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俺とオーガとおかしな世界  作者: 壬崎菜音@壬生菜
第二章 俺とオーガ
6/11

俺と彼女2

「春生さん、あのさ」

「ん……」


 ひっそりとした放課後の教室に、俺と春生さんの二人だけがいる。でも、ちょっとドキドキするとか、そういうことを考えている場合じゃない。彼女の心配している要素を取り除かなきゃいけないんだから。しかし、オーガをどうにかできるわけもないので、俺にできることと言えば、オーガだっていいじゃない。と思うようにするしかない。それって結構難しいとはおもうけど、少なくとも今よりはマシになればそれでいい。


「オーガが人の肉を食べるとか、残酷だとかさ、そう言ったけど、それって違うんじゃないかな……」

「どういう、こと?」


 きょとん、とした表情の春生さん。たしかに、これだけじゃ言いたいことが伝わらないのは当然だ。


「だからさ、オーガそのものは確かにそういう物かもしれないけど、でも春生さんは春生さんでしょ? こう言ったら怒るかもしれないけど、春生さんは人の肉食べたいわけじゃないよね」

「そ、そんなの当然だよ!」


 ちょっと怒ったような表情で彼女は言った。よかった。正直、実は……とか言われたらどうしようかと思ってた。もしもそうなったら、僕の顔をお食べ! としか言いようが無かったのだ。愛と勇気だけが友達とか、そんなの寂しすぎて俺は耐えられないね。


「だよね。だから、ちょっとオーガが混じったところで、春生さんはやっぱり今までどおりの春生さんだよ。少なくとも、この数日見ててそう思った」

「んー……でも、でもさ、そう言われても……やっぱりオーガは……」


 これじゃ押しが足りなかったようで、どうにも春生さんは納得できていない様子だ。さて、あとはどうしよう……ぶっちゃけ俺に残された弾は少ない。というかほとんどない。


「やっぱり、怖い?」

「うん……」


 まあ、こればかりは仕方ないのかもしれない。


「これは涼太の話なんだけどさ、アイツはアイツで結構やらかしたよね。だから、それから徹夜で触手がいう事を聞くように頑張ったんだ。方法はちょっと馬鹿みたいだったけどさ、それで、今日見た通り触手に言うことを聞かせられるようになった。これってさ、春生さんにも言えることじゃないかな。頑張れば、オーガの力も、他に何かあったとしてもコントロールできるようになる。俺はそう思うけどな」


 これでダメなら俺に残された手はもう無いと言っても間違いじゃない。あとは大丈夫大丈夫言いまくって無理矢理納得させるという荒業しかないのだ。勢いで相談に乗り始めちゃったのは失敗だったかもしれないが、かといって、今は無理! なんてひどいことも言えない。しかし、涼太という実例ができたおかげで説得力が増したのは嬉しい出来事だった。色々な意味で。


「ん……できると、おもう?」

「出来るっていうか、出来るように俺も手伝うよ。なんだってさ。え、っと……友達?だしさ」


 いまいち自信が無いので友達、の後にハテナをつけた。そうなの? とか言われたら俺のハートが木っ端微塵になってしまうからだ。恋には臆病なんだから仕方ない。


「……ちょっと、見てて」


 そういうと、彼女は鞄から筆箱を取り出し、金属で出来ているような外見のシャーペンを取り出した。

 シャーペンを立てるように先端を指で支えもち、彼女はその反対側である端っこに、とても軽くデコピンをお見舞いした。

 パチンッ、と軽い音と共に、シャーペンの上半分が消し飛んだ。

 俺は目を疑った。これがデコピンだとッ!? と一瞬だけ思ってしまったのは言うまでもないかもしれない。だってデコピンでシャーペンの半分が無くなるとは思いもしなかったのだ。折れるでもなく、バラバラにぶっ飛んだのだから。


「う、うぅっ……やっぱり怖いよねこんなのっ」


 すいません。ちょっと怖かったです。とは口が裂けても言えない。その瞬間立っているか不明なフラグまでデコピンで吹き飛んでしまう。


「だ、だからさ、それをコントロールできるようにしよう。っていう話なんだよ。どこぞのスーパーなヤサイの人達だって、あんなに力が強いのに日常生活できてるんだよ。だから春生さんだって大丈夫っ!」


