第30話 この世界に美味しい料理を広めることにした (前編)
並製本の表紙をめくり、次の遊見返しをめくる。
扉には。
【この世界に美味しい料理を広めることにした~ジャパンアヴウィング。日本の風亭創設秘話~】
【著者、翻者。日本大好きエルフ娘】
彼は思った。
『何て作者名だよ……』
扉をめくる。
【本作品は“王国語”に訳されていますが、1部。“古代精霊語”で記されています、その訳は作品の最後に記されています。『翻訳者、日本大好きエルフ娘』】
目次が現れた。
彼がめくった。
物語の始まりだ。
鉄鍋に、菜箸を突っ込む。
温度が丁度、良くなったことを確認出来た。
小麦粉とパン粉に包まれた車海老三尾を油の池に沈める。
至福のひと時の為に、完璧なタイミングを待つ。
勿論使うのは、熊本県産天然車海老。
目を離さず、じっと待つ。
今だ。
菜箸で車海老三尾を油に入れた順に掴み上げ。
レタスを敷き詰めた皿に盛る。
テーブルに置き。
白ご飯を炊飯ジャーから出そうと仕掛けて、あることに気づいた。
ガスコンロの火を消しにいく。
突如、鍋から火が昇ってきた。
水を直接を掛けるようなことはせず。
台所に大きめのタオルが置いてあったので水を大量に含ませ、火が出ている鍋に掛ける。
料理の次に大事な食事を邪魔されて少しイラッと来るが、大事にならなかったので安心した。
まだ、火を消して無かったので大人しくなった鍋に近づき火を消した。
内心、ちょっと焦った。
「ジジッン」
何か、音が聞こえないか?
物質が溶けるような音が鍋の方から聞こえたような……。
「バァン」
目の前で油が爆ぜる。
油と謎の物体が飛び散る。
一瞬、物体が体の前に飛んできたように見えたが?
不意に、胸の辺りに燃えるような痛みを感じ、触れてみると。
何か刺さってる。
あ! そう言えば台所に置いてたタオルには、国産名品包丁を包んでたんだった!
丁度、体の真ん中にその包丁が突き刺さっていて……。
そう思っている間に、痛みで意識が薄れていく。
『死ぬ前に海老フライだけはを食べねば』となぜか思えた。
海老フライ……。
もう少しで海老フライが乗ったお皿。
もうちょっとで手が届きそうだったが、海老フライを手に掴む前に意識が飛散した。
『初めての異世界デビューおめでとうございます。と言うのは嘘です、更に嘘です』
『これからお前に、次の世界で役立。力を授けます』
何だ?
女性のきつい声が聞こえた。
暖かい所に居ると言う事はだけ、解かる。
ここがどこか、俺には解からなかった。
『簡単な説明は、しませーん。が、お前に与えられた力は、教えますよ。面倒ですけどね』
『出ました。お前が手に入れた俗にチートと呼ばれる力は、何と。
「狂戦士」結構レアなの出ちゃいましたね。
効果は、半径五メートル圏内に敵対勢力が増えれば増えるほど。
戦闘能力が上がっていき、平時でも中級冒険者並みの力を備えています。
何と、勿体無い力でございましょうか……』
『精々。頑張れ』
さっきから眩しさをずっと、感じていた。
「イズッ――――」
音がぼやけて聞こえる。
一段と眩しさを感じた後に確りと聞こえた。
「Baby is healthy boy」
赤ちゃんと男の子と言う単語だけ解った。
英語だな。
体の感覚がいつもと違うことに気づく。
視界は、液体的な物が顔全体に掛かって居るせいでぼやけて見える。
何となく眠くなって来たので、考えるのは起きてからすることにした。
この世界に生まれて7年程経った。
一番気になるのは、耳だ。
エルフ耳とでも言うのだろうか……。
この長い耳は余り好きになれない。
髪を洗うのが大変だからだ。
なぜか俺は、エルフとしてこの世界に生まれた。
記憶を持ってさらに天性?
じゃなくて、記憶を持って転生した。
会社の同僚が、話していたのを聞いて覚えていた。
最近の、流行らしいじゃないですか?
試しに読んだら、嵌ってしまった。
ここは日本人が考えた、中世ヨーロッパ風。異世界だと言うことは、直ぐに解かったよ。
この世界、日常で魔法をガンガン使うんだもん。
しかも、日本語も中央大陸で話されているときた。
こんな世界が存在するか!
食事について語らせて貰おう。
離乳食は野菜のスープだった。
これはまだ、ましだ。
2歳位の時に食べたスープは不味かった。
豚肉のアクが確り野菜にまで侵食していた為、エグイスープに成り果てていたのだ。
これを食事だとは断じて、認めない!!
