第26話 さよならだ。レキスくん
264日。この空間で、経過した日数だ。
「それでは、私。ミリョーラルが未来の剣術を教えるよ。レキス君、起立」
「あ、はい!」
半透明な地面から立ち上がる。
「今から剣を出すよ。『転送魔法』発動」
瞬きをした瞬間に現れたのか、左手と右手に片手半剣。
バスタードソードを合計2本、保持していた。
「転送魔法って、本当に便利ですね」
栗色に白が加わった髪。首を大きく振って、顔に掛かっていた髪を後ろにずらした。
「魔法発動時、認識起動形成補助装置。魔起形成補助装置と未来で、言っているよ」
「そう言う機械が、未来にはあるんだ」
ミリルが、白色の腕輪を見せてくれた。
「私は、魔成装置と言っているんだけどね」
バスタードソードの握りを投げ、空中で回す。
ミリルが右手で鞘を掴み、俺に剣の柄を向けた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
右手で剣の柄。その大部分を占める握りを掴む。
「どういたしまして」
バスタードソードの刀身は直刀。
鍔から、剣に入っている溝。
こういう剣で樋が、入っているのは初めて見た。樋の色は、赤色だった。
余談だが、柄は刀身先端。切っ先の逆に位置する柄頭から握り、鍔までを指したものだ。
あと、柄はヒルトとも呼ばれている。
バスタードソードの鞘に右手を添えて、抜剣。
ミリルさんも抜剣した。
「剣の鞘は、私が持ちましょう」
「ありがとう」
ミリルさんが、鞘をレサーナに渡した。
「おねがいします」
鞘を渡す。
対峙。
「レキス君。好きに攻撃してきて良いよ」
「解かりました」
地面に下ろしていたバスタードソードを、垂直に構える。
ミリルは、俺と同じ剣を下ろしたまま。右手で保持していた。
「行きます!」
最初は、左からの薙ぎ払いで行くか……。
1撃目は、足を引く動作で体を後ろに下げられ躱される。
剣を水平に引き戻しながら、右手を剣の握りに添えた。
2撃目は突き。
行き成り、心臓に痺れが走った。
「え?」
「アスリット流剣術。『打ち突き』だよ」
ミリルさんが剣を引く。
「基本は、躱すだからね。そこを忘れないように」
「はい!」
この空間で経過した時間は、13558時間。
日数にして564日。
あと2時間位で、565日目だ。
ミファーネが、右手に剣を持ち迫ってくる。
右から薙ぎ払い、右足を引いて軽く跳び躱す。
剣が空中で静止。
踏み込んできたミファーネが突き。ではなく、振り上げ。
右腕を後ろにずらそうとする前に、振り下ろしを右上腕に刻まれた。
右手に保持していた剣が。半透明な空間に落下する。
音は無い。
右腕が固まった。
静脈も斬られた判定なのか、右腕が一切動かない。
警戒していたのだが……。
凄い。ミファーネはやっぱり凄い!
今まで355回。徒手や剣、魔法術でミファーネと戦ったけど。
355戦0勝355敗。
一度でも良いから勝たせて欲しいと言うのは愚痴になるかな。
体の力を抜く。
対峙。
心臓の鼓動が高鳴ることも無ければ。
額や顔に汗を掻くこともない。
逆に落ち着く。
左手で剣を拾いながら、頭の中で詠唱。
『我が力を変換し発動せよ』
ミファーネが、踏み込んできた。
剣を掴んだ左手を、ミファーネに向け一言。
「火炎柵」
レサ-ナから、「この空間で具現化した相手を倒すと。その相手は一旦消えるわ」と言われていた。
『やったか……』
背後に気配を感じる。
瞳の中に火炎柵が入ったまま、地面を蹴って飛び退く。
剣が唸った。
辛うじて、斬られていないようだ。
ミファーネの両足に魔力が変換され、発動された魔法。
それにより残った魔力を感じる。
「自己強化魔法。『流人』何等級強か教えて貰えますか?」
剣を水平に構えながら、口を開いた。
「3等級強化。丙です」
「いつでも、どうぞ」
ミファーネの言葉を聞き終え、魔力を注ぎ始める。
俺は、魔法術の脳内詠唱を始めた。
結果は、356戦0勝356敗となった。
「レキス。話があるんだけど良い?」
仰向けで寝転がっていたら、レサーナに話しかけられた。
「良いですよ」
「若しかしたらだけど。あと23分でこの空間から締め出されるかもしれません」
「えっ! 最初言っていた予定より。かなり短くなってないですか?」
「アミーが『若しかしたら。ミリルが落ちてきた時にこの空間を形成していた魔力。
それが、流れ出たかもしれない。
