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第31話 この世界に美味しい料理を広めることにした (後編)

 テーブルの上にある。ハーブ類と野菜の輪郭が歪んで見えた。

 最初にハーブのオレガノをリレイが、水の入った鍋に投入。

 言った順番とは逆に入れるのか……。

 次にからしなとキツネノボタン。センブリ、ソバナと続きクレソンを投入した。

 沸騰する。

 アクをお玉杓子(たまじゃくし)で掬い。サラッセリス、エキナセア、かぶの葉を投入。

 どういう原理か解からないが、光沢した若竹色の液体へと変わった。

 中に水が入ったガラスの小瓶を41個。目の前に並べられる。

「きっちり大さじ1で水が入った、ガラス瓶に入れるのよ」

 大さじを、サクシィスさんから渡された。

「解かりました」

「はい!」

 41個のガラス瓶。

 俺が11個でリレイ15個サクシィスさんは、15個担当する。

 サクシィスさんが、3個のお茶碗を並べた。

 鍋からお玉杓子で掬い取った、若竹色の液体を目の前にあるお椀に入れられる。

「始めて」

 大さじをお椀に入れた。

 ガラス瓶に若竹色の液体を注ぎながら思った。

 マジックポーションの効果について。

 上位のマジックポーションはどんな怪我でも治すことが出来。

 人体の1部切断も結合治癒する力がある。

 下位のマジックポーションは、簡単な切り傷を治す力があり、消毒薬としても使用出来る。

 


 彼が現実に一旦戻る。

 彼がこの本を欲しくなってきたようだ。

 気持ち的な問題に、決着をつけた彼がページを大きく飛ばして読書を再開した。



 行き成り、目が覚めた。

 15歳を過ぎた。この世界に生まれてから15年以上か……。

 うつ伏せになっていた、顔を上げる。

「食事の準備しないと」

 1人でいる時は、出来るだけ日本語を使うようにしていた。

 ベッドから飛び起き、外着に着替え。

 壁に埋め込んだ太い釘。手作りの木製ハンガーに掛けてある、これまた自分で断裁(だんさい)し。

 縫い合わせて製作した白いエプロンを身に着けた。

 扉を開き、部屋から出ると目の前に調理場が目に入る。

 調理場へと向かった。


「出来た」

「豚肉のトマトスープ煮」

 オレガノをアクセントで入れてみた。


「うん。美味しいトマトを使っているのに甘くなり過ぎないで、丁度良い。

 豚肉とトマト以外で何を入れたんだ?」

「たまねぎとハーブのオレガノ。料理酒を大さじ2ほど使いました」

「お酒を使ったのか!」

 加熱すればアルコール分は飛ぶんだよ!

