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スワローテールになりたいの  作者: 佐伯瑠璃
その後のお話
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スワローの始まりは(後)

 アグレッサーの隊長になったと、但馬から連絡があったのは俺がブルーインパルスの隊長になったのとほぼ同じ頃だった。お互いが隊長になってから会うのは今日が初めてだ。前に但馬から、沖田の機動は前空幕長とよく似ていると言われた。俺は認めたくなかったが、あいつが言うんだからそうなんだろう。逆にあいつの機動は、榎本司令に寄ってきたよ。



「お疲れ様です司令」

「久しぶりだな沖田。急に悪かったな」

「いえ。本日はよろしくお願いします」


 執事のように後ろに控えた但馬は相変わらずの例のスマイルだ。二人をすぐに塚田司令の部屋に案内した。片脚が義足の榎本司令だが、まったく違和感なく歩かれる。しかもイーグル(F−15)に乗ってきたんだ。本当に強靭な方だ。一通りの挨拶が終わると、さっそくブルーインパルスに乗るという。忙しいアグレッサーの司令は日が落ちるまでに帰らなければならないらしい。


「それではブルーインパルスのハンガーにご案内します」


 いよいよ、榎本司令を俺の後ろに乗せるときが来た。なんとなく俺が但馬を見ると、但馬も俺を見ていた。


(緊張がバレたか……)


 但馬は俺と目が合うと、左の眉をヒクッと上げて見せる。そして、またいつものスマイルだ。


(なんだと? 本気出して飛べって? いいのかよ、フルでアクロバットしても!)


「沖田」

「はい!」

「前は5番機だったんだってな」

「はい」

「じゃあ、5番機の機動も見せてくれ。ローアングル・テイクオフと、キューバン・エイトでどうだ」

「えっ、先程来られたばかりなのに……」

「なんだ、年寄り扱いか」

「ち、ちがいます!」


 いきなりハードな課目を要求されて驚いた。かなりのGがかかることになるぞ。そんなことを考えていると但馬が微笑んだ。うちの司令を舐めてくれるな、と。


「未熟者ですが、披露させていただきます」

「それでこそ、来たかいがあったってもんだな」


 榎本司令の心配よりも、それやってあとで俺、咎められやしないか……? もう、どうにでもなれだ!



**



 1番機のエンジンはファーストの時よりも心なしか調子がいい。それにほっとしつつ、飛行前点検を進めて行った。統括班長の青井も出てきてそれを見つめていた。


「こちら管制の沖田です。榎本司令、ようこそおいでくださいました。現在の天候は見ての通り快晴です。行ってらっしゃいませ」


 天衣の元気な声が届き、いよいよテイクオフだ。


「こちら管制。ブルーインパルス、ランウェイ25から離陸を許可します」

「ラジャー。ランウェイ25から離陸する」


 タキシングが終わり、いよいよ離陸のときが来た。


キュイィィィーン!


「ワン、ローアングルテイクオフ、レッツゴー」

「「……え!」」


 管制と後ろに待機していた3機の驚きの声が重なった。あとは野となれ山となれだ!


ゴゴゴー、シューッ!


「スモーク・オン……ナウッ」


シュ、ゴゴゴゴゴーー!!


 すぐに離陸、ギアが収納されたのを確認しスモークをオンにした。そして機首をテッペンに向ける。雲ひとつない松島の空がここまで落ちてこいと羽を広げた。懐かしい感覚が操縦桿から伝わってくる。初めてこれをしたときは恐怖なんて何もなくて、ただ爽快な気分だった。ふとキャノピーに、榎本司令のシルエットが映った。司令は親指を立ててナイステイクオフだと言う。


「一旦、洋上に退避します。続いて3機、テイクオフ!」

「ラジャ!」


 酸素マスクの呼吸がコックピット内に響く。俺のと、榎本司令のものだ。司令は安定した呼吸をしながら他の機体の機動を見ていた。メット越しではその表情は見えない。けれど他機を見つめるその視線は、あの時の映像と同じものだった。


(やべぇ……泣きそうだぞ)


 全機が上がってデルタからワイドデルタへと変化させ、基地上空を360度ターンした。5本のスモークを曳きながら今度はフェニックスへと変化させる。その時、榎本司令が俺に話しかけてきた。


「沖田」

「はい。……えっ!」


 世知辛い世の中を、与えられた環境と規則の中で我々は国という大きなものを守らなければならない。それ故に身動きができずに自爆してしまうこともあると。しかし、その与えられた限られた中だから許されることだってあるはずだと司令は言う。勝手は許されない。けれどたまには「らしさ」を表現してもいいんじゃないかって。


(与えられた、限られた中だからできる自由か。俺たちらしいそれとはなにか)


「管制! こちら1番機。周辺状況はどうか」

「こちら管制。今のところ航空機なし……え、沖田隊長?」


 天衣が何かに気づいたようだが、俺はもう決めたんだ。


「了解。全機に告ぐ! ワイドデルタの間隔をキープ。合図をしたら好きに泳げ」

「「は!?」」

「間隔は守れよ? 時間は二十秒だ。下にいる馴染みのお客さんに、インスタ映えするやつをプレゼントしてやれ」

「「りょーかいっ」」


 一度、全機で洋上に出て編隊を組み直した。俺たちだからできること。今だけは自由だ、この空間は俺たちだけのもの……好きに飛べ!


