表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bloody Iris  作者: 翌檜.Rёn
7/8

第6章「影溶-前編」

 レイス達は、邸内に侵入してからは、各々が事前の作戦通りに、独自で行動をしていた。

 エデンは、邸内中庭の憲兵の始末。アイヴィスは、リスト邸のメイドに扮し屋敷の使用人等を薬で眠らせ、騒がれない様に。アルフレッドは、邸内警備の憲兵の始末。……そして、レイスは標的である、リスト議員の抹殺に……。

 薄暗い邸内…。先行して入った、アルフレッド・アイヴィスのお陰で、レイスは人に遭遇せずに済んでいた。

「………」

 納得したつもりであった。

 しかし、やはり何処か割り切れないモノが…(わだかま)りが、胸中には渦巻いている。

 

『世界戦争は終結し、ファンタズマゴリアの乱れは治まりつつある…。しかし、未だこの国は、東西の分裂という内乱で乱れている。また、その混乱に乗じて、暗殺を生業とする暗殺者統括機構(アサシンズギルド)等というものまでが生まれている……。国の大三原則に‘平和主義’……他国に侵略せず、又侵略させずというスローガンを掲げる我が国にその様な機関が存在してはならないのだ……!』

 

 ディンの言葉が、レイスの頭の中で、蘇る。

 その言葉や、ディンが理想とする、完全平和の世界の話しを説いている時、レイスは自らがディンが、最も忌み嫌う下手人という事を忘れ、熱心に聞いていた。

 滑稽かもしれない。しかし、レイス自身ディンの理想とする世界が見てみたかった。

 彼の夢を自分も実現させたかった。

 

 

 ……しかし、運命はレイスを認めない。

 まるで、レイスが血に塗れた世界でしか生きる事が出来ないのを表すが如く。

 

 

「ここ……ね」

 

 そこは、ディンの寝室の前。

 レイスは、震える腕で扉を開く。

 

 

 その頃、アイヴィスとアルフレッドは、邸内で合流していた。

「あ、アルさん。首尾はどうですか〜」

「アイヴィスか。こちらは、全ての憲兵を消した。そっちはどうだ?」

「私も大方の使用人達とターゲットの家族を深眠させました。……ただ……」

「ただ…何だ?」

「レイスちゃんが言ってた…‘友達’の、ターゲットの孫、ペトルーシュカ・リストの寝室が見当たらないんです」

「何…?どこか見落としたんじゃないのか?」

 アルフレッドは、有り得ないと思いながらも、そう口にする。

「いえ…きちんと屋敷の隅から隅まで捜しました。ターゲットの部屋以外は、ですが」

 アルフレッドは、もしやの場合を考えて、渋面になる。

 

 

 

 

 

「まさか…な」

 

 

 

 

 数多の本棚が壁に並び、部屋の中央には、ディンが眠るベッドがある。

 レイスは、ディンと自分以外に誰も部屋に居ない事を十分に確認し、ディンの元へと足を進める。

 今夜は、満月。

 月明りが、窓から部屋に差し込み、ディンの顔も照らされる。

 天蓋付きだが、絢爛な装飾もなく、どちらかと言えば質素な感じのベッドに眠るディンの顔は青白い。

「え・・・?」

 レイスはそんなディンの顔を見てある事に気づいた。

 

 青白い―――青白過ぎる。また、生気が全く感じることが出来ない。

 そこに眠るのは只の人形の様に、生物としての気配がない。

 

 そして、極めつけに、レイスはディンの胸が上下していない事に気づいた。

 

「あ・・・ああぁ・・ディン・・・さん!」

 その事・・・に気づいた瞬間、レイスはディンの元に駆け寄る。

 レイスの想像通り、ディンは既に事切れていて、その肌は氷の彫刻の様に冷たかった。

「な、なんで・・・」

 自らが暗殺する間に死んでいたディン。レイスは疑問を宙に投げる。

 

 

 

「クク・・・」

「ッ!!」

 ディン以外は居ないと思っていた部屋に突如として、真後ろから声と共に気配と殺気が出現し、レイスは振り向くと同時に身構える。

 そこに、一人の男が壁にもたれ掛かるようにして居た。

 頭には、黒い頭巾を被り、口元と顎の部分を盗賊の様に布で三角に隠しており、その体には灰色のローブを纏っている。

 

 見るからに男は、レイスと同じ裏稼業者・・・暗殺者だった。

 

「天下のALICEがこんな小娘で、そのうえ標的の死を悼んでやがる。・・・これは、傑作だぜ」

「誰!?」

 男は、壁から離れ部屋をゆっくりと歩き出す。

暗殺者統括機構アサシンズギルド所属、A級暗殺者、グレイル・ペンヴァー」

 

 そう言った男の腰には、血に塗れたナイフが妖しく煌めいていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