第37話 危急存亡の秋
数10分前まで静寂だった空間に打撃音を撒き散らす。
「レキス、ミファーネ行きますよ」
ライツ区へ向け走り出す。
後方で、戦いが繰り広げられている。体を締め付けるような感覚。
そんな、感じ方をしていた。
「はっ、は。喋り方がいつもと少し違いませんか?」
「命令を手短に正確に届ける。ですから」
昼間のように明るい幻影杉街道を走る。
100メートルの距離を明らかに4秒程度で走っている。
「良し、予定より早く到着です」
地面に魔法円が刻印。
行き成り、レサーナが出現した。
「発動!」
ロロックス区の方向を観る。
瞬時に轟音と火柱。
火柱などと言う生易しいものでは無かった、火炎の大山だ。
轟音が大気を振るわせ続ける。
鼻で空気を吸い込むと、鼻腔の中が暑くなった。
これは、爆裂巻物と連鎖反応を利用し起爆させた爆裂希石。
「直撃したと思うけど……」
「転送魔法」
俺の魔法鞄が薄白く光る。レサーナの右手に円形の盾、オリハルコン製の盾が出現。
左腕に装備しながら口を開く。
「私から離れてください」
俺を含め3人で頷く。
「教えてくれませんか……その」
レサーナが何者かに吹き飛ばされる。
「お母さん!!」
「レキスくん、今は私情を捨てる。あーもう! こっちにきます」
2人が地面を蹴って離れた瞬間。
レサーナが俺にぶつかり、副次的に飛ばされた。
馬車広場の建物に激突。
「痛……くない」
木片を体から退ける。
レサーナが目の前で起き上がった瞬間に俺は、ホワイトゴブリンの体を目で捉えた。
レサーナが装備した盾に、ホワイトゴブリンの拳が激突。
盾が悲鳴を上げる。ホワイトゴブリンが拳を打ち付ける速さはかなりのものだ。
1秒間に4回打撃音。徒手でも強い。
ホワイトゴブリンの拳が盾に打ち付けられる。
魔力が飛び散る、打ちつけ時の音に変化を感じる。
押し込むような打撃音に変わった瞬間、盾が凹み始めた。
会心の一撃。
目の前でオリハルコン製の盾が砕け散った。
「オリハルコンが砕けるだと……」
「魔力浸透突き……」
腕から壊れた盾を外し、左腰のサーベルを抜刀。
この世界、剣を抜くことに対して2つの言い方がある。
両刃は抜剣。片刃やそれに近いものは総て抜刀。
ホワイトゴブリンも抜剣。
最初から、魔力浸透を使用してきた。
空気が切り裂かれ、衝撃波。
ホワイトゴブリンが体の力を抜き、瞬時に振り下ろす。
薙ぎ払い、剣を戻しながら右から左に薙ぎ払った。
魔力の集合体が空気を切り裂く。
気づいた時には家が崩れていた。
「ゴホッ、ゴハッ」
埃やら塵が舞い上がる。
『くそー。目が痒い……』
「風操作」
的確にレサーナが邪魔なものを、風属性魔法で吹き飛ばしてくれた。
「腹立たしいですね。外で暢気に待ってくれるとは……」
ホワイトゴブリンは外で右手に剣を保持し静止いていた。
「ウィンド」
家が飛ばされる。
「喜べ。女神が喜ばれている」
「はて?」
首を少し右に傾けた。
「女神?」
「戦いで死ぬなら解かるけど、自分が発動した魔法では死にたく無いわね。ごめんなさい」
「……どういうことですか?」
「超魔神気!」
意識が途切れかける。
その瞬間、誰かに体を支えられた気がした。
「レキスくん。レキスくん、大丈夫?」
体を揺さ振られる。気分が悪いのに揺さ振られたことで更に悪くなった。
「余り体を、揺さ振らないで貰えますか……」
「ごめんなさい」
いつの間にか、オリハルコン製の盾と魔法鞄が外されていた。
首を右に傾ける。
右にファリルさんとミファーネちゃんが膝を地面について座っていた。
「はい、マジックポーション。以外に甘いんだよ」
あのレシピ通りに作られている場合、甘くなるとは思えないのだが渡された小瓶を受け取る。
光沢感のある若竹色の小瓶に入った液体。
少し色に対して抵抗感があったが小瓶の栓を抜き、口に近づけ飲む。
「甘い……。桃みたいな味がする」
「桃エキスが入っているからね」
「お母さんは……」
幻影杉街道の方をチラッと見たファリルさんが口を開く。
「ロロックス区で戦っているよ。今はどうだろう……」
「あの、今。何時ですか?」
一呼吸置いて、口を開く。
「レキスくんが気を失って10時間、朝の5時だよ」
天井を見ると冒険者ギルドの看板が見えた。
ここは冒険者ギルドの中か……。
「行かないと」
体を起こす。
「どこに行くつもり? レキスくん」
ファリルに止められる。
