白の恐怖〈バーティゴ〉
現実とは異なります。
ご了承くださいませ(●´ω`●)
スクランブル発進して3分が経過した頃、2機のF-15も不明機と同じ高度まで上昇した。不明機に追いつくために速度を1500キロにし、接近を開始した。
「こちら那覇警戒管制、2分で不明機に接近。方位、209度」
『こちらアロー01,03ラジャー。機体が見えたら連絡する』
「了解」
不明機は速度も方向も変えることなく、発見当初の状態をキープ。このまま進むと領空侵犯の可能性が出てきた。
経験のない私だが、なんとなく嫌な予感を拭いきれない。レーダーの反応を見ると、こちらが発進させたF-15と似たような動きをしている。
(まさか、どこかの戦闘機なんじゃ……)
『ターゲット確認、距離550メートル』
「目視確認を行え」
『ラジャー、目視確認の為接近する』
上空は天候もよく、パイロットの視力であれば、少し近づけばそれが何者なのか分かるだろう。固唾を飲みながら八神さんからの報告を待つ。
『こちらアロー01、ターゲットは……』
ターゲットは?………
『目視確認での機体番号確認は難しい。機体はっ、SU-35にも見える!』
「なにっ!!」
管制塔内にザワっと風が立った。八神さんが口にしたSU-35とは、ロ国連邦の某社が製造した長距離多用途戦闘機。泣く子も黙るフランカーと呼ばれるSU-27を発展させた最新型戦闘機だ。
「距離はそのままをキープ。写真撮影が可能であれば実施。ガードチャンネルより通告せよ」
『ラジャー、写真撮影と通告を行う』
変に近づいて挑発したと誤解を与えないように、国際緊急周波数を使って相手とコンタクトを取る。写真ではどの国のどの機体かの分析に使う。
『こちら、アロー03。写真を転送する』
「了解」
松田さんから送られた画像を確認した。
(間違いなくロ国連邦が製造した戦闘機だった。しかし、国籍が違う……C国!?)
『こちらアロー01、通告を実施する』
ー This is Japan air self difenc force. it will soon ........
(こちらは日本国航空自衛隊です。間もなく日本の領空に入ります。航路変更を……)
心がザワザワする。確か昨年、ロ国連邦がC国へこの型の戦闘機を売却したと聞いた。
「全然、動こうとしないじゃないか」
上官が渋い顔をする。このままでは領空侵犯が確実となる。相手は何故、なんの反応も見せないのだろうか。
「こちら那覇警戒管制。2回目の通告をC国語で実施せよ。」
『了解』
八神さんが通告を実施している間も、私達は次の事を考えていた。侵犯後の対処を……。こちらの通告は聞こえているはずだ、なのに応答もせず悠々と航行している。目的は!?
「侵犯まであと何分だ!」
「5分です」
「くそっ」
緊張が走る。通告でも反応がなければ警告を実施しなければならない。今よりも距離を詰めて、強い口調と機体を使って航路変更を要求する。場合によっては当基地に強制着陸を行う。
……その時、私は気象データに異変を感じた。
私はすぐに報告をする。
「200度方向、巻雲あり!」
「不味いな。突っ込ませるわけにはいかない。回避出来るか」
「今の高度では無理です。かなり長距離に及んで発達しています。退避したほうが無難と見ます」
「チッ……雲まで何分だ!」
「雲まで……あと、2分」
「パイロットに至急コンタクトとれ!」
「了解!」
このまま巻雲に突入してしまうと、視界が遮断されてしまう。すぐに抜けられる雲ならば問題ないないけれど、見る限り塊が大きい。それに離陸してから間もなく1時間になろうとしている。燃料の消費も気になる。
「那覇警戒管制、アロー01,03共に至急退避。3時の方向に大きく旋回。前方に巨大な巻雲あり!」
『ラジャー!』
『ラジャー!』
ドキドキしながらレーダーを見ていた。八神さんも松田さんも上手く回避した、はずだった。
「おいおい!なんで03は逆に逃げたんだ!雲の中に突っ込むぞっ!」
「っ………!!」
『こちらアロー01、相手がインターセプトしてきたっ』
「なにっ!」
レーダーからは分からなかったが、相手機が妨害をして来たと言うのだ。それを避けるために松田さんが乗っている03は逆に舵を取った……と!