この世界に、前世の記憶を持って生まれてから、早9年。
「腕の力だけで、受けようとするな!」
両手剣を上から振り下ろして来たので持っているバスタードソードを上げ防御する。
「腕の関節を! 脚を使って相手の力を分散しろ! 全身を使って受けろ!」
右から払い。
剣を素早く体の前に戻して剣先を縦に構える。
何も来ない。
お父さんが、剣を引いていたことに気づく。
剣の練習が終わったと思い剣を下ろす。
「あまい!」
刹那、剣先がこちらに飛んでくる。
自分の反応できる速度を超えているのことだけは、解かった
手を動かす暇さえなく、やられると思った丁度その時。
左側の首筋付近で刃先が、止まる。
昇ったばかりの明かりを反射して煌めく。
「今日は、この辺で終わりにしよう。先に帰っておく」
お父さんは、自分が持ってきた物だけ手に取り。
足早に家の方へ歩いて行った。
緊張が途切れ、今までに蓄積した疲れが溢れ出て来るのを感じた。
右手に持っていた。
バスタードソードを鞘に戻し、今居る所から一番近い料理屋の入り口にある。
椅子まで歩き、腰を下ろす。
料理屋の入り口に掛けてある、鈴が鳴る。
40代位の女性が、エルフ耳の父親が帰った方からやって来た。
「あら! おはよう。スティブルちゃん、それなら。扉を押さえてくれないかしら?」
休憩してるんだから椅子から立ち上がりたくないけど、将来的に働きたいと思って居る場所だから無下に断れなかった。
「おはようございます」
扉を開く。
俺が座っていた長椅子に竹製の籠を置く。
「お父さんに剣の使い方を教えて貰って。いたんでしょ」
「ええ」
「ウィンド」
籠が持ち上がる。
よく見ると中に、ナスやトマト。キュウリが入っていた。
籠が空中で静止した。
「ウォーター」
籠の周りに水が集まる。
「ブリーズ」
水が一瞬で消失した。
「ウィンド」
サクシィス・アスリートが、両手を広げてその上に籠を乗せる。
「扉を開けて貰えると。ありがたいわ」
扉を開く。
一緒に店の中に入った。
「所で。スティブルちゃんは、剣。魔法、料理ならどれが一番好き?」
その問いには即答出来る。
「料理が好きです。調理するのも食べるのも!」
嵌め殺しのガラス窓から、光が店の中に差し込んでいた。
「それなら。1つ依頼をこなしてくれたら、私の店で調理しても良いわよ。どう?」
「どんな依頼ですか?」
木製のカウンターに籠を乗せて、サクシィスさんが口を開いた。
「あなたって。料理に目が無いわね、料理で人生破滅しなければ良いんだけど……」
「料理で死ねるなら本望かも……」
そういえば。俺は調理で死んだんだった。
「ついて来て。スティブルちゃん」
俺はサクシィスさんの後に続いた。
地下。そこにはモンスターが居たり、ダンジョンがあったりするものだが……。
「カチッ」
吊るされていたものが、突如。発光し地下を照らした。
そこには、光沢した緑色の液体が目盛りつきのビーカーや三角フラスコの中に入っていた。
この世界では、高価な筈の本が大量に蔵書され。
俺の目を輝かせた。
他にも漆黒の赤色をした石が無造作に置かれていた
「それは、ガーネットただの魔石よ。凄いのはその右隣にある白い液体で名前をエリクサー」
視線を持っていくと【劇薬注意】の札があった。
「エリクサーは霊薬。どんな怪我でも治し、もし死んでも8時間以内なら復活するわ」
『エリクサー。エリクシャーの事かな?』
劇薬なのか?
「エリクサーの更に右隣にある透明な液体が、パナケイヤ。“命の水”とも言われていて、どんな病気でも癒す力持ち。その上にある黄色い液体が、マルガシツト。燃やすと一気に1万度に達する物質だから使う時に乾燥させて使用するらしいわ」
『太陽の表面温度より高いだと!』
「マルガシツトは一体。何に使用する為に、あるんでしょうか?」
「さあ? 私にも解からないけど。鍛冶に昔は使用していたようね」
「鍛冶ですか……」
そもそも炉が、その温度に耐えることが出来るのだろうか?
