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第36話 法的に危険な防具

「レキス。起きなさい、防具仕立て屋へ行きますよ」

「その手を退けろ! ウェザー!!」

 レキスが(うつぶ)せのまま、寝言を呟き右腕を振り上げる。

 それにより彼が起きた。

「あ、あれ? お母さん……。おはようございます」

 ベッドから降りて直ぐ、レキスが準備運動を始めた。

「顔、洗ってきたら」

 レキスが足の関節を確かめるように伸ばす、曲げる。

「……早くしてくれる」

 レサーナが、怒り気味に声を発した。

「え~と、今。何時ですか……」

「朝の9時15分よ!」

「あー、ごめんなさい」

 レキスが、足早に部屋を出ていった。



【防具仕立て屋ウォールナット】

 外套(がいとう)の下に群青色(ぐんじょういろ)

 そのセーラー服を着た数人が寒さをものともせず。はしゃぎながら通り過ぎる。

 この世界ではありきたりな、亜麻色の髪。サンツ区にある、アスリット王国高等学校の生徒達だ。

 防具仕立て屋ウォールナットのガラス製ショーウインドー。

 女性体型のマネキン人形に、空色のシャツ。その上に珊瑚色のカーディガンと紺色のパンツ。

 その左隣に小麦色のワンピ-スを着せられていたマネキン人形。


 店の中で、4人が男性店長と女性店員。

 合計6人で話をしていた。

「4人分を防具完成しました。まずは、レサーナさんが装備する防具から」

 スラッとした、20代後半の男性店長が店の中で唯一のマネキン人形を覆っていた白色の布を取る。

「アダマンタイト製の肩当てと胸当て、北魔境で採掘されたウイスグレイ鉱石を精錬し加工し。

 製造されたウイスグレイ合金の籠手(こて)。ウォールナット、ディアナシリーズ1セット。

 シリーズ性能は最高位の超」

 肩当てと胸当ては勝色(かちいろ)。籠手だけ、褐色(かっしょく)

「ディアナ、マルス、ミネルウァ。ケレスの最高等級に位置するディアナをウォールナット工房。

 最高位、鍛冶(たんや)さんが製作したウォールナット至上最高傑作だ!」

「例えるなら。私1人でガットン王国を落とすことも出来る代物……」

(本当に行いそうで怖い……)

「……その、テーブルの上に装備があるんですか」

 レキスが声を発した。

 女性店員が、テーブルまで無言で歩き。大きなテーブルの上に掛けられた白い布を取り払った。

 装備の輪郭が歪んでいた。

 クロスアーマーが2セット。他に、脛当てと肩当て、籠手。

 クロスアーマーの(えり)に鱗状の物体が、縫い付けられていた。

「ドラゴン系素材は魔力定着率が高い水準で。魔法文記述(まほうぶんきじゅつ)も行いやすい。

 特に、記述した魔法の性能を考えると。王国を落とすことなどあながち無理な話ではない。

 話を戻すが、ドラゴン系の素材を申告しないで所持した場合。

 王国に見つかれば、社会奉仕活動を10年はやらされる筈だ……」

(社会奉仕活動?)

「それなら、ファリルが1番。詳しいでしょ」

「レサーナさん……確かにそうだけど。社会奉仕活動は軽度の犯罪者や王国に軽い損害を与えた人物に科せられる。罰則の中で1番易しい罰則で、主に王国内の清掃。王国内の見回りなど、だよ」

(何か、やらかしたのかな。ファリルさん?)

「ドラゴンの鱗と皮、神経を使用しています。伸縮性、耐久性は北魔境での活動を視野に入れた。

 新時代のクロスレザーアーマーとの意味を込めて。ニューブレイブと名付けた」

「ニューブレイブ。新しい、勇敢ですか……」

(クロスレザーアーマーと、全然関係がなさそうな名前だな)

「その通りだ……。レキス、だがよく解かったな?」

「あと、クロスアーマーの中に隠匿(いんとく)したドラゴンの鱗をドラゴンの神経を使用して編みこみ。

 ドラゴンの皮を贅沢にもワックスで煮込み固め重要な関節。両肘、両肩、両膝に当てた。

 この名品は、普段着と変わらない可動性を。圧倒的な防御力と同時に快適性を両立しているのだ」

 男性店長の力説が終わった瞬間に間髪(かんはつ)()れず、レサーナがマネキン人形に近づく。

「今からこの防具を装備するから。更衣室、貸して貰えるかしら?」

「女性は右側。男性は左側でお願いします」

「えっ? ちょっと。俺、防具の装備の仕方なんて知りませよ!」

「スフィアさんから、装備の()け方を教えて貰いなさい」

 レサ-ナが2人を引き連れ、更衣室と壁に掛けられた部屋の扉を開き。

 更衣室の中へと消えた。

(スフィアさんて。若しかして……)

「レキス、装備の着け方を教えるから。一緒に行くぞ」

(俺のドキドキを返しやがれ!!)

