第7話 夏休みの終わりに
ホワイトゴブリン強襲事件から、3日後。
王国調査官なる、数人が家にやって来。お母さんと会話を、3時間程して帰った。
夏休み最後の日。
今日は、体力を強化する為。グレイツ区の行ける所まで、走る予定だ。
馬車広場まで、歩いて行く。
馬車広場では大規模な、拡張と改修が同時に行われていた。
たぶん。ホワイトゴブリンと戦った時に、煉瓦を溶かした事も関係があると思う。
煉瓦道に面した空き家が、一部。解体工事が始まっている。
数日前まで、無かったはずの道路標識。
煉瓦がまだ敷かれていない地面に、刺さっていた。
上を見上げる。
「ライツ2丁目」と金属の棒。その先に付いた、鉄製の板に刻まれていた。
道路工事を見ながら走る。
冒険者ギルドの建物。
目の前で、建物の解体工事が行われている。
木製の足場に数人の男性が乗って作業をしていた。
近くに、立て掛けられた看板。
「マサドリ貸本屋。1707年7月頃、開業予定」と書かれていた。
歩いていた状態から、走り出す。
もっと走ろう。
未来の為に。
「ハ。ハッ、タ」
最初に右ストレート。右足を引く、空手の逆突き。左に少しずらして手首の捻りを加え、裏拳を巻き藁に叩き込んだ。
右手全体に、痺れるような痛みが時間の経過と共に、薄れていった。
巻き藁を突くとき。声を出したのは、今日が声を出したい気分だったからだ。
地面に置いていた、木剣を右手で拾い上げる。
アスリット剣術の練習をしようとした、その時。
「確か、レキス。レサーナの子供だろ」
振り返って、声がした方を向いた。
茜色の短髪。
初老の男性なのに、髪が抜けていない男性がそこにいた。
「レキス・アスリットだな」
誰だ?
記憶の中には入っていない、老人だ。
少しずつ、近づいてくる。
鞄から、75cm程の木剣を取り出した。
魔法発動鞄か!
「行くぞ!」
行き成り、何だよ!
走って、俺に迫って来た。
謎の老人は、一撃目に振り下ろしを選んだ。
左足を前に出し、滑るように躱す。
「そこそこ、出来るな」
老人が剣を引いて、右からの薙ぎ払いと見せかけながら。
突きを繰り出す。
木剣で上から振り下ろし、老人の木剣に叩き付けた。
危ないと感じたのか、老人が後退した。
この老人。本気を出していないな……老人にすら、俺の剣術は通用しないのか……。
少し。ボーっとしていたら、右から薙ぎ払いが迫っていた。
木剣を捨て、右腕で回し受け。
木剣の衝撃を、腕だけで受け止める。
一瞬、腕に雷が走ってような衝撃を感じる。
これ絶対、折れてるやつだって。
右腕を動かす。
「痛ー!!」
「大丈夫か?」
「どうしたの、レキス?」
屈託の無い笑顔で老人が答えた。
「レサーナ。久しぶり!」
「お爺ちゃん!」
「紹介するわ。私のお爺ちゃんで、名前はレヴァン・アスリット」
昨日迄、無かったと思う。水墨画の掛け軸に目を奪われていた。
今にも、掛け軸の中から鷹が飛び出してきそうな画だった。
「レキス。どうしたの?」
視線を目の前に向ける。
右腕に添え木と一緒に包帯が巻かれていた。
レヴァン老人の木剣を腕で受け止めた後。
サンツ区にある。
カレリス総合病院に向かった。
そこに行ったら、リシャナス院長が担当してくれた。
「右橈骨の単純骨折です」と言われた。石膏がホワイトゴブリンのせいで切れているらしく、添え木に包帯を巻かれて帰って来た訳だ。
「私は、曾お爺ちゃんのレヴァン・アスリット。71歳だ」
「初めまして、レキス・アスリット。7歳です」
レサーナから差し出された。緑茶を一口飲み、口を開いた。
「それにしても、レサーナとレキスはよく似ている」
「そう?」
「目と鼻、特に似ているな」
レヴァン曾お爺ちゃんが緑茶を飲み干した。
急に顔を引き締めて話を始めた。
「大事な話がある。今日から、この家に住んでも良いか、レサーナ?」
「それは、大丈夫だけど……。アスリック王国調査官の仕事関連ですか?」
レヴァンが少し沈黙する。
「ホワイトゴブリンの調査を王国が直接。行う事になった、場合によってはレサーナの所にも、依頼が回ってくる可能性もある」
「そうですか……」
レサーナが台所で、晩ご飯の準備を始める。
テーブル越しに見た所、魚の下処理しているようだ。
「レキス。せっかくだから、左手でお箸の練習だと思って、お箸で食べてみたら?」
台所の蛇口を捻って、水を流しながら言った。
「両方。利き手だから、問題無いです」
「あら、そう。それなら左手でも、魔法術が発動出来るように練習したら?」
「そうですね」
こうして、レヴァン曾お爺ちゃんと3人で、暮らす事になった。
クラスは、単身赴任。
俺は、右腕を骨折したまま。夏休みを終えた。




