第5話 思いを込めて
学校で、光属性精神力魔法「灯火」を発動してから数ヶ月後。
ライツ小学校に入学する前から、家の敷地内で魔法、魔法術を練習していた。
2年と数ヶ月。毎日数十回、累計発動日数を記録しているので数えて見たら、635日だった。
最初のころは、1日数回しか発動出来なかったが今は、最低でも1日10回以上は発動出来る。
単純計算しても、1200回以上は発動している筈だ。
魔法術の練習をしたので、そこそこ魔法と魔法術が使えるようになったのだが最近は確認程度の発動しか、しなくなった。
魔力は確かに繰り返し発動することで増えたと実感できる魔法術発動回数の増加があった。
だがそこに、落とし穴みたいなのがあって。
初級魔法、魔法術をいくら発動しても中級魔法や魔法術を繰り上がって発動出来る訳じゃない。
はっきり言って、壁みたいなのに突き当たってしまった。
読んでいた本を閉じる。
昨日から夏休みに入った。
1705年7月15日から8月18日までが夏休みだ。
この世界に転生してから読んだ本は、200冊を超えた思う。
上を見上げると電球みたいなのがあった。
魔力伝導工学技術で発光する、魔力起動家具。
通称、魔家具の光球が淡い光を上から下ろしていた。
家の中にある光の少ない書庫に篭もることが新しい発見を俺にくれると思い、昨日だけで夏休みの課題と宿題を半分ほど終わらせた。
そして、夏休み前から日課のように書庫に篭もっていのだった。
「レキス!」
扉の向こう側から、レサーナの声が聞こえてきた。
「ここに居たの、レキスこれから魔法術の練習をしようと思うのだけど一緒に来ない?」
「行きます」
「余り、乗り気じゃないのね」
「まあ良いわ」
「準備してくるから。待ってて」
「はい。外で待ってても、良いですか?」
「家の玄関から、見えるところまでの敷地なら良いわ」
「解かりました」
魔法、魔法術に関する収穫でも、あれば良いが……。
外に出ると、棒が5本ほど地面から生えているのが見える。
家から出て、6m程離れた敷地に巻き藁が地面に埋め込まれている。
8cm四方の木の上辺りに藁が巻かれているものがあり、これが巻き藁だ。
5本が3mおきに直立していた。
猫足立ちに近い構えで体の重心を整え、巻き藁に正拳突きを叩き込む。
巻き藁に当たる一歩手前で、加速させ打ち抜くように打ち込んだら、痺れるような痛みが骨を伝って全身に来るような痛みが今では、心地よい。
この次は、空手と関係のない少林寺拳法の燕返しを両手で叩き込んだ。
この調子だと1番熟練度が個人的に高いので、格闘系や護身術をメインにして戦いたくなりそうだ。
剣術や魔法、魔法術も格闘術。
護身術を全部、極めるってやっぱり無理かな……。
「レキス、いきましょう。ライツ区の演習場へ」
「どこですか? ライツ区に魔法、魔法術が発動して問題が無い、演習場なんてありましたっけ」
確か、冒険者用の練習場ならグレイツ区にあったと本で読んだが……。
「本当にライツ区にあるんですか?」
この世界で良くするようになった。訝しげな顔をして訊き返す。
「ちゃんと、あります」
(本当にあるのか……)
嘘を言うとも思えないけど、実在するとも思えない。
そんな疑心暗鬼の中、2人で出発した。
下り坂を降りていく。
馬車広場が見えてきた。
馬車広場から、煉瓦で舗装されている。
この馬車広場は、中心にある円形の道路から。
4本の大きい道路に別れていて、真っ直ぐ行けば冒険者ギルドとクリヒヤ商店があり更に行けば。
グレイツ区でアスリック魔法、魔法術局と言う王国政府機関が石造建築のかなり大きい建物を構えている。
馬車広場を家から見て、右にかなり進めばサンツ区。
左に行けば、幻影杉街道でそこを通り過ぎればロロックス区だ。
そんなことを考えながら、幻影杉街道を10分程度歩いただろうか。
「ついて来て」
レサーナが獣道に行き成り、入っていった。
藪や雑草が茂っている。
殆ど、山の斜面に近い坂を上っていくと、何度も藪や雑草に足を取られそうになった。