 



 全体的に代赭色(たいしゃいろ)のクロスドラゴンスケイルレザーアーマー。

 装備後に会計を済ませ。

 正式名は“クロスドラゴンスケイルレザーアーマー”ですと店の中で女性店員に小声で呟かれていた。

 4人が防具を装備したまま、家に帰り。

 剣術の練習をして、昼ご飯。今日は特別にレキスも加えての光属性精神力魔法。

 障外壁の発動をし、晩ご飯を食べた後に永続灯火の下。

 レサーナに対してミファーネが、剣を振るった。

 外は既に夜の闇に染められていた。

 台所で4人、会話中。

「6200万セイル。6200万セイル、6200万……」

「レキス。いつまでも、五月蝿(うるさ)い!」

「……6200万……。合計7452万5千セイル……」

「いい加減に……。『転送魔法円』刻印」

 レサーナの体の下から、淡く白い光が空間に広がる。

「直ぐ戻るから。『転送魔法』発動」

 レサーナの姿が瞬時に消えた。

「転送魔法って便利だな……」

 レサーナが居なくなって直ぐ。

 レキスが魔法のことを愚痴る。

「転送魔法を発動する為には、刻印魔法(こくいんまほう)がまず使えないと。夢のまた夢なんだな」

 レキスが、急に元気になり。ファリルの元へ駆け寄る。

才色兼備(さいしょくけんび)のレサーナさんだからこそ成し得ることが出来たと私は思うんだけど」

「才色兼備は余り関係ないと思います。出来れば、刻印魔法について教えてくれませんか?」

「え~。勝手に魔法を教えるなって、言われているんだけどな……」

 早いツッコミだねと、ファリルさんから小声で呟かれたような気がした。

「レサーナさんには、秘密だからね。ミファもこっちにおいで」

「えっ、良いんですか」

「最初は原理について教えるよ。刻印魔法は、魔力を空間に(きざ)む魔法で。結構難しい魔力制御が必要」

「魔力には色が無い筈。どうやって色を付けているんですか?」

「レキスくん。痛いところを質問してくるね、性格には魔力可視化魔法も同時に発動しているんだよ」




 所代わり。

 レサーナが地面に伏せていた。

煉獄火(パーガトリファイア)

 左に飛び退き、当たれば終わりの魔法術を躱す。

火弾(ファイアブリッド)

(速い!)

「水壁」

「バシュッ」

 非常に温度の高い熱が、水壁で消えた。

 煉瓦が破砕する音と、あたり一面に煉瓦の破片を巻き上げながら進んでくるホワイトゴブリン。

 レサーナが、最近片時も話さず。左腰に帯剣したサーベルを抜剣(ばっけん)

「はっ!」

 灯火が剣を煌かせる。

 持ち上げながら鞘から引き抜いたサーベルを振り上げ、地面へ瞬時に振り下ろす。

 ホワイトゴブリンの姿が、掻き消える。

 レサーナが振り向きながら、剣も一緒に動かし大きく薙ぎ払い。

「ジコキョウカ、マホウ。第3等級『(ひのえ)』発動」

 剣の軌道上から既に消えた、ホワイトゴブリンはレサーナの背後。

 サーベルが空気を切り裂く。

 2人が同時に地面を利き足で蹴って後退し、躱す。

「カカカ、リーハー」

「意味不明な言語を!」

「爆裂巻物『発動』。防具記述魔法『発動』!」

 地面に転がった巻物が発光。次の瞬間魔力が一瞬で圧縮膨張され、ロロックス区の煉瓦道が、爆ぜる。

 数棟の家が、爆風で崩壊した。

 砂埃が収まった瞬間、レサーナとホワイトゴブリン。

 対峙。

 レサーナの体は、ミファーネの髪より光沢度が増したような勿忘草色(わすれなぐさいろ)に覆われていた。

 ホワイトゴブリンの体は、燃えるような色。臙脂(えんじ)色でレサーナと対比するかのようだった。

「まさか、そんな。ロロックス区に生きている人が居ない……」

 レサーナが数秒、意識を静めて集中。

「何で……。そんなに人を憎むの?」

「糧だ!」

「『転送魔法円』刻印。『転送魔法』発動!」

 レサーナが消える。

 ホワイトゴブリンが跳躍。空中で静止した。

土崩瓦解(どほうがかい)

