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スワローテールになりたいの  作者: 佐伯瑠璃
第1章 ドルフィンライダー 
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4番機には気をつけろ!

私は八神さんと相田さんのトレーニングを見学させてもらうことにした。

途中、シミュレーター使用許可をもらうために上官の部屋に寄る。私は廊下で待機することにした。


「第11飛行隊、ブルーインパルス 八神真司入ります!」

「同じく第11飛行隊、ブルーインパルス 相田翔入ります!」


さっきまで砕けた、ちゃらい雰囲気を醸し出していた二人は別人となる。縦社会である自衛隊は入退室もとても厳しく言われている。声の大きさや滑舌が悪いと何度もやり直しをさせられる。

ドアをノックする回数まで決められているのです。


暫く待つと、「帰ります!」という声がして二人が出てきた。

外で待つ私にニコリと爽やかな笑顔を向け「いこっか」とまたいつもの彼に戻る。

きっと八神さんに泣かされた人はこのギャップにやられてしまったのだろうと勝手に想像する。

何故ならば女子はギャップに弱いからです!

・・・私?私は大丈夫です! たぶん。



     *



フライトシミュレーター室に入ると、二人はそそくさと準備を始めた。最初に相田さんが乗るようだ。

ヘルメットを着用しシートに座ると自動的に座席が動き、ボックスになったシミュレーターの中に入って行った。私はこんな立派なシミュレーターを使った事がない。

当たり前だ、私はまだTR(訓練中)にさえなっていない。適正検査に合格した事をいいことに調子に乗ってパイロット試験を受けたのはこの私だ。彼ら(ブルーインパルス)の姿を見ると自分がとても恥ずかしくなる。


私って勘違いも甚だしい。「はぁ」とつい溜息を漏らす。


「アイちゃん。もう飽きちゃったわけ?」

「いいえ!少々自分に呆れていただけです」

「は?どういう事」


訓練中の相田さんの映像を見ながら、自分が感じたことを八神さんに話した。彼はきっと笑い飛ばす、そう思っていた。でも、「それはやっと君が成長し始めた証拠だよ」と真顔で言われた。

その真顔、初めて見ました。そうか、コックピットに座っている彼はきっとこんな顔をしているんだ。


「人間としての成長でしょうか。パイロットとしての成長はまだまだ先、もしかしたら無いかもしれません。現にこうして広報という立場で着任しましたから」


シミュレーター画面から目を離すことなくそう言った。情けない事に泣きそうだったからだ。

自分でも分かっている、強がりでここまで来たことを。戦闘機パイロットに成れるのはほんの一握り、才能と技術がモノを言う世界。どんなにやる気と根性があったって、成れないもは、成れない。


「そうだね。そう君が思うならそうなんだろう」


相田さんのトレーニングが終わった。今度は八神さんが入れ替わりでそれに乗り込む。

その横顔はいつものチャラけた顔ではなかった、戦闘機パイロット、そのものだ。


「お疲れ様です」

「どう?香川さんから見た僕のドルフィンは」

「失礼を承知で言わせて頂きますが、動きがとても細やかですばしっこいです。低空飛行であの回数ロールする方はあまり見たことがありません」

「へぇ、ちゃんと見てるんだね。驚いたよ。どうりで八神さんがちょっかい出すわけだ」

「はい?」


相田さんは爽やか笑顔で私の疑念をさらりと流し、真剣な目つきで八神さんのシミュレーター画面に目を向けた。なんなんだここの人たちは。いちいちドキドキさせないで欲しい。


八神さんは普段、4番機を操縦する。ダイヤモンドでは1番機の後方をピタリと追尾し、少しも乱れることなく綺麗なターンをする。ほんの数センチの距離も狂わせることなく操縦するのだから、その腕は確かだ。

そう言えばF-15に戻りたいと言っていたような。彼はF型戦闘機のパイロットなのか。機体の腹にミサイルを抱えて飛ぶ戦闘機。24時間アラート待機して、スクランブルに備える戦士。

