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俺とオーガとおかしな世界  作者: 壬崎菜音@壬生菜
第三章 俺とゴーレム
9/11

俺と魔王といつもの二人

 この世界の問題点。

 ファンタジーと科学の世界がごちゃ混ぜになっているといっても問題無いこの現状。

 ここで問題となるのは、混ざり方が中途半端なせいか、俺は最強の剣士だった! という記憶はあっても、剣の使い方が分からない。魔法使いだった! という認識はあっても、これまた呪文が分からないという事だ。

 しかし、これは科学世界の住人である俺の主観での話だった。

 俺はてっきり、科学世界の住人にファンタジーな生物が混ざった。と考えていたが、これは大きな間違いだったらしい。

 俺の周囲に、この間違いを正す人間がいなかったのが、この勘違いを引き起こす大きな要因の一つとなったんだろうけど、今更どうこう言ってもはじまらない。

 そう、正しく言えば、『二つの世界の生物が混ざった』というのが正解だ。

 この二つの違い、パッと見では同じように見えるが、全くの別物だ。

 科学の住人を中心とした混ざり方ではなく、どちらの意思が表に出るかは人それぞれであり、意思の強さによって決定される。ということだ。

 なぜこれを知ることが出来たかといえば、俺の目の前にいるヤツらと、一人の変人のおかげだろう。




 俺の目の前。それどころか四方八方を囲むようにぐるりとモンスター達がいる。

 ゴブリン、コボルト、オーク、トロール、オーガ。スライムからドラゴンまで多種多様。あらゆるファンタジーからかき集めてきたかのような、大量のモンスター。

 そして、俺の前方の幻想の生物達の奥。

 まるで自分が親玉ですよとでも言わんばかりに、装飾過多な椅子らしきものに座る、これまた装飾過多なフードなしの黒いローブを着た長い黒髪の女。俺の周りには余りいない、大人の女の魅力溢れるナイスバディさん。

 ファンタジーという言葉で連想される物は数多くあれど、やっぱり大抵いるお約束的な存在と言えば、ラスボス。悪の親玉とかそういうのでも良い。ようは、最終的に倒さなければいけない存在だ。

 

「おい、何をさっきからボーっとしている」

「へ? あ、えと、な、なんでもないです。ちょっと予想外の出来事で、パニックになっていたと言いますか……えと、そんな感じで」


 魔王っぽい人に話しかけられて、軽くパニックになる俺。

 というか、展開が行き成りすぎて話についていけない。誰か俺に現状を詳しく説明してほしい。


「あの、それで、ですね。魔王だなんて超偉い……? 人……? が俺にどのような御用なのでしょうか、と」

「疑問符が多いぞ。私は魔王なのだから超偉いに決まっているし、人ではなく魔王という種族なのだから人型をとっているだけで人ではないに決まっているだろう」


 お前はバカだなぁという目で俺を見る自称超偉い魔王様。

 そんな事言われても知らんがなとしかいえない。

 っていうか、魔王って称号のような物じゃなくて種族だったのか。なんだかありがたみがない。


「はぁ、すいません。えと、ということは、魔王って一杯いるんですか?」

「……お前は馬鹿だな。魔王とはつまり魔法の王であり魔物の王である存在。そんなのが一杯いるわけがないだろう。世に王は一人で良い!」

「はい、すいません」


 馬鹿にされたとでも思ったのか、軽くお怒りっぽい表情の魔王。

 一人しかいないなら、どうやって増えるのだろうか。それってもう種族じゃなくね?

 一方俺はといえば、もうどうでもいいからお家に帰りたい。そんな事ばかり頭の中を駆け巡っている。


「で、お前に用というのは他でもない。頼みがあるのだ」


 んなアホな。と俺は頭を抱えたくなった。なんだって俺みたいな一般人が魔王に頼みごとされるんだ。どう考えたって俺みたいな村人Aに出来る事なんて無いだろう。


「この世界を元に戻したい。そう思わないか?」

「は……?」


 言われた意味がよく理解出来なかった。こいつは、今何て言った?