視線を動かす。
俺は、赤色の小瓶が気になった。
「あの赤い小瓶は何が、入っているんですか?」
サクシィスさんが、赤い小瓶を右手で掴み取る。
「これには、ローズマリーのオイルが入っていたと思うけど。嗅いでみて」
栓が抜かれた。
地下室が一瞬で香りに包まれた。
ハーブの心地よい香りに癒される。
天井を見上げる。
ガラス球の中に石があり、光っていた。
「それは、発光石と言われる。魔力石の1つよ」
「魔力石ですか?」
視線を戻して本棚を見ていたら、黄色い石の存在に気づく。
「魔力石は発光石。魔力備蓄石や希石、空間形成石が有名だけど元はただの“石”なんだね~」
黄色い石を右手で掴むと手が、痺れる。
「痛い!」
黄色い石を本棚に戻す。
「それは魔力備蓄石。魔力を把握する力が強い私達エルフ種が触れば、痺れるわ」
本が一瞬、光った。
顔を近づけると影に本が、覆われる。
背後に発光体があるからだ。しゃがんで、今さっき光ったと思われる場所に手を当てた。
俺にとっては英語表記だが、この世界では古代精霊語。
【中央大陸の王国】
【山菜の総て】
【精霊大全】
【怪物全集】
【マジック】
日本語のカタカナ?
“マジック”と背に書かれていた本に手で触れると、色が変わった。
突如、背の文字が再構築されていく。
「その本は、古代書。今より更に100万年以上前に製本されているの」
本を右手で掴み取る。
そこには【魔法】と日本語で書かれていた。
「それは、可笑しくないですか?」
「そうね。確かに可笑しいわ」
サクシィスさんが、本を掴みながら口を開く。
「本が出来るまでには、まず洞窟の壁画から始まったと言われているし。
木簡に粘土板や、牛の骨や動物の甲羅。
パピルスや竹の板だったり、羊皮紙や和紙。
木材から作る紙で、製本したり。
最終的にユーカリの木から作る紙を製本するのが、最高品質ね」
『俺が、言いたかったことを総て言いやがった!』
行き成り、右手を前に突き出す。
「転送魔法」
サクシィスさんの右掌の上に水が入った、ガラスのコップが出現。
『何かSFっぽいな……』
水を口に含む。
「古代書は、謎なのどうやって製本されたのか。どういう原理で、魔法が発動しているのか。何も解かっていないわ」
水を総て飲み干す。
「本題は、リレイ村のはずれにある。魔林にハーブを取りに行きたいんだけど、その護衛をお願い」
「それだけで良いんですか!」
「ええ一旦。出ましょう」
「はい」
俺は既に、どんな料理を作ろうかと考え始めていた。
「お祖母ちゃん。クレソン採ってきました」
目の前に桔梗色。
その髪をした少女が、小さい竹籠を右腕で抱きかかえていた。
可憐な少女とでも、言えば良いか。
「スティブルくん。久しぶり!」
「久しぶりです。リレイちゃん」
その後、魔林からハーブ類を採取。
地下室より明るい、外に3人でいた。
「このハーブで何を作るんですか?」
サクシィスさんが、開口一番。
「マジックポーションよ」
「ポーションですか」
「時間との戦いです」
リレイちゃんが、長袖を捲くりながら言った。
「その前に、先祖について語りましょう」
「先祖ですか?」
「ええ。私のフルネームは、サクシィス・アスリート。アスリートの家名は、元中央大陸人がこの精霊慧大陸に移住してからの家名です。私達の家系は元来、錬金術者の家系。生まれた時からずっとそう生きるように、神から天性を与えられ続けたわ。それを変えようとしたのが――」
「要約すると、強制的に力を受けないようにしたと言うことですか?」
「その通り。5400年以上前にどうやって、この大陸まで来たと思う?」
なぜか、サクシィスさんに問われた。
「空路と陸路はありえないから。海路を使ってやってきたと、思います」
首を左右に振られた。
「いいえ。先祖は転送魔法で、この大陸までやってきたの」
「そんなことが、本当に出来るんですか。無理だ」
「私でも、眉唾物だけど。先祖は、行き先の光景を精神の集中で観ることが出来たと伝えれています」
「そこまでの力。手放す必要があったのでしょうか……」
「あのー。そろそろ、マジックポーション作りませんか……」
リレイが詰まらなそうに言った。
サクシィスさんが、服の袖を肘まで持ち上げ。紐で軽く縛った。
「材料の確認。リレイ」
テーブルには、クレソンやハーブが並べて置かれていた。
「はい。クレソン100g、ソバナ35gセンブリ20g。毒草キツネノボタン5g。
カラシナ5g、オレガノ4g。沸騰後に入れる材料は、カブの葉50g。
エキナセア30g。魔草サラッセリス10gです」
「皆で魔力を注ぎますよ。両手を前に出して」
「解かりました」
両手を前に出す。
「それでは、魔力を込めましょう」
リレイの合図で、魔力を注ぎ始めた。
風が体に当たり、吹き抜けていった。