「ワンスモーック……ナウ!」


 大きく広がった6機がそれぞれにスモークをはきながら、本来のポジションを超えて得意の機動をした。俺がしたかったのは、もう見ることのできない榎本司令のアグレッサー時代の機動だ。T−4では同じようにできないけれど、真似ごとならできる。ネジが地面にめり込むように、高速回転で空を突っ切った。榎本司令の「やるじゃないか!」と楽しげな声が届いた。それだけで俺は満たされたんだ。


「ランディングに入る」


 あとから聞いた話だが、地上では何が起きたのかと大騒ぎだったらしい。SNSにはブルーインパルス乱れ撃ちとか、隊長血迷うなんて見出しで素晴らしい写真が上がっていた。自由にしろと言ったが、誰も勝手はしなかった。なにか新しい課目でもできたかのように忘れられない訓練飛行となった。



**



 夜、自宅に帰ると天衣と星羽が玄関で迎えてくれた。風呂上がりの星羽は頬をピンクに染めて「パパおつかれさま」と言ってくれる。初めてパイロットを目指そうと決めたあの日から、人知れずあの人を目標にしてきた。でも、真似はできてもモノにはできなかった。誰もが言う「オヤジさんの機動とそっくりだ」と。オヤジの機動なんて、ろくに見たことも研究したこともなかったのにだ。


「あなた、おかえりなさい。そして、お疲れ様でした」

「ただい……。なんであなたなんだ」

「何となく?」

「何が何となくだ。誘っているんだろ? 問題ない。そのつもりだ」

「ちょっと星羽の前でっ」


 真っ赤な顔の天衣を見て星羽はきょとんとしている。そして俺の顔をみてにやってする。


「パパ、お耳かして」

「ん?」


 ソファーに座って星羽に耳を貸す。


(パパがかっこよすぎてこまるって、ママずっとぼんやりしてたの。パパ何したの?)

(榎本のおじちゃんとお空を飛んだんだよ)


「えーっ! ズルいー!」

「うおっ、耳いって」


 俺たちの影響か、この頃の星羽はお空を飛びたい。星羽もパイロットになると言うんだ。正直、俺は望んでいない。


「いーんだもん。タカヒトさんに乗せてもらうからー」

「さすがにその頃はオヤジも」

「千斗星っ」


 天衣は星羽に夢を見せろと言うように、顔を横に振った。男ってダメだな。すぐに現実を与えてしまう。特に女の子の星羽にはやっちゃいけないことだった。


「なあ、星羽。タカヒトさんじゃなくて、パパじゃダメなのか?」

「パパは忙しいもん……」

「星羽ががんばってパイロットになったら、パパが教えてやるよ」

「ほんとう?」

「ああ」


 星羽にはもっと穏やかに、もっと広い世界を見て生きて欲しい。


(変な男には捕まるなよ。まあその時はコール無しでキルするけどな)


 頭をなでていると星羽はすぐに夢の中。隣でそれを天衣が目を細めて見ている。いろんなことがあった。俺は母の死を父のせいにして、父とは違うんだと反抗して父と同じファイターパイロットになった。防空任務に就いて幾度と危険な空を見て、無事に地上に戻る度に胸を撫で下ろす日々。自衛官だから戦闘機に乗っているからといっても、世間の役には立たない事ばかりだった。だからこそ、近くにある幸せにもっと感謝しなけれならないよな。


「千斗星に似てきたね」

「マジかよ。星羽、捻くれんなよ?」

「ふふっ。大丈夫よ。千斗星は捻くれてなんかなかったから。榎本司令と飛んでどうだった? 私、すごくドキドキしたんだからねっ。まるであのDVD見てるみたいで、泣きそうでっ……んんっ」


 気づいたら俺は天衣の口をキスで塞いでいた。俺だって泣きたかったさ。叶うはずのない夢が叶ったんだからな。


「俺、やっと解放されたよ」

「んっ。ん? 何から?」

「アグレッサーの連中が羨ましくて、アグレッサーが教導で来たときは許されてない機動で煽ったりした。クビになってもいいと、思ってたしな」

「ええっ!」


 驚いて目を見開いた天衣に俺はまたキスをする。母のことが頭から離れなくて、教導よりも現場の戦闘機乗り(ファイター)を選んだ。天衣に出会って星羽ができて、守るべきものが増えていった。国という大きなものはみんなで守ればいい。でも、家族は俺にしか守れない。


「まだ、兆候なかったんだよな」

「へ?」

「二人目、本気出すぞ」

「ちとっ……んんんーっ」


(司令のところ、三人だったよな。負けてられるかよ)


 (スワロー)の始まりは、(ボーンズ)からだった。

 いつか、超えてやる。

 

あまり感情を表に出さない沖田ですが、心の中では熱い想いを持っているのです。

見習うべく先輩がいるって素晴らしいですよね。沖田家、最低3人はがんばります!

ありがとうございました。

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