※スクランブル:緊急発進の意。領空侵犯する恐れのある機体に対処するための出動の事。


「八神さんのフライト、どう思います?」

「え?」

「香川さんの目は結構当たってるから」

「見たままですよ?八神さんのフライトは鋭い槍のように見えます。ぶれることなくターゲットを貫く、そんな感じです」

「なるほど。同じ動作をしても僕のとは違うんだね」

「そうですね。データの飛行筋だけだと同じ動きをしていますけど、体感は違います」

「どっちが敵を刺せると思う?」

「それは・・・分りかねます。敵の性質にもよると思いますので」

「そっか、そうだね」


そんな話をしていると、八神さんがトレーニングを終えて降りてきた。

額には薄っすらと汗が滲む。フライトシミュレーターとはいえ、本物とほぼ変わりない造りをしている。違うのは飛行中のGが掛からないという事くらいだろう。


「よーっし。はい、どうぞ」

「え?」


八神さんが私にヘルメットを押し付けてくる。


「なんですか」

「乗ってみなよ、こいつに」

「はぁぁ!!」


ニヤニヤと笑う八神さんの隣で相田さんは呆れた顔をしている。「また始まった」そんな言葉を言いたそうにして。


「広報でしょ?たまにやってんじゃん、フライトシミュレーター体験ってやつ。見学者に説明できないんじゃ、ブルーインパルス担当を名乗らないでほしいな」

「なっ、しかし上司の許可が」

「今は俺が君の上司だよ。君、階級は?」

「じゅ、准尉です」

「俺は?」

「一尉、八神一尉です」

「乗って、俺が後ろに乗るから」

「・・・はい」


仕方がなくヘルメットを受け取り被った。私は作業着のままフライトシミュレーターの前席に着席した。八神さんが後部に座る。

もしかして試されているのだろうか。練習機(T−7)には乗れたんだろう?だったらこれも同じT型だぞって。


「俺は何もしない。You have control!《お前が操縦しろ》」

「くっ……、I have control《私が操縦します》」


半ば強制的に私は操縦桿を握らされた。

落ち着けば大丈夫。ついこの間、飛んだじゃない!シミュレーターじゃなく、本物に乗ったでしょ!


「離陸します!」


もうこうなったら、突っ込むくらいの気持ちでーー!


「ローアングルテイクオフ、して」

「ええっ!」

「おい!前を見ろ!もう一回言う、ローアングルテイクオフだ」

「・・・出来るわけが」

「返事!」

「っ、はい!」



もう、知るかぁ!何なのよ、何がやらせたいのよ!私はブルーインパルスじゃな……い?

ブルーインパルス、ブルーインパルスに成りたかったのに今じゃ怖いとすら感じる。

ローアングルテイクオフは何度も見た。


「スピード、上げろ!ちっ、やり直して」

「うっ」

「早く!」

「はい!」


今だけ、今だけでもいい。私はブルーインパルス、5番機!!!

操縦桿を握り直しグッと引く。グンとシートに背が押し付けられる。良く出来たシミュレーターだと思った。本当に乗っているみたいだ。


「離陸っ」

「そのままの高度をキープ。俺の合図で機首を目一杯上げて」

「はい」


フワッと浮く感覚までも味わえる。まだなの?高度を上げろとけたたましい警告音が鳴り響く。

墜落するっ、


「Go!Now!」


操縦桿を手前にぐっと引く。機首が傾き天井が真っ青になった。

今、私は何処に居るの?上に向かっている筈なのに、落ちているような感覚に陥る。


「戻して!」


ゆっくりと機体を戻すとすぐに八神さんが「ライトターン」と指示が来る。右に旋回っ、重いっ。

操縦に気を取られていると、今の機体の態勢を見失いそうになる。地面はどっち?空はどこ?

計器、計器を見ないと!!何とか水平を保ち直す。


「オッケー、LANDING《着陸》」

「はい!」


時間にして15分弱。なのにとんでもなく恐ろしかった。エンジンが停止しても指が操縦桿から離れない。


「アイちゃん、お疲れ。いいよ降りて」

「は、はい。しかし、その、手が」

「え?ふははっ。色変わってるじゃん、ほら力抜いて」


八神さんが後ろから私のカチコチに固まった指を、一本づつ外してくれた。不覚にもドキリとしてしまう。

だって、何かいい匂いがするんだもの。


「ありがとう、ございます」

「アイちゃんはなかなか度胸があるよね。気に入ったよ」

「ありがとうございま、す?」


ものすごい色気のある微笑みを頂いてしまった。

4番機、危険です!!!


「八神さん、チェックシックスですよ」

「あ?」

※チェックシックス:後方(6時の方向)注意せよの意


相田さんの忠告で振り向くと、超不機嫌顔の沖田さんが立っていた。

黒いオーラが見えるのは私だけでしょうか。


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