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嘘だらけの契約恋愛  作者: 如月あい


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番外編。雨降る日に②

連続投稿注意。

 温かいスープが喉を通ると同時に、身体が内側からじんわりと温まってくる。しかしながら、何故か急にむせてしまい、目の前にいたマルティナが不安そうにこちらを見た。

 数日ぶりにまともに食事を取ったので、胃がびっくりしてしまっているようだった。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

 レオは何故か、レクセル家の食卓に招かれていたのだった。ラーシュは最初、自分の娘とレオを同席させることを渋ったが、マルティナがそれを一喝し今に至る。

 どうやら喧嘩はしても、常にマルティナの方に主導権があるようだ。

「おにいちゃん、かぜ?」

 その様子を見ていた女の子が父親にそっくりな緑色の目をこちらに向けて尋ねた。

「違うよ。ちょっと咳き込んじゃっただけさ」

「ビアンカ。袖が危ないわ」  

 ビアンカと呼ばれた女の子は、母親に指摘されてようやく、自分の袖がスープに浸ってしまいそうになっていることに気づいた。それくらい、興味深げにレオのことを見つめていたのだ。

「ビアンカちゃんは、いくつ?」

「さんさい」

 レオが問うと、舌足らずながらそう答えて、指を三本立てて見せた。にっこりと笑うその笑顔が愛らしい。

「三歳か」

 十二歳だった妹にも、かつてはこんな頃があったのだ。

 そう考えると、急に、妹がもういなくなってしまったのだということが現実味を帯びてくる。

「だいじょうぶ?」

「……っ……大丈夫だよ」

 三歳児に心配をかけるわけにはいかない。こみ上げてきたものをぐっとこらえて、レオは顔を上げた。

 するとその様子をじっと見つめていたラーシュと目があった。娘と話すなとでも言われるかと身構えたが、意外にも、彼は先ほどの剣呑さを取り払い、穏やかにこちらを見ていた。

「話は後。とりあえずご飯を食べましょう」

 マルティナはそう言うと、隣にいるビアンカにパンを取り分けた。

 食事の間は、一切レオには話を振ってこなかった。それが夫妻の気遣いだと分かっていたから、レオもまたそれに甘えてただ黙って食べていた。

 食事中の会話はビアンカ中心に回っていた。

 この短い間だけでも、この夫婦がどれだけ娘を大事にし、会話を楽しんでいるかが伝わってくる。


「さて、ビアンカは本の時間ね。マーサに読んでもらっていらっしゃい」

 食事を終えると、マルティナはそう言って立ち上がり、後ろに控えていた乳母らしき女性に彼女を預けた。

「おにいちゃんは?」

「お兄ちゃんは明日、きっと遊んでくれるわ」

「マルティナ!」

「あら、心配ならあなたもいればいいでしょ」

「とうさま、あそんでくれる?」

 こてんと首をかしげて聞いた彼女は、非常に可愛らしかった。ラーシュはそれを見て言葉を詰まらせ、そして大きくため息をつく。

「……わかった。わかったよ。分かったから、今日は行ってきなさい」

「やくそくね!」

 にっこりと笑ってうなずくと、彼女は元気に部屋の外に出ていく。

 それを微笑みながら見守っていたマルティナは、もう一度席に着いた。

 そしてさきほどよりはやや真剣な表情をして言う。

「さて、聞かせてもらうわ。ズドラジル家の悲劇からたった三日でここまで来た方法と、これからあなたがどうしたいのか」

 レオの家があったズドラジル領からレクセル領までは馬車で二日かかる。

 何のつてもなかったはずのレオが今ここにいるのは、確かに早すぎると思われても仕方がないだろう。

「俺は……私は、とにかく屋敷から逃げました。生き残っていた使用人にも、生きろと言われたので。走っていたら、ちょうど顔見知りの商人が拾ってくれて、馬車でこの街まで来ました。でも、これ以上は迷惑をかけられないので、この街で降りたんです」

「あなたはどうやって助かったの?」

「あの日、私は庭の木の上に登って本を読んでいました。そしたら眠くなってしまって。起きて屋敷に足を踏み入れたら、すでに血の海でした」

 屋敷に足を踏み入れた時のあの光景は一生忘れらないだろう。血に染まる床や壁、独特の匂い。かすかに息が合った者のうめき声。

「父と妹は……すでに、死んでいました。母はかろうじて生きていて……見つけろと」

「え?」

「殺した相手を、見つけろと。……だから、復讐を誓ったんです」

 マルティナは何かを考えているようだった。机を指で何度かたたいて、目を閉じている。

「先ほどおっしゃってましたよね? ブレイハ伯爵家が関わっているのではないかと」

「単なる憶測だ。確証はない」

 レオが身を乗り出すようにして聞いたその質問に、答えたのはラーシュだった。

「それに、もし本当にブレイハ家が関わっているなら……君はかなり危険な立場にある」

「確証はなくとも、そう思わせる何かがあるんですね?」

 もしブレイハ家がまったくの白だったら、彼がこんな話をすることはないはずだ。つまり、ブレイハ家には疑われるだけの理由がある。

 それにブレイハという名前は、両親の口から聞いた覚えがある。レオが両親が言い争っているのを立ち聞きしてしまった時に、母が口にしていたはずだ。

「ないとは言わない。だが……」

「それなら、俺は行きます。確証がないなら、調べます」

 復讐こそが、生き残った者の使命だとレオは思った。それが母の願いだと。その手がかりが少しでもあるのだったら、レオは命をかけてそこに行く。

 そしてもし、家族の仇を見つけたら、レオは迷いなく相手を殺すだろう。 


「策もなく行けば、死ぬだけよ」

 