「おい!03と至急コンタクト取れ!機体を追えっ。01には雲の外を並列飛行させろ」
「了解」
一気に管制塔内が慌ただしくなった。握りしめた拳から汗が滲み、背中を冷たいものが伝った。
(どうか、無事に雲から抜けられますように!)
最悪のケースも考えなければならない。今はアロー03の誘導が優先だ。もし、中で方向を失っていたら……。
「救難員を……待機させろ」
「……!!」
上官がメディックに待機命令を出した。管制塔内に緊張が走る。彼らは航空救難団に所属し、空自の中でも最も鍛え上げられた肉体を持つ集団である。彼らが出動する時は航空自衛隊乗務員の救出のほか海難、山岳事故など、警察やレスキューでは対応できない難易度の高い救出を求められた場合に出動する。救難の最後の砦と呼ばれる部隊だ。
彼らは当然、緊急脱出した戦闘機パイロットの救出も行う。
「隊長!メディックって……まだっ」
「もし、バーティゴに陥っていたなら……元には、戻せないっ。どんなに凄腕パイロットでもな」
「そんな……」
『こちらアロー01、雲の隙間から03が見える!水平を保とうとしているが、かなりウイングが揺れている』
「03とコンタクト取れるか!」
『やってみる!』
私はレーダーを睨んだ。雲は何処まで続くのか、早く出口を探さなければならないと思った。気象隊と雲の動きと気流を注視する。
「雲の中はどうなっていますか?」
「乱気流とまではいいませんが、荒れているのは間違いないでしょう。あ、ココ」
「え?」
気象隊が雲の一部を指差した。
「ここはかなり薄くなっています。ここで機体を上昇あるいは下降出来たら……」
「ココ、ですか?」
「はい。抜けるならココしか」
上か、下か。松田さんの状況が分からないと提案出来ない。バーティゴに陥っていない事を祈るしかなかった。
着々と最悪の事態を受け入れる準備が整っていく。外の駐機場には既に救難隊のヘリコプターがエンジンスタートし、数名のメディックが荷物を抱えて待機していた。
「メディック出動準備完了」
「分かった……諦めずに03とコンタクト取れ」
(松田さん………!)
『こちらアロー01。03は……計器飛行にて耐えている!雲の切れ間はまだか!』
「気象隊!!」
松田さんは正気を保ち、計器飛行で雲の中を航行中だと報告があった。気流の乱れからか管制塔からは松田さんとコンタクトが取れない。でも、八神さんなら……!
「隊長!雲の切れ間は後1分30後に現れます。そのときがチャンスです!」
私は叫んでいた。隊長はギロリと鋭い視線で私を睨み、気象レーダーに目をやった。考えている時間はない、あと1分20秒を切った。
「SU-35は何処に行った」
ハッとした。その事は頭の中からすっかり失念していたからだ。慌てて別のレーダーを見る。
(上に、上にいる!!)
「03の上、同じ速度で航行中」
「くそっ!逃げ場がねえじゃねえか!!」
相手の搭載しているレーダーが優れているのか、ピタリと03の上を雲を避けて飛行していた。頭のてっぺんから汗が吹き出す。手が冷たくなるほど、緊張がピークに達し始めた。
(どうする!上には逃げられない。下は……海がある。ほんの少しのミスで青のアスファルトに叩きつけられてしまう)
「一か八か、01に繋げ!沖田、カウントしろ」
『こちらアロー01』
「今から沖田と変わる。ゴーサインが出たら03に機首を90度下げて200メートル落ちるように言え!雲から抜けるためだ!」
『了解』
隊長が私に無線を寄越してきた。私が……っ!?
「沖田です!あと、55秒……っ」
声が恐ろしいほどに震えていた。喉の奥がカラカラで、痙攣したように舌が言うことを利かない。
『Tail!Trust!ー信じろっ!ー』
そうだ。不安がっていてはダメだ。私だけではない、ここにいる皆と八神さん、そして何よりも松田さんを信じなきゃ。
「30秒!…25、20!……15……10」
『松田聞こえるか!魅せてやれ』
『03っ……ラジャー!!』
松田さんと繋がった!「おおっ」という喜びの声が管制塔内で一瞬湧き上がった。
「5...4...3......ゴー!ダウンっ!!」
ー ドクッ、ドクッ、ドクッ……
窓の外を救難隊のヘリコプターが横切っていった。
私達は拳を握りしめて、前方に映るモニターを見つめていた。




