第17話 強き者達
夏休みは、残り2日。
実質、今日が修行の最終日だ。
この道場での、練習メニューを今から行う。
どの程度、強くなっただろうか。
1ヶ月ほどで何が変わったか、なんて俺には解からない。
道場に入って、まず。準備運動みたいなものをして、練習用刃無し剣。
握りは両手で持てるようになっている。
その剣を周りに居る人達に、距離を取って貰い。
刃が無い以外は、本物の剣を両手を使って振り始める。
振り下ろしを40回。右袈裟切りを50回、左袈裟切りを50回。
振り上げ30回、突きを3種類で合計150回。
左右の薙ぎ払い。合計110回。
最初の休憩。
振り下ろしを20本を2回。
右薙ぎ払いを2種類、合わせて100回振る。
左薙ぎ払いを2種類、合わせて100回振る。
2度目の休憩後、剣を振った。
振り下ろし、20本を3回。右袈裟切りを20回、左袈裟切りを20回。
休憩後、館長の実演練習。
相手の剣を防ぐ、防御する。打ち払い、受け流しの動作を館長が行ったとおりに剣を動かす。
夏休みの間。このメニューか、走りこみだった。
休憩を挟んで、もう1度。振り下ろし40回に戻った。
最後の薙ぎ払いを振り切った。
やっと、夏休み最後の修行が終わった。
「夏期修行の方は、今日でさようならになります。最後の手合わせは、夏期修行の方に手合わせして貰いましょう」
「そこの2人に、お願いしましょう」
畳の上でルックと座っていたら。
目の前に、レサーナとセンクレイドが出てきた。
「お母さん?」
「親父!」
俺とルックが同時に驚く。
開けた、畳の上でレサーナとセンクレイドが対峙する。
「よろしくお願いします」
「受けて頂き光栄です。全力で、行かせて貰います」
「始め!」
世紀の戦いが始まった。
既に、合計で26撃目。
右に居る。センクレイドが、練習用刃無し剣をレサーナに突き立てようとした。
突きが、空気を撫でる。
レサーナの振り下ろしだったものは、途中で左からの薙ぎ払いに変わった。
センクレイドが畳を蹴って、後退する。
対峙するも、動かず。
センクレイドの左からの薙ぎ払いをレサーナが足を入れて躱す。
レサーナが、追撃。
振り下ろし後、突きからの振り上げ。
右足を前に出し、レサーナの近くで大きく息を吸い込む。
別に変態とかでは、なく。次の攻撃の為だろう。
全て体を入れたり、引いたりして躱したセンクレイド。間髪をいれず、怒涛の四連撃。
突き、振り上げから突きで最後に薙ぎ払い。
さらに、おまけの振り下ろし。
同時に息を大きく、吐いた。
レサーナは、剣で打ち払ったり。体を引いて躱した。
センクレイドの突きをレサーナが、合気道の入り身で躱し。
センクレイドの後ろを取った。
だが、センクレイドは対応してきた。
レサーナの振り下ろしを、自分の剣で叩く。
金属音。
数度、打ち合う。
レサーナの攻撃を、全て打ち払った。
センクレイドの反応能力はレサーナ並みか。
どちらも、体に剣を当てさせない。
俺とルック。さらに周りの、門下生も言葉が出ない。
それ程に、この手合わせは凄いと言うことだ。
レサーナが、右からの薙ぎ払いの軌道をかえ振り上げた。
それに対して、センクレイドは右足を後ろにさげ。体を後ろに倒して、躱す。
その体勢から、突きに入った。センクレイドが体ごと入れる。
レサーナの刃無し剣とセンクレイドの刃無し剣が、接触する。
空気に金属の接触する音を、流した。
センクレイドが畳を蹴って、後退する。
直後。
レサーナの薙ぎ払いが空気を抉った。
センクレイドが、右から薙ぎ払う。
レサーナが剣を短く振り下ろし、叩き付けた。
剣同士で、打ち合う。
数撃後。
レサーナが右から、薙ぎ払った。
センクレイドの剣が運悪く、弾かれる。
がら空きになった上体に、レサーナが攻撃を行うと誰もが思ったその時。
既に、センクレイドの剣がレサーナの右首筋で、ぴたりと静止していた。
双方が剣を下ろす。
「私の負けです」
「最後のは、ラナカトーサ流剣術の第2『流人』。ですね」
「知っていましたか、流石です。実戦だったら、俺の負けでした」
「互いに礼を!」
「「ありがとうございました」」
同時にレサーナとセンクレイドが礼と挨拶をした。
1人また、1人と拍手が起こる。拍手の音が大きくなっていった。
ルックが、最初に駆け寄る。
「親父。最後、剣が一瞬見えなくなってけど。あれなんだ!」
手にしたタオルで、汗を拭いた。センクレイドが一言。
「その内、解かる」
俺は、あれがどんな理論か解かっていた。
「教えてくれよー!」
駄々をこね始めた、ルック。
「お母さん。ラナカトーサ流剣術って、言いましたね」
「少しだけなら。私も、ラナカトーサ流剣術を知っているわ」
「『流人』の原理は至極簡単なんですよ。剣のグリップ、握りとも言いますがそれを軽く握り。剣を落とさない程度に力を抜き、一気に力を込めて振り抜く。それが『流人』の答えじゃないんですか?」
「そこまで、解かったのでも。まだ7割程しか、正解じゃないわ」
帯剣していた。練習用刃無し剣を抜剣する。
「残りの3割を実演して答えます。少し離れて貰っていいですか?」
周りにいた数人に、さがって貰い。剣を中段に剣道の構えに近い、構え方をして振り下ろす。
空気を切り裂く音が耳に届いた。
「ここからです」
左足を少し前に出す。右足を後ろにさげて、体を剣に対して同じにする。
右手だけで持っていた剣を、両手で持つ。
剣を持ち上げ、さっきの再現。
「行きます」
左足の力を抜き、体の力を抜く。
足に力を一気に込め。足から体に動きを伝わせて、右手に力を送るのと同時に右手の方から力を込め左手にも力を込めながら。剣を振った。
空気を切り裂く鋭い音が、聞こえる。
振りを終わる。剣の軌道は、一瞬も見えなった。
「足から手に力を伝えて、一気に力を込める。ですね」
鞘に剣を収める。
「原理はその通り。だけど、実戦で使えるかしら? 相手より早く剣を動かせないと、反撃されるわね」
「ですよね……」
「静止が重要だからな」
センクレイドが、良い事を言った。
「力を抜いたら。受け止められないし、振れないだろ?」
ルックが大きく手を広げて、質問した。
「違う。力を入れる所では入れ、力を抜く所では抜くんだ。ここまで聞いて、まだ解からないだろ。それだから、その内。解かると言ったのだ」
センクレイドが、厳しい一言を発した。
「帰りましょう。レキス」
「そうですね。家に帰りましょう」
4人で道場を外に出て、お別れの挨拶を交し合った。
2人と別れる。
晩ご飯を食べ。
城壁の外に出ると、レサーナが予約しておいたのか馬車が待っていた。
それに乗り込み、馬車の荷台。
剣の鞘を両手で掴み。
体に固定し、ゆらゆらと揺らされていたら。
いつの間にか眠ってしまったのだった。