プロローグ
友達に何か小説を書いてくれ、と頼まれたので、ここに載せます。
二次創作の方もできるだけ早めに書きますので、どうかご容赦くださいm(_ _)m
絶海の孤島、というものを生まれて初めて見る。
僕はマッコウクジラよりもいくらか小さいであろう漁船のへりに立ち、太陽光線により皮膚をあぶられていた。
「ああ、海が青い……空も青い……」そしてついでに僕の顔色も青い。
生粋のシティっ子だった僕は船を甘く見ており、胃の中から熱いパトスが湧きあがりそうな旨を船長さんに申し上げたところ、船室からつまみ出されたのです。げろげろ。
母なる海をほんの僅かに汚染して波に揺られることしばし、とうとう目的地である石動島に到着した。宇宙飛行士が帰還の際に地面とキスする気持ちがよくわかる。汚いからするつもりはないが。
テンションが上がったので意味もなく港にジャンプし、着地した時フナムシを踏んだ。いくらか冷静になったので足の裏を地面とこすりながらざっと周囲を見渡す。崩壊寸前の漁船を除けば浜辺と崖しか見えない。典型的なクローズドサークルだ。
電波は届かず、連絡船は月に一度。警察署なんて洒落たものは有る筈がない。完璧だ。統計から考えるに、これで僕が探偵だったならばほぼ百パーセントの可能性で殺人事件が起きるだろう。どこの調査かは知らん。
しかし残念ながら(?)僕は探偵などではないただの十七歳であり、怪しげな館の主から招待状を賜ったわけでもない。
だというのに何故僕が片道五時間をかけてまでこの島まで来たかというと「おら坊主、荷物忘れてんぞ」船長がボストンバックを投げつけてきた。抱きかかえるように受け止める。地味に痛い。
「あとそれともうひとつ」
なんですか? 船長。
「小さい船で悪かったなこのクソ坊主」
おおっといけない。口に出ていたようだ。
いやーすみませんね船長。実は僕ってば思っているとを口に出してしまう悪い癖が……って、あららもう船を出しちゃったよ。悪いことしたな、いや、言っちゃったな。
頭の後ろをがりがりと掻く。黒い髪の毛はたっぷりと光を吸収し、非常に熱くなっていた。
まあ過ぎたことを気にしても仕方がない、と半ば強引に思考を切り替え、改めて島全体をじっくり眺める。港には小舟が一艘自信なさげに浮いているだけで、誰もいない。砂浜にも中国語が書かれたゴミ以外何もなかった。
……船を侮辱してしまったという理由で無人島へと方向転換したのではないと信じたい。
念のため崖の上も確認する。そんな所にいたらいたで怖いが。
「ん?」
今、一瞬人っぽいものが見えた気がしたのだが……気のせいだろうか?
「あんな所に人がいるわけないか……」
きっと暑さに頭がやられたために見えた幻覚だろう。間違いない。投身自殺した人の霊などではない。うん。怖くなんてない。
それでは気を取り直して、さあ行こう。
石動島。ここには少々問題のある学生を集めた学校がある
僕はその学校に転校しにきたのだ。つまり僕には多少問題ある、らしい。まあそれは今重要なことではない。
深呼吸してみる。地球温暖化によってふんだんに熱された空気が肺を焼いた。
これからの新生活に期待を膨らまし、夏の陽射しの中、大股で歩き始める。
そしてふと思った。
どこに行けばよいのかと。
ウミネコの鳴き声が古びた港に響き渡る。
――僕の新生活は、遭難というなかなかに波乱万丈な幕開けだった。