しばらく歩いたと思ったら、レサーナが俺の前に右手を突き出して止まった。
「着いたわ!」
「どこに着いたんですか? 草木しか見えませんが……」
親の前で転んだりしたら、少し恥ずかしいので足下を見ながら母親の前を目指してゆっくり進む。
かなり前に、出ていたレサーナの前に出る。
砂利が斜面を滑り落ちる音が耳に届き、目で数10mの崖を認識した。
「うわー!」
数歩踏み出せば、滑落していたことだろう。
人工的に山を削って、作られたと思われる崖と草ひとつとない広大な土地が、そこにあった。
「まさか、ここから飛び降りるとか、しませんよね?」
「そんなことしたら、いくら私でも両足を、複雑骨折してしまうわ。レキス、左側を見て」
(すでにかなり、タフな気がするのだが……)
左側に目を向けると、崖に沿って作られたここから下りる為の階段があり、そこからレサーナが降りて行ったので後に着いて行った。
歩きながら、質問する。
「ここは、一体どこですか?」
「冒険者ギルドアスリック魔法、魔法術演習場。ここはそう呼ばれているわ」
「先に受付をしないと」
「上級冒険者と付き添いが1人、貸切で取りました。あ! まだ行かないでください、ひとつ言い忘れた事がありました。攻撃対象建造物が半壊しているので、全部壊してくれませんか?」
たった1人の男性、受付係りが話した。
「全部壊して良いのね?」
「ええ、昨日女の子をつれたお父さんがだいぶ激しい魔法術を何度も発動したみたいで……土属性の魔法術が使えるなら、片付けて貰えると助かります。そして、あなたと同じ上級魔法術師の称号をお持ちでしたよ」
「そう……レキス行くわよ」
遠くにある、半壊した石造建築の建物が標的として壊される為だけに、作られたことが何とも空しい。
レサーナが両手を前に出して言った。
「始めるわ」
「我が力を変換し集約せよ水。『空間水蒸気』上空で発動せよ」
「我が力を変換し集積せよ風。『上昇気流』ここに発動せよ」
目に見える程に渦巻いた風が砂埃を巻き上げて昇っていった。
「我が力を変換し水分を集約せよ『積雲』発動」
「連結強化魔法。『積乱雲』発動」
上を見上げると、どす黒い雲が姿を現し一箇所に集まって行く、かなり近くにあるように見える、積乱雲が上空でゴロゴロ音を立て始めた。
「我が力を変換、連結魔法術『雷』発動」
数秒後、石で出来ていて半壊した建物に、閃光と轟音が飛来した。
雷が落ちてきた瞬間に、鼓膜が破れたかと思うほどの音と振動が耳を襲撃する。
「まだ……行く……わ」
耳の中で、音が震えてよく聞き取れない。
なんで、レサーナが平気なのか解からないまま。
新しい魔法術の詠唱に入った。
「……連結魔法術『大雹』発動」
「障外壁」
耳がだいぶ、回復してきた。
上空、1m位に透明な板が2の体より大きく展開していた。
数分後、「ゴッン」と云う音で上を見上げると、こぶし大の雹が上空から降ってくる。
「この中に居れば。安全」
半壊していた、建物を見る。
時々振ってくる真夏のスイカ位大きい雹が当たって、外壁が削られていった。
上に張った、障外壁が壊れないか怯えながら建物が壊れるのを見ながら数10分間過ごすのだった。
「少し休憩したら、竜巻で終わらせるわ」
次元が、惑星1つ分ぐらい。
根本的な差が俺とレサーナの間には、あるのではないだろうか……。
「我が力を変換し、複合発動せよ『氷空間』接続。『上昇気流』接続『塵旋風』、複合魔法術。『竜巻』発動」
最後の引導を、建物に渡すときが来たようだ。
俺が発動した訳じゃ、無いけどな。言ってみたかったんだ。
建物の前に大きな渦が現れ、巨大化して行く。
直径も横幅も、建物より大きい。
竜巻が発生させる巻き込む力で、今にも体が竜巻に持っていかれそうだ。
俺が、飛ばされそうなことに気づいたのか。
レサーナに左手を掴まれた。
竜巻は、動き出して直ぐに、ぼろぼろの建物をひと飲みした。
人工の竜巻なので、一箇所にいつまでもいる。