「アルコールは熱で殆ど、飛んでいますから大丈夫です」

「そうか。そうか」と頷いて、食事を再開した。

「サクシィスさんに料理を教えて貰ったの? スティブル」

「そうです」

『少し違うけど……』

 壁に掛けられた錘時計(おもりどけい)を見ると、針が7時43分を指しているのが解かった。

 3人で食事をとる。

 お母さんのリリーフ・ライティング。

 お父さんのビアド・ライティング。

 そして俺の名前は、スティブル・ライティング。

 精霊慧(せいれいけい)暦120015年。

 この世界に美味しい料理を広める作戦が、本格的に始まろうとしていた。


 彼がページをパラッ、パラッとめくった。


「お金貸して貰えないでしょうか?」

 アスリート亭と数年前に名前が、変わった。

 宿泊施設としての機能もある。

 飲食店へと変わっていた。

 アスリート亭の店内で、サクシィスと話をしていたのはスティブルだ。

「結婚祝い金で50万セイルも渡したのに足りないのかい?」

 発光石が入ったガラス球。

 それが天井から吊るされていた。

「まずは、理由を話して貰わないと。貸したくても、貸せないわ」

 スティブルが鞄から、高価な上質紙を取り出しサクシィスさんに手渡した。

 彼が口を開く。

「冒険者の為の組織を設立したいんです」

 紙を広げたサクシィスが、ある事に気づく。

「この“ギルド”ってどういう意味なのかい?」

 スティブルが右腕を振り上げる。

「同業者の組合。冒険者ギルドは、冒険者の組合なんです。個人の力量に見合った依頼を遂行させるためのサポート。雇用の創出総ては、美味しい料理を皆に食べて貰う為!」

 サクシィスさんが笑い出す。

「ごめんね。やっぱり、スティブルさんはビアドさんに良く似ている」

「そうですか?」

「ええ。ビアドさんは『戦う為に食べるんだ』って良く言っていたけど。

 スティブルさんあなたは、食べる為に戦っているんだね。

 目標の為に何かをする人の応援する事が旧アスリット家から続く家訓だからね」

「ありがとうございます」

「やってみなさい。お金は幾らでも出してあげるから」

「ありがとうございます」

 サクシィスから、事業計画書を書いた紙を受け取る。 

「早く曾孫の顔が見たいもんだよ」

 彼が答える。

「がんばります」

 バシッと立ち去ろうとした背中をサクシィスに叩かれた。

「痛!」

「そこは、笑って誤魔化すもんだよ。スティブルさん!」

「そうでしたね」


 そこで一旦彼が本を閉じ、机に置いた。

『異世界に転生して異世界小説が読めるとは……』


 本を持った彼が、大きくページを飛ばし読書を再開した。


「あなた。晩ご飯出来たわ」

 リレイが俺の背後から両手を回して抱きつく。

「晩ご飯にしようか」

 熊の毛が表面に縫い付けられたソファーからたちテーブルまであるいた。

 食事を食べた後に俺は、これまでの人生に思いを馳せる。

 20代後半で異世界に転生した俺の名は新川(しんがわ)タカミ。

 料理マニアで異世界について少し知識がある。

 スティブル・ライティングとしての人生は、刺激的で最高だ。

 今は、スティブル・アスリートだ。

 28年間。俺はこの世界に195種類の料理。

 8種の食材の切り方。

 肉の調理法に魚の捌き方。

 更になぜか、日本語を喋る中央大陸人との交流、それにより。

 手に入れた。稲と穂摘み具。サツマイモ、白菜、ほうれん草。

 穂を玄米にするのは簡単だったが、脱穀して白米にする器械を作るのには、4年も掛かったんだよな。

 もっと中央大陸に滞在したかったが、ギルド創設者の仕事と義務からは逃げられない。

 あと“日本の風亭”の運営管理。

 忙しいが、昔の人生に比べたら出来すぎだった。

 これまでの人生。功績が、大きいと思う。

 右隣で生後2ヶ月の稚児(ちご)が、すやすやと眠っていた。

 小さい手。全体的に丸っこい。

 自分の子供は可愛い。その意味が良く解かった。

「ちょっと夜風に当たってくる」

 小声でリレイに伝る。

「お風呂の準備して待っています」

 リレイの囁き声を聞きながら、外に出た。


 気分が良かったので走る。

 うっかり、魔林(まりん)まで走ってきてしまった。

 月の明かりで少しは、見える。馬車が通れるように、溝が道の両端に掘られているのが。

 風が吹くたびに木々の枝についた葉が揺れ「カサカサ」と怪しい音を立てる。

 行き成り。魔林から落ち葉を踏みしめる音が奥から聞こえてきた。

「ザシュ、ザシュ」

 わざとらしく、強く踏みつけているような気がして……。

 音がじょじょに近づいてくる。

 月明かりが、道の真ん中にゴブリンが2体いることを教えてくれた。

「グギャャラ」

「グギャア」

 その発音はどんなふうに聞いても。やられたやつの声にしか聞こえない。

 2体か……。

 手を右腰に持っていくが、空を切った。

「あれ……」

 剣がない!!