 あれは漫画じゃねえか、と言ってから思った。その予想通り、彼女の表情は微妙な物に変化した。何ともいえず、呆れたような表情だ。


「あれ漫画だよぉ……」


 やっぱり、言われると思ってました。正直ごめんなさいってかんじだ。まあ、とにかく力を制御することは出来ると思う。


「そうだね、ごめん……でも、やってやれない事は無いと思う。どれくらいの力加減で生活すれば良いのかさえ分かれば、何か壊したりもしないと思う」

「んぅ……ほんとに協力してくれるの?」

「もちろん。絶対に協力する!」


 そういうと、彼女はようやくニコリと微笑んだ。ああ、これで安心できる。


「そっか……なら……私、頑張るねっ。やれるだけ頑張ってみるよっ」


 これで一件落着……かと思いきや、春生さんが言った言葉で俺は凍りついた。


「あ、そういえば……ねえねえ、そういえば瑞樹くんは何とくっついちゃったの?」


 まさか話がそっちにいくのは想定外。いや、言うのはかまわないんだけど、どうせそれだけじゃ済むはずがない。


「……言わなきゃダメ?」


 と彼女に聞いてみる。すると彼女はそれはもう太陽のように輝く笑顔で言った。


「だーめっ……あ、絶対じゃないからねっ、ホントーにイヤなら、いいよ?」


 最後の「いいよ?」は何とも寂しそうな表情で言われた。こういう時女ってズルイと思う。そんな表情で言われたら、言わざるをえないというか、隠したら悪者みたいで何とも気まずくなってしまう。


「んー、とね……グリフォンっていうんだけど、わかるかな」


 俺は肩をすくめ、諦めた。こういうのは惚れた弱みというんだろう。好きな子にお願いされちゃ抵抗しようがない。


「グリフォン……?」


 やっぱり彼女はこういう物に詳しくないようで、アタマの上にハテナが乗っかっているかのような顔だ。グリフォンといわれても全然分からないらしい。


「えーっと、鳥の上半身と、ライオンの下半身を持つ伝説の生き物、らしいよ」


 先日家のPCで調べたから知っているだけだけど。下半身がライオンかどうかがはっきりしなかったけれど、PCで調べたら一発だった。


「へぇー、すごいんだねぇ……んーっと、どこがグリフォンっぽいのかって、聞いても良いのかなぁ?」

「いいよいいよ、実は背中に翼が――」


 と言ったところで、やらかしたことに気がついた。なぜなら、背中に翼と言ったところで、彼女の目つきが変わったからだ。それはもう、キラキラと輝くような目をしていた。


「ねねね! 見せてくれたりーなーんてー……しない?」

「い、いやぁ……それはちょっと……」


 やんわりと拒否。いくら惚れた弱みといえども、抵抗があるものはあるのだ。

 仮に見せたとして、「うわぁ、天使みたいで可愛いぃー」なんて好きな子に言われたくない。カッコイー! なら良いけど、可愛いねっ。っていうのは勘弁だ。


「むぅー……どーしてもぉ?」

「ど、どうしても」


 春生さんは頬を膨らまして残念そうに俺を見ている。ああ、心がグラつく。何とも心の弱い俺が情けない。ついノリで何かやってしまって、後で後悔するのは防がなきゃいけない。いつも防げてないような気がするけど。


「むぅ……あ、もしかして、アレ?」


 彼女の言うアレ、とはつまるところ、お互いの悩みのこと? ということだ。


「うん……なんていうか、からかわれそうな見た目っていうか、さ」

「そっかぁ……ごめんね、そういうことなら我慢するよっ。見せても良いかなって思ったら、みせてほしいけどねっ」


 少し気まずそうな顔一転、にこっと笑う。こういう表情をされると、つい「いいよ」と言ってしまいそうだ。が、見せるのはまた今度だ。今見せたら、自分のオーガと違ってーという話に転がりそうな気がする。


「わかった。その時は見せるよ。それじゃあ……そ、その、一緒に帰る?」


 少しどもってしまった。何とも、一緒に帰るだけなのに、照れくさい。誰が見てるわけでもないんだけどね。

 彼女はにこにこと笑いながら、「うんっ」と言ってくれた。よかった。



 心なしかゆっくりとした速度での帰り道。他愛も無い事を話した。ほんとにどうでも良いことばっかりで、あれやこれやとつっこんだ事を聞いたりは何も無かった。というか、会話そのものもそれほど多くなかったりした。何というか、こう二人だけの時間を過ごしてみて思ったことだが、話題が無い。これじゃあダメだなぁ……なんて思いつつも、前回彼女と別れた場所までやってきた。

