第28話 特別進学推薦通知書
「「『失礼しました』」」
扉を引こうとする前に、先に引かれた。
「お! やっぱりな……」
彼は、フィアレス・イルーク。
髪が若竹色だ。
「今晩は、レキスさん。お体は大丈夫でしたか? あ! 私は怪我をしていません」
「はい。怪我はありません、ミファーネちゃんも怪我が無くて良かったです」
先に先生にあっていた3人。
3人が右手に大きい茶色の封筒を持っていた。
ミファーネ、フィアレス、トリシアが職員室から出た。
「あの時は、ありがとうございました」
「こちらこそ」
勿忘草色の髪がふわっと動く。
軽く頭を下げた彼女が、頭を上げる。
「失礼します」
「じゃあな」
「じゃあね」
彼女らが、彼らの来た道を歩き出した。
「帰り道には、気をつけてください。さようなら」
「今日のミファーネちゃん。口数が少なく無かったか?」
職員室の入り口で閉められた、スライド式の扉を見ながら話をしていた。
彼らの後方。
そこの壁に学年成績表を貼ってあるが、レキスはこの存在をまだ知らない。
学年1位と2位はいつも、レキスとミファーネが取っているで有名な事も。
「お父さんが今、フォスターマウント市に居ないんです」
ルックが話を引き継いだ。
「ミファーネちゃんのお父さんは、仕事でクレアス王国へ行っているから。元気が無いんだよ」
レキスが表情を強張らせる。
「お、お前。俺のこと追っ掛けじゃないか。とか思ってないだろうな?」
「そんなことは……」
レキスが目を伏せる。
「勘違いするな! 憧れ。ミファーネ・クリヒヤは、俺らの憧れだ」
「職員室の前で騒ぎますか? 更に遅刻ですか?」
シティア・セリールが、険しい表情で現れた。
「すいません」「ごめんなさい」「わるい、先生」レキス、レリス、ルックが頭を下げて言った。
「ついて来てください」
4人が職員室に中に入る。
「失礼します」
レリスの一言に、レキスとルックが『遅いから!』と同時に思った。
数10人の教師が、書類を作成していた。
レガコートル王国産のコーヒー豆から抽出した、コーヒーを3人が飲み。
オレンジジュースを4人が飲んでいた。
机の上に出来た書類の山は、今にも崩落しそうだった。
シティア先生が3人に大きい封筒を渡す。
「これは、特別進学推薦書ですが。特別進学、飛び級をするかしないかはあなた達の自由です」
学校から出た、彼らが家に帰り着く少し前。
「お母さん。ただいま、ルリラス元気にしてた?」
「お姉ちゃん。お帰り」
トコトコと妹がミファーネに駆け寄ってきて抱きついた。
右手に持っていた封筒。
それにファリルが気づき、ミファーネに持ってくるよう左手を動かす。
ブラックゴブリンとの戦いで店が、倒壊していた。
店と家が別だったので、家を失う事は無かった。
貴族が住むような、城館でもない限り。玄関で靴を脱ぐのが、基本だ。
「特別進学推薦書。凄いじゃない!」
ファリルがミファーネを褒めた。
「みせて、みせて」
今ひとつ、日本語を基にした中央大陸王国語を理解出来ていない。ルリラスが言った。
ミファーネが少し黙る。
直ぐに察したファリルが尋ねた。
食後に話を再開し――。
「自信無くしちゃった?」
「自信では無く。私は本当に頭が良いんでしょうか?」
鞄を抱えて台所の椅子に座る。
テーブルを挟んでファリルも座った。
「本題から、少しずれるけど良い?」
「大丈夫です」
壁時計が針を刻む音。
それが10回程、流れた。
「魔法術の発動には知識があっても無くても。発動できるのよ」
「え?」
「例えばだけど、液体には表面張力があったり熱力学があり。
質量保存の法則があって、物理学の保存則だって魔法には関係しているの。
魔力が介入する事で起きる、質量破現の法則もあるけど知ってました?」
「全部初めて聞きました」
ミファーネが両手で膝を強く掴む。
「そんなに落ち込まない。今のミファーネと同じ年の頃は『脱兎』ってあだ名で呼ばれていましたよ」
「『脱兎』ウサギですよね」
「いじめられても、脱兎の如く走り去る。じゃないけど、足の速さだけには自信があったし。学校では1番足が、速かったからかしら」
正式名。
魔力供給起動魔法発動術式刻印家財道具。
その魔家具、氷魔法術発動冷媒入り円筒付き冷蔵庫。
普通に冷蔵庫と言われている、それから水が入った大きなガラス製の取っ手付き容器を取り出し。
ファリルが、ガラスのコップに注いだ。
「要る?」
「要りません」
水を一口飲んだファリルが、話を再開する。
「自慢じゃないですけど。私はテストで100点を1度もとった事が、無いんですよ」
「お母さん。それは、ふっ」
最初はくすくすと口に両手を当てて笑っていたのだが、目蓋に涙を浮かべて大声で笑い出した。
「そこまで、笑っちゃう?」
「ごめんなさい。私がただ考え過ぎなだけだって解かったら、可笑しくて」
ファリルが、自分の子どもを見つめる。
「男性は女性の笑顔が見たいって、憶えておくと良いよ」
涙を指で拭き一言。
「笑顔ですか」
「そう笑顔。で、飛び級の方はどうするの?」
「……飛び級したいです!」
「うん。これでまた、ひとつ成長したね」