執拗に、建物を削っている筈だ。
竜巻の中がどうなっているのかを見ることが出来ないので、解からない。
これがどういう制御方法で、行っているのかすら理解できないが。
この魔法術はかなり高難易度だと、言うことだけが俺には、解かる。
竜巻がやせ細って行き、ついに消えた。
まだ、空間に魔力を伴った風が残っていたのか、所々で風が渦巻く。
建物は、遂に完全倒壊していた。
「よし、瓦礫を片付けたら、私の練習は終わりにしましょう」
レサーナは、疲れもみせず建物が倒壊している場所に、走って行った。
俺の人生。
まだ7年と数ヶ月しか経っていないということを思い出し。
取り敢えず、安心しておく。
修行の必要性を、切に痛感した。
ゆっくり、向かっていたら。
レサーナが土属性の魔法術を使って、瓦礫を短時間で片付けてしまった。
完全倒壊した建物があった場所は、草ひとつ無い更地になっていた。
片付けが終わって直ぐ、「今使える魔法、魔法術を発動してみせて」とレサーナに言われた。
使える、魔法、魔法術の発動を始めた。
「光属性精神力魔法は、光と灯火が使えて。
火属性加速攻撃魔法術は、火と火炎。
火矢で水属性集約魔法は、水と水流。
土属性が使えなくて、風属性空間集積攻撃魔法術。
氷属性現象攻撃魔法術は、まだ使えないと言うことね」
頭の中で考えているのか、レサーナが暫らく無言になった。
「魔法、魔法術の発動可能数に対して、中級の魔法や魔法術が無いのは。
余り良くないわね……中級の壁に捕まってそう……」
(中級の壁、何だそれ?)
「中級魔法を発動するから、しっかり見ていなさい」
「我が力変換し。ここに『障外壁』を発動する」
突如、レサーナの前に正方形の透明な板が出現した。
「障外壁の特徴は、発動前に形を考えて発動することなの。
例えばこんな感じで……『障外壁』を発動したけど。
形が最初のと、違うでしょ」
板の隣にふちが円形の障外壁が現れた。
2枚目の発動時に詠唱していなかったような気がするのだが……
「それじゃ、同じように発動してみて」
右手を前に出す。
魔力を体から目の前の空間に注ぐように送り込むイメージをする。
「我が力を変換し、『障外壁』ここに発動せよ!」
一瞬、何か目の前に出現したと思ったら、魔力が手に帰ってきた。
「痛っ!」
「やっぱり、中級の壁に当たっていたの……」
「レキス、魔法や魔法術の発動時に思いを込めていないでしょ?」
「どう言う、意味ですか?」
レサーナに質問する。
「これは、中級の壁と言われていて、魔法や魔法術を多く発動出来るけど。中級の魔法や魔法術を使えない、初級魔法術師ほど陥り易いの。魔法や魔法術は昔に私が、理解力だって行ったわね。中級の魔法や魔法術は、今以上の理解する力と把握する力。想像力が必要になってくるわ」
一呼吸、おいて話を続ける。
「発動の為に必要な答えは、あなたが自分で見つけなさい。それさえ解かれば。いつでも中級の魔法術ぐらい発動できるほどの魔力が、レキスあなたにはある。いえ、もう備わっているわ」
俺が、中級の魔法、魔法術が使えないことを的確に見抜かれていた。
押し黙る。
「中級以上の魔法、魔法術は高校で習う内容よ、思いを込めるも合わせてね。そんなに落ち込まないのレキス」
無言。
「今日は、帰りましょう」
帰りは、さっきの受付を通って幻影杉街道を、受付で話をした後レサーナに渡された木札を眺めながら、とぼとぼ歩いていた。
「レキス。今度から1人でも入れるようにしたけど、その木札が必要だから無くさないでよ」
「ありがとうございます……」
「私が、中級の魔法術を、始めて発動出来たのは14歳よ。明らかに私より早く、発動出来るようになるわよ」
「え! でも、僕に出来るか……」
進学したら、僕とか言うのもう止めよう、そう言うキャラでも無いからな……。
顔を上げようとする。
「もう! 凄いってこと証明させてあげるから、付いてきて!」
(別に、落ち込んで無かったのにー!)
