第20話 ブラックゴブリンと人生
貸本屋の扉を、開いた瞬間。
ゴブリンが居た。
普通のゴブリンと色が違う。
俗にゴブリンと。
この世界で呼ばれているのは、体の色が緑青色のゴブリンだ。
そいつが修行でもしたのか、色が変化し煤竹色と茜色の2種類。
その2つの色になると。ゴブリン強化種と、呼ばれるようになる。
煤竹色の方は、色が黒くなるほど強くなるから。
ブラックゴブリン。
茜色の方は色が、赤いほど。強いことから。
アカゴブリン。
目の前に居たのは、ブラックゴブリンで。
完全なブラックだった。
あと、ホワイトゴブリンは超進種だ。
伝説の存在だった筈のこいつに、俺とレサーナは殺されかけた。
ブラックゴブリンの、後ろにある。冒険者ギルドの建物。
建物の1部と扉が、完全に凍りついていた。
『考えたな……。冒険者達を出てこれないようにする作戦か』
爆発していたのはクリヒヤ商店の扉で、店の中に砕け散った扉の1部が見えた。
『いったい何が目的だ。この、ゴブリンは……』
周りには、俺達6人だけしか居なかった。
建物をよく見ると、魔法円刻印銅版が防御浸透壁を建物、総てに発動していた。
あの銅版。正式名称は、魔法円刻印銅版。
その発動魔法が防御魔法、浸透壁だ。
貸本屋に入ったばっかりの頃と比べると。
空から明かりが、失われていた。
「魔法術は、回しながら発動してください」
ミファーネちゃんが指示を送った。
「任せろ!」
若草色の髪。その少年、フィアレス・イルークが左掌に右拳を叩きつけて言った。
「任せて」
柑子色の髪を、首の後ろに紐で結びながら言う。
『俺の出る幕。ないかもしれない……』
「我が力を変換し『火矢』発動』
フィアレスが、最初に魔法術を発動した。
ブラックゴブリンが、左側。クリヒヤ商店の方に足で滑りながら躱す。
『初めての実戦で、ブラックゴブリンですか……。どの程度の力か見せて貰おう』
「水撃」
詠唱文無詠唱で発動した。ミファーネの魔法術は、躱された。
「風撃」
トリシア・ミツカユも詠唱なしで発動した。
左に滑りブラックゴブリンが、躱したと思ったら。左腕を風に弾かれる。
「ルック。レリス、俺達は支援を軸に行くぞ」
「ルックはトリシアさんを。レリスは、フィアレスさんとミファーネちゃん援護で!」
「よし!」とルック。
「守りきります!」
6対1だけど、文句言うなよ。
「参戦します。援護を軸に入ります」
「敵の魔法術には、気をつけてください」
俺が、注意を促した。
「それは、解かっています」
「ブラストフレィム」
ブラックゴブリンが、右手を前に出して言った。
ブラックゴブリンの手に火炎とは、少し違う火炎が出現した。
『ブラスト。意味は、なんだったっけ。ブレスは息に近いものだったような……。爆破したりして』
「あ! ブラストは、爆破だ。爆発するぞ!」
「障外壁。レリス!」
「私の力を変換し『障外壁』発動」
障外壁の目の前で、火炎が爆ぜる。
障外壁だけでは、全ての衝撃を吸収する事が出来ず。ミファーネと俺が、吹き飛ぶ。
「ウォーター」
突き出した、右手に水が出現した。
爆破系の魔法術が使えるとは、気を抜けば……。
この戦い、全力で行かないと。たぶん……。
死もありうる。
「レリス。ルック、発動出来る限界まで。障外壁を発動しろ!」
「障外壁」
「障外壁」
「障外壁。障外壁。障外壁!」
「障外壁、障外壁。障外壁、障外壁」
ルックとレリスが、今までの中で最も多い連続発動をする。
総枚数。
9枚の障外壁。
「ハイドジェン、エクスプロージョン」
黒い顔の奥でどんな表情をしているのか、俺には解からない。
かなりの数を、発動した障外壁越しにとてつもない質量感じた、数cmの水球体を見る。
次の瞬間。
景色が、吹き飛んだ。
「ゴホッ。ゴハッ!」
気がついた時には、仰向けになって日が落ちた空を見上げていた。
起き上がろうとすると、右前腕に煉瓦の破片が乗っている事に気づく。
腕を振って、煉瓦の破片や砂を落とす。
右手を地面について起き上がると。
目の前の煉瓦道が数m陥没し、周りの煉瓦が消失していた。
受身を取ったので、殆ど痛みはない。
「痛たたたー」
トリシアが、起き上がりながら言った。
冒険者ギルドの建物とリーズ・マサドリ貸本屋だけが、傷ひとつなかった。
クリヒヤ商店は、見るも無残な壊れ方。
障外壁の反射力で少し威力が落ちた魔法術が、クリヒヤ商店の方に飛んでいた。
そのクリヒヤ商店は、殆ど全壊だった。
綺麗に屋根が、吹き飛んでいた。
支柱の先にある「光球」が砕けていた為。
明かりがない。
