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スワローテールになりたいの  作者: 佐伯瑠璃
第1章 ドルフィンライダー 
19/78

限られた時間の中で魅せるには

私の彼氏はSっ気たっぷりなブルーインパルスの5番機です。

練習だの、ペナルティだのって理由をつけて私の躰をっ……。


「っく。何考えてるの!しっかりしなさい」


思い出すだけで躰が熱くなってしまう。彼の逞しい躰が目の前に現れると、どこを見ていいか分からなくなってぎゅと目を瞑った。

クスクスと笑い声が聞こえて来た。だって初めてだから仕方がないじゃない!と、開き直れたらどんなにいいか。


『飛行前点検だ』


あー、ダメだ。頭の中をその言葉がリフレインする。

結論から言うと、躰をまさぐられたけど最後までシてない!

恥ずかし過ぎるよーー。何が飛行前点検よっ!もうーー。


「よし!もう終わりっ。仕事、仕事だ」


私は、制服に着替え頬をパチンと叩いてから、玄関を出た。


さあ!今から展示飛行のオンパレードだよ。彼らの舞台を華やかなものにするのが仕事。私は広報に徹するべく基地に入った。




広報室に入ると私はまず塚田室長に報告の為、室長室を訪ねた。


「香川天衣、入ります!報告に上がりました」

「ああ、おはよう。……ん、香川おまえ」

「なんでしょうか」

「女っぽくなったな」

「え、あ、ええ!」

「と、言ってみたかったんだよな俺」


何てことを仰るのですか塚田室長!今の私には物凄い爆弾投下ですよ。破壊力凄すぎです。落ち着け私っ。

私は動揺を隠しつつ、検査結果の報告をした。


「そうか、分かった。無理はするなよ。無理したり誤魔化したりすれば、治るものも治らない。いいな」

「はい」



こうして体調を気にしつつ日々の仕事をこなした。詳しい話は沖田さん以外のクルーたちには伝えていない。気を遣われたくないのと、弱みを見せたくないと言う単なる私の我儘だ。


展示飛行のスケジュールは順調に消化されて行った。天気と睨み合う日もあったけれど、美保基地も輪島基地も無事に終わった。

梅雨初期は北海道で行い、梅雨が本格的になると一旦展示はオフとなる。それまでに、なんとか6月のスケジュールは消化したい。


6月最後の日曜日は九州でのスポーツ大会オープニングで、ブルーインパルスが飛行する事が決まった。こうやって突然割り込んで来ることもある。


「梅雨入りしてるからな、飛べるといいんだが」

「隊長、テールちゃんがいるから大丈夫だって」

「八神さんっ。私はてるてる坊主ではありませんからねっ」

「え、あははは」


大友飛行隊長は天候を気にしていた。自然相手にどんなに足掻いても勝てないのだ。それでも多くのファンが待っている。空に祈りながら飛行訓練は続いた。

私は彼らと共に走るのは好きだ。時に空回りはするけれど、しっかりとブルーインパルスのシッポを務めたい。


気象隊と天気予報の確認をしながら、その日がやって来た。

普通なら前日に予行をするのだけれど、生憎の天候でキャンセル。本番で一発勝負となった。


九州の空はどんよりと雲が広がる。風も少しある。

飛べるのか、飛べないのかギリギリの選択を迫られていた。そんな中、大友飛行隊長と塚田室長がそれについて相談を始めた。


「今回は市街地上空の為、離陸時のアクロバットはない。デルタ隊形(山の形)とダイヤモンド、それからアブレフト(並列)が主になる。ソロの5番機と6番機もタッククロス(近距離交差)程度だから、ある程度の無理は利きます。気象隊はなんと言っていますか」

