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第40話 新中学3年生

「春の訪れを感じることが出来る、今日(こんにち)明日(みょうにち)より、新しい学校生活が始まります。全生徒が伸び伸びと日々を送り、楽しい学校生活を送ってください。皆さん、ご入学おめでとうございます」

 校長らしき人物が、会釈。

 拍手が起こる。

「なあ、レキス(みょうにちって何だ?)」

「(明日のことだ)」

 ルックの耳元で呟く。

 校長らしき人物が台に一礼し、階段へと向かった。

 特別進学枠の最初は、適性確認を兼ねた。中学校からの飛び級みたいだ。

 高校の勉強について行けなさそうだった場合、中学1年生からやり直しらしい。

 入学式が終わるのを待つことにした。




 入学式から1日経った。

 俺達、6人は指定された教室にいた。

「先生の名前は、メグルミ・スフレ=クリムゾンです。皆さん、1年間だけですが宜しくお願いします」「「『宜しくお願いします』」」

 少し、清楚感が人間にしては強すぎる。耳もなんだか長いような……。

 髪はありきたりな、亜麻色(あまいろ)だが透明感が強すぎる。

 エルフだな。

 エルフと言うよりはハーフエルフに近いか……。

「(美人だな、レキス。名前もエルフみたいに長いしな)」

 1番前の席で右隣にいる、ルックから耳の傍で呟かれた。

 ルックの左耳により、口を開く。

「(あの耳をじっくりと観ろ。あれが噂のエルフ耳だ)」

「レキスくんとルッセントくん。聞こえています、そうです私はエルフ。

 ですが、人間種の血が濃い。ハーフエルフです、耳は良いので小声で話しても聞こえますよ」

 亜麻色のロングヘアを少し耳の後ろに持っていく。

「それでは、特別進学枠組の授業を始めます。気象学についてです、起立。礼」

「「『宜しくお願いします!』」」

 俺、ルック、レリス。

 ミファーネ、トリシア、フィアレス。

 中学1年生では無く、新中学3年生。6人しか生徒が居ない教室に寂しさを感じた。

 1年間で中学から高校までの授業があるらしく、勉強について行けるか、気掛かりだった。

「『新中学2年生理科パート3』新本(しんぽん)ですが。32ページを開いてください」




 サンツ中学校に入学してから2ヶ月と20日。

 5月31日、体力測定の日だ。

「100メートルを2本。幅跳び、2本ずつです」

 先生を含めて7人しか居ない、運動場。

 俺ら、男子が先に私服を脱ぎ。運動着の上は白色Vネックのシャツ。下は紺色のハーフパンツに着替え、教室から出た後。女子が運動着に着替える。

 そう言う決まりだ。

「最初は男子から走ります。その後に女子です」

 ストップウオッチを右手に持ち、右前腕で抱えるように紙を挟んだクリップボードを保持。左手に鉛筆を持っていた。

 石灰で描かれたレーンに1ずつ並び、合図を待つ。

「レキス。手加減してくれ、頼む」

「……真剣勝負では手は抜かない。本気できてみろ」

「いや。解かってはいるけど……」

「レリスか……」

「お前……。解かってんなら、手を抜けよ……」

「考えが甘い。女性は総てを見てるんだよ、見られたくないことも見られたいこともな。無駄なこと考えてないで、深呼吸でもしてろ」

 メグルミ先生が手を打ち鳴らす。

「はい。位置について」

 行き成りかよ!