 持ってくるのを忘れてしまった。

 それにしても薄暗いな。

「イルミネイト」

 かなりの明るさで、辺りを照らす。

 2体の緑青(りょくしょう)色をしたゴブリンが左右から飛び出し俺を挟撃(きゅうげき)しようとする。

「……やれ」

 日本語だと……。

 明かりに照らされている範囲に別のゴブリンが、入ってきた。

 体が真っ白のゴブリン。

 父親から聞いたことがある。

 ――体が白いゴブリン、ホワイトゴブリンに遭遇したら逃げろ。

 そう言われていた。

『逃げるしかないだろ!』

 家の方を向き、走って逃げようとすると目の前にホワイトゴブリン。

『逃がす気は、無いってか……』

 なんで、こんな時に限って超進種のゴブリンなんかと遭遇するんだ。

「やってやるよ!」

 うっかり日本語で言ってしまった。

 ホワイトゴブリンが右手を前に突き出して口を開いた。

「転送魔法発動」

 日本語喋りやがった。

 日本刀の打刀(うちがたな)が出現。

『なぜに日本刀?』

 ホワイトゴブリンは、これ以上の考える暇を与えてはくれず。

 袈裟切(けさぎ)りを加えてきた。

『不味い。こういう戦いにはなれていないんだよ。俺は……』

 右足で地面を蹴り躱す。

 躱しても、袈裟切り、右からの薙ぎ払いと繋げてくる。

 突き。それを持ち上げ、振り下ろし。

『動きが早い』

 背後に殺気を感じて左前に跳ぶ。

 鈍器が空気を五月蝿く切り裂いた。

 後ろを振り返ると冒険者から奪ったと思われる、モーニングスターをフルスイングした後だった。

『あっぶねえ!』

 体の前に槍の穂先が出現。

「うお!」

 そのゴブリンが槍を引く前に右手で掴み、力任せに右に引っ張る。

 ゴブリンの手からすっぱ抜けた。

 武器を何とか手に入れることに成功。

 ショートスピアを空中で回し左に柄の切っ先を向け。

 ゴブリンに突き刺した。

 槍を抜くと地面に倒れこんだ。

 透かさずホワイトゴブリンが打刀で斬りつけてきた。

 ゴブリンがモーニングスターをぶん回し。

 総て躱し、体勢を整える。

 深呼吸。深呼吸。

 強い。

「フャイアアロォ」

 右掌の上に、火で出来た矢が形成された。

 緑青(りょくしょう)色のゴブリンに狙いを定めて射る。

 ゴブリンに突き刺さった。

『よし。何とかなりそうだ』

「ふん。役立たずが……」

 ホワイトゴブリンが呟いた。

「超魔!」

 突如、ホワイトゴブリンの体が生成り色に覆われる。

『なんて魔力量だ。そんな……』

「死ね」

 瞬く間にホワイトゴブリンに斬られた。

 体が勝手に躱してくれたが、左胸に痛みが走る。

 左手で触れると熱い液体の感触。

 ホワイトゴブリンの魔力が更に高まっていく。

 エルフにとって、膨大な魔力を持つものは崇めるべき対象。

 戦かおうにも、体が動かない。

 両腕の力が不意に抜ける。

 ショートスピアが地面に突き刺さった。

『無理だ……』


「あなた!」

「リレイ」

 リレイが駆け寄ってくる。

「白いゴブリン……。はい剣」

 リレイからバスタードソードを渡された。抜剣(ばっけん)、鞘を放り投げる。

 リレイも抜剣。

「倒して家に帰りましょう!」

「当たり前の事を!」

 いつの間にか、体の縛りが無くなっていた。

 頷きながら、バスタードソードの握りに力を込める。

 ホワイトゴブリンが地面を蹴って迫ってきた。

 袈裟切りを2回躱して、俺が薙ぎ払い。

 躱される。

 俺が1撃当てようとする間に、2撃。ホワイトゴブリンが攻撃してきた。

 リレイがホワイトゴブリンの背後に回って、挟撃。

 リレイの振り下ろしを躱したホワイトゴブリンに俺が薙ぎ払い。

 左腕で受け止められた。

「もう、良い。終わりにしよう」

 動きが止まったホワイトゴブリンにリレイの振り下ろし。

 右肩に直撃。だが、皮膚表面で剣が静止した。

「なんで……」

「リレイ離れろ!」

 リレイが右足で地面を蹴り、)ホワイトゴブリンから離れる。

煉獄火(パーガトリファイア)