そうなると、この空間にある魔力量から考えるに。
累計で565日までしか。
居られない可能性があるかもしれない』と私に話したわ」
起き上がる。
「まだ、一度も勝っていないのに。そんな……」
頭を抱えてしゃがみ込む。
「大事な話があるから。ちゃんと聞いて」
「大事な話?」
「ミリルちゃんは知っていたようだから、今まで言わなかったけど。
この空間から出ると最初に入った時の状態で、外に出るわ」
魔力が、騒ぎ出す。
体全体に痺れが走った。
意識を整理して、心を落ち着かせる。
魔力をゆっくりと、制御していく。
「あの、魔力が暴れていた状態に戻るんですか。ここを出ると……」
「その通り。あのころに戻ります。でも今のあなたなら、魔力の制御が出来るわ。魔力制御のコツは、掴めたでしょ?」
「アミーの言っていたことの意味が、今。解かりましたよ……」
周りの景色が、薄暗くなっていった。
ミリルが駆け寄ってくる。
「もう時間切れですか……。レサ-ナ先生、外に出たら転送魔法円お願いしますね」
ミリルが、いつも通りに話した。
「解かりました」
「面白いじゃないですか」
「レキス?」
レサーナが、訝しげな表情をしたような気がした。
目蓋を閉じる。
目蓋を開く前に、音が聞こえた。
まだ目蓋を開かない。
風が木の間を、通り抜けて発生した音。
枝に付いた葉っぱや草花が、風になびく音。
風そのものが出す音。
足を踏み出したら、雑草と地面を踏みつける音が耳に届く。
体に風が当たって、新しい音を奏でる。
この世界には、こんなにも多種多様な音が存在した居たのか。
両腕を広げながら、目蓋を開いた。
冷たい風に、体を包まれる。
この温度さえも俺には、新鮮だった。
相変わらず、周りは蔓性の植物に巻きつかれた巨大な木と朽ちた木。
雑草が栄えていた。
体に倦怠感を覚える。
魔力が、暴れていたことに気づく。
意識を集中させて、じっくり丁寧に制御する。
加速をまず抑える。
伝達を増やす。
圧縮を少しずつ加えていく。
拡散を調節する。
右掌に痺れが走った。
針に糸を通すような感覚で、制御していく。
気分が少し良くなる。
何とか、暴走の程度は弱めることが出来た。
維持するには、かなり集中力を注ぎ込まないといけない。
気を抜くと、今にも破裂しそうな感覚に体を包まれる。
ここまで難しいとは、思わなかった。
「レキス君。1つ良いかな?」
ミリルさんに問いかけられた。
ミリルを見て、聞き返す。
「何ですか?」
「覚えておいて欲しい事があるの。私の子供、レミャを助けてあげてください」
「誰ですかそれ。て、え! ミリルさんの子供ですか!」
「今は居ないよ~。未来で起きる出来事が、関係しているとしか言えません。私のご先祖さま」
「ご先祖さま? 俺の子孫だったんですか。ミリルさん!」
「そろそろ、帰らないと。レサーナさんお願い」
レサーナが、ミリルの足下に魔力を注いでいく。
「もう帰るんですか?」
「『次元転送魔方円』刻印」
魔力を注ぐ。
『今は見えないけど、たぶん注いでいる筈だ』
「帰ったらやることがあるからね。頑張って生き延びてよ、レキスさん」
「言われなくても……。解かっています」
「さようなら。ミリルさん」
「さよならだ。レキスくん、レサーナ先生。バイバイ」
「さようなら。ミリルちゃん、『次元転送魔法』発動」
淡く白い光を発していた、魔法円と共にミリルも消えた。
レミャを助ける。
心に強く、ミリルさんの思い出と一緒に仕舞った。
「所で、この危険な北魔境から。どうやって、家まで帰るんですか? 魔力が殆ど残っていないじゃないですか」
牡丹色の髪が、少し顔に掛かっていた。
「魔力を隠す力が、圧縮にはあるわ」
「圧縮ですか……。そうなると、魔力の4代法則じゃあないな」
「『魔力の5代法則』未来では、そう言われているようね」
冷たい風が、体を叩く。
「寒い! ここの気温。絶対10℃も無いんじゃないですか?」
「北魔境は、夏には40℃以上になり。冬には、-28℃にもなるわ」
そんな解説しなくて良いから……。
「早く帰りましょう」
「じゃあ、近くに寄ってください」
レサーナの近くに歩を進めた。
「1つ言い忘れていたけど。魔力を完全に制御出来るまで、魔法。魔法術の発動は禁止です」
「……解かりました」
「『転送魔法円』刻印」
久しぶりに家に帰れる。
それにしても、お腹空いたな。
「『転送魔法』発動」
俺は、目蓋を閉じた。