 数千棟の建物がある。ロロックス区をすっぽりと覆う土岩がロロックス区へと勢い良く落下。

 その衝撃は、数分後。

 レサーナの家にも伝わった。



 棚から落下した食器を片付けるレサーナ。レキス、ファリル、ミファーネ。

「凄い衝撃が、行き成りだったからびっくりしました。若しかしてお母さん何か知っていませんか?」

「ルリラスちゃん。良く、眠っていられますね」

「レキスくん。本当にそうだよ、ルリラスは一度寝たら簡単には起きないんだから」

 ファリルが自分の次女について話した。

「(…………勝てないかも)」

「えっ、聞こえませよ」

「(どうしたら……)」

「レサーナさん。そんな小さな声では聞こえないよ」

「ファリル、レキス。ミファーネちゃんもう止めない……」

 数秒間、全員が押し黙る。

「何を、止めるんですか?」

 直ぐに察したレキスとファリルが、ミファーネの容赦ない質問に顔を引きつらせた。

「勝てるか、解からない。少しでも勝てるかもって思った自分が恥ずかしい」

 丸いお皿をテーブルに易しく載せながら声を震わせながら、レサーナが発した。

「勝てると思ったんですよね」

 レキスとファリルが息を呑む。

「人が立ち入って良い。領域では無かった、総て私の甘さが招いたことです」

 深呼吸をしたレサーナが口を開く。

「本当に、ごめんなさい」

「訊いても良いですか?」

「何、ミファーネちゃん……」

「あの。ホワイトゴブリンの件だと思いますけど、私達が戦わなくても誰か倒してくれますか?」

「それは、可能性とし……。存在しません……」

「私達が、それを行わなけれっ!」

 レサーナがミファーネの口元を左手で押さえた。

「ごめんなさい。私が、弱気になってはいけませんでした。

 行きましょう、これ以上。犠牲者を出さない為に」

「『小規模転送魔法』刻印」

「近くに来てください」

 魔法円には大きな六芒星(ろくぼうせい)と古代精霊語、それらを覆うように大きな円が展開された。

「『小規模転送魔法』発動」




「防具仕立て屋なのに、普通の服も製作してるんだよな……」

『うん?』

 これ体験したことがあるぞ……。

「あれ?」

 ファリルさんが驚く。

「えっ。何で、朝?」

 ミファーネちゃんも驚愕。

「これは、一体……」

 目先にガラス製のショ-ウインドー。

 2体のマネキン人形に春物の服が着せられていた。

「若しかして。時間が何かの影響で戻ったとか……」

「これは、次元逆転転送魔法……。この状況から考えるに、精神体のみ転送されたと考えるのが良いと思うけど一体。誰が……」

「そうなると、次元逆転精神転送かしら……考えれる時間が、もったい無い。

 早く防具を装備して向かいます」

 店の中に押しかけ、大慌てで装備し、家へ小規模転送魔法使用して帰宅。

 ファリルさんとミファーネちゃんを、ロロックス区へ転送魔法円で送り届け。

 現在。レサーナと俺はライツ区の冒険者ギルドに2人でいた。

 受付窓口で、用件を伝える。

 余り危機感の無い、冒険者ギルド女性職員に対してレサーナが発する声の音量を上げ始めた。

「ホワイトゴブリンは北魔境ではありません。女神級、だからライツ区。いいえ、フォスターマウント村全域に避難警戒令を今直ぐ出してください!」

「ロロックス区全域に避難命令を発令しました。それで十分かと思いますが、女神級とは?」

「早く。682号の箱に入った書類を持ってきなさい!」

「はい!」

 気迫に押された女性職員が、奥へと消えた。




「女神級。紀元前18万6千年ごろ、精霊慧(せいれいけい)暦120093年から120062年。

 カンフェンシブ神教と言われ、信仰の的であった。女神と神がこの世界を我が物とする為に起こった。

 戦いで新しく新設された階級である。クレアス王国級、レガコートル王国級。

 ラナカトーサ王国級、北魔境級、女神級。最終的に、滅亡級とあるなかの最後から2番目。

 女神級が魔法術を発動した場合、ひとつの王国や大陸が消失するものと心得るべし。

【依頼許可冒険者階級。上級の最上位――超級冒険者】」

 これは、言葉が出ない。

 後ろを振り返って見る。

 女性職員が大声で言うものだから、冒険者ギルドから冒険者達の姿が消えていた。

「フォスターマウント全域に避難命令を発令します」

 席を立ち、男性職員に駆け寄り話を始めた。

「ありがとう……」

「『転送魔法円』刻印。『転送魔法』発動」

 絶対生き残ると俺は、心に強く。刻んだ。

 