 前世での世界新記録を出す必要も無いので、普通に立つだけの構え。

 あの両手両足を地面つけて、スタートする方法でスタートしようものなら。前世の世界記録更新だ。

「よーい。どん!」

 瞬時に走り出す。

 風が瞳に強く当たる。景色が一瞬で移動し、風の音を耳で感じる。

 走りきった。

 俺が1番だ。

「レキスくん10秒87、ルックくん11秒43。フィアレスくん13秒44」

 おっと、やり過ぎたか……。

 2度目はタイムが落ちたので最初の記録を記入されたようだ。

 ミファーネは100メートル10秒23だった。

 本気出しすぎ……。

 次は幅跳びだ。


    ∵  ∵  ∵


 台所へ向かっているとベルフの声が耳に届いた。

「防御系魔法を解かるだけ、答えてくれ。ミファーネ」

 空色の髪を首まで伸ばした、ベルフ・クリヒヤ。ニット帽がないと長髪の冒険者にしか見えなかった。

 台所のテーブルにで向かい合って2人が座っていた。

「障外壁、防壁、防御壁。防御城壁。光属性精神力魔法の防御系魔法」

「あとは、火炎壁、水壁(すいへき)、水流壁。土壁、石壁(せきへき)、岩石壁、風壁(ふうへき)です」

 魔家具(まかぐ)の冷蔵庫に近いものまで歩いていきリンゴジュースが入ったガラス瓶を取り出す。

 ガラス製のコップを引き出しから取り出した、コップに注ぎ。飲む。

 使用したコップを調理台に置き、引き出しから綺麗なコップを取り出し、訊ねる。

「リンゴジュース、どうですか?」

「頼む」

「いただきます」

 コップにリンゴジュースを注ぎ、易しく2人の前へと置いた。

「ありがとう、レキスくん」

「ありがとうございます」

 テーブルの上には、魔法術関連の書籍が山積みだった。

「光属性精神力魔法に()ける魔力形成のパターン分けを出来るか?」

「お父さん魔法を使っても良いです?」

「……俺は良いんだがな……」

 ベルフが俺をチラッと見る。

「大丈夫ですよ。お母さんには俺から言っておきますから」

 両手を前に突き出す。

「我が力を変換し。具現化せよ『魔力彩色(まりょくさいしょく)

 ミファーネの両手から勿忘草色に着色された魔力が、放出される。

 神懸かった現象に言葉が出なかった。

 ファリルさんから一度教えて貰っただけで使用出来るとは……。

 上空で勿忘草色の球体が、形成されていく。

 完全なる球体。

「光属性の灯火に代表される。発光魔法は火属性加速攻撃魔法術に近いです」

 可視化された魔力が、動き形を変える。

 薄い円形を寝かせ、円の外側に3つの三角形が内側に湾曲、その底辺を重ね。

 三角形の頂点を総て重ねた。

「発光系魔法は『三角曲円加速形成(さんかくきょくえんかそくけいせい)』と言われています」

「次は、障外壁に代表される。防御系魔法を言いますね」

 先ほどの魔力が形を変え始める。正方形と小さな点の集合体へと変化。

 余韻を残すように、淡い青の細かな粒子が接合と同時に散った。

「障外壁に代表される。防御系魔法は正方形に整列させた点を貼り付けた瞬間、発動します」

 綺麗な正方形に並行するように整列した点の集合体。

 階段を駆け下りてくる音が耳に届く。

 玄関まで一直線に駆ける人影が、吹き抜けから観えた。

 気になって台所を出る。


「クラス!!」


 まあ、なんと言うか。

 玄関でレサーナとクラスが抱きついていた。

「ただいま、レサーナ」

 久しぶりに聴く父の声。

「お帰りなさい」

 お母さんも1人の女性だからな。

 抱きつくという愛情表現に対して俺は、微笑ましく思いながら観るのだった。




 右側から、フック系の打ち込みが飛んでくる。右足をずらして躱し、鳩尾を狙ってきた蹴りを右前腕で防ぐが蹴り飛ばされた。

 クロスドラゴンスケイルレザーアーマー。

 ニューブレイブが衝撃を吸収する。

 深呼吸。これ以上は手を抜けない、少し本気でいくかな。

 ストレート系のパンチを前腕で流す。ジャブ系のパンチを総て、弾く。

 防具の性能のお陰で痛みは一切無い。


 何度も殴られるとふと痛みを感じなくなると言ったやつ。

 鍛えれば痛みが薄れていくとか言ったやつもいた。

 