「世界を元に戻す?」

「そう、元に戻す」

「……出来るのなら、元に戻したいですけど、俺にそんな事なんて」

「出来るさ。体はともかく、精神的にはほとんどこちら側の生き物に影響されていないのだかな。扉を閉じるには、お前のように精神に影響を受けていない科学側の人間が必須。だが、そういった人間は非常に稀だ。誰しも少なからず影響を受けている」


 だから、お前が必要なんだよ。そう女は怪しく微笑んだ。一瞬ドキリとしてしまった自分が情けない。俺には心に決めた想い人がいるっていうのに。


「は、はぁ。いまいち言っている意味がわからないんですけど……つまり、俺みたいに元の人格そのままってのは珍しい、っていうことですよね?」

「そうだ。大抵は両方の世界の意識が混ざってるもんだ。比率は別としてな。俺みたいに意識に科学側が混ざってないのも、これはこれで珍しいが、意味が無い。この逆でなければいけない」

「なるほど。だから俺が必要、と。すいません、あと一つ。えっと、扉っていうのは?」

「ああ、それは――二つの世界……魔法世界と科学世界とでもしておこうか。その二つを繋げているゲートのようなものだ。形状が扉だから、扉と呼んでいるにすぎない」


 いまいち理解出来ているか怪しいが、とりあえずなんとなくは判ってきた。

 つまり、二つの世界が混ざった原因が、どこかにある扉ということ。

 それを閉じれば互いの世界は元に戻るということ。

 そして、それをするには肉体ではなく、精神に魔法世界からの影響がない者が必要。

 で、それはかなり貴重な存在だから、俺が呼ばれた。ということ。


「話はなんとなく分かりました……ですけど、俺には特別な力もないし、空も飛べませんし……力になれるかどうか」

「何を言い出すかと思えば……お前は誰に向かって言っている? 私は魔王だぞ。扉までいくのにお前の力必要になるほど弱いわけがないだろう。扉までは私が連れて行ってやる。だから、お前は扉を閉じることだけを考えれば良い。お前の前に立ちふさがる者は、全て消し飛ばしてやる」


 ニッ、と口角を吊り上げ魔王は笑う。


「……ん」


 俺は悩んでいた。

 正直に言ってしまえば、この魔王っていうヤツを信用していいのかどうか分からないからだ。確かに世界……というよりは、俺の周囲を昔通りにしたい。そういう気持ちはある。

 でも、本当に俺がそんな事出来るのか?

 扉を閉じるだけで良い。そうアイツは言うけど……。


「悩んでいるようだな……よし、ではこうしよう」


 魔王は「やれやれ」とでも言おうは顔をしながら、指をパチンと鳴らした。

 瞬間、俺の両隣に魔法陣が出現した。


「……は?」

「え、えぇ? え、こ、ここ……どこぉ?」


 制服に身を包んだ春生さんと、なぜか全裸の涼太が現れた。

 制服を着ているのは分かる。朝に呼ばれたわけなのだから、時間的にはそろそろ登校の準備をしていてもおかしくはない。

 一方全裸の涼太は、一体なにをしていたのか問いただし……たくない。


「なにが起こったのか分からないが……せめて朝風呂中はヤメテほしかったぜ……」


 はぁ……とため息をつく涼太。

 下半身が触手なおかげで、何とかギリギリセーフと言っても良い。

 いや、少し考えてみると、常に下半身露出状態で常時アウトなのではないだろうかと思わせる男、涼太。


「……つまり、この三人で行け。って言うのか?」


 俺はひとまず二人の事は置いておき、魔王へと目を向けた。

 俺は今割と頭にきている。それを隠そうとはしないし、俺の目は自然と鋭くなっていることだろう。

 いくらなんでも、今回の事に春生さんを巻き込みたくない。ダンジョン探検なんかと違って、今回はきっと危険がある。うさんくさい魔王とかいうのを信じて何かあってからじゃ遅いんだ。


「そうだ。お前達三人がそれぞれ扉を閉じる条件を満たしている。お前が役に立たないのなら、こうするだけだろう?」


 当たり前のことを言うかのように平然と告げる魔王。

 俺がモタモタしていたからこんな事になってしまったのか?