 数時間前に薄橙色の太陽が、(しず)んだ。その色で、レリス。レシアーカレリスのことを思い出す。

 普通の灯火に照らされた俺達は、地面に罠を仕掛け。装備の最終確認をしていた。

 魔法鞄はレサーナから借りたものを使用している。

 魔法鞄を使用する為の確約魔法は、最初に確約した人が範囲拡大と言えば。新しく確約魔法を使用出来ると2週間前に知った。

 俺とミファーネが魔法鞄を所持している。

 右手の人差し指にアルフレッドリングを嵌め、左腰にヒヒイロカネ合金製サーベル。

 右太腿(みぎふともも)に投げないナイフ。体に代赭色(たいしゃいろ)のクロスドラゴンスケイルレザーアーマー上下。左腕にオリハルコン製の円盾、左肩から袈裟懸けで鞄を掛けている。

 ロロックス区には、俺達しか居ない。

 全区民の避難は総て完了していた。

「防具に手を当てて『発動』と唱えると、記述された魔法が発動するわ」

「解かりました」

「倒しましょう。レサーナさん、ファリルお母さん。レキスくん」

「『永遠なる広域光(こういきこう)』」

 辺り一面から闇が消える。光の拡大はなおも止まらず……。

 見える総ての範囲に明かりが灯った。

「それでは、練習通りに斉唱しますよ。合図は『行きます』ね」

「行きます」

「「「『我等の魔力を変換し自己強化魔法『流速(りゅうそく)』『堅化(けんか)』最上等級。『(みずのと)』我等と彼の者に作用せよ』」」」

 魔力が可視化され体の周りで渦巻く。

 暫くして体に定着した。膜みたいに体を覆う。

 レサーナは黄色。ファリルは漆黒の赤色。ミファーネは生成り色。俺は橙色だった。

「ミファーネちゃん……来ます! 戦闘準備」

「はい」

 ミファーネちゃんの生成り色は、超魔と同じ色。

 超魔について俺が知っていることは『超魔』使用時は魔力の大幅な増加。

 反応反射速度の強化、人体耐久力の強化。魔法構築力の行いやすさ。魔力の可視化や魔力制御能力強化などがあると、レサーナから教えて貰っていた。

 更にそれを強化したものが、超魔神気(ちょうましんき)

 魔力流気の重ね掛け。

 剛気、堅気、神気。それらの外気を重ね掛け出来る。

 研究すらされていないので、超魔神気の更に先は解からない。

「ゴッチェス、ケット」

「オガ」

「オンガ」

 3体のゴブリンが歩きながら近づいてくる。

 先頭いるのが白いゴブリン、ホワイトゴブリン。

 右に茜色のゴブリン、アカゴブリン。

 ホワイトゴブリンの左に勝色のゴブリン、ブラックゴブリンだ。

「右レキス。左ファリルとミファーネ、目の前は私が担当します」

「我が力を変換し発動せよ」

巨大氷塊(きょだいひょうかい)!」

 ファリルが聞いたこともない氷属性現象魔法術を発動。

 体の力を抜き、入り身。体の感覚を誤り、急激な加速。目の前にアカゴブリンに迫っていたので勢いを利用して盾をぶつける。

 不本意ながら、戦いが始まった。

 アカゴブリンが激しく吹き飛び。地面を数回、撥ねる。

 最後、木に激突。

『動かない。痛みを感じない筈はないが……俺TUEEEてか……』

 俺は少し同情を覚えた。

 左を見ると、ブラックゴブリンが巨大な氷に閉じ込められていた。

 ご愁傷様。

「屑が! リーハー!」

 ホワイトゴブリンの臙脂色(えんじいろ)が怒りを物語っているように思えた。

 レサーナの姿とホワイトゴブリンが消える。

 木を砕く音、薙ぎ倒す音が耳に届く。

 巨大な氷の塊が行き成り、砕けた。

 氷片が飛び散る。

巨石弾(きょせきだん)

円盾(ラウンドシールド)

 左側で叩きつける音と共に魔力が拡散していく。

 上空を見上げなければ夜だと、気づかないだろう。

 この戦いに勝つしか生きる道は……。

 生き残る道は存在しない。

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