊長、鍛え方が足りねぇんじゃねぇっすか」

「あいつは元虚弱児でな、あれでも元気になったほうなんだ」

「そいつは悪い事を聞いちまったな」

「まあ、見てくれはともかく、腕のほうはそう悪くないはずだ」

「なら、安心っすね」


 ガタガタと揺れたり大きくバウンドするものの、専用車両は順調に移動していた。

 しかし数時間後、その動きが止まる。


「くそっ、ビッグバイパーかよ」

「迂回しますか? 」

「参ったな。ここは迂回出来ねぇんだ」

「仕方が無い、退治するぞ」

「グレネードライフル使いますか? 」

「もう使うのか。この先の保険が減るのはきついが、無しでは無理か」

「いっきまーす」

「おいっ、待てぇぇぇぇ」

「隊長、あいつ」

「やれやれ、行くぞ、てめぇら」

「「「「イエッサー」」」」


 こりゃまたでかい蛇だな。

 おっと、なかなか素早いでやんの。

 ふふん、そんな舌、チョロチョロ出してたら斬っちまうぞ。


 ほいっとな。


『ギシャァァァァァ』


 そいやっ、ていやっ、おっと、ほいっと、それそれ。


『剣の舞』

『ギシャァァァァ……グェェェェェ』


(うへぇ、とんでもねぇぜ、あいつ)

(隊長、あいつ、とんでもねぇっすね)

(あいつ、何時の間にあんな)

(大したもんだぜ。道理でオレらに同行したいとか言うはずだ。あれなら即戦力っすよ)

(確かにな)

(しかし、おいそれと手が出せんな)

(危な気も無い事だし、ここは援護に留めたほうが)

(そうだな、よし、それでいくか)

(うおおおお)

(そりゃぁぁぁ)

(うほー、倒しちまったぜ)

(よし、解体して素材を積み込んだら出発するぞ)

(ういっす)


 ふうっ、やっとまともな剣の舞になってきたな。

 錆びた杵柄もいくらか磨かれたらしい。

 全盛期には程遠いが、今はこれまでか。

 おっと、解体すんのか。


 後は任せたとばかりに刀の手入れをして、周囲警戒に入る。

 近くに他の怪物は居ないようで、あれが1匹通せんぼしていたんだな。

 オレが居なかったらなけなしの武器を使っていたらしく、やはり何らかのイベントなのかも知れない。

 嫌な予感がしたから介入したが、頼むから討伐隊全滅イベントとか止めてくれよな。


 それからは順調に進み、初日の予定はクリアとなる。


 野営場所はかつての町の一角で、見晴らしの良い丘の上になる。

 そこにある大木の根元に駐車して、そのまま車での仮眠になるらしい。

 しかし、メシは食わねぇとな。


 近隣に肉の美味い怪物を探知し、軽くハントして持ち帰る。

 それと共に枯れた枝も集めて焚き火の準備だ。


「おいおい、坊主、夜は焚き火は無しだぞ」

「夕食を作ろうと思いまして」

「お前、料理やれんのか」

「こいつ、美味いんすよ」

「そんなのが食えるのかよ」


 枯れた木の枝を積み重ね、周囲は石で簡易の囲炉裏の完成である。


「ああ、ライターか、ちょっと待ってろ」

「ああいいよ、あるから」

「そうなのか? 」


『着火』


「おいおい、魔法が使えるのかよ」

「生活魔法程度だけどね」

「それでも大したもんだぜ」


 怪物を解体して肉を適当に切って枝に刺し、火の周囲に刺して焼肉の開始だ。

 塩コショウで味付けをしてやれば、香ばしい匂いが漂っていく。


「美味そうな匂いだな」

「焼けたらどうぞ」

「悪いな」


 木の枝を集めてもらい、肉を刺したり簡易囲炉裏にくべたりと、野趣溢れた夕食になっていた。

 一通り作り終わり、包丁と手を洗い流す。


『流水』


「水魔法もあるのか。お前、便利なスキル持ってんな」

「調理には必須でしょ」

「確かにな」


 皆が食べているうちに周辺に怪物避けを設置しておく。

 こいつはプレイヤーメイドだからあんまり知られると拙いかもな。

 まあ、早い話が強い怪物の遺留品のようなものであり、匂いで寄せ付けない効果があるらしい。

 とは言うものの、人には感じない程度の弱い匂いなので、別に悪臭って訳じゃない。


 そういや手製の刺激臭手榴弾も用意したが、使う事があるのかなぁ。

 胡椒と唐辛子と山葵を練り合わせ、そいつにタバスコを混ぜた特注品だ。

 食堂で卵の殻をもらい、詰め込んで殻を練成して一体化させたものだ。


 試しに使ってみたいよね『催涙弾』をさ。

  

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