 いや、まだ間に合うはずだ。

 涼太は何だかんだで頼りになるし、俺としてもいてもらえると心強くはあるけど、出来れば二人とも来ないで欲しい。もともと呼ばれたのは俺なのだから、俺がやればそれで済む話だ。怖くはあるけど、きっとそれが良い。そうに決まっている。


「分かった。俺が一人で行く。だから二人は家に帰してやってくれないか……あ、帰してもらえませんか?」


 頭にきていたせいで乱暴になっていた言葉を直す。俺の言葉を聞き、魔王は少し考えた様子でこう言った。


「ふむ、まぁ別に構わないが、そこの二人はいまいち納得していないようだが?」

「……え?」


 言われて、両隣の二人へと交互に目をやった。

 なにやら怒っている風な春生さんと、呆れているような涼太が俺の目に映った。

 考えてみればそうだ。行き成りどこかわからない場所にいるとおもったら、俺と変なヤツがよくわからないことを延々と喋っている。そんな状況なら、ちょっとは説明しろと怒ったり、呆れたりするのが普通だ。


「え、っと。二人とも、説明は今度するから、今は家に帰る。ってのは、だめかなーなんて……」


 だめかなー? と笑いながら二人に提案。


「却下だ」

「だめにきまってるよ、そんなの」


 涼太にきっぱりと却下され、いつものほわっとした雰囲気はどこへ行ったのか、真剣な表情で俺の提案を否定する春生さん。


「ですよねぇ……」


 こんなモンスターの大量にいる危険そうな場所にいる時点で、二人が大人しく帰ってくれるとは思っていなかったけど、やっぱりダメだった。

 どうしよう。と思う反面、二人が俺の事を考えてくれてるのかも、と嬉しくなった。


「こんないかにも怪しい所にいるんだ。少しは説明してくれねえと、親友としては納得いかねぇな」

「そうだよ。私だって、その……友達だから、心配だよっ」


 ああ、どうすればいいんだろう。

 何とか良い言い訳を考えようと、俺はひたすら思考を巡らすが、一向に良い考えが浮かんでこなかった。

 焦れば焦るほど、どんどん訳の分からない考えばかりが浮かんできて、もう俺の頭の中はパニックだ。

 だから――。


「こ、ここ、これは……そう、お見合いだよ! お見合い!」


 適当な言い訳をして自爆した。


「……」


 モンスター達にも哀れなヤツを見る目で見られた。


「お前……それは流石に誰も信じな――」

「え、えぇっ!? お見合い、お見合い!? だ、だめだよぉそんなの!」

「えぇー……」


 涼太の発言を遮るように、春生さんが声をあげた。

 そして、うそ、まじで? というような声色で信じてるヤツがいることに我が親友は驚いていた。当然俺もびっくりだ。


「すいません。お見合いは適当に言ったうそです……ごめんなさい……」

「だめだめだめっ! お見合いなんてだ……え、うそ? うそって、あ、嘘、ほんとに? や、やだ、もうっ……ううっ」


 そう言って、春生さんは顔を真っ赤にして小さく縮こまってしまった。とても可愛い一面を見れてなんか得をした気分だ。嘘をついてしまった事に対する罪悪感も当然あるけれど。

 しかし、これはひょっとすると脈ありなのかもしれない。

 普通、友達がお見合いするなんていっても、「へぇー、お見合いか、まぁ頑張れ!」くらいにしか思わない事だろう。涼太がお見合いするぜ! なんて言っても、俺としては物好きなヤツもいるもんだ。としか思えない。勿論結婚するなら祝福する。

