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第12話 クレアス王国へようこそ

 夏休み最初の朝。

 レヴァン曾お爺ちゃんが、台所で調理をしていた。

 生姜の香りが流れてくる。

 豚肉を焼く、音が聞こえる。

「どうするか、決まった?」

 レサーナの、目を見て言う。

「クレアス王国に行きます」

「解かったわ。朝ご飯を食べたら、クレアス王国へ向かいましょう」

「はい!」

 レヴァン曾お爺ちゃんが豚の生姜焼きをお皿に乗せて持ってきた。

 俺は「いただきます」も言わずに、食べ始めた。

 


 馬車広場の一角にある。乗合馬車や辻馬車の発着所。

 近くに見える厩舎(きゅしゃ)は木の板に覆われていて、馬の姿は観えなかった。

「忘れ物は無い。レキス」

「はい、魔法術師の認定証、木剣。着替えを入れたバックパック、全部あります」

 話し終えた瞬間。黒いチョッキ、ジャケット、ズボンの三つ揃いを身に着けた小太りな中年男性がどこかともなく現れる。

 琥珀色の髪は、整髪剤でも使って固めたのか光沢感があった。

「お待ちしておりました、レサーナ様。ご予約いただき、まことにありがとうございます。

 本日は遠距離乗合馬車を貸切にてご用意いたしました」

 いつの間に予約したんだ?

 

 そもそも、乗合馬車はまだ来ていないが。

 疑問を頭の中で浮かべる。

 不意に、なにかを叩くような音とともに微かな震動を感じた。

 振り返るまでもなく、馬蹄に付けられた金具と煉瓦が奏でる音だと気づく。

 

 一瞬にして左側に大きな乗合馬車が横付けされた。

 

「シーファ・プロプール社が、快適な旅をお約束します」


 これは本当に馬車なのか。

 小屋より大きい車体に、白銀に輝く扉の取っ手。

 白塗りの扉が高級感を演出していた。

 唐突に、馬が交換され始めた。

 五頭全ての馬が厩舎から出された新しい馬に替えられていく。

 人の動きに修練の高さが伺える。

「この町はもともとクレアス王国とラナカトーサ王国を繋ぐ経由地として発展していて。

 そう言う土壌があるから、人口の増減が激しいの」

「へー、そう言った歴史があったんだ」


「お待たせしました。どうぞ、お乗りください」

 車掌に割り込まれたので、乗合馬車へと視線を向け直す。

 白い扉の前に木製の階段が置かれてあった。

 その左上に、えっと……。

 なんだっけ?

