第22話 時間止まりし具現の空間
「魔力を落ちつかせる。これに尽きます」
刃のある剣が、振り下ろされた。
風がなびく。
逃げ遅れた俺の髪が、数本切られた。
「頑張って。躱しなさい」
ヒュッ。ヒュッ、っと剣が唸る。
空気を裂く。
転送魔法円で連れて来れれたのは、北魔境・パスト大陸。
北魔境アスリック王国、重度犯罪者収監用刑務所。
北魔境に来てから、5日目。
囚人と、ここに来てからずっと。戦わせられていた。
「50万セイルーーー!」
剣を持った男が、俺の体を切り裂こうとする。
躱しながら、周りをみた。
意外に、刑務所内は明るい。
高価な光球が、天井に吊るされているからだ。
北魔境にある冒険者ギルドは、この刑務所内に存在する。
突き、薙ぎ払い。
大振りだ。
右足を入れて躱しながら、左正拳突き。
囚人の鳩尾に入った。
「魔力が、乱れ始めています。集中して」
「なかなか。やるじゃねえか……」
厳つい野郎に言われても、嬉しくないね。
剣を水平に構え。
振り下ろしと薙ぎ払い。
余裕で躱し、前に出て近づく。体の力を抜き、一気に力を込めるて打ち抜いた。
数メートル吹き飛んだ男が、石造りの壁に体をぶつけ意識を失った。
「どうですか?」
囚人達が近寄ってくる。
天井を見上げると、光球が目に入った。
その世界には、犯罪度と言う指数がある。
一番低い軽度、中度、殺人級の犯罪から高度。
最大級の犯罪は、重度だ。
取り敢えず、重度が危険と言うことだけは解かったかな。
「準備運動は、この辺で良いかしら」
いつの間にか、囚人達に周りを囲まれていた。
「やってくれたな」
ボスっぽいな。
「余り強くないなら調子に乗らないほうが良いぞ」
「「『そうだ!』」」
囚人達が、一斉に言った。
「そう。でも、もう用はないから。お疲れ様」
それ、火の油を注ぐだけだって!
「なんて、態度だ! 40人も痛めつけやがって」
俺のことじゃないか……。
最初に、警告してきたボスらしき人物が前に出てくる。
そいつが、首を左右に振った。
「やれ」
レサーナが、軽く息を吐く。
「魔力浸透波」
魔力の波長を感じる。
周りにた囚人達の足と膝が、ぐらぐら揺れて、全員倒れた。
「魔人みたいな技を使いやがって……」
ボスらしき男が、少し起き上がろうとする。
結局、膝を地面に突いて倒れた。
心の中で、謝っておく。
「次は、魔力を均一にする修行に行くわ」
頷きながら、レサーナの近くによる。
「『転送魔法円』刻印」
光が服に写った。
「『転送魔法』発動」
別の場所に転送して、歩いて目的地に向かう。
レサーナについていったら、石作りの扉が森の中に鎮座していた。
2人で、蔓が巻きついている。石の扉を観る。
扉にはちゃんと、取っ手が付いていた。
「扉しか無いですけど……」
足を動かすと雑草が、絡み付いてきた。
扉を見つめる、レサーナ。
「キュッ。キュッ、キュッー」
鳴き声が、聞こえた方に視線を持っていく。
大木の枝にいる。赤、白、青の羽色をした大型の鳥が鳴き終わって。飛び立った。
生い茂った植物類。
名前が、解からないな……。
勉強する必要があると切に思った。
朽ちた木、蔓が巻きついた大木。
静けさと、森林の中。その独特な涼しさが、恐怖心を駆り立てる。
「鍵が足りない」
鍵?
「扉の先に何かあるんですか?」
「ええ。『空間転送魔法円』を起動させる為の魔力が、少し足りないわ」
魔力。
気持ちが、少し沈んだ。
「魔力を借りて良いかしら。レキス」
マリーゴールドの瞳が、俺を覗き込んだ。
「……解かりました。どうぞ」
「ありがとう」
右手をレサーナに握られる。
「魔力逆流し」
体が軽くなった。
突然、膝が地面に落ちる。
「これで、やっと発動出来るわ」
右手を掴まれたまま、体を持ち上げられた。
「ありがとうございます」
両足でちゃんと地面に立つ。
「これ、1度中に入ると。込めた魔力が無くなるまで、出られないけど良い?」
雑草を踏みつめて進む。
「未来を変えないと、いけないですから」
石の扉に手で触れる。
ふと、あることに気づく。
『出られないって言っていたけど。お手洗いとお風呂、着替えはどうするんだ?』
レサーナが石の扉に両手で触れ口を開いた。
「魔力流し」
上空に魔力を感じ。見上げて観ると、魔法円が薄し白く光っていた。
数秒後、魔法円に意識を持って行かれた。
気がついた瞬間。
直ぐに気づいた。
半透明な空間。音が一切無かった。
「始めに、この空間について説明します」
頷く。
「ですが、時間はたっぷりとあるので。まずは、時間掌握魔法について」
突然、天井に亀裂が走り。壮大な音を奏でる。
「え?」
天井が砕けた。
「誰か来るわよ」
「あわわわー!」
女性の声が耳に届く。
「レキスは、さがって!」
「解かりました」
レサーナの後ろに回って隠れる。
女性が、落ちてくる。
ショートボブの女性。
髪は白みがかった栗色。
空中で前に3回転。
「はっ」
両手を上に広げて着地。
俺が今、138cmだから。
だいたい150cm。
近くで観たら。以外に若い顔をしていた。
