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スワローテールになりたいの  作者: 佐伯瑠璃
第1章 ドルフィンライダー 
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うん、合格だな。

ゆっくりとは言いつつも、一話出来上がったので投稿致します。

宜しくお願いします。

晴れて、航空自衛隊に所属することなった春。

防衛大学校では過酷な訓練プラス当たり前に授業を受けて、2年の時に念願かなって空自の道へ進む事となった。卒業後は幹部候補生学校で更なる知識と技術を叩き込んだ。


あんなに嫌がっていた母は卒業式でのあの有名なシーン。帽子を投げて走り去るあれに胸踊らせていた。「あーんもう、私も若かったらなぁ」なんて言うまでに。

あの投げた帽子は後で後輩たちが届けてくれるのです。あれ、結構大変なんですよ・・。帽子拾うだけではなく、何処の誰のものなのか確認しなければならない。ものすごく遠くに放る先輩もいて...せめて座席付近に落としてくださいよと、愚痴ったものだ。



さて、回想はここまで。

私は今、挫折感真っ只中で宮城県松島基地に降り立った。何故ならば先日のパイロット試験に落ちたからだ。落ちた理由は教えてもらえなかった。筆記は自信があったし、実践だって…くっ!

たった2時間、されど2時間。私はT−7(初級練習機)に遊ばれた。機械のくせにっ、鼻で笑われた気がする。

教官からは「まあ、女で初めてのテストならあんなもんだろ」と、貶しにも励ましにもならない言葉をいただいた。


「合格するまで受け続けてやる!」


パイロット不合格の烙印を押された私は、それでも戦闘機に関わる部署に行きたいと、前代未聞だと言われながら戦闘機のある基地がいいと主張した。

結果、松島基地にて広報の仕事を言い渡された。


「広報って...戦闘機と関係ないじゃん」


ゴゴゴー!! と私の頭上をものすごい勢いで何かが飛んで行った。


「あっ!T−4 ブルーインパルス!!」


ショックのあまりすっかり忘れていましたが、此処はブルーインパルスの基地だった。キャー素敵っ、カッコいい!!思わず指をさしてしまう。

私の頭上を5番機が華麗にロールしながら浮上して、遥か彼方で旋回した。そのテクニックは素晴らしく、まるでツバメが空の散歩に出ているようだった。


「ドルフィンって聞くけど、あれはまるでスワローね」

「へぇ、あの飛行を見ただけで分かっちゃうんだ」

「へ!」


振り向くとそこにはネイビーブルーのフライトスーツ、胸にウィングマーク、左上腕に白のドルフィンワッペン、キャップにBLUEIMPULSEの文字が…。はっ!?彼はブルーインパルスのパイロット!

私は慌てて姿勢を正し、敬礼をした。


「本日付で着任致しました、広報担当 香川天衣(かがわあい)と申します!」


私の態度の変化がおかしかったのか肩を揺らしながら笑う彼は背が高く、手足も長い。自衛官なのにすらりとした体型だった。日に焼けた肌は黒すぎず健康的な小麦色。キャップを被っているので顔はよく見えないけれど、たぶんイケメン...。たぶん。


「アイちゃんか。可愛い名前だね。僕は八神真司(やがみしんじ)と言います。宜しく」

「八神さんは、失礼ですが、その階級…は」

「ん?一応、1尉だけど八神1尉なんて呼ばないでね」

「え!」

「真司でいいよ」

「しんっ、いえ、八神さんと呼ばせていただきます!」


八神さんはククッと笑うと、私の体を上から下までゆっくりと観察した。なんか、怖いです。


「君が1年目にして無謀にもパイロット試験を受けた女子かぁ。もっと厳つい子かと思っていたけど…うん、合格だな」

「は?」


私は八神さんの怪しげな検査に合格してしまった。がしかし、此処で時間を潰してはならない。


「し、失礼します。着任報告に行かせていただきます」


八神さんに会釈をした私は、気を取り直して基地内の広報室へ向かった。



     *


私は無事、広報室に辿りつき着任の挨拶をした。

ここは本部ではない為、広報室はわずか数名という少人数だった。


「初めまして。鹿島真姫かしままきと申します。香川さんより3期上になります」

「香川天衣です。宜しくお願いいたします」

「そんなに緊張しないでいいのよ。ここは肩の力を抜かないと仕事が回らない場所だから」

「肩の力を抜く、のですか?」

「ふふ。そのうち分かると思うわ。分からない事があったら気軽に聞いてくださいね」

「ありがとうございます」


鹿島さんは3期先輩だそうだけど、こんな美人さんが防大うちにいたなんて。『きれいなお姉さん』代表のような人だと思った。女性用の制服がとても似合っている。私はこのタイトスカートの制服が嫌いだ。だっていざという時に走りづらいから。