「風さえ止まれば今回のプログラムなら可能だと。ただ、噴煙が白だと映えない。色を入れることは出来ませんか」

「キーパーたちに入れ替えが可能か頼んでみます」

「お願いします」


今回の見せ所はレインフォールと言って、5機が垂直に降下し5方向へ花が開くように散る。噴煙が美しく軌道を描くものだ。それが曇り空だと白の噴煙が溶け込んてしまう。


「チェンジ出来ない場合それは諦めて、フォー・シップ・インバートに変えましょう」

※フォー・シップ・インバート: ダイヤモンド隊形で侵入し、180度回転、背面飛行をすること。


「分かりました」


どうか、空の機嫌が良くなりますように。私には祈ることしか出来なかった。



「香川」

「沖田さん」


勤務中は互いをそう呼び合う。


「そんな顔するなよ。大丈夫、飛べるよ」

「でも皆さんの安全が第一です。リスクは少ない方向で行きます」

「これくらいで中止したら、お客様は納得しないよ。広報が責められるぞ」

「それが仕事です。命が掛かっているんですから、広報としてお客様の安全もライダーたちの命も守らなければなりません」


そう返すと、沖田さんは一瞬目尻を下げ微笑んだ。そして直ぐに鋭い眼差しに変わる。


「分かった。ゴーサインが出たら、広報の熱い気持ちも添えて空を舞うよ」


彼のドルフィンライダーとしての魂に火がついた瞬間だった。



     *



「気象隊より、30分切り上げなら可と連絡が入りました」

「分かった。じゃぁ、噴煙は間に合わないな。レインフォールは中止、フォー・シップ・インバートに変更!」

「はい!」


バタバタと準備を進め、ギリギリの天候の下で展示飛行が行われる事になった。どうか無事に終わりますようにと、私は強く祈った。



多くのファンたちが空を見上げ、今か今かと待ち望んでいる。


「ブルー飛ぶって!」

「本当!嬉しいー」


そんな声が聞こえてきた。彼らの声に私たちは支えられている。

あとはライダーたちに任せる。



遠くからゴゴーと言う音が先に聞こえ、目を凝らすと4機のブルーインパルスがダイヤモンド隊形でやって来た。


「来た!来た!見てー、ブルーインパルス来たよ」


歓声が湧く。その隣で私も彼らを見上げた。白と青の機体は空に負けていなかった。シューンッと大空を駆け抜ける。

「おー!」と言う声が響く。その後、5番機と6番機が並列して途中大きく二手に別れた。タッククロスに移る準備だ。


互いが近距離で交差する技は、僅かな狂いが衝突を呼ぶ。空は雲で真っ白だ。距離感の相違リスクが怖い。


(無理はしないでっ、お願い!)


気づけばそんな事を心の中で叫んでいた。


「カッケー!マジでやばいって。近ぇし、鳥肌立つ」

「すげー、熱いって」


若者がそう叫ぶ。5番機の沖田さんと6番機の相田さんは息がピッタリだった。よかった、握りしめた拳を開くと爪の後が残った。手汗が止まらない、足が体が震える。私は初めて武者震いを体感した。


(まるで自分が操縦しているみたい……!)


『俺が乗せてやるよ』

っーー!そうか、こう言う事だったのかもしれない。自分が飛んでいるような錯覚が起きる。私は彼らに、沖田さんにあの空へ連れて行かれていたんだ。

風が出てきた。上空はもっと強いだろう。最後は見せ場のフォー・シップ・インバート。背面飛行は高度な技術が必要となる。

天井が入れ替わるのだから、技術だけでなく体にも負荷がかかる。


再び4機がダイヤモンド隊形で進入してきた。そして、クルンと180度回転。背面で横切る。


「逆さまやん!すげー!!」


いつもより早めに短めに展示飛行が終わった。まだ見たいとざわめく人々。しかし、これ以上は危険だ。

最後に6機が縦列に並んで現れた。基地に帰るため飛び去っていく。そして、そのブルーインパルスの背が空に並んだ時、


「見てぇ!!あれっ」

「キャー、嬉しい。バイバーイ」


お客様が跳び上がりながら両手を空に向けて大きく振る。

その理由は……


バイバイウィング


翼を大きく右へ左へと傾けて、観客たちに別れを告げる合図。

まさにバイバイと手を振っているように見えるのだ。


「大友隊長って、粋な人」


私も彼らの背中に手を振った。


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