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俺とオーガとおかしな世界  作者: 壬崎菜音@壬生菜
第三章 俺とゴーレム
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俺と迷宮

 例えばの話、この世に透明人間は存在するかと言われたら、俺は間違いなく存在しないと答える。ただ、それは少し前までの物だ。ファンタジーに侵食された今の世の中なら、もしかしたら透明人間は存在するかもしれない。とは言うものの、彼らは見えないのだから、何かしらの接触が無い限りは証明のしようがない。

 しかし、完全な透明人間のことは分からないとしても、少し変わった透明人間なら実のところ存在する事を、たった今知った。

 とは言っても、透明ではなく「半透明」だ。

 遠目から見ると普通の人なんだけど、近づいてみると何か透けてるのが分かる。それが半透明人間だ。まあ、分かりやすく言えば「人型スライム」なんだけどね。



「やだ……また透けちゃってる」


 もしも背後からこんな声が聞こえてきたら、男なら誰しも振り返るのは考えるまでもない。しかし、今回の場合、振り返ったときにキミは必ずこう思うだろう。

 『そっちかよ!』ってね。

 まあようは、ダンジョンゴーレム探検隊の一人に加わってくれた女の子が、スライム娘なわけである。


 昼休み、ダメもとで春生さんにダンジョンを探検してみない? ピクニックみたいなものなんだけど、と言ったところ、「危なくないならいいよぉ」と快諾してくれた。モンスターが怖いというよりは、自分の怪力が怖いということか。もちろん、危険が無い事はゴーレム佐藤に確認済み。これで中が危険だらけだったら末代まで祟ってやる。食い物の恨みも怖いが、恋の恨みも恐ろしいのだ。

 そして、春生さんの友達で誰か来てくれそうな人いない? と聞いてみたところ、どうやら心当たりがあるようで、聞いてみてくれると、これまた嬉しい返事。

 さて、探検隊の編成も順調だなぁと思いきや、タイガーとオークは都合が悪くなってしまったらしく、不参加。

 タイガーは何故か孤児院にランドセルを届けにいかないといけないとか何とか。

 オークは実家の手伝いをしないと一週間ベジタリアンな食生活を強制させられるらしく、どうしてもこれないそうだ。一週間野菜生活をした方がお前のためだと言ったが、肉が無いと干からびて死ぬと言ってきかないので断念。

 そんなわけで、探検隊は4人となってしまった。まあ、俺も涼太も行く気満々だけどね。何しろダブルデートみたいな感じになったわけだし、これを逃す手はない。

 春生さんのお友達とやらがどれほど可愛くても俺には関係無い。必然的に涼太がお相手を務めないといけないのだが、正直期待できそうにない。ヤツは二次元に片足つっこんじゃってるような変態だし。となると、俺が何とか場を盛り上げないといけないのだろうか……ダンジョンに潜るだけでやつれそうで微妙に心配だった。




「あの……美崎です。よろしくおねがいします」


 ぺこりと頭を下げるおとなしそうな女の子。向こう側が透けて見えるスライムと同化したのが一目で分かる。他に透けてるといえば、ゴースト系だろうけど、美崎さんはちゃんと足もあるし、実体があるのでたぶん間違いない。

 メタリックピンクな色のフレームをしたメガネをかけ、前髪がパッツンな彼女に、触手男と二人そろって自己紹介をした。が、春生さんの後ろに隠れてしまわれた。きっと触手が怖いんだろう。ごく自然の反応だ。


「おい涼太、美崎さん怖がってるぞ、その触手にリボンでもつけてこい」

「リボンって……逆にキモいだろ、それ」


 うにょうにょっと涼太が触手でツッコミを入れる。そのせいで、服にぬるぬるした謎汁がついてしまった。変な事言わなければよかった。

 と、適当に触手怖くないよーという雰囲気を匂わせて、なんとか警戒を解いてもらおうと努力。

 迷宮の入り口前で自己紹介や、出発前のアレコレをやっていたら、突然佐藤が聞こえてきた。


『よく来たな、冒険者諸君! ここは、な、なん……えーと、難攻ふら、ふおち? じゃない、えーと、難攻不落の大迷宮! 命が惜しくば引き返すがよい!』

「…………」


そしてみんな黙ってしまった。当然だ。

 頑張って考えたんだろうけど、ゴーレム佐藤のおつむじゃ漢字が難しかったらしい。適当にPCでかっこよさげな物を選ぶからそうなるんだ。せめて、雰囲気を壊さないようにふりがなをふっておいてほしかった。