「どうやって、ここにきたの!」
「う~ん。弩級魔法術を受け止めて、極級魔法術に『超魔神気』で突っ込んだら。半透明な空間が砕け散って気づいたら。落下してました」
顔を出して観る。
空色で水着みたいに密着した服の上に。
カーキ色のミリタリー風ジャケット。
煉瓦色のフレアスカートと言う、いで立ちだった。
体のラインが、くっきりで……。
「落下してましたって……」
「それにしても、古ぼけた格好してますね!」
謎の落下少女が、笑みを浮かべて言った。
別にそこまで、古くないんだがな。
「私は、レサーナ・アスリットです……」
自己紹介するべきか、悩みながらレサーナが自分の事を紹介した。
「俺は、レキス・アスリット。10歳です」
謎の少女が、左手を前に出す。
「おっと。私の名前は、ミリョーラル・アスリット。14歳になったばかりです!」
アスリットの親戚かな。
手を伸ばしてきたので、俺は右手を出して握手する。
突然、体の芯から魔力を抜かれたような感覚に襲われた。
「放して、ください……」
膝が、半透明な地面に落ちる。
「本気出してくださいよ」
「止めなさい!」
言いながらの前蹴り。
ミリョーラルさんが右腕を回して蹴りを受け止めた。
「巧い」
ミリョーラルさんを褒めてしまった。
「良い蹴りでしたよ、少し前腕が痺れました。私は寛大な心を持っていますから、さっきの攻撃は、無かった事に出来ます」
「……そう」
強い不思議ちゃんか?
「ところで、ミリョーラルさんは何年生まれ?」
「えっとー」
頭に右手一指し指を当て、考える。
「精暦4821年生まれになります」
未来人だったのか!
何でもありかよ……。
「えっ! 今は精暦1708年だから。3127年も未来から来たの」
「今は、精暦1708年なんですか!」
「この空間から外に出たら。1708年に出るわね」
「そんな! どうやって。元の時代に帰れば良いでしょうか?」
「『次元転送魔法』は使える?」
「数10年単位なら……。どうしよう……」
ミリョーラルの顔が、あおざめていく。
「3000年程度なら。私の魔力で送れます」
ここまで何でも出来ると、俺のやる気が無くなる。
「帰れるんですね。やった!」
飛び跳ねてはしゃぐ。
跳躍。
数10m跳んで更に、上空へと向かった。
「どうなってんだ?」
「(飛行魔法かな?)」
小声で呟く。
「少し違うわ。魔法術で飛んでいる訳ではなくて、魔力で空間に浮いているんだわ」
上空で水平移動、そこから加速。
遠くに飛んでいった。
「あの。ここは一体、なんですか?」
「ここは、外の時間を受けつけないない空間。この空間にいる間は、外の時間が進んでいないわ」
「時間が、止まっているんですか?」
魔法発動鞄を地面に置いて話を続ける。
「『時間止まりし具現の空間』ここは、そう言われている空間です」
「この空間の中で思った事が、実際に起こせるらしいわ」
思った事が、起こせる?
「解かりやすく言えば。この中で、ミファーネちゃんの事を考えれば。戦う事が出来るわ」
「修行に持ってこいな。場所じゃないですか!」
「そうね。この空間で、止まっているのは他にもあって。体の活動も入った瞬間に止まっているわ」
「へー。で、いつごろ出られますか。この空間から?」
レサーナがしゃがみ、剣を取り出す。
「4年位は、この中に居るしかないわ。1度入ったら決まった、日数が経つまで出られないと。古代書に記されていたから」
「4年も……」
「行きます」
何が?
レサーナが迫ってくる。右手のバスタードソードを、目で見た瞬間。
体に何か、当たった気がした。
古代書。
紀元前130万年以上前に製本されたと思われる書。
常に状態保存魔法と思われる失われた魔法が発動しているため、傷つかず。字が消えない。燃えない、破れない。
主に古代精霊魔法や失われた魔法が、記されていると云われている。
主に精霊慧大陸で発掘される。
中央大陸と北魔境でも発掘されたりもする。
家に代々伝わる古代書も存在するが、価値がとてつもない物ばかりなので秘匿している。
発見した者は、発掘場所の王国に発掘届けを提出する義務があり。
王国最重要保存品目となり。
本を開くのも犯罪になる。
王国の審査を通った場合のみ見ることが出来る。
アスリック王国が今までに支払った額の基準額。
数10冊同時に見つかったときは10億セイル払ったと云われている。
8000万~10億セイル。
最初のころより払う額が高くなっていることで、発掘される事を各王国は恐れている。
内容が、王国機密に該当する場合は、王国が代金を払い発掘者から回収する事になっている。
古代書を見つける為だけに冒険者をしている人もいる。
10世代以上。家で秘匿してされていたものは、対象外になる。
読み手に対して認識できる文字に変換される機能もあるとされる。
アルバレス商会料金表。
失われた魔法が記されたものは1冊、4億セイル。
古代精霊魔法が記されたものは1冊、9億セイル。
古代精霊魔法学が記されたものは1冊、15億セイル。
内容によって変動あり。