 確かにそうかもしれない。

 体を入れて躱す。ベルフの背後を取る、ベルフの肩を見る。

 余裕の反応。前方へ跳び、俺に向き直る。

 ベルフの背後を取ることに失敗した。

 最高の戦い方とは、誰も傷つかない。それが最高の戦い方だ。

 距離を詰めてくる。

 拳が目先に迫っていた。左手を右から左へ流しながら、ベルフの右手首を掴む。

 直ぐに手首を返され、逃げられた。軽く後ろに跳び後退。

 簡単に掴めても。技までは行けないか……。

 前蹴りがくると思い、両前腕を体の前で交差させる。

 ズシッと蹴りが交差した腕にクリーンヒット。

 衝撃が波となり、周囲に拡散する。かすかに巻き上げられた砂が、赤いオレンジ色に染まり煌めく。

 

 激しいエフェクトのように砂が舞うが、ニューブレイブが受け止め切れなかった衝撃を吸収してくれた。

 攻撃は防ぐだけでは駄目だ。

 受け止める力、躱す力、流す力、弾く力。

 単に筋力があれば言い訳ではない、体を理解する力が重要。

 力を抜く。

 技と技の駆け引き。

 本当に。

 戦いってのは――。

 腕を前に、

 ただ、前に打ち込む。

 鳩尾へ左拳が吸い込まれ、今までになかった柔らかい感触を感じる。

 わすかに悶える、ベルフの表情を見るまでもなく会心の一撃と気づく。

 

 終わりがないな。


 拳を解く、両掌を広げる。

 足を下から振り上げてきた蹴り、左に跳び躱す。

 蹴りの風圧で砂埃が発生。

 ベルフの足刀蹴りには、体を入れて躱した。

 右腕の突きに左前腕を合わせ流す。

 右手を掴めれ、左から足払い。足を払われた。

 体が宙に浮く。復帰は不可能と判断し、受身を取った。

 途中から本気を出したのだが、敗れてしまった。

 今日は精暦1709年、7月15日。夏休み初日だ。

「ありがとうございました。ベルフさん」

「結構。強いじゃないか」

 会釈。

「お父さん、お疲れ様です。はい、タオル」

 ミファーネは、白いタオルをベルフに手渡す。

 その後、俺にもタオルを渡してくれた。

 風が吹き、俺達の髪を少しだけ乱す。

 ベルフは、何か用事があるらしく家の中へと入った。

 二人きりになる。

 思い返せば、今までの人生。楽しかった気もした、右へ顔を向けると横顔が目に入る。

 可愛さにうっとり、いや。ドキドキしてしまった。

「ところで、レキスくんはなぜ、強くなりたいんですか?」

 訊ねられても、結構答えるのが難しい質問。


「理由は……。守りたいから」

「何を守りたいんですか?」

「愛した人を家族を親友、自分を守りたい。誰も失いたくない、だから守りきる。強さが欲しい」

「偉大な夢ですね。それなら走りませんか?」

「走ろう」

 不意に動きを止め、踵を返される。

「『努力は体が記録している』」

 懐かしい名言だ。

「ライモスタ大魔導師の言葉」

「はい!」

 ミファーネは地面を蹴り走り始める。

「大人になったら(彼女になってください。いつか、結婚……)」

 欲張りすぎかな。

 でも。

「えっ、レキスくん。大人になったらの続き、なにか言いませんでしたか?」

「強くなりたいって……」

「そうですか」


 地面を蹴り早歩き。そこから走り出す。ミファーネと並んで走る。

 体に当たる風が心地よい。

 強くなって普通の人生を送ろう。

 強くなるのは生き残るため。


 ふと気づく、右手の拳に太陽のように暖かく、優しさのあるオレンジ色の輝き。

 右手をさらに強く握り締めると、光が飛散した。

 魔力の残滓を頭で浮かべ、この世界について思いを馳せる。

 魔法がある、どこかに存在している惑星。

 そして、異世界転生。

 夢物語だからこそ、夢を抱き、憧れた。


 本当は、もう解かっている。

 普通の人生を最高の人生と思えることが最高の人生を送る方法なのではないかと――。

 流れていく景色。立ち止まれないからこそ、最高で普通の進み方を選ばないとな。

 目先を走るミファーネを目から零れ落ちないように確りと捉える。

 風を受けながら心に刻んでいく。

 

 そう、俺は強くなると心に決めた。

 普通で最上の人生のために。

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