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スワローテールになりたいの  作者: 佐伯瑠璃
We are Japan Air Self Defense Forces
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平和の証

 研修が始まってから数日が過ぎた。

最初はこの基地の役割や周囲との関係性、他の部隊との連携の取り方などを学んだ。

そして昨日から管制室で先輩方の仕事の流れを学ばせて頂いている。小牧で使っていた機材とは多少なりと違いがあるけれど、後は慣れるしかないのだと言い聞かせた。


あの大きなガメラ・レーダーと早期警戒機からキャッチされた情報を元に各部隊へ指示を出す。早期警戒機とはレーダーをつんだ飛行機が管轄の空を飛んでいる。

この二日間だけでも何度この管制室に緊張が走った事か。いや今でも張りつめた空気を維持している。それがレーダー上で識別不明機と判断されたならば、より緊張が高まる。

ここは防空指令所と呼ばれている場所。識別不明機を確認すると速やかに一番近くの航空方面作戦指令所へ連絡をする。

そして、航空総体作戦指令所へ連絡となる。

この基地でキャッチした情報を一番近い作戦指令所へ連絡するのだけれど、沖縄周辺であればスクランブル発進をする基地は那覇基地となる。

殆どが那覇基地へ直接指令を出す流れとなっている。


我が国の領空を飛行する場合は、必ずどの国のどんな目的で我が領空を通過するのかが事前に知らされている。

その目的が確認できない飛行物体を識別不明機と呼んでいる。レーダー上での確認の為、相手が哨戒機なのか、戦闘機なのか、または気象用の何かの物体なのかは分からない。

その為、有事に備えて、いち早く現場へ行ける戦闘機を発進させる。これをスクランブル発進という。



「ある程度、相手がどんなヤツなのか予測は出来る。しかし、行って見なければ分からないのが現状だ」

「はい」

「パイロットは相手が何者なのか分からない状態で発進する。装備(武器)も最低限のものだ。我々がしっかり誘導、指示しなければならない。その為にも正しい情報を漏れる事なく伝えることが絶対だ。方位、高度、侵犯措置の方法をな」

「はい」



私たちは日本の空を護ると同時に、そこに飛び立つパイロットたちの命も護らなければならない。それは彼らの家族たちの生活をも護ることなのだ。




「沖田さん、届きましたよ」

「ありがとうございます!」


 総務から新しくなった認識番号票ドッグタグを受取る。2枚目にお願いして、千斗星の名前を刻んでもらったのだ。私は直ぐに首から下げると、ステンレス製のそれをぎゅぅと握った。そうすれば、千斗星と繋がっていると言う事を確認出来るから。


以前、千斗星が言っていた。

有事が起きた時、危険なのはパイロットではない。戦闘機を操る、戦闘機を発見できるレーダーサイトや基地なのだと。飛び立った後、基地が狙われる可能性があるし自分なら敵地の中枢を狙うと言い切った。

もちろん、そんな事があってはならない。その為に外部からは発見しづらい僻地に基地を構え、あらゆる方法でカモフラージュしている。それに、いざと言う時を想定して地上コンバットチームもあるのだ。


「ご主人と同じ基地で働けるように、こちらも努力しますので。暫く辛抱してくださいね」

「え!あ、はい。ありがとうございます」


どれだけ自分は不安そうにしていたのだろう。気を使わせてしまった事に反省する。

ここで基礎をしっかり学び、那覇基地の警戒管制隊に来てくれと言われるような人材にならなければ。


私はもう一度、認識番号票ドッグタグを握りしめた。





     *




 午後は管制室から出て、レーダーサイト周辺の見回りに出た。山の上とは言え、敵から知られないよう地下に情報収集室があったり、レーダーを感知するための機器を至るところに隠すように設置してある。それが芝生やツルの成長で感知の邪魔になっていないかを、確認する作業がある。


これがかなり体力を使うのだ。時にそれは高台にあったり、草木を避け、入り込んだ林のなかにあったりとまちまちだった。


「沖田、分かるか!」


後ろで同行してくれている先輩が声をかけてくれる。今私はひたすら上を目指して登っている所だ。


「はい!見えますけど……全体の確認出来ません!」

「ああ、やっぱり隠れてるんだな。降りてこい」


こんな時は私達も作業服である空自の迷彩繋ぎ服を着ている。正直、暑くて仕方がない。


「無線で管制室に連絡。グリーンチェックだと伝えてくれ」

「グリーンチェック……ですか」

「初めてか」

「はい」


そう言うと先輩はニコッと笑い「そうか、ご主人だといいな」と意味の分からない事を言った。なぜそこで千斗星が関係するのだろう。とにかく言われたままに管制室にコンタクトした。