 春生さんがこちらへと身体を向け、言う。


「瑞樹くん、今日はありがとっ。まだ怖いけど、少しは前向きになれたとおもうなっ。これから頑張るから、よろしくね」

「うん。頑張ろう」


 俺としては、もっと色々言いたかったけど、いざ言葉に出そうとすると巧くまとまらなかった。だから、たったこれだけしか口から出てこなかった。でも、これからは話す機会も少しは増える。何しろ特訓、というと変かもしれないが、トレーニングの相手を務めるのだから。


「それじゃあ、握手っ」


 そういって、彼女は手をこちらへと差し出した。

「あ、う、うん」

 彼女の手を握り、握手をした。なんとも柔らかい女の子特有の感触に少しドキっとしてしまうが、次の瞬間俺は悲鳴をあげそうになった。

 ミシミシィッ、と音をたてそうなほどに、俺の手が握られていた。いや、恐ろしくて見れないが、もう握りつぶされているのではないだろうか。


「は、春生さん……に、にぎ、にぎにぎ……握りすぎィ……ッ!」

「え、ええっ!? ご、ごめん瑞樹くん……!」


 彼女は慌てた様子で手を離し、謝ってきた。


「だ、大丈夫……うん。大丈夫だから」


 そう言いつつも、手が潰れていないか確認。うん、どうやら手は無事だった。もしかしたらヒビの一本くらいは入ってるかもしれないが。

 しかし、このままでは俺の百年の恋が冷める日も近いかもしれない。早急に何とかしなければならないだろう。


「ま、まぁ……これから頑張ろうね」

「うん……ほんと、ごめんね」

「良いから良いから。それじゃあ、またね」

「う、うん……またね」


 そういってお互い別の方向へと歩き出した。



 歩き出してから数分。突然マナーモードにしてある携帯が振動をはじめた。突然だったのでちょっとびっくりしてしまったが、誰も見てないのでセーフ。

 携帯のディスプレイを確認すると、佐藤の文字。ゴーレムの佐藤だ。俺は通話ボタンを押し、耳にあてる。


「はい、もしもし?」

『あ、佐藤だけど、ついにアレが完成したよ!』


 と何やらあわてた様子の佐藤。アレといわれても分からないというのに。


「ん……? アレって?」

『ダンジョンだよ! ダンジョン! 完成したんだよ! いやー、なかなかの自信作が出来たよ。勿論怪我しないように作ったから安心だよ』

「ダンジョン……マ、マジで!? じゃあ明日の放課後とか行けちゃうのか?」

『余裕余裕。もう準備できてるよ!』


 おお、流石だ。しかし、春生さんのこともあるから、正直どうすればいいのやら。


『で、誰と誰誘う? あとは長谷川は強制として、加藤、田中に……男ばっかりだな。もうちょっとこう、華がほしい……』

「確かに……むさくるしい」


 ……待てよ、春生さん誘ってみるのはどうだろうか。誰か一人くらいこういうのが好きそうな子を誘ってみんなでわいわい遊ぶとか楽しそうだ。大迷路みたいな物だよ、と言えば分かってくれると思う。しかし、ダンジョンっていうと怖いからイヤと言われる可能性もある。こればかりは聞いてみないとどうにも分からない問題だ。


「んー、女子で参加してくれるヤツいないか聞いてみるよ」

『おお、流石瑞樹! 持つべき物は友だねぇ』



 さて、こうして、ダンジョン攻略のためのパーティを結成する運びとなった。佐藤は一緒にダンジョンに入るというよりは、攻略してるのを眺めて楽しみたいとのことだったのもあって、男4人の女2人という人数になることだろう。なかなかの大所帯だ。もっとも、春生さんがうんと言ってくれなかった場合、男4人で汗臭く潜ることになりそうだが。

 ああ、こんなことなら勇気を出して携帯の番号とアドレスを聞いておけばよかった。なんで俺はもっと早く聞いておかないんだ。

 盛大に後悔しながら、またしても明日を待たなければならなくなってしまった。そして昨日と同じく、ダンジョン探検が楽しみで軽く寝不足になった。俺の精神年齢は小学生くらいなのかもしれない。色恋含めて、色々と。

さて、ということで2章目も特に山も無く谷も無く終わりました。

次回からは佐藤くんの中でほんわかピクニック……出来ればいいですねぇ。

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