「死ぬことは無いんですから。行かせてください」
「……あの。レキスくん、体を見てください」
ミファーネから体を見ろと言われたので見る。
体から橙色が消失していた。
「そんな。今、普通の状態……」
「一旦。休憩して、レサーナさんを援護しに行きますよ。まずは朝ご飯です」
玉子焼きと白ご飯が四角い箱の中にあった。朝ご飯を食べ終わり、手を合わせる。
「「『ごちそうさまでした』」」
「それじゃ、『防具記述魔法文』を使いますよ」
挙手。
「すいません。お手洗いに行ってきても良いですか?」
「ちゃんと、手も洗うんだよ」
鏡を見る。茄子紺色の髪と少年を鏡が映す。
「やるしかない。負けることは出来ない、良し!」
冬場の冷たい水で良く冷えた両手を顔に合わせる。
「冷た!!」
気を引き締め、お手洗いを出た。
「遅かったね」
「行きましょう」
「まず、体に手を当て。『発動』と唱えてください」
クロスドラゴンスケイルレザーアーマーに右手で左腕に触れる。
「発動」
防具が橙色の膜に覆われる。
「発動」
ミファーネの体を生成り色に覆った。
「発動」
ファリルの体が漆黒の赤色に変化した。
「来ます」
「誰が来るんですか?」
屋根が砕け、2つの魔力が振ってきた。
「ファリル。交代!」
「はい、レサーナさん」
ファリルが地面に置いていた魔法鞄をレサーナに蹴り渡す。
魔法発動鞄をレサーナが掴み取る。
「『転送魔法円』刻印『転送魔法』発動」
行き成り現れ、瞬時に消えた。
「行きますか」
ファリルの姿が消えた。
風を感じた瞬間に左右の壁が砕け散った。
「サーベルを抜いて!」
声が聞こえた瞬間に、風で体を吹き飛ばされる。
残っていた壁に軽く体をぶつけた。
体勢を整え、抜刀。
サーベルがいまだに作用していた、永遠なる広域光を軽く反射する。
「ミファーネちゃん。一旦、外に出ましょう」
頷いてくれたので了解と俺は受け取った。
2人で今に倒壊しそうな、冒険者ギルドの外に出る。
上空を見上げると、薄暗く。太陽はまだ昇っていなかった。
冒険者ギルドの建物が完全に倒壊した。更に被害は拡大していき、俺達から見える部分の建物は総て倒壊の被害にあっていた。
「賠償どうするんだよ……」
「凄い……」
『良い子は真似するな、世界が滅ぶ。俺は何を考えているんだか、俺は20代までは死なない筈だから安心だ』
「あれ?」
「どうかしました?」
「何でも……」
『待てよ。20代前で死ぬことも、あるんじゃないか……20代までしか生きられないとしか言われていない。その20代の部分は若しかしたら、20代前に死ぬ可能性もあるように思うのだが……』
目の前で建物を破壊しながら、戦うホワイトゴブリンとファリル。
これは既に人の戦いとは思えない。
人が飛んできた。
「お母さん!」
ファリルがミファーネに激突して止まる。
力を消すことが出来ず、煉瓦を削りながら後退する。
ファリルを抱えたミファーネが数メートル後退し完全に停止した。
「こっちに来い!」
ホワイトゴブリンが、目の前に君臨。
ホワイトゴブリンを挑発。
「魔力が暴れだす俺は、並じゃないと思うんだよ」自分でも何を考えてそのような発言してしまったのか訳が、解からなくなる。
ホワイトゴブリンが安い挑発に乗ってくれた。
迫る、敵は徒手。
前蹴りを入り身で躱し、背後から右フック。
頭部にヒット。
「魔力逆流し」
ホワイトゴブリンの右手が体に添えられていた。
何故か動けない。体の自由が奪われたみたいに動かない。
体の力が抜けていく、急に訪れた倦怠感。
体に力が入らなくなった。
「氷弾」
ゴブリンに手を放され、膝を突く。
見上げるとホワイトゴブリンが氷を左手で掴んでいた。
「氷弾、氷弾、氷弾。氷弾、氷弾、氷弾」
氷が素手で砕かれていく。
俺には、ただミファーネが遊ばれているだけにしか見えなかった。
『何で、何で……。何で俺は弱い、今までの修行は何だ! 武術に嵌ったのは何故だ。強くなれると思ったから、いつか、守る者の為に勉強した努力したのに……。何で俺自身が答えてくれない、くそが!』
何故、俺は魔法や魔法術を使わなくなった……。
何故、今まで中級の魔法が発動出来なかった……。
答えは簡単だ。
「火矢連弩!」
魔力暴走ただひとつ。
俺の魔力制御を邪魔する存在。
戦いに生きるなんてしたくなかったが、それが甘かった。
理論的にも俺の寿命が減ることは解かっている、それでも戦えるか。
「石弾」
命を掛けることが出来るのか?
