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スワローテールになりたいの  作者: 佐伯瑠璃
第1章 ドルフィンライダー 
9/78

あだ名を付けられました

ブルーインパルスの広報担当になって、1か月が過ぎようとしていた。


「香川さん、室長がお呼びです」

「はい。すぐ参ります」


恐れ多くも私と組んでくださっているのが3佐という格上の階級をお持ちの塚田室長。ちょっと癖のある彼らに文句を言わせない為なのかもしれない。広報は時に内部からは煩がられ、外部からは反自衛隊の皆様から揶揄られたりと精神的にきつい事もある。


『自衛隊はいらない!!』

『自衛隊反対!!』

『税金返せ!』


などといった怒声は当たり前で、そう言う方々はそれが仕事の様に何処からともなく現れる。

また、反対に。


『天皇陛下万歳』

『自衛隊賛成!!』


と、対抗するように現れる右寄りの方々がいる。日章旗や旭日旗を掲げ、大音量で街中を走り去るのは少々具合が悪いのでやめて頂きたい。そう言えば、防衛大学校時代、大学から靖国神社まで歩いて行った時の事。あの、ヤ○ザと間違えてしまいそうな出で立ちで『お疲れ様でした』と大声で頭を下げられた。

大変複雑な気持ちになったのを覚えている。


「香川くん」


余計な事を考えるのは止めよう。


「はい!」

「今月から各地で航空祭が始まる、先ずは山口県防府北基地からだ。段取りは分かっているな」

「はい。昨年の映像も見直しました。手順も先輩方から引継ぎが終わっております」

「そうか。パイロットと一般の方が唯一交流できる機会だ。宜しく頼むよ」

「はい!」



全国の航空自衛隊の基地で航空祭をしたり、大きなスポーツイベントの開会式で、我がブルーインパルスは展示飛行をしてその祭りを盛り立てる事になっている。


航空自衛隊が所有する飛行機が展示され、日頃の活動を理解してもらう目的がある。そして、展示飛行前の限られた時間で一般の方々がパイロットたちと触れ合う事が出来る。

主には一緒に写真を撮ったり、ブルーインパルスの機体に座ったりする。ファンにとっては貴重なひと時、夢の時間だ。


私は彼らのコンディションや練習状況を確認し、ホームページ更新を行った。



「大友隊長、防府北で行う展示内容の最終確認です」

「お、香川か。ちょうど今からミーティングだ。後ろに座っておけ」

「失礼します!」


本当に金魚の糞か!と自分でも突っ込みたくなる程、彼らの後を追いかけて来た。今ではブリーフィングや飛行計画のミーティングにもこうして参加させてもらえている。参加と言うよりは空気になっている。



メインパイロットの6人がテーブルを囲うようにして座る。その周りに後部座席に座るコーパイロットたちが囲う。彼らは次年度のパイロット達だ。そして、少し離れて更に次年度のパイロット候補が控える。

展示飛行中のアナウンスは彼らがしている。


「防府北基地で行う展示飛行の噴射確認をする」

「「はい!」」


飛行機の尾翼付近から発射するスモークを出すタイミングを確認する。

発煙装置を押すタイミングがズレると折角のショーもレベルの低いものとなってしまうからだ。


トントン、タン、トントン、タン

ゴー、トン………ターン、トントン


まるで太鼓でも叩くようなリズムで手の動作を確認する。

流石にこういった場面でチャラける人はいなかった。


何よ、あの横顔……反則なんだよ。

いつも仏頂面の沖田さんの横顔がちょっと格好いい。耳のラインにそって短く切り揃えられた髪、すっきりとしたあごのライン、細身のくせに程よくついた首、肩、腕の筋肉、長い指、そして真剣な眼差し。

きっとコックピットではこんな表情(かお)をして乗っているんだ。


「っー!」


バカ、見るな。パイロット効果でそう見えるだけっ。私の目にフィルターが掛かっているだけ。みんな、みんな格好いいんだよ!!彼だけが特別じゃない。そう言い聞かせた。



「アーイちゃん。なにぼんやりしてるの?」

「ふわっ、や、八神さん!」


いつの間にか動作確認は終わっており、目の前に八神さんが立っていた。なぜかニヤニヤした顔で私を見る。


「なんでしょうか」

「ん?何だかすごーい熱い視線を感じたんだよね。誰を見ていたのかな」

「は?誰をって、み、みなっ、さんに決まっています」

「そう」


まさか八神さんにバレてしまったのだろうか。この人はそういう方面に敏感だ。気をつけないと!


「あー!」

「何だ八神、煩いぞ」


大友隊長が八神さんを一喝するも、彼はヘラっと笑ってこう言った。


「アイちゃんに良いニックネームを思いついたよ」

「何だよ急に」


そうは言うものの、皆さん興味を持たれたようで八神さんの次の言葉を待っている。沖田さんだけは興味がなさそうに座っていた。


「アイちゃんは今からテールだ」

「「テール!?」」

「そ。俺たちの後を一生懸命に付いてくるだろ?流石に女の子に金魚の糞は可哀想だし。だったら尻尾(シッポ)にしようってね」


シッポ・・・テール・・・どうなの?それ。


すると6番機を操る相田さんが「可愛いッスね!」と言う。それをきっかけにみんながウンウンと頷き始めた。

テールって、可愛い…の?


「いいんじゃないか。香川、お前は今からテールだ。わはは」

「八神にしてはまともだったな」


などと、大友隊長や橘班長まで受け入れてしまった。なぜか私は沖田さんを見てしまう。どんな顔をしているの?

一瞬目が合ったけど逸らされてしまった。なぜか落ち込む。


沖田さんは私の事が嫌いなのかもしれない。


「よし、飛行訓練に移る!」

「はい!」


素早くキャップ帽を被りパイロットたちが部屋から出ていく。最後に私もその後を追うために出口に向かった。すると入り口付近で沖田さんが急に振り向いた。


「わっ」

「・・・ちゃんと、ついて来いよ」

「へ?」


それだけ言うと、バタバタと行ってしまった。

ちゃんとついて来いよ………って?


ますます、理解不能に陥ってしまう。沖田さんの思考を誰か教えてください!


私はブルーインパルス、ドルフィンの尻尾になった。

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