第2章「光の中に咲く一つの闇花」
午前の授業が終わった後、レイスはペトラやその他親しい学友達と共に、レイスが通う、ベルファリンの郊外にある私立中学校「トゥインクル」の芝生が広がる中庭で昼食を取っていた。
「あ、そうだ。昨日さぁ、またALICEが出たの知ってる〜?」
文庫本サイズの弁当箱をつつく一人の少女がふとそんな事を言う。
「えーそうなの!?で、誰がヤラれちゃったの?」
「今朝の新聞に書いてあったんだけど、東の軍隊のクレイって言う人らしいよ」
一人の少女が言ったクレイと言う名前にペトルーシュカは反応する。
「あ、そのクレイって人なら知ってるー。なんでも、有名な貴族の出身らしくて、いろいろと悪い事してても、逮捕とかできなかったらしいよー」
「ふーん、そうなんだぁ。ねぇレイスは何か知ってるー?」
「え?」
突然話を振られ、それまで忙しなく動かしていた箸から、卵焼きをポロッと落とす。
「ごめん、何だっけ?……あ、そうかALICEの事?。えーと、うん知ってるよ」
レイスは少し焦り気味に言う。
「え、なになに?何を知ってるのぉ?」
そう言われレイスはさらに焦る。
「え、あ、えーと、そ、そのクレイって人がやってた事とか?えーと…なんか、軍の上層部への賄賂だとか、自分の気に入った女の人とかを、兵士を使って掴まえて、自分の家に監禁したりとかー…」
「げ、本当?最悪。新聞に載ってた写真見て、結構格好いいと思ったのに」
「まぁ、いい人ならALICEが狙うわけないじゃない。それにしても、よくそんな事知ってたねぇ、レイス。本当にあなた変わってるわよねー。今日の歴史の時間といい、その異常な弁当といい……」
そう言い、少女はレイスが膝に乗せる弁当箱を見る。
それは、広辞苑並の厚さ大きさをほこり、さらにそれが4段にもなっている。どう考えても、大人でも一人で食べれない量である。
「レイスのその小さな体にどうやって入るのかしら……」
ペトルーシュカがしみじみと呟く。
「うーん、ちょっとレイス立ってみて」
「うん…」
レイスは、重箱を芝生に置き言われたとおり立ち上がる。
レイスの年代の平均的な身長に対して、作られている、トゥインクルの制服……それは全くレイスにあっていなかった。
袖からは手がでず、スカートはズリ落ちそうになるので、制服の下でサスペンダーで止めてあった。また、私服で街を歩こうなら、よく初等部生徒に間違えられる。さらに言うと、たまに制服でも友人達と共に居なければ間違えられる事がある程背が小さい。
「うぅ…背が無いのは言わないでよ……」
レイスはいじけつつ言う。
「無いのは背だけじゃないんじゃない?」
そう言われ、レイスは首をかしげる。
「ほら、ココとか♪」
そう言い、一人の少女がレイスの胸をペタッと触る。
そう、ペタッと。
「うるさーいッ!!それを言わないでーッッ!!!」
その叫びと共に、皆は笑い出す。
レイスもふて腐れてはいるが、それを嫌とは感じていなかった。
―――――いや、逆にそれは心地良かった。
自分のような暗殺者がここに居られる。
幾度もその手を、なんの感情も無く、血に塗れさせてきた自分が表の世界に居る事が出来る。
それは、何よりもうれしい事だった。
故に、レイスは思う事がある。
『自分は、本当にここに居てもいいのかと。』
幾ら悪人と言えど、人が人を殺すのも『悪』であると、レイスも自覚している。
だから、悪の一人である自分が―――――闇である自分が、ペトルーシュカや、クラスの友人達と共に、『光』の中に居てもいいのだろうか。
何度なく考えるもその答えは浮かばない。
それに、レイスには約束があった。
『あの人』と交わした大切な約束があるから、私はここに居なければならない。
………レイスは、考えるのを止め、澄み渡る青空を仰いだ。
そして、誰にも聞こえないように呟く。
「ねぇ…なんで私にここに行けって……学校に行けって言ったの………」
「前代「L」・・・Lukeさん…」