嘘つきルモーネ
故郷に向かう馬車の中でルモーネはフィルウェムにお説教した
「フィルウェム様…先のことを考えずに突っ走るその性格、直した方がいいですよ?」
「損するもの」
「だいたいフィルウェム様があの時お城を抜け出さなきゃもっとサクッと開放されたと思いますよ?」
「ふふ、そうだな」
「でもよく私の故郷がわかりましたね?」
「詳しい場所とか話したことなかったのに」
「ルモーネを解雇してからずっと後悔していた」
「ルモーネと仲の良かったカアサに場所を聞いて会いに行こうと思っていたところ、父が亡くなりいきなり拘束された」
ルモーネは自分を見つめそう語ったフィルウェムの瞳に懐かしい輝きを見たような気がした
恋した相手にだけ見せる熱のこもった眼差し
実のところそんな眼差しをしていたのはルモーネの方だったのだが…
フィルウェム様はカデール様のことをどう思ってるんだろう、フィルウェム様をを助けるために泣く泣く婚約を解消したカデール様のことを
一言も口に出さないけど…
案外ケロッと忘れちゃうのかもしれないな
心変わりの早さは実証済みだから…
…そうだと…いいな
乗合馬車を降り、とりあえずルモーネはフィルウェムを連れて自宅に向う
田舎の村のやや東側に一本の幹線道路がある
幹線道路と言っても決して広くはない
ただ畑の間を縫って走る道のようにくねくねとは曲がっていない、一直線の道だ
この道にある停車場から西に少し行った畑の中にピケティおじいさんの家がある
そしてさらに西に進み最初の十字路…交差する道が両方曲がりくねっているので十字路のようには見えない…を南に四百メートルほど行った場所にルモーネの家がある
家は狭くてボロいけど、フィルウェム様を下宿させてくれる家を見つけるまでは、我慢してもらうしかないな
…家見たらびっくりするだろうな
フィルウェム様
「ギャッ!なに!このあばら家ー!」
わっ
違う違う、これはフィルウェム様の驚きじゃなくて、奥様、いきなり現れた奥様の叫び
奥様!成仏したんじゃなかったの?!
「いやーっフィルウェムがこんな家で暮らすなんて!」
奥様は私の家を見て悲鳴を上げた
「フィルウェム三年の辛抱よ!」
「三年したら都に戻れるから」
「そうゲルツが約束してくれたから」
「戻ったらうまいことやってカデールと結婚して男爵家の婿になりなさい!」
「ルモーネ!フィルウェムにそう伝えてっ!」
え…?
…そうなんだ
知らなかった
三年したら都に帰っちゃうんだフィルウェム様…
「あの…」
「フィルウェム様?」
「信じてもらえないかもしれないけど、私には奥様の幽霊が見えるんですね」
「ほんとなんです」
「それで、今も奥様がここにいらっしゃるんですけど、フィルウェム様に、私と…結婚してずっとここで暮すようにって言ってるんです」
「あの…どうしましょうか?」
ルモーネが上目遣いにフィルウェムを見つめそう言うとランズ家の奥方は金切り声でルモーネを罵倒した
「この嘘つきっ!!!」
フィルウェムは少し眉間にシワを寄せ、困ったような顔をして何か考え込んだ
そしてしばらくしてこう言った
「…ルモーネ…実は…」
「今、僕にも見えてるんだよ…」
「母上の幽霊が」
ん?
一瞬ルモーネの思考が止まる
えーと
えーとフィルウェム様にも奥様が見えるってことは…?
奥様がさっき言った事がフィルウェム様にも聞こえたってこと?
一気にルモーネの血の気が引く
私が嘘がついたのバレた!
フィルウェム様を騙そうとしたことが!
ヤダ!!
私、嘘ついて結婚を迫った性悪女!って思われた!?
ルモーネは自分の卑怯な行為が恥ずかしくてどうしていいかわからなかった
穴があったら入りたい
でも穴なんか無い
30メートル先にヨハンさんの畑の肥溜めならあるけどそこに入るのは流石にイヤ
とりあえずこの場から逃げようと全速力で今来た道を戻る
けれどあっさり追いかけてきたフィルウェムに追いつかれてしまった
フィルウェムはルモーネの手を掴みこう言った
「ルモーネ、今のが君からの僕へのプロポーズなら…」
「答えはノーだ」