「ここでは室長がトップになります。さあ、こちらへ」


トントンとノックをして室長室へ入った。


「室長、香川さん着任です」

「おお!待っていたよ。君がその...くくっ、先日パイロットの試験を受けた」

「はい。香川天衣と申します。宜しくお願いいたします」


室長は笑いを堪えたような表情で

「ああ、塚田守つかだまもるといいます。一応3佐です。でもここでは室長と呼んでください」

「はい。・・・あの?私、何処かおかしいでしょうか」

「え?ふはははっ」


私がそう尋ねたのがいけなかったのか、塚田室長は大きな声で笑い出してしまった。


「室長!女性をそんなに笑うものじゃないですよ。ねえ、香川さん。失礼だって言っていいのよ?」

「え、いえ。その、私がおかしな事をしたのかもしれませんし」

「ごめん、ごめん。いやぁ、見た目とヤッってることの差が凄くて驚いているんだよ」

「・・・はぁ」


室長は私の見た目とパイロットになりたいと言うやる気が一致しないのと、またそれがツボなんだと笑っています。

しかも、そんないきなり試験を受ける人いないよと更に笑う。


「しかし、何事もやってみて損はないかと思いまして」

「だはははっ。確かにっ、くくっ。まあそのチャレンジ精神って言うのが君の良い所なのかな」

「めげないのが取り柄です」


そう言うと、ゲラゲラ笑っていた室長の目がスッと鋭いものに変わって「それが欲しかったんだ」と真顔で言われた。

背中にゾワリとした感覚が走る。


「君なら彼ら(パイロット)と上手くやれるかも知れない。期待しているよ」

「ありがとうございます」


お礼は言ったものの何か腑に落ちない。めげない私なら彼らと上手くやれるかもとはどういう事だろうか。

彼ら?彼らってどなたでしょうか。


室長室を後にした私は鹿島さんに連れられて、基地内を回った。ここは第4航空団に属しており管制隊、気象隊、整備隊、救援隊、警務隊がある。そして、最後に案内されたのはブルーインパルス。チーム、ブルーインパルスと言えば伝わるだろうか。

ここにはパイロットを含む約30名が所属している、アクロバット専門の部隊となる。機体6機に対して乗務員は2名づつ。パイロットの事を【ドルフィンライダー】と呼び、その彼らを支える隊員の事を【ドルフィンキーパー】と言うらしい。

チームワークが重要となる為、整備員は専属で他の機体を見る事はないのだとか。

1番機の担当は他の機体は見ない。何故ならば機体それぞれに癖があり、同じやり方のメンテナンスは通用しないからだ。


「独特な雰囲気ですね」

「そうかもしれないわね。選びぬかれた精鋭たちがここで3年間、展示飛行をするの。その3年は他の部隊とは別物扱いだら」

「それって、彼らはアイドルやヒーローと同じ扱いをされていると言う事ですか?」

「実際はそんな扱いは無いんだけど、そういう風に創り上げちゃったから…ま、仕方がないのよね」

「そう、ですか」


ここは大人の事情と言う臭いがプンプンする。

でも、憧れが強い世界ほど現実と理想のギャップも大きくなる。仕方のないことだ。

私たち広報が架け橋となって、多くの人に私たち自衛隊の事を理解し支持してもらわなければならない。


取り敢えずは目の前の事を頑張ろう!


「そうそう、香川さんにはブルーインパルスを担当して貰うことになっています。頑張ってね」

「はい!・・・え?いきなりっ、ですか!?」

「うーん、室長命令なのでごめんなさい。でも、香川さん一人じゃないから安心してください」

「よかったぁ…。どなたがご指導下さるのですか?」

「ふふっ。・・・塚田室長です。心強いでしょ」


な、なんですとぉぉぉ!!!


嫌な予感がするのは私だけでしょうか。なぜ、室長クラスの方がこんな下っ端でペーペーのパーパーを指導するのか。普通は1等級上の先輩とかがするのでは?更にブルーインパルスの担当だなんて!サラッと聞いただけで、ひと癖もふた癖もありそうな…?


そう言えば、ここに来る前に八神さんと言うブルーインパルスのパイロットに会ったけど。

『うん、合格だな』


やだ!まさか、あそこから何かが始まっていた、とか?


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