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第32話 鰤の煮付けには大根が入っていました

 いつも通りにベッドから降りる。

 床に降りたち両腕を天井に向けて、伸び上がります。

「く~~。ふぁーー」

 深呼吸。

 直ぐに気づきました。

 私の部屋では無いですね……。

 昨日の晩に起こったことが、頭を巡る。

 ベッドの方を見ると。

 お母さんとルリラスがすやすや。

 部屋から静かに出ました。

 階段を降りながら考えます。

 家は倒壊したと思いますし、お父さんは帰ってきません。

 本当にどうしたら良いんでしょうか。

 私には解からなくなって……。

 涙を堪えて、手が洗える場所。

 探すまでも無く。

 直ぐ右に手洗い場が見えました。

 


(使わせていただきます)と心の中で思い。

 洗面台の蛇口を捻る。

 手を洗って、掛けられたタオルを使わせて貰い。

 鏡を見ながら身支度(みじたく)

 前髪(まえがみ)の1部を左耳に掛ける動作を数回、しっくりくるまで繰り返します。

 右手首に嵌めていたゴム紐を転がして一旦外し。

 洗面台の濡れていない所に置き。

 両手で勿忘草色の髪をまとめて、右手の指でゴム紐を広げ後ろ髪を()う。

『来年になったら。お母さんに髪を切って貰おうかな……』

 台所から美味しそうな香りが流れてきました。

 台所へ向かうと、私の家にもあった。魔力起動火炎石コンロの前に男の子。

 レキス・アスリットくんが立っていた事に、少し驚きます。

「おはようございます」

(え?)

 また驚かされました。

「おはようございます……」

 足音は立てていないのに、なぜか私がいると解かったのでしょうか?

 レキスくんが振り向きながら。

「あれ? ミファーネちゃんでしたか。よろしければ、テーブルの食器を椅子の前に並べて貰えませんか」

 お玉杓子(たまじゃくし)を右手に持った、レキスくんが私に指示を出しました。

 テーブルの上にそのまま積み上げられた、食器。

 鍋も置かれています。

 お茶碗、汁物用のお椀。おかずを載せるお皿。

「どうしているのか聞かないんですか? レキスさん」

 アクらしきものを掬いながら教えてくれました。

「原因を知っても。ファリルさん達がいる現実は変わりませから……」

 達観(たっかん)しているのかな?

「食器並べるのが終わったら、手伝いますね」

 お腹が空く。そんな香りでした。

「助かります」

 私は食器を、寝せて並べ始めました。


白いご飯が入った土鍋。

 レキスくんが水で湿らせた厚い布を両手で持ち。

 布越しに土鍋を両手で掴みテーブルに敷いていた布の上に載せました。

 

 コンロのあいた場所に新しい鍋を載せ、右手に持った目盛り付のカップ。

 カップに入った水を総て注ぎます。

「三つ葉を茹でるの任せて、良いですか?」

 回転式温度調節器を、右に勢い良く回して着火。

「任せてください」

 火炎石コンロの火炎が発する熱を肌で感じる。

「三つ葉はつけ合せです。軽く()で、6等分に切り分けてください」

 頷きます。

 レキスくんから、菜箸(さいばし)を渡された直後。

 左の鍋蓋(なべぶた)を取り、魚の煮つけが入った鍋に木製の鍋蓋を鍋の中に入れました。

「え? 具材を潰しちゃうんですか」

「落し(ぶた)です。具材に味、煮汁をしみ込ませる為に鍋の中に(ふた)を入れるんです。

 紙蓋もあり……。ああ、木製の落し蓋は初めてでしたか」

 レキスくんが、回転式温度調節器を左に回して火を弱めます。

 三つ葉を行き成り渡されました。

「沸騰したら、数分で茹でてください」

 レキスくんが私を見る。

 違いました、壁時計を見たかったようです。

「顔が少し火照(ほて)っていますよ。大丈夫ですか?」

 私は、左手に三つ葉、右手に菜箸を持ったまま。お母さんに言われたあの言葉を思い出しました。


“どんな困難でも不撓不屈(ふとうふくつ)の精神でがんばる”

「あの……」

堅忍不抜(けんにんふばつ)だよ”

「ミファーネちゃん。ミファーネちゃん!」

「不撓不屈です!」

「沸騰してるから。早く三つ葉を茹でる!」

 はっとして鍋を見ると、さっきの水が「ボコボコ」音を立てていました。

「240秒入れて直ぐに出してください」

「はい。はい!」

 左から煮付けの香りが流れてきて、私の食欲を駆り立てました。



 数10分後、煮魚を鍋から取り出したレキスくんが魚を4切れ。

 四角い箱に煮汁と一緒に大根、椎茸を入れて蓋を閉めました。

 三つ葉は、お皿に入れて四角い箱の上に載せました。


 丸い2つのお皿に煮魚と野菜を交互に盛り合わせ、最後に三つ葉を添えて完成です。

(ぶり)の煮付け完成。食べましょう」

「いただいてよろしいですか?」

「勿論!」

 白ご飯がお茶碗に注がれて、熱い湯気を立ち昇らせまる。

 目の前に鰤の煮付けと白ご飯、お箸が並びました。

「この左にあるのは、何ですか?」

「あ! 忘れてたそれ。味噌汁です」

 お玉杓子を持って。

 レキスくんが鍋の(ふた)を取り払と、熱い湯気が立ち味噌の香りを部屋に広めます。

 お椀にお玉杓子で注いでいき、私の前に乱切りの大根が入った味噌汁がやってきました。

「食べましょう」

 レキスくんが手を合わせる。

「「いただきます」」

 お箸を手に取り、まずは(ぶり)を一口。

「う~ん。美味しい! 鰤の中まで煮汁がしみ込んでいて、顎が落ちそう」

「完璧だ(書庫にあった本通りに作ったら普通に美味しく出来た)」

「完璧だの続き何か言いませんでした?」

「何にも!」

 鰤の身と白ご飯を、交互に咀嚼して飲み込みます。


 大根を口に運ぶと軟らかいことに驚きました。

「どうかしました?」

「大根が軟らかい……」

 家で食べた大根は、何と言うか筋があるような硬さでしたから。

 そもそも、大根はフォスターマウント市では高級品。

 野菜の相場が50セイル~780セイルなのに対して。

 大根は1本、940セイル以上。

「え? 大根は、皮を剥いて煮込めば軟らかくなる筈ですよ?」

 レキスくんから逆に問われた気がした。

「私の家では、いつも硬いと言うか。表面に筋があるような、食感でしたから……。ルリラスは大根が嫌いなんです」

 レキスくんがお箸を置いて口を開く。

「それは大根の皮を剥いていないからですよ」

「皮ですか?」

「そうです。自己流の調理法はいただけませんね」

 土鍋の蓋を開け、テーブルの上に置きました。

 お茶碗をレキスくんに取り上げられる。

 杓文字(しゃもじ)を土鍋に入れ、白ご飯が載った杓文字をお茶碗に傾けます。

 お茶碗に()がれた白ご飯が湯気を立て始めます。

「どうぞ」

 私の前に、お茶碗が置かれた。

「ありがとうございます」

 結局もう1度だけお代わりを貰い、朝ご飯に舌鼓(したつづみ)()ちました。

 鰤大根。

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