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パイプ

一年前にこの国の王になったゲルツはその嘆願書に添えられた署名の多さに悩んでいた


こんなものを提出されなくてもフィルウェムが無実なのは分かっている、が

フィルウェムを無罪にしてしまうとランズ家の罪を償う者がいなくなってしまう

清廉潔白なこの新しい王はそれはそれで理不尽であると考えた


しかもフィルウェムは一回城を抜け出している

だが身分を問わず彼の救済を求めるこの人数の多さは…

この署名の数は彼がどんな人間か、どんな生き方をしてきたかを表している


…さて、彼の処分をどうしたものか




ゲルツは40才で王になる前は市井の人として暮らしていた

結婚はしていない


子供の頃、自分に何代か前の王の血が入っていると言うのを酒飲みの父親に聞いてはいたが、どうせ与太話だろうと信じていなかった

だから小さな田舎町の裁判官として働く自分の元に王位継承の知らせが来たときはまさかとひどく驚いた


男系男子を王位継承の絶対条件とするこの国の王家はここ何代かなぜか直系にたった一人しか男子が生まれてこなかった

故に脇を固める親戚筋には男系の男子がいない


その為早くに王子を無くした先の国王の崩御に伴い、この国の王位を継ぐものがいなくなってしまったのだ


王家の系譜を司る役人たちは九代前の王の男系の血を引く、王になるものとしての資質に問題のない者を世間から探し出した


それがゲルツである


ゲルツは華やかな式典、宴などが苦手でまた貴族などと遊興することも好きではなかった


あまり人前に出ることを好まず、ただ淡々と施政に関しての仕事をするのみの王と交流のある貴族は実務的な仕事を持つ者だけだった


ランズ家のことに対しては一市民だったときから疑いを持っていた

なので王になってすぐに彼は会計に明るいカクシェ男爵を呼び秘密裏に調査を依頼したのだ





ランズ家使用人たちはデンファレがもらってきたメモを頼りに町の慈善団体を訪ね歩いた



かつてささやかながらもフィルウェムの恩を受けた人々は自分の知り合いたちにフィルウェムがどんなに心正しく優しい人間であるかを説き、自らも嘆願書に多くの署名を集めることに協力してくれた



署名数が目標に達した時、ルモーネは皆と同様に疲れ切っていた

集めた署名はカクシェ男爵が王の許に届けてくれたはずである


連日ヨングと同じベッドに寝ていたのでなかなか日中の疲れが取れない

それはヨングも同じだろう


とりあえず、やれることはやった

今日は疲れを取るために宿屋に泊まろう

そう思って安い宿屋で休んでいるルモーネの枕元にランズ家の奥方が現れた


この日はルモーネも奥方に悪態はつかなかった

…最初は


「奥様、フィルウェム様…死罪を免れるでしょうか…?」


「王様はちゃんと私達の嘆願書と署名に目を通してくださるでしょうか」


まあ、目を通すだろうけどゲルツは石頭だから…


「ああ、真面目で融通が利かない変わり者って噂ですもんね…」


「ん?」


「ゲルツ?」


「なんで呼び捨て?!」


んー戴冠式のときは気が付かなったんだけど、多分あの人私が子供のときに避暑に行ってた親戚の別荘の隣の家の使用人の息子よ


「ええっ?!」


別荘に行ったときにはよく近所の子どもたちと一緒に遊んだわ


「じゃあ幼馴染なの!?」


まあそう言えなくもないわね


「ばかーーっ!!」


「どうしてそんな王様との太いパイプを持っていたのを黙っていたのっ!」


何?その失礼な物言い

それが主人に対する態度なの?

あなたは結局礼儀作法というものが身につかなかったわねぇ…


「そんなこと言ってる場合かっ」


「王様はフィルウェム様が幼馴染の息子だって知ってるの?」


知らないでしょ?

だってあの人戴冠式の後の祝賀会、欠席したもの

自分のための祝賀会なのにね〜

だから顔合わせていないのよ

まっさっかゲルツが王様になっちゃうとはね


「お、お、お願い奥様!」


「王様の枕元に立って!」


「そしてゲルツ王にフィルウェム様の命乞いをしてっ!」


だから〜

あなた以外には私の姿は見えないんだってばっ

そんな私に何ができるというの?


「見えるっ!王様にはきっと奥様の姿が見えるっ」


なんでそんなこと言い切れるのよ?




だって、わかる


能天気でわがままだけどすごく女としての魅力に溢れた奥様

若い頃はどんなに可愛らしかったか計り知れない


四十歳を過ぎて独身の王様


思い出すのはヨングさんの言っていた言葉

「心の中にはいつもその人がいて他の人を好きになれなかった」という…


ゲルツ王にも忘れられない人がいて、そのために独身を通している可能性は十分にある


そしてそれが奥様の可能性も…




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