周りがよく見えなかったので、魔法を発動することにした。
「我が力を変換し『灯火』発動」
淡い光が辺りを照らす。
ブラックゴブリンの姿が、どこにもなかった。
『消えたのか?』
突如、クリヒヤ商店の中から光が零れた。
柱の木材が、上空で切れた。
俺は、見たことがある。剣を包むように発光するあれを。
鍛鉄した。頑丈な筈の剣が、あっさりと切れた。
ホワイトゴブリンの悪夢をまた見ることになるとは……。
「魔力流気。浸透剣……」
「広刃剣は絶対に。渡さないから!」
「待て!」
ミファーネが玉砕するかも知れないのに、突撃する。
「ちくしょう!」
足の力を抜き。縮地で追った。
久しぶりに使ったら。予想以上の加速。
たったの1歩で、5m以上進んだ。
目の前に居る、ミファーネに当たらないように「水撃」を発動しゴブリンにぶつける。
初ヒット。よろけたゴブリンからいったん2人共、離れる。
「あの剣に触れれば、簡単に切断されるぞ!」
「解かっていますけど……。返して貰わないと」
板の床に刺さった。片手半剣を俺が、引き抜く。
落ちていた、片手半剣をミファーネが拾う。
「ブラックゴブリンの剣に当たれば、終わりです。本当にやれますか?」
優等生風の喋り方は、ここまで。
「お父さんの指導が、誤っていなければ。勝てます」
お父さんっ子だな、ミファーネは。
「まあ良い。俺も、本気で戦ってみたかったしな!」
「どっちが本当のレキスさんですか?」
「来るぞ!」
ブラックゴブリンが、広刃剣を振り下ろしてきた。
左右。逆に飛んで、躱す。
俺に狙いを定めた、ブラックゴブリン。
突き、振り上げ。振り下ろし。
その3つの繰り返しのみ。
これなら、勝てる。
「我が力を変換し『火炎柵』発動せよ」
目の前に発動してけん制。
「火炎柵」
良いタイミングで、ミファーネが発動。
後ろに、火炎の柵が現れ。ゴブリンの動きを縛る。
「火矢連弩」
俺が、火炎柵を消した瞬間に発動。
瓦礫と火炎柵に阻まれ、ゴブリン。逃げ場は存在しない。
ゴブリンに火矢が刺さったと思ったら。体に火矢が刺さったままのゴブリンは、空中に逃げた。
数m跳躍して、俺の前に現れた。
『しつこい、ゴブリンだな』
剣を右から薙ぎ払う。
ゴブリンの振り下ろしを体を入れて躱し、その体勢から突き。
左に跳び躱された。
ゴブリンが静止する。
ゴブリンが、体の力を抜いた気がした。
嫌な予感しかしない。
ゴブリンの装備した剣が、床に当たった。
「死にたくなかったら。全員伏せろ!」
「えっ! どういう意味ですか?」
「不味い!」
なにかが飛んでくる、そんな気がした。
あまりやりたくなかったが、ミファーネの足を払って転ばせる。
俺もしゃがむ。次の瞬間、魔力が飛翔してきた。
飛翔体が残っていた柱を、切断して飛んで行った。
「魔斬撃破。そんな、まさか……」
知っているような言い方をした、ミファーネ。
『動作が大きいのが、せめてもの救いだが。どうすれば、こいつに勝てるんだ……』
魔斬撃波にでも切られたか。「灯火」の魔法が、消えていた。
「我が力を変換し「灯火」発動」
明かりを灯す。
外の景色が、真っ暗になっていた事に今。気づいた。
「我が力を変換し『煉獄火矢』発動」
どこからか、男性の声が聞こえた。
真っ白の火矢が、ブラックゴブリンを貫き。更にもう1本の真っ白な火矢が突き刺さった。
広刃剣が、ゴブリンの手から落下した。
ブラックゴブリンが、一瞬で燃え上がり炭化。
風が吹き、灰となって。骨も解けたのか、その場に無かった。
ブックゴブリンの姿が、完全に消えた。
「大丈夫か、ミファーネ!」
「なんとか……。大丈夫です」
後ろを振り返りながら言った、ミファーネ。
灯火が、男性の顔を照らす。
そこにいたのは、ベルフ・クリヒヤだった。
「君達。大丈夫?」
久しぶりに聴く、ファリルさんの声。
「はい……」
レリスが言ったようだ。
ファリルさんの声は、直ぐに解かった。
「なんじゃこりゃー! 店がー!」
遅れて驚く、ベルフさん。
戦いは、意外な人物のおかげで。あっさりと幕が下りた。
ベルフさんって、結構強かったんだ。
「あれ、足がグラグラする……」
気分が悪い。
「それにしても、最後の火矢はいったい誰が……」
そう言ったベルフさんが、目の前でいきなり大きくなった。
足全体に衝撃を感じる。
なぜか、膝を床についていた。
視界が、揺れる。
床に、頭を打ち付けた。
「大丈夫? レキス!」
レサーナの声が聴こえたような、気がした。
不意に、意識が飛散した。
全ての人生=オールオブライフ。