『あの……その、ごめん』


 謝られた。超巨大ゴーレムの割に、佐藤は腰が低い。


「まあ、気にするなよ」


 涼太が触手で迷宮の入り口をぽんと叩いた。正確に言えば、ぬっちょりと触ったが正しいかもしれないが、ここは叩いたということにしておいてあげるべきだ。

 さて、この迷宮への入り口、というよりは、ダンジョンゴーレムの口がどこにあるのかというと、実は学園の校庭にある。体育などで使う用具入れの後ろにこっそりと作ってあるのだ。ちなみに、教師が接近してきた場合は入り口を地面の下に隠すらしい。

 いっそ部活にしてしまおうか、などという話もあったが、それよりも先に内部を見学してからが良いんじゃね? という意見で一致した。

 何だか秘密基地みたいでちょっとドキドキだ。


「ね、ねえねえ、あんまり遅くなっちゃうと困るし、そろそろ行こう?」


 と春生さん。

 彼女の言うように、俺と触手は遅くなったところで何も問題ないが、女の子は遅くなりすぎるとまずい。春生さんと美崎さんを家まで送っていくという選択肢もあるが、よく知らないヤツに家まで送られるのは不安なはずだ。春生さんなら、「ありがとぉ」なんて感謝して……くれるといいなぁ。


「そうだね、行こうか」

「だな」


 入り口でぐだぐだしている時間ももったいないので、ダンジョンに入ってみることになった。




『ダッダッダッ』


 迷宮の扉をくぐると、どこからともなく佐藤の声が聞こえてきた。


「それ――」


 それはあれか、ダンジョンに入った時の音か? と思わずツッコミをいれそうになった瞬間――。


「しっ、触っちゃいけません」


 変な人を見るなと子供に注意をするかのように、涼太ママが俺を止める。

 どこからともなく聞こえてくる変な人の声を軽くスルーすることに決定し、軽く内部を見回す。

 入り口はそこそこに広いが、奥へと続くであろう道は3、4人が並んであるくのがやっとだろうという広さにまで狭くなっている。壁は勿論大きな石を積み上げたかのような物。床もまったく同じで、ところどころに松明のような物が見える。薄暗くはあるものの、移動するのに差し支えあるほどじゃない。そして目を引くのは、壁の武器棚にかけてある多種多様な武器。剣や槍、その他色々だ。


『さぁ冒険者達よ、武器を手に取るのだ!』


 佐藤がノリノリすぎる。かくいう俺も、結構ドキドキしてるけれど。

 その佐藤の声に素直に従い、武器を取りに壁際へと歩み寄ってみる。すると、どうにも武器がおかしい。いや、確かに剣の形や槍そのものな見た目ではある。

 どう触ってみても、この武器はおもちゃだ。鉄っぽい肌触りなのに、やけに軽い。当然のことながら、刃入れされていないので斬ることは出来なさそうだ。つまりこれは、鉄の剣っぽくみえる何かだ。


「なんか不思議な剣だな」


 軽く一振りし、改めて思った。


「ほんとだ、すげぇ軽いな。びっくりだ」


 涼太は触手という触手を使って大量の武器を装備していた。いくらなんでもそれは多すぎないか、と思いきや、普通に歩いたりも出来ている。触手ってすげえ。何しろたった2本の触手で移動しているのだ。