親より先に死ぬつもりは無いが、死に急がせて貰う。
「火炎」
起き上がりながら魔法術発動手を火炎に突っ込む。
縮地でホワイトゴブリンに迫り、瞬時に静止。力を抜き打ち抜くように打ち込んだ。
数10メートル吹き飛ぶ。
腕全体に痺れが走る。ホワイトゴブリンの後を追う。
体を見ると橙色では無く、象牙色になっていた。
『魔力流気の外気か……』
ホワイトゴブリンを追いかける。
火矢が飛翔してきたが、体を右に入れ躱す。
「……暇では無いのだが」
目の前いるホワイトゴブリンを蹴り飛ばす。
係留場を破壊してしまう。
「水弾」
牽制で行ったものが直撃した。
「火炎柵」
3本セットの先端が鋭利な柵に顎を突かれ、後ろに仰け反る。
ホワイトゴブリンが体を起こし体勢を整えた。
「手加減はこの辺りで終わりにする。魔力操作、魔力加圧」
ホワイトゴブリンがこれまでにない流暢な日本語では無く、王国語で話した。
体が持ち上げられた。
体が空間に浮いてやがる……。
動けない。
「レサーナを片付けたら。帰還するか……賢者協議の組み換え作業もあるからな」
『お前、まともに喋れたのかよ!』
ホワイトゴブリンが俺に左手を合わせる。
軽く引き、力を解放し俺に打ち突けた。
空を飛んでいくような感覚に襲われる。
強い重力を感じながら、俺は意識を失った。
空を見ていた。寝転がって見ていた明るい空。
雲がゆっくりと移動していた。
草木が風に揺らされ、音を立てる。心地よい景色に癒されていたら、不意に体全体に痛みが走った。
「痛っ……。どこだここ」
起き上がり左右を見渡す、辺り一面地面が陥没していた。建物が一棟も存在していなかった。
木が薙ぎ倒され、森ですらなかった。台風、というより暴風が通り過ぎた後のようだ。
そばの地面に刺さ刺さっていたブロードソードみたいなのを引き抜き持ってみると以外に軽く感じる。
人が居ないこの光景は、見れば見るほど不気味に思えた。
「レキス……。動かないで、魔力を抑えて」
背後からレサーナの声が聞こえて少し驚く。
「あのファリルさんとミファーネちゃんは?」
「ファリルは全治5ヶ月。ミファーネちゃんは全治3ヶ月です」
「そんな、一体何が起こったんだ……。時間は?」
「昼の1時32分」
また、長時間気絶してしまっていたのか。
「これを飲んでください」
マジックポーションが入った小瓶を渡された。
レサーナの手に多数の切り傷があり驚愕する。
「お母さん……そんな傷。最後に冒険者ギルドで見た時には無かった筈……」
ファリルとミファーネを守れなかったことを追求しなくて良かった。
『お母さんも命がけだった筈、ホワイトゴブリンに有効打さえ与えることが出来ない俺は一体……』
「危急存亡の秋」
レサーナが小声で呟く。
俺にはちゃんと聞こえた。
「生き残るか、滅びるかの瀬戸際。ゲームで言えばラスボスとの戦い」
「レキス?」
レサーナに訊ねられた気がした。
「本当の本気で戦いませんか? 寿命を気にして、負ければ本末転倒ですよ」
「寿命も重要なことだと思うけど……」
「今は、やるしかないんですよ。力をください」
「そうね」
右肩に手を添えられた。
マジックポーションを飲む。
体から痛みが消える。
「我が力を変換し、自己強化魔法。『魔力加圧』『流速』『堅化』第10。『癸』我と彼の者に作用せよ」
気配を感じるまでも無く、目の前にホワイトゴブリンが現れた。
転送魔法。
「これで最後だ。リーハー」
臙脂色に染まる。
