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包み紙

結局眠れなかった


ランズ家にこれから何が起こるかを心配してではなく、フィルウェム様を好きだった頃のことを思い出しちゃって


13歳で田舎からこのお屋敷に奉公に上がったばかりのときはほんとに辛かった


田舎者の私は掃除や洗濯の手際の良さには自信があったけど、大きいお屋敷に勤める作法やしきたりがまるでわからなくて指導係によく叱られた


もちろん私も努力して作法などはすぐに覚えた

そしたら今度は因縁に近い全く原因のないことで怒られた


私はそれまで自分のやること全てを回りから褒められて生きてきたので、頭ごなしに怒られる度にひどくプライドが傷ついた


でも私は泣けなかったんだよね

一緒に入ったミルトやカアサは使用人総取締役のフラワさんのシゴキやホームシックの辛さでシクシクと人目をはばからず泣いていたけど


私だけは泣かなかった


だから私はなにを言われても平気な強い勝ち気な娘とみんなに思われた

まあ事実そうなんだけど


けれど、留学を控えていた3つ年上のフィルウェム様だけが、ルモーネ、そんなに無理しないで辛いときは泣けばいいのにと言って、寂しさや悔しさと戦って庭で次々と落ちてくる欅の葉を必死で掃いていた私にきれいなみ紙にくるまれた飴玉を3つくれた


そして


「辛いことがあったときにお食べ、少しは気が紛れる」


「でもそこらへんに包み紙を捨てたらダメだよ?」


「勝手に僕の部屋から取って食べたと思われるといけないからね」


「この飴玉を3つ食べ終わったらこの包み紙を僕の部屋に返しにおいで」


と言った


私が包み紙を返しに行ったのは四ヶ月後、フィルウェム様が隣の国の音楽大学に留学なさる日の前日


私は飴玉を眺めているだけで励まされ、飴で慰めなければならないほど辛いこともなくなっていたのだけれど、フィルウェム様が遠くに行ってしまわれる前にお部屋を訪ねたい一心で3つの飴をいっぺんに食べた


部屋に行ったらフィルウェム様は私の頭をポンポンとたたいて、また飴玉を3つ下さった


「もっと早くにこの部屋を訪れるかと思っていた」


「君はほんとに頑張り屋さんだね」


「ルモーネ、それを食べたら包み紙をまた返しにおいで」


そう言って微笑んだフィルウェム様は、前の年に亡くなった優しいお父さんを思い出させた


翌日、皆と一緒に旅立つフィルウェム様を見送ったとき、私の心にあったのは優しい大好きなおぼっちゃが遠いところに行ってしまうという寂しさだけだった


けれど四年間の留学を終え、フィルウェム様がお戻りになった姿を見たときの思いは、私の愛しい人が帰って来た!と言うものだった


優しいおぼっちゃまはいつの間にか私の中で愛する人に変わっていたんだよね


旅立つ前は少し幼さが顔に残っていたフィルウェム様だったけど四年の月日は彼を立派な青年に変えていた


でも私の好きだった優しそうなおっとりした雰囲気は変わっていない

サラサラの金色の髪を右側だけ耳にかける癖も…


私は四年間大切にしていた包み紙をフィルウェム様の部屋に返しに行った


今度は飴玉を下さらなかった


突然私を抱き寄せたフィルウェム様か下さったのはもっと…

甘いもの…


フィルウェム様は私に


「母上にプロフェット国で才女の婚約者を見つけてらっしゃいと言われたが…」


「誰とも付き合う気がしなかった」


「なぜかルモーネのことばかり思い出して」


「プロフェット国で一度も他の娘をダンスに誘わなかった僕の君への真心を褒めておくれ」


「ルモーネ、好きだ、結婚しよう」


「両親に言ったら反対されるのは目に見えている」


「今からこっそり二人で公証役場に行って婚姻届を出してしまおう」


「いざとなれば二人で駆け落ちする覚悟はできている」


と言った


けれど私は断った

だって私たちはお互いをまだよく知らなかったし、この人に両親を裏切らせることなんかできない…と思って


あれが…

間違いだったな…


ホント、あの時気取らず速攻で役場に書類を提出すればよかったよ

そしたらカクシェ男爵のご息女にフィルウェム様を取られることはなかった


私との交際に激怒した奥様に無理やりお見合いさせられたフィルウェム様がカクシェ男爵の娘、カデール様をひと目見たときの顔…


私がもっと自分の心に忠実だったら恋人のあんな顔を見る辛さを味わうこともなかっただろうに




ああ、どうしようかな〜

奥様が私の枕元に立って訴え続けていることを言うべきだろうか


私が感じた疑いと共に


正直この家がどうなろうと関係ないと思っていたけど、

こうしてフィルウェム様に飴をもらったときのことをと思いだしちゃったら…


なんだかほっとけない気がする


信じてもらえるかどうかはわからないけど、思い切ってご当主様に話そうと、お部屋を訪ねたらご当主様は昨日から体調が悪く伏せってらっしゃると看病の方に言われた

体調不良の原因がわからないとお医者様は言っているそうだ


やだ、なんだか胸騒ぎがする


仕方ないから私はフィルウェム様を庭の大きな欅の木の下に呼び出して一部始終を話した

私の枕元に立って奥様が語られたことや、カデール様が奥様の転落死に関与しているのではないかという推測を


ご当主様のご病気に緊急を要する気がしたから


そうしたら…


フィルウェム様はすごく悲しげな顔をして私に解雇を言い渡した


自分の妻になる人間を悪く言う使用人は雇っておけないと言って

次からは金曜日に

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