 そんなレオに突き放すような声を浴びせたのは、意外にもラーシュでなくマルティナだった。

「もう少し強くならないといけないし、証拠も集めないと、復讐はできない。あなただって、まさか無罪かもしれない人を殺す気はないんでしょう?」

「それは……」

 彼女の言っていることは正しい。今のレオは身体的な力もなければ、絶対的な確信もない。ブレイハという名前だって、この夫婦が話題に上げたから思い出した位だった。

「ねえ、ラーシュ」

「……言いたいことは分かった。渡りに船ではある。アデラからの依頼もあるからな。でも、それはこいつを利用するってことだぞ?」

「そうね。でも、私たちに利用されても、自分の復讐を果たせるなら、この子は気にしないんじゃないかしら?」

「下手に動かれるよりまし、か……」

 この夫婦はお互いの思考がある程度読めるらしい。言葉以上の情報を共有し、議論できてしまうようだ。おかげでレオは何のことかさっぱり分からず置いてけぼりだった。

「どういうことですか?」

「もしお前が、俺たちに利用される形でもいいなら、ここにいろ。復讐の手伝いをしてやる。ブレイハ家はどのみち調査する予定だったんだ」

「……利用するとは?」

「俺たちはとにかく、外から調べられることを全て調べる。その段階でもし、ズドラジル家への関与が認められたなら……お前が中にもぐりこんで調べてこい」

「潜入するということですか?」

「ああ。少なくとも数年はかかるだろう。そこで、ブレイハ家を完璧につぶせる証拠をそろえてこい。それはお前の復讐にもなる。もし協力してくれるなら、俺たちはお前に力を貸そう。今は慎重に証拠集めをしたいから、お前が勝手に動くよりは都合がいいんだ」

 悪くない話だとレオは思った。

 利用するとは言っているが、そう明言するぐらいには誠実である。

 それにマルティナの言葉どおり、このまま闇雲にここを飛び出してもレオにできることは少ない。それならばレクセル侯爵に力を貸してもらえた方が、復讐の成功率は上がる。

 

 ――証拠を集めたら……殺してやる。

 

 侯爵はもちろんそれをよしとしないだろうが、証拠を集めた段階で、彼らへの義理立ては終わりだろう。

「今日はとりあえず休みなさい。部屋を用意させたから」

 マルティナがそう言って、傍にいた侍女を呼び、レオは部屋へと案内された。







 レオが出て行った部屋では、マルティナとラーシュが向かい合って座っていた。

 二人はただ黙って食後の紅茶を飲んでいる。

 さきほどまではいた使用人たちも、今は全員出払っていて、部屋には二人だけだった。

「お前は、あいつがズドラジルの人間だと分かって連れ込んだのか?」

 長い沈黙を破ったのは、ラーシュだった。

「いいえ。でも、焔をまとっていたわ。焔呼びには初めて出会ったけど、確か強い感情が焔を呼ぶんでしょう? あの子は……良い感情でそれを呼んでいるとは思えなくて」

「それでつい声をかけて、あれか」

「でも……あの頃に比べたら強くなったわ。歌を歌わなくてもあなたはずぶぬれだったでしょう?」

 マルティナは自分が誘拐された時のことを思い出して、ふと目を細めた。

 あの時はまだまだ水使いとして未熟だったために、かなりきわどい目にあったのだった。

「もともと雨で濡れてたけどな。それに、強くなってあんな無茶をするくらいなら、おとなしく守らせてくれた方がよっぽどましだ!」

「ラーシュはいつでも助けてくれるって信じてるわよ」

「そういえば俺が懐柔できると思ってるんだろ!」

「あら、違う?」

「違わないから腹立たしい……」

 ラーシュは紅茶をぐいっと飲み干すと、カップを少し乱暴に置いた。

「アデラから連絡をもらったのが一週間前。レオが現れたのが今日。これはきっと何かのめぐり合わせよ」

「マルティナはいつだって嵐を呼んでくるよな。水じゃなくて」

「水と風が一緒にいるからでしょうね」

「ああいえばこういうし……全く!」

 


 こうして二人は少年レオを受け入れた。

 まさか彼と、彼が出会うお嬢様の物語が、この国にいつまでも語り継がれることになるとは知らずに。 



新連載である「愚鈍姫」につながるお話でもあります。

レオという少年を通しての二人の未来、楽しんでいただけたでしょうか。

この先のお話も番外編として投稿予定ですが、それは話の内容上、「愚鈍姫」を完結させてから、随時投稿していきたいと思います。


ちなみに、この後に続く話はもっと明るいお話になる予定です。


なお、もし愚鈍姫を読んでくださる気のある方は、次の話からは愚鈍姫本編終了後の話になりますので、そちらを先にお願いします。

嘘だらけの契約恋愛だけでも十分!という方は、このまま読んでいただければと思います。

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