第11話 決意を新たに
目蓋を開き、2年程前に買ってもらったベッドから降りる。
同じ頃に取り付けられた、部屋の扉。
扉を開け、部屋から出る。
洗面台の鏡を見る。
元日本人の顔ではなく、レキス・アスリットの顔だ。
通路を挟んで、ある。台所に向かう。
途中に、2階へと向かう階段。
台所には、2人の人物がいた。
近くにいるのが、母親のレサーナ。
ガスコンロに似た。
正式名。
魔力起動魔法術発動火炎石点火機能付きコンロ。
そこに居る、曾お爺ちゃんのレヴァン・アスリット。
鶏肉と野菜を、炒めていた。
「おはようございます。お母さん、レヴァン曾お爺ちゃん」
「おはよう。レキス」
先に、母親から返された。
「おう」
レヴァン曾お爺ちゃんの返事が、素っ気なかった。
「朝ご飯。出来たわ」
俺は、お皿を運ぶことにした。
今日の学校での、授業が終わり。
ルッセント・ワークと一緒に、帰っていた。
「明日から、夏休みかー」
ルックが、嫌そうに言った。
「なんか、予定でもあるか?」
「剣術の練習。はっきり言って、かなりきつい」
「大変だな」
「ところで。3年4組で一番魔法術を発動できるのは、レキス。俺、レリスだな」
歩きながら、ルッセント・ワークことルックが言った。
「レリス? レシアー・カレリスのことか」
「そう、お! じゃあな。レキス!」
「ルックもな」
ルックが、2階建ての木造建築の家に入っていった。
それにしても、いつになったら。中級の魔法術を使えるようになるのだろうか……。
俺は、ここまでの人間なのか。
考えすぎかな。
明日から、3度目の夏休み。
家で晩ご飯を食べた後。
レサーナと雑談していた。
「意外です。アスリット家とラナカトーサ家が、クレアス王家に仕えていたなんて」
「1000年以上、前の話だから。本には、載ってないわ」
「ところで、夏休みの間。クレアス王国に、修行しに行かない?」
「え?」
台所がある部屋。テーブルを挟んで暫く、見つめ合う。
「え、でも……」
「それよ。魔法術の練習がしたかったようね。物事は、はいかいいえ。しかないのよ」
言葉が出ない。
「レキスに足りていないものは、判断力。信念、それは冒険者にとって、なくてはならないもの」
「それを、見つける為にも……自分で決断しなさい」
「風に当たってきても、良いですか?」
「良いわ」
俺は、巻き藁がある場所に向かった。
中段右回し蹴り、左前蹴り。
右ストレートを巻き藁に打ち込んだ。
「解かんねえな。俺には、解からんよ」
上段右後ろ回し蹴り。
「前世の記憶があるから、悩むんだよ!」
巻き藁に左ジャブを打ち込む。
「俺は、何がしたいんだ!」
右ストレート。
両手に、燃えるような痛みを感じる。
感じる痛みさえ、怒りに変わって行く。
「答えが、知りたいんだよ!」
右拳と左拳を交互に巻き藁に、叩き付ける。
「異世界なんだから、答えを教えてくれよ!」
何度も、拳を打ち込む。
「くそー。痛い!! 俺が弱いからか? 理想が、高すぎるからか」
右正拳突き。巻き藁に叩き込もうとして、途中で止めた。
よく考えたら、俺は誰でもない。
俺は……。
いつの間にか、レサーナを目標にしていた。
そして、いつまでも。その差が縮まないことに俺は、焦っていた。
親に憧れ過ぎて、自分を見失っていた。
特に、前世がそうだ。
物語の主人公に憧れる。
今まで、生産者になろうとして来なかった。
これまで、ただ。作られたものを、消費するだけの、平凡な消費者だった。
俺は、レキス・アスリットだ。
自分の人生は、俺にしか作れない。
人生は秀作か、駄作かじゃないんだ。
人から見て、駄作の人生だったとしても。
俺は、秀作だったと言える人生を歩みたい。
手の届く強さを俺は、求める。
それが、秀作の人生の1歩だと思うから。