「俺はお前の方がびっくりだ」


 呆れ顔で涼太を見ていると、どこからともなくお馴染みの声が聞こえてきた。


『その武器達は、ダンジョンの中限定で軽くなる効果が付与されているのだ!』


 ゴーレムに適応しすぎな佐藤が自慢げに声を発した。

 俺の周りはほんとにびっくり人間だらけだ。というかゴーレム半端ないな。でも、なんというか、活かす方向を間違っている気がしないでもない。


「春生さんと美崎さんはどうする?」


 武器選びで悩んでいる二人に声をかけてみた。二人はそれぞれ武器に触れてみたりしているようだが、どれが良いのかよくわからないようで、困っているようだった。


「あ、瑞樹くん。んーとねぇ、どれが良いかなぁ?」


 春生さんが俺に助言を求めてくると同時に、彼女の後ろへと隠れる美崎さん。人見知りが激しい。


「そうだなぁ……どれも軽いわけだから、リーチが長いのがいいんじゃないかな。杖とか槍とか」

「ふんふん……じゃあー……これっ、この綺麗な石がついた杖にするねっ」


 と、春生さんは彼女の身長ほどもある長い杖を手にとった。その先端には赤く透明な大きな石か何かがついている。心なしか、その石を支えているのが人の手の形をしているような気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。別に魔法が使えるわけでもないのだから、武器は何だって良い。ここが本当のファンタジー世界だったら、どうみても呪われた武器って見た目だけど。


「わ、わたしは、これで……」


 美崎さんが手に取ったのは槍。長い細い金属の棒に短剣をくっつけたような見た目のスピア。無難な選択だ。もっとも、先端は危険がないように丸くつぶしてあるので刺さる事はなさそうだ。槍というよりは、槍っぽい棒だろう。


「よぉし、それじゃあ突撃だ!」


 触手という触手で武器を持つ危ない男が腕を組みながら言った。

 変態の事はどうでも良いとして、俺は微妙に不安だった。

 危険がないというのに、なんで武器を選ばされたんだろうか、と。


「なぁ佐藤。なんで武器が必要なんだ?」


 俺は疑問をそのままにせず、素直にそれを知っているであろう人物に投げかけた。


『やだなぁ、ダンジョンといえば冒険者、冒険者といえば武器、武器と言えば……えーと、まぁとにかく冒険者といえば武器なんだよ!』


 武器といえば何なんだ。思いつかなかっただけだろうけど。

 それはともかく、つまりは見た目から入るということか。


『あ、一応モンスターも用意してあるよ! デコピン一発で消えちゃうくらい弱いヤツだけど。攻撃力も全く無いから危険性はないし、安心してくれ!』


 うーん、ダンジョン潜りをしている雰囲気を出す事に関しては結構頑張ってるみたいだ。それをもう少し違う方向……例えばふり仮名を振るとかに割けばよかったものを。しかし、モンスターが出てくるというのはちょっと心配だ。主に女子二人が帰りたがらないかが、だけどね。


「あの、二人は大丈夫? 何か弱いけど変なのでてくるみたいだけど」

『ご心配なく! 見た目にも配慮してるから安心するんだ!』

「……ということらしいけど」

「うーん、見た目がちょっと怖いくらいなら大丈夫かなぁ。佳奈かなちゃんは?」


 少し考えた様子で、指を唇に当てながら春生さんが言った。

 それはそうと、美崎さんの下の名前は佳奈と言うらしい。よくよく考えれば苗字しか聞いていなかった。


「わたしは、その……だいじょうぶ」


 小声で控えめに言う彼女に「無理はしなくていいからね」と言い、俺達一行は迷宮へと入っていく。

 

 長く続くダンジョンの通路。両脇の壁には入り口からみえたのと同じように松明が設置されており、明かりに関しては問題無い。

 ところどころ壁や床にコケが生えていたりして、雰囲気は出ていると思う。ちょっとしたお化け屋敷みたいな物だ。

 そんな通路は、たまに枝分かれしたりしていて、内部は迷宮の名に恥じない迷路になっている。もっとも、迷ったままでられねえ! なんていうことはありえない。いざというときはこのダンジョンの主、というか、ダンジョンそのものが助けてくれるのだから。


 俺達は、長く長く続く道を歩いていく。

 まあ時間も無いのだから、それほど延々と迷路が続くわけでもないはずだ。

 適当な雑談をしながら、ダンジョン攻略が始まった。

あと数話で完結予定でございますです。

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