 白い火がリレイを直撃。

「ウォーター!」

 リレイの体から急速に魔力が抜けていく。

 ホワイトゴブリンを追い越し、リレイの元へ向かえた。

「さっきの魔法。当たっても、いけなかったようです……」

「待ってくれ……。どうすれば……」

 倒れそうになったリレイを抱きかけた。

「何でだよ!」

「ライトニング」

 体に衝撃が走った瞬間。

 意識が飛散した。



『新川 タカミさん。こちらへどうぞ』

 頭の中に直接、語りかけられた。

 この感じあの時と同じ……。

『あなた……』

 左を見るとリレイ・アスリートがいた。

『たぶん。俺達は死んだと思う……』

 突如。景色が、大草原へと変わる。

『私がこの世界の最高神、創造神だ。これを観て欲しい』



『総て解かりました』

 リレイも頷く。

『精暦1715年。待っていますから、私と同じ日本から来たスティブルさん』

 暫くさようなら、真衣(まい)……。

『始めてください。創造神』

『本当にありがとう』



【最終章】

【第75話冒険者ギルドと日本の風亭】

 その後。

 全世界に冒険者ギルド、日本の風亭があることは周知だと思う。


 彼がうっかりページを大きくめくってしまった。

 だがそのまま読むことにしたようだ。


【後書き】

 私のご先祖にまず敬意を表す。

 この作品をアスリート家と本家アスリットに捧げる。

 古代精霊魔法を使用し、現実にあった話を小説にしています。

【ここからは、日本からの転生者にのみ見える魔法製本技術が使われています】

 私は、精霊慧(せいれいけい)大陸リジョウール王国マキシマム市100‐35‐3に住んでいます。

 もし、この世界について知りたいことや聞きたいことがあったら。お手紙をください。

 この世界にはあなた達以外にも日本からの転生者。他にアメリカ、カナダ、フランスの方も転生していることが解かっています。

 この作品を日本からの転生者へ捧げる。

 福岡県に思いを馳せて。


 彼が、次のページをめくる。


【訳】

「Baby is healthy boy」=赤ちゃんは元気な男の子です。

「ウィンド」=風。「ウォーター」=水。「ブリーズ」=そよ風。「イルミネイト」=照らす。

「ライトニング」=稲妻。


 彼が本を閉じ、机の上に置く。

 椅子を押し、天井から吊るされた光球についた紐を引っ張る。

 明かりが消え、彼がベッドの中に潜った。

 直ぐに眠りについた。



 

 手を洗って廊下を歩く。

 階段が左にあるのを見ながら、吹き抜けの台所へ向かう。

 壁時計は5時30分を指していた。

 掛け軸の鷹に睨まれる。

 台所には誰も居なかった。

 右の部屋、応接室に入る。誰もいない。

 そこから、左の書庫に入った。誰もいない。

 相変わらず本が大量に蔵書されていた。

 そこには、5000冊以上ある。まだ山積みの本を抜いた数だから6000冊はあるかも……。


「お母さん!」

 2階へと続く階段を登る。

 レサーナの寝室。

 扉を開き、挨拶をしようとして思い留まる。

 ベッドの頭部分にガラス窓から淡い斜光(しゃこう)が差し込んでいた。

 その明かりに照れられていたのは、レサーナでは無く。

 勿忘草色の髪。

 艶がある首の辺りまで伸ばした髪は、清雅(せいが)だった。

 その左に女の子とファリルさんが眠っていた。

 俺はそっと扉を閉め、他の部屋へ向かった。


「お母さん! ファリルさんとミファーネちゃんともう1人女の子が寝ていましたけど。どうして!」

 息が詰まる。

 深呼吸をして話を再開する前にレサーナが、一言。

「朝から五月蝿いわね……」

 左に顔を向けられ、レサーナの背中しか見えなくなった。

 牡丹色の髪が熱で背中に貼りついていた。

『最近物事に余り、驚かなくなってしまったような……』

「えっと……。食事は何人分、作れば良いですか?」

「6人分お願い……」

 レサーナが布団に潜る。

「解かりました」

『それにしても。一体どうなっているんだ……』

 書庫から料理の本を持ってこようかな。

 扉をそっと閉め、台所へ向かおうとしてたが。

 万が一に備えて部屋で外着に着替えておくのだった。

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