第1章「独欧瑠-ドール-」
「……イ……レイ…Laiss・Cloverー」
「ん…」
机に突っ伏して、昨晩のの仕事で奪われた睡眠時間を補給していたレイスは、呼び掛けの声に、のっそりと顔をあげる。
「起きたぁ、レイス?」
「うん……ありがとうペトラ…」
レイスは未だぼんやりとする目を瞬かせながら、起こしてくれた友人、ペトルーシュカ・リストに手を振り感謝の意を示す。
「あんまり良く寝てるから起こそうか迷ったんだけど、ほら……先生がすごく睨んでる……」
そう言われ、レイスが前を見据えると、そこには教鞭を折りそうな程握り締め、昨晩の憲兵よりも殺気の籠った目付きで睨んでくる、歴史科の女教師が居た。
レイスは、その視線を真っ向から受け止める。
………完全な沈黙。
それを先に破ったのは女教師の方だった。
「クローバー、独欧琉国が何故東西分裂をする事となったのかを答えて見なさい。汎世界闘争と関連づけて」
レイスは、自分達中等部学生では少ししか習わない独欧琉国東西分裂と汎世界闘争の事を答えろという女教師に多少の嫌悪感を感じながらも、ゆっくりと口を開く。
「汎世界闘争……世界に存在する、十一の大国と数多の小国が資本主義側と社会主義側…俗に東西に分かれ争った戦争。この戦争で、ドール国がある邦州地方の国々はほとんどが西……資本主義側だったけれど、当時のドール国はそれまでの、『爵』の位を持つ貴族達が各々に与えられた領地を治め、さらにその貴族達の上の一人の皇帝が国を支配する、一種の封健領主制度であり、社会態勢は社会主義を取っていました。また、異邦人打ち払い令等、完全な鎖国もしていました。しかし、その鎖国のせいで、技術の進歩が他の国々に劣り、ドール国は大敗に喫っしました。その後、東側でドール国と肩を並べる大国の中の大国『ジパング国』と、ドール国の他に邦州で唯一の社会主義国である『楼麻国』も敗北し東側は完全に『星米』率いる西側に降伏しました。
その後、ドール国では資本主義による民主制度の風潮が高まり、遂にPG歴789年……汎世界闘争終戦から五年後にドール国は人民が主権を持ち、政は、人民の中から選挙によって選出される議会員と、大統領と呼ばれる者が行う事になりました。しかし、それまで社会主義において、甘い汁を吸い続けていた貴族達は納得せずに、信奉者と共に挙兵。そして、首都ベルファリンを東西に分かつ壁…ベルファリンの壁、又は『嘆きの壁』と呼ばれる物建造し、ドール国の東側で、昔同様の社会主義制度で支配をしています……。これでいいですか?」
レイスは、余計な突っ込みがこぬよう、レイスは女教師を軽く睨む。
女教師は悔しそうに教鞭を折り、砕き、「寝ないように」と呟き、黒板に教科書そのままの事を書き出した。
「相変わらず、すごいねレイスは」
「………別に。自分の知らない事を知るのは面白いだけ」
そう言い、レイス再び顔を伏せた。
「……じゃあ、なんでまた寝るのよ?」
レイスは、静かに答える。
「睡眠欲は、知識欲より強いから……」
後には、レイスの静かな寝息しか聞こえない。
教鞭の代わりに、チョークを盛大に粉砕した女教師を見て、ペトルーシュカは軽く溜め息をついた。