「20分待機、だそうです」

「りょーかい」


先輩はその間、家族の事を話してくださった。自衛官と言う事で良く思われる事もあるが、悪く思う者もいる事。それが自分に向けられるなら耐えられるけれど、家族にも同じように向けられるのだと。奥様は一般の方らしい。


「何を、言われたのですか」

「よくあるのは、税金で生きてるんだから質素に暮らせとか。人殺しの訓練をしているとか、かな」

「え、酷い……」

「それは極端な例だけどね。でも、大半の人がご苦労様ですと言ってくれるよ」

「家族が巻き込まれるのは、辛いですね」

「まあね……」


公務員の給料や公務中の支出は皆、国民の税金からまかなっている。役所も警察も政治家もそして、皇族も。国民が汗水流して稼いだ中から税金として吸い上げている。当たり前だけど、だからこそ国民の為に私達は身を呈して働いている。しかし、私達は役所や警察と違って直接的な関係を持たない。私達は国民の盾となるため、彼らに背を向けて生きている。その分、誤解も受けやすい。


「訓練が仕事、と言ってもなかなか理解出来ないですよね。私達が出動する時は、望まぬ事態に遭遇した時ですから」


いつ起きるか分からない有事に備えて、厳しい訓練をしている。その訓練の最中に起きる事故で殉職する隊員も多い。それの事実を積極的には公表していない事もあり、遊んでいると思われてしまうのが現状だった。


「でもね、そう思われていてイイと思うんだ」

「え!どうしてですか!命懸けで私達は任務に就いているのにっ」


思わず語尾に力が入り、胸を手で押さえた。その下には認識番号票ドッグタグが隠されている。こんな物を身に着けなければならない程、危険だと言うのに!と。


「そう思われると言う事は、我々が平和を維持できているという証拠だからだ」

「……っ」


何も言えなかった。悲しいかな、憎まれている内は日本が平和であると言う証拠なのだ。

それが特別国家公務員の仕事なのだと、思い知らされたからだ。


「お、来たか」

「え?」


遠くから轟音が聞こえてきた。それは私達が聞き慣れたもの、そこに見えたのはF−15戦闘機だった。


ー ゴーーーッ!


「コンタクトチェック、こちら与座岳管制309。グリーンチェックを頼む」

「コンタクトクリアー、こちらアロー01。グリーンチェックに入る」


ぐるりと旋回したF−15はゆっくりと高度を下げた。パイロットの姿が目視出来る程に低く。


「す、凄い!もしかしてっ、戦闘機からレーダー感知器を確認しているのですか!」


エンジン音が大きい為、自然と叫ぶような声になる。先輩は親指を立て、その通りだと口パクをして見せた。


(ええっ!そんな事で、戦闘機を呼びつけちゃうのっ!すごーい)


「こちらアロー01、1ヶ月程で覆われると予測する」

「了解。忙しいのに申し訳ない。……え?ああ、お待ち下さい」


先輩がイヤホンと無線を私に渡してきた。焦って「え?」と口にするとニヤと笑うだけだ。

(まさか!千斗星なのっ!!)


妙に緊張しながら、それを受け取った。


「こちら管制の沖田です」

「天衣ちゃん!頑張ってるな、かっこいいぞ!空自うちの迷彩がよく似合ってる」

「……八神さん!」


無線の向こから、くくくっと笑い声が聞こえる。千斗星ではなかった事の落胆と、八神さんだった事への安心感が複雑に広がった。


「ごめん、沖田は訓練中なんだ。もうすぐアイツもイーグルライダーになるよ」

「本当ですか!」

「ああ。その時は真っ先に寄越すよ」


上からは私の姿が見えるらしい。そう、こうやって彼ら戦闘機パイロットに護られている。あの空から日本を護っているんだ。


「はい!ありがとうございます!」


大きく手を振ると、グルンと頭上で宙返りを見せてくれる。萎えかけた心に勇気の灯火が宿った。嫌われてもいい。嫌われていると言う事は、平和な証拠なのだから!


「よし!戻るぞ」

「はい」


今日も沖縄の空は何処までも青く、キラキラと輝いていた。

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