左手を掴まれ、引きずられそうになる。
体勢を立て直す前に、引っ張られていった。
グレイツ区にある、王国魔法、魔法術局に連れてこられた。
建物の中に進入し近くの受付窓口に到着。
「試験を受けたいのですが、時間は大丈夫ですか?」とレサーナ。
「まだ、本日の試験。受け付けています。試験を受けられる方の名前を言ってください」
女性、窓口職員が紙を広げながら言った。
(試験て、一体何をするんだ?)
俺の、疑問のよそに話が進んで行く。
「レキス・アスリット、7歳。私が保護者で、推薦者です」
受付の台に、本日二度目の純金製の冒険者ギルドカードを提出した。
「試験を受ける方が未成年ですが、保護者の同意と上級冒険者の推薦がありますので。8万セイルをお支払いください」
レサーナが鞄から財布を取り出し、8枚の1万セイル札で支払った。
「手続きが終わりましたので、右側の吹き抜けに試験を受ける人だけ。お進みください」
女性の右手で示された方を見ると数人程、試験を受ける人が集まっていた。
しょうがないので、試験場に向かおうとする。
レサーナに呼び止められた。
行き成り、両肩を軽くポンとレサーナに触れられた。
「あなたの、凄さが解かる筈よ。やれるとこまで、頑張りなさい」
(8万セイルも払うのかよ!)
その気持ちが、吹き抜けに向かう俺に、絶対合格してやると奮い立たせるのだった。
「アラスクさん、オルーサーさん。サンデンさん、タレクスさん、トリャフさん、レキスさん。以上呼ばれた方は、私に付いてきて下さい」
さっき受け付けに、居た女性がどうやら試験官のようだ。
吹き抜けの先に進もうとしたら、男性から冊子を渡され。
受け取って、直ぐ「読んでから、必要事項を記入してください」と言われた。
記入して提出した。
「名前が呼ばれたら、呼ばれた順で付いていってください」と冊子に書かれていた。
集まったのは、トリャフさん以外、男性だった。
扉を開くと目の前に魔法術が使えそうなスペースが、そこにあった。
建物の真ん中に、砂地があるのか!
「それでは、実技試験を行います!」
皆、一列に並んで、それぞれのスタイルで手を構えた。
「私が言った魔法から、発動してください。光属性精神力魔法、第1階級、光」
小学校では光属性の魔法を教えない。たぶん、魔法の中で1番。
精神を消耗するからだろうと俺は、思う。
基本的に教えて貰えれば、誰でも発動できる魔法だ。
俺を含めて全員、発動できた。
「次は――」
「最後は、土属性、集約攻撃魔法術。第2階級、石操作。消費魔力が多いのでまだ発動したことが無い人は、帰って良いですよ。ここまでお疲れ様でした」
今まで、魔法や魔法術を発動してきた6人。
「それなら、帰らせて貰おう」
最初に切り出したのは、オルーサーだった。
「私も、明日仕事があるので失礼させてもらう」
サンデンが、後ろの扉に向かった。
「俺も帰るとするか。じゃあな坊主!」
そんな親しい仲でもないぞ、タレクス。
残ったのは、3人になった。
「それじゃ、僕は門限があるのでこの辺で。皆さんお疲れ様でした」
門限なんて無いけど、体がだるいので。
そろそろ試験が、終わって欲しいと本気で思っていた。
魔力の限界に到達しそうだったので、扉に歩いていきレサーナが居る。
最初の受付窓口へ向かった。
「お疲れ様」
「疲れました……」
「今日は、外食しましょ! まだ、冒険者ギルドの中にある日本の風亭に行ってなかったわね。あそこの料理、かなり美味しいから」
「お母さんと比べると、どうですか」
「私の次ぐらいに、美味しいわ」
煉瓦道の脇で、魔力伝達工学の賜物。
光球が燦燦と光を発し、星を見えなくしていることが少し残念だった。
初めての外食に俺は、心躍らせた。




