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第二話

「なぜだ……なぜ僕はまだ森の中にいるのだ……」



彼方さんと別れてから三十分ほど経過した。歩けど歩けど目的地は影も形もない。五分も歩けば到着すると言っていたのに。


まさか騙されたのではないか、と考えてから思い直した。初対面の人間を騙して何の得がある。


しかし、現実問題として僕は絶賛遭難中であり、食糧や水などの消耗品もほぼ使い切ってしまった。普通にピンチである。


足元をチラッと確認してみれば『私には毒が含まれています。食べられません』と全身で自己主張しているキノコがあった。


「……」


頭を振って悪いイメージを捨て去る。


「道自体はまだ存在しているからどこかには続いているはずなんだけど……」


というかそうであってくれ。


僕は希望を捨てずに暗い森をひたすら歩き続ける。



――そして、唐突に森が切れた。



「あ……」


強烈な紅が網膜に飛び込み、思わず目を細める。しかし、決して閉じることはしなかった。


僕の知らない間に世界はその様相を変え、空と海はその鮮烈さはそのままに、朱色へと染め上げられていた。


そこは切り立った崖だった。淵から下を覗き込むと、僕が最初にやってきた港が見える。どうやら森をぐるりと一周してしまったようだ。


「もう、夕方になっていたのか……」


その夕日は朝でも昼でも見せぬ表情で、海へとその身を沈めようとしている。


僕は現在の自分の状況も忘れ、ただ目前の幻想的な光景に心を奪われていた。





綺麗なモノが好きだった。


言葉を失ってしまう絵画も。


息を呑んでしまう音楽も。


そして、心をうばってしまう風景も。


綺麗なモノ触れていると何も考えなくていい。


頭が、思考が止まってくれる。このうるさい口も。








いつまでそうしていただろうか、気がつけばすでに日は沈み、目に少しばかりの光が焼き付いているだけとなっていた。


「……いけね、青少年みたいなことしちゃった」


誰に言うでもなく呟き、そして遭難中である自身の状況思い出して落ち込んだ。何やってんだよ、こんな時に。


僕が自己嫌悪に駆られていると、不意に後ろの茂みから音が鳴った。


「うおっほう!」


完全に油断していた僕は奇声を発しながら飛び上がる。


な、なんだ、狸か? それとも鹿か? ……まさか熊か? 最後のだけは御免だ。


ガサガサ。


ごくりと喉が鳴る。出てくるのは鬼か蛇か、呼吸を止めて見守った。


しかしそれっきり気配は消え、代わりに何かが走り去る音が響いた。


なんだったんだ?


僕がその茂みの傍に行くと、驚いたことに懐中電灯と、一枚の紙が置いてあった。


その紙を手に取る。


紙に書かれていたのは、一文の文字だった。




『学校は、逆方向』




「……マジ……?」















「だーっはっはっはっ!」


以上の言葉が、僕が死にそうな思いで辿り着いた学校に所属している教師が発したセリフである。


こともあろうにこの教師、夜の森を懐中電灯一個でくぐり抜け、ほうほうの体だった僕を発見して大笑いしやがったのだ。ひどすぎる。


だがその教師が女性だったのは予想外だった。彼方さんとのやり取りで何となくズボラで適当なんだろうな、と想像できていたからだろう。ジーパンとシャツの上に白衣を羽織った姿を見て僕は呆気にとられた。


「まあまあ、ほらアタシも悪かったって。あんぐらいの山なら簡単にここまで来れると思ったんだよ」


僕の背中をバシバシ叩きながら言い訳をする先生。反省の色はない、ってか痛い。


今僕は学校の宿直室で水分補給している。独り言が多いのでのどが渇くのだ。


流石に僕が体力の限界だというのを察したのか、引きずって(ここ重要)連れてこられたのだ。あの細身の体からは想像もつかない馬鹿力を持っていると思われる。


ドゴン←拳骨の音。


「誰が馬鹿力だコラ」


「い、今のはどう考えても拳骨の音じゃない……」


というかまた口にでていたのかよ。


「ふうん……調査書どうり、本当に思った事が口にでるんだな。お前」


悶絶している僕を華麗にスルーして話を進める先生。ちくしょう、僕がMに目覚めたらどうするんだ。


「そん時はアタシ専用のサンドバッグにしてやるよ」


「すいません勘弁してくだい」


僕らの力関係が決まった瞬間だった。


「ああ、そういや自己紹介もしてなかったな。アタシはここで教師、寮母、用務員、事務員、養護教師やってる榊原だ。呼び方は好きにしろ」


「じゃあボブサップで」


ドゴン


「すんません調子乗ってました、先生と呼ばせていただきます……あとツッコむの遅れましたけど、なんですかその冗談みたいな肩書きは」


僕の質問に先生はやれやれと頭を振って答えた


「しょうがねぇだろ、人がいないんだから。言っとくけどこの学校で働いてんの実質アタシだけだからな? 責任者は他にいるけどこの島に住んでねぇから居ないのと同じだし」


なにそのステキな状況。絶対に何かしらの法に触れてると思うんだけど。


「お偉いさんは島暮らしがお嫌なんだろうよ。ま、心配すんなって。この学校はそんなにでかくないし生徒が三人だけだから、アタシ一人でもなんとかなってるよ」


なるほど……ん?



「あの、すみません、今、生徒が三人って……」



聞き違いだと思いながらも恐る恐る尋ねる、いや、まさかね。


「あー、確かに間違いだったな」


「やっぱりそうですよね、いくらなんでも三人ってのは」



「今日からお前も入れて四人だ」







えー。

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