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4/10

不正

それはランズ家の不正を暴く記事だった


大昔のことではあるが、ランズ家は城のある岩地の多い地域の土地の所有者であった

その名残でこの国が法治国家になった今もいろいろな権利を所有している


城の堀の水とそこに注ぐ川の水の権利を持つランズ家は雨量の少ない年などは近隣の貯蔵地を持つ地主などと談合して農民たちへの水使用料を不当に釣り上げてきたことなどが書いてあった

そして優先的に水の使用権を得ようとしていた大手農場主から多大な賄賂を受け取っていたことも


ランズ家の相続書類作成のための過去の契約書などの監査でそれが明るみになったと


この水の権利は限りなく無料に近い使用料に設定することを条件にランズ家に残されたものだった

そしてこの水を上手に差配することがランズ家に課せられた義務でもあった


記事にはランズ家の一人息子フィルウェムが拘束されて詳しい取り調べを受けることになったということも書いてある


一年前にこの国は新しい王になった


ランズ家に疑いを感じた新しい王に命令され、カクシェ男爵が秘密裏にランズ家を調査していたところ ご当主のサシェ様が亡くなったので相続の監査の名目のもと正面切ってランズ家を調べることができ、いろいろなことが明るみになったらしい




なんだ!?これ?


「悪者は…ランズ家じゃん!」


見えないけどそこらへんにいそうな奥様に向かって叫ぶ


「そうかもしれない」


家に帰るまで待ちきれず、幹線道路に近いピケティおじいさんの家の前でかわら版を読んで叫んだ私に声をかけてきた男がいた


その男は間違いなく…


フィルウェム様!?


「ななな、なぜここに?!」



「取り調べ最中に隙をみて逃げてきた」


「ルモーネ、久しぶり、元気そうだね」



「なに暢気に挨拶なんかしてるんですかっ」


「ああ、こんなだらしない格好して…」


かつて見たことのない無精髭を伸ばしシャツのボタンを上まで留めてないフィルウェムの姿にルモーネの目にじんわり涙が滲む


「逃げてきたりしちゃ駄目じゃないですか!!」



「当家の不正の金額が大きかった」


「水の高値は全ての農作物へ価格転嫁され、干ばつ時の全国民を苦しめた」


「貧しい者の中には餓死した者もいた」


「そう考えれば、これはとてつもない罪なのだ」


「もちろん私は知らなかったが、それでは済まされない」


「新しい王は法の遵守に厳しいお方、ランズ家当主となる私の死罪は免れないだろう」


「その前にルモーネに会って一言詫たかった」


「君はあの時、何かを感じ僕を助けようとしたのだね」


「勘違いではあったけど」


「その気持ちを僕は踏みにじってしまったね」


「…その前にも…」


そう言ってフィルウェムは情なく笑った


「母上の転落事故は執事のフィルークが関与していた」


「二人の仲が噂になり始め、急に自分に冷たくなった母上に恨みを感じ凶行に及んだらしい」


「階段にロウを塗ったわけではなくあの日母上が着ていたベージュのドレスについていた大きなビーズと同じものをいくつか階段の真ん中に置いておいたのだ」


「あの広い階段の中央を通るのは母上だけだったから…」


「そしてそのビーズを踏んで母上やカデールが足を滑らせた」


「階段から落ちた母上は気絶しただけだった」


「一番に母上の許に駆けつけたフィルークは、カデールが階段で滑りそうになって驚き気を失って倒れたその一瞬、皆がそちらに気を取られた隙に母上に致命傷を与えたのだ」


「そして父上の死にも関与していた」


「少しずつ長期間に渡り父上のお茶に毒物を入れてたそうだ」


「それが致死量に至り父上は亡くなられた」


「もともと父上を亡きものにして、母上と結婚し、ランズ家を乗っ取るつもりだったらしい」


「私と共に国の取り調べを受けたフィルークが全てを白状した」


「カデールも自分がビーズを踏んで足を滑らせたことに気づいていたが、なんの不信も感じなかったと言う」


「それが母上のドレスから外れたものだと思っていたので」


「だから、母上の死にカデールは関係かったのだよ、ルモーネ」


「こうして君に会えて良かった」


「これで思い残すことはない」


「ランズ家当主としての責任を果たすために私は城に戻って裁きを受ける」


「さよなら、ルモーネ」


そう言ってフィルウェムは乗合馬車の停車場に向かって走り去っていった


フィルウェム様っ!!


私は追いかけたけど追いつかなかった

文系男子なのに足早いっ


ぎりぎり出発前に間に合ったフィルウェム様を乗せた乗合馬車は涙のせいで早々に見えなくなってしまった


う…


さすがに…泣くよね?

ざまあみろとは言えないよね?


確かに心変わりしたあの人に罰を与えてと神に祈ったときもあった

あの人に私なしの人生で幸せになんかなって欲しくなかった

だけどここまでの不幸は望んでなかったよおっ


ほんとに

ほんとに!!


ああ〜ん

うぉ〜ん

ひゃあ〜ん

うえっ、ゴホゴホ


…いや、ここでただ泣いていてもしょうがない


助けなきゃ…


フィルウェム様を助けなきゃーっ!!






来週からは火、金で

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