『リーハーは自己強化魔法みたいなものか……』
簡単に考えれば頭の中がすっきりした、今まで色々と考え過ぎていた。
「奪われないでよ。白いゴブリンから、奪うの苦労したんだから」
「最終決戦ってところですか」
「はー。始めましょうか」
深呼吸をしたレサーナが白いゴブリンに斬りかかる。
前蹴りで牽制。直ぐに薙ぎ払い、剣が消える。
白いゴブリンの腕を斬りつける、音が12回聞きえた。
間髪を容れず、14回の打撃音。
レサーナの前蹴り、風圧で地面が抉れる。
斬りつけているのに打撃音しかしない。
ある意味異様な戦いだ。
一度の音で、今は二撃三撃。当たっているように思える。
雲泥の差。
レサーナと俺には若しかしたら比べることすら出来ない差があるのかもしれない。
剣の周りが暴風域と化す、剣を振られる度に砂が巻き上がり地面が抉れる。
白いゴブリンの右腕が中を舞った。
「ヌガー!!」
「リーハー。『2乗』!」
白いゴブリンの姿が消える。
瞬く間にレサーナが地面に膝をついていた。
斬られた右腕から血は出ていない、白いゴブリンが自分の右腕を拾い上げ口を開く。
「堅壁」
レサーナから8メートルほど離れて、頑丈そうな壁の中にホワイトゴブリンが消えた。
壁は四方を覆っているので、攻撃を加えることが出来ない。
レサーナを見にいくと、呼吸をしていた。
「大丈夫ですか?」
レサーナが右手に保持していた、ブロードソードを易しく地面に置く。
「今は、声を掛けないで貰える……」
レサーナと白いゴブリンが隠れた壁を交互に見る。
「殺菌」
「細胞確認」
「構築変換」
「組成修正」
「再構築」
「治療」
数分後、壁が消える。
「復元完了」
多分だが人生、終わった。
そんなことを思ったら、何故か腹立たしくなってきた。
ファリルやミファーネ、レサーナを傷つけたこいつを俺には許すことが出来ない。
レサーナの前に立ち、ブロードソードを右手に保持。
垂直にし、左に少しだけ傾ける。
「死ぬ気でやれるだけ。やるしかないな」
深呼吸、大型車の排ガスや大気汚染物質がない為か空気を美味しく感じた。
白いゴブリンが動いたと思った時には、目先。
剣で防いだ筈だった。
ストレート系のパンチと前蹴りを食らう。
痛みは軽い。
躱そうと考えた瞬間に数打。
斬ろうとした瞬間に数打。
殴りつけられる度に衝撃を感じる。
数秒間に7回の斬撃を加えても、総て防がれた。
「レキス。3分間だけで良いから耐えて!」
会話なんて出来ない、話を聞くだけで精一杯だ。
左上腕に重い一撃。
殴りつけられる度に、空気が震える。
「うおー!!!」
薙ぎ払い、入り身を利用した突き。躱され背後に回られる。
「上空水蒸気」
体を振り向かせながら、右からの薙ぎ払い。ホワイトゴブリンの左前腕を掠った。
赤黒い血液が数摘、空中を舞う。
「上昇気流」
殴られる度に痛みが増しているような気がした。
剣を振る度に体が痛み、手が痺れる。
「『雲』連結強化魔法『積雲』」
打撃の痛みを直接、感じるようになった。
剣を振る、ただそれだけ。
「『積乱雲』連結強化魔法術『電荷加速』」
上空の大気が、瞬く間に薄暗くなった。
「『稲妻』!」
閃光と雷鳴。轟音が鼓膜を振動させる。
レサーナに稲妻が落ちた。
「形状変化。『雷撃弓』形状固定!」
意識を稲妻とレサーナに向けた瞬間。
鳩尾に拳がめり込んだ。
抉られるような痛みに意識を失いかける。
右肩に衝撃を感じた瞬間。体が浮き上がる、そこで目蓋を閉じてしまった。