 馬車を操る人は確か。

 御者(ぎょしゃ)だ。

 それにしても随分と高いところで鞭を持っているんだな。

「乗りましょ」

 先に乗り込むようだ。四段の階段を昇るお母さんの肌は相変わらず美肌だな、などと思いつつ。

 同じように乗合馬車の中へ。

 車内は俺が楽に立っていられる空間があった。

 長椅子は程よい弾力、車内の装飾から滲み出る質感。

 初めての乗合馬車に気持ちが高まる。

 しかも、貸切で乗る贅沢。

「それでは、発車いたします」

 上から車掌の声とともに鐘の音が下りて来た。

 荒々しくも、ゆっくりと動き始める。

「屋上席から声を掛けたのよ。乗合馬車では、一番安くて風が心地よかった」

 景色の流れがどんどん加速していき。過ぎていく時間のように光景が移り変わる。

「場所で行くのはクレアス王国の、国境の町」

「国境の町。なんだか、いい響きです」

 話の途中で帯剣用革紐を外し、備え付けられてあった剣棚に立てかけた。

「そう? かしら、でもね。余り、いい所でもないわよ」


 クレアス王国。王都についたのは、夜だった。


 乗合馬車が以外にも快適だったので、つい眠りそうになったが。馬車旅の興奮で押さえ込んだ。

 そういえば、必要な生活用品全般、レサーナの魔法発動鞄に入っていたな。

 馬車から降りた俺たちは、ありきたりにも宿屋を目指して歩いていた。

 舗装されていない歩きにくい道。そして、リアル中世ヨーロッパみたいな陰気臭さが漂っていて。


「薄暗いな」

「国境の町だから。高価な光球を設置していないのよ」

「国境だからこそ。必要な気がしますが?」

「永続灯火」

 レサーナの右手、人指し指の上に光が灯った。

 オレンジ色に白色が入った、光が辺りを照らす。

「舗装もされていませんね」

 宿屋を目指して、歩きながら会話をする。

「アルバレス商会。知っているかしら?」

「始めて聞きます」

『マサドリ。クリヒヤ商会、アスリット総合貿易商社。なら知っているが……』

「アルバレス商会。それは、会社と言う化けの皮を被った。犯罪組織。人身売買(じんしんばいばい)や王国機密魔法術。煉瓦すらお金に換える、出来れば関わりたくないわ」

 凶悪さは十分伝わったが、俺の頭の中に疑問が浮かび上がった。

「そこまで、アルバレス商会が悪い事しているのが。解かっているのに、まだ存在しているんですか?」

「まず、証拠がない。王国へ間接的に利益を与えてくれるから、王国内外に協力している人がいるのよ」

「非公認の犯罪組織と言われる、所以(ゆえん)かしら」

「宿屋が見えたわ。行きましょう」

「初夏の宿屋」と看板に書かれていた。

 レサーナが魔法を消し、宿屋に入って行った。


「何日、泊まるかい?」

 女主人が言った。

「1泊。食事、夜と朝」

「そうかい。フォスターマウント室の鍵だよ」

 1階の酒場を尻目に、2階に向かった。

「へー。部屋に地名が、割り当てられているんですね」

「余り、大きな声を出しちゃ駄目よ」

 部屋にレサーナが、入って行った。

 俺も、部屋に入る。

 感想を言わせてもらおう。

 殺風景な部屋だ。

 ダブルベットが1つ。今にも壊れそうな、木のテーブルと2脚の椅子。

 あと、ガラス窓が1つだけだった。

 ベット、1つだけなのかよ!

 レサーナが魔法発動鞄から、剣を取り出した。

「受け取って」と一言。

 鞘が付いた、剣を渡された。

「重い! 本物ですか?」

「アスリット練習用刃無し両手半剣。2.4kg今日からこれを使いなさい」

「ありがとうございます。凶器だと思い気を引き締めて頑張ります」

「その意気を大事にしなさい。遅くなったけど、晩ご飯を食べに行きましょう」

 俺は、帯剣用の紐をベルトに巻きつけ。左腰に、練習用剣を装備した。

「あら、帯剣用の紐もう持っていたの……。じゃ、降りましょ」



 食事中に「雷撃(らいげき)のレサーナ」

 と数人から聞こえた気がするが、お母さんは有名人だったのかな。

 食後。

 レサーナから、明日の予定を部屋で、話なされた。

 同じベットで眠った。


 朝、朝ご飯を食べ。俺たちは走っていた。

「待てー! レサーナ!」

「クロラールをやっといて、逃げるか!」

 走る。

 舗装されていない、辻道を曲がりながら、走る。

 レサーナを見失なわないように、必死に走った。

 クレアス王国の王都を目指して、走る。

 やっと、レサーナに追いついた。

「何してるんですか! お母さん」

「もう! 目の前に立ち塞がって。仕事を手伝えとか言うから、手を出して『退()いて下さい』って言ったら。手を掴んできたから、突き飛ばしちゃったのよ!」

「完全にこっちが。悪いじゃないですか!」

 走りながら、喋ったら。息がかなり上がった。

「やっぱり。ラナカトーサ王国にするべきだったわ」

 初日から、逃走だなんて。

『足がそろそろ、限界なんだが……』

「こっちだー! 見つけたぞ」

 しつこい!



 どれ程の時間。走っただろうか。

 目の前に、数10mの城壁がそびえ建っていた。

 質感がすごい。

 石作りの城壁。

 木製で巻き上げ式と思われる。扉があり、その近くに詰め所があった。

 近くに、門衛が3人いた。

 1人が片手半剣を帯剣。別の2人が、ショートスピア。短槍を手に持っていた。

 門衛いる場所まで、歩いていく。

「身分を証明できるものを、持っていますか?」

 城壁を見上げていたら、胸壁から弓を持った兵士が現れた。

 確か、矢狭間(やはざま)とも言ったかな。

「レキス。魔法術師の認定証を出して」

「あ、はい」

 認定証を門衛に渡す。

 別の門衛が話し始めた。

「入場料は、1人。2000セイルです、何日滞在しますか?」

「30日程ね」

 レサーナが4000セイルを門衛に渡した。

「クレアス王国へようこそ」

 木製の扉が上がっていく。

 俺はレサーナの後に続いた。

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