 まあそもそも、年齢的にお見合いなんてありえないんだけどな。どこかの金持ちの息子とかで、将来の結婚相手を今のうちに探す。とかでもない限り。


「あー、そろそろ私も話して良いだろうか」

「あ、はい、すいません。どうぞ……」


 呆れ顔の魔王と、謝るのが癖になりつつある俺。


「とにかく、だ。その二人にもお前にしたような説明をする。いいな。これはもう決定事項だ。お前に任せるといつまでも出発できんではないか」


 そう言って、魔王は二人に説明を始めた。






「つまり、世界制服しようとしたら戦闘機に撃墜された。と」

「うむ……科学側には魔法が無いからだろうな、半分程度の力しか行使できなかったのだ。ミサイルとかいうのはいくらなんでも卑怯すぎるだろう。男なら剣を持って向かってくるべきだ」


 話がぜんぜん関係ない方に逸れていた。


「征服できん世界に興味などない! 私は出来ることしかやらん主義だ!」


 こんな現実主義な魔王はイヤだ。


「よし、それで、どうする」


 無駄話はこの辺だと話を切り上げ、魔王は問う。

 行くか、行かないか。


「私は行く」


 即座に行くと答えたのは、春生さんだった。

 きっぱりと、揺ぎ無い瞳で言った。

 こういった一面を見る事は、今まで無かったことだ。


「俺も行くぜ。こいつにも慣れてきたが、やっぱり人間の足が恋しいしな」


 次に答えたのは涼太。

 説明中に魔王に出してもらった派手派手な服に身を包み、ようやく全裸じゃなくなった。

 が、金や銀の糸で刺繍された派手すぎる服はちょっと微妙と言わざるを得ない。


「二人とも、本当に良いのか? 危ないことだってあるかもしれないし、それに春生さんは女の子なんだから――」

「瑞樹くん。それは違うんじゃないかなぁ」


 俺が二人に再度確認する。

 しかし、その途中で春生さんが俺に厳しい顔を向けながらそう言った。


「女の子だからとか、そういうの関係無いよ。私は、元に戻りたい。だから行く。そのためなら危険だって良い! 危ないから女の子はダメだなんて、そんなの私をバカにしてるよ!」


 なんだか、頭をぶん殴られたかのように感じた。

 俺は、勝手に彼女を自分より下に見ていたのかもしれない。

 女の子だから、か弱いから。力が強くたって、心は違う。

 そう勝手に決め付けていた。

 でも、彼女は俺なんかよりずっとずっと強かったんだ。


「ごめん……ごめん。自分の考え押し付けてた。ごめん」

「そ、そんな謝られちゃうと困っちゃうよぉ……。でも、瑞樹くんに心配してもらえて嬉しいかも、えへ」


 そういって、彼女はにこりと笑った。

 そうだ。俺と彼女は上下なんて無い。常に対等。それを忘れちゃいけない。

 でも、彼女を心配するのは、俺の意地だ。好きな子を危険な目にあわせたくない。そう思うのは、不自然な事じゃない。

 だけど、きっと彼女はなにを言っても行くだろう。

 俺の大好きな女の子は、結構頑固者なのだ。


「して、姫川瑞樹。お前はどうする」


 魔王にそう問われた。

 でも、そんなのもう決まっている。


「……俺も行く。来るなっていわれても、絶対に行く。好きな女の子のためにも、絶対行くからな!」


 そうきっぱりと、魔王に言ってやった。


「よし、決まりだな。それでは、行くとしよう。ダンジョンゴーレム最下層部、扉の間へな!」

「目的地そこかよ!」


 凄い近所だった。




 余談ではあるが、途中で春生さんにこう聞かれた。


「ね、ねえねえ。その、そのね、瑞樹くんの好きな子って……だれかなー、なんて」


 そこは流れとか空気とかで察して欲しかった。

 ああいや、今気付かれると道中気まずくなりそうだからコレでいいのか……。




 そして俺達は、再びダンジョンゴーレムへと向かう。

 今度は、見学なんかじゃない。

次回か次々回が最終話になりまス。

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