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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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好きになりたくなかった

掲載日:2026/07/14

***BL*** 職場の有馬くんは格好良い。だから好きになりたく無かったのに、、、。 ハッピーエンド

 

 所属するグループに、一人はイケメンっているよね。


 クラスに一人。

 部活に一人。

 委員会に一人。

 職場に一人。


 もの凄くモテる人。

 僕はそう言う人が嫌いだ。

 モテる人は自分を知っている。

 自分がモテる事が分かっている。

 そして、心に余裕が有るんだ。


 僕みたいな、極々フツーな人間なんて、彼にはその他大勢に過ぎない。

 彼の周りの女の子は、みんなちょっと可愛くて、必ず誰かの想い人だったりする。



 だから、僕は彼を好きにはならない。



 、、、そう思っていたのに、僕の面喰いめ、、、。

 ちょっと優しくされただけで、好きになっちゃうのヤメロ、、、。



 職場の飲み会が有った。最後に登場した彼は、僕の隣の席に座った。一番端。

 飲み放題でその席は、注文係にされる。来た酒を回し、空いたグラスを片付け、みんなの会話はただ聞くだけ、話しに夢中になっていると、奥から「ハイボール頼んで!」と言われる席。

 申し訳無いな、と思いながら僕もちょっと手伝う。届いたお酒や料理を出来るだけ早く奥に回し、彼の前を空ける。

「ね、飲んでる?」

と聞かれて、自分のグラスが空になっている事に気が付いた。

「何飲む?」

こう言う気遣いが出来る彼は、やっぱりモテるよな、、、と思う。


「内村さーん!こっちこっち!」

名前を呼ばれて奥を見る。

「こっちで話しましょうよ!」

一番奥の女子に呼ばれて腰を上げる。自分のグラスを持って移動すると、ちょっとお洒落をした女の子が一人立ち上がる。

 成程、彼女とチェンジしろと言う訳だ、、、。


 ハイハイ、、、。


 僕が席を移動して、最初はなんやかんや話し掛けて来た女子達も10分程すると飽きたのか、僕は殆ど無視だった。

 これなら、さっきの席の方が仕事が有った分、まだ楽だった。

 女子に囲まれ、話し相手もいない。


 はぁ、、、。早く帰りたいな、、、。

 一番奥に入ったから、注文もし辛いし、、、。

 僕は空のグラスを触りながら、溜息をいた。

「有馬さんから」

と隣りからグラスが届いた。

「え?」

「回って来たよ」

「あ、有難う、、、」

有馬くんの方を見ると、空いてるグラスを回せとジェスチャーした。

 僕はペコリと頭を下げて、グラスを回して貰う。

 さっき席をチェンジした女の子は、甲斐甲斐しくサラダを取り分け有馬くんの前に置いた。


 手持ち無沙汰の僕は、ゴクゴクと飲んでグラスを開けた。そのまま席を立ち、鞄を持ってトイレに行く。


 あー、、、帰りたい、、、。会費も払っているし、帰っちゃおうかな、、、。

 洗面台で無駄に長い時間、手を洗う。

 あの席に戻るのも嫌だしな、、、。

 

 扉が開いて人が入って来た。

「内村?、、、大丈夫?」

「え?大丈夫だよ?」

「戻って来ないから、、、」

「ごめん、ごめん。ちょっと疲れて」

「二次会行く?」

「うーん、、、行かないかな、、、」

「そっか」

「このまま帰っちゃおうと思って、、、」

「え?」

彼はスマートフォンで時間を確認した。

「後15分でお開きだから、最後までいれば?」

「後15分か、、、それ位なら、、、」

二人で席に戻る。と言っても、僕の席は無くなっていて、空いてる席を探す。

 あぁ、、、これまた微妙な席だ、、、。

「内村、此処ここで良いじゃん」

と言われて、有馬くんの隣、小上がりに腰を掛けた。一番最初に店から出られるし、靴も準備しておこう。

 有馬くんは隣の席のあの子に、話し掛けられていた。

 数分でお開きになり、僕は真っ先に店を出た。どうせ、みんなダラダラして、店の前で二次会はとうする?なんて話しになるんだ。


「内村!」

振り向くと、有馬くんが靴を履きながら追い掛けて来た。

 トントンと爪先を道路にぶつけ、スニーカーを履くだけなのに、何だか格好良い、、、。

「一緒に帰ろう!」

嬉しそうに近寄る彼の後ろで、あの子が残念そうにしていた。

「良いの?」

「二次会?」


 違うよ、彼女だよ、、、。


「良いの、良いの。人数多過ぎてさ。カラオケ行くらしいけど、どうせ歌えないじゃん?俺も帰るよ」

有馬くんは僕と肩を組んで、さっさと駅の方に向かった。

 なんか良い匂いするんだよな、、、。



*****



「あ!」


 あ?


「ゲーセン寄っても良い?」

「良いけど?」

有馬くんは表のクレーンゲームをチェックしてから、お店の中に入って行った。

 

 欲しい物があるのかな?


「これのさ、あの、緑色のグッズカラーの子が好きなんだ。アイツ、あんまりいないんだよね」

大人も子供も好きな、お馴染みの可愛いキャラクター。原作は漫画だっけ?

「ちょっとやっても良い?」

なんて言って、クレーンゲームを始めた。

 

 店の外を二次会参加者達が歩いて行く。

「やっぱりいるじゃぁ〜ん!」

酔っ払った女子が二人、店内に入って来た。さっき、僕を呼んで放置した人だ、、、。

「有馬くんはカラオケ行かないの?」

やたら親密そうに話し掛ける。身体をくっ付けて、遠慮無いな、、、。

 後からあの子も着いて来た。

「有馬くんがいないとつまらないよ」

可愛く言う。

「うーん、今は無理」

と言いながら、ゲームの手を止めた。

 僕は知らんぷりをして、ちょっと離れる。ゲーム機の角を曲がり、ガラス越しに様子を伺う。

「今、これ取ってるからさ」

「え?取れたら頂戴!美和子が欲しいって!」

「ちょっ!愛菜まなちゃん、ダメだよ」

あの子、美和子ちゃんって言うんだ、、、。可愛い名前、、、。

「カラオケ、時間あるんじゃ無いの?」

「予約してあるから大丈夫だよ」

愛菜ちゃん、、、自由だな、、、。

「それ取って、有馬くんもカラオケ行こうよ」

店先に出たら、幹事が戻って来た。

「あ!誰か一緒?カラオケ、人数揃わないと入れないらしくて!」

「有馬くんと女子が三人」

「それだ!」

と言いながら、中に入って行った。

 女の子三人を連れて幹事がカラオケ店に向かう。


 大変そうだな、、、。


 僕は有馬くんの所に戻った。

「取れた?」

「やっと、、、。アイツら本当ホント迷惑、、、」

「はは、、、」

「ま、コイツが取れたから良いや」

と嬉しそうにした。


 有馬くんは、もう少し店内をフラフラする。僕は後ろを着いて回る事にした。


「げっ、、、待って、、、」

「 ? 」

「さっき、あんなに苦労したのに、、、」

クレーンゲームが下手な僕でも分かる。ちょっと引っ掛けたら絶対落ちる位置に、有馬くんの好きなキャラクターがいた。

 チラリと顔を見たらやりたそうだった。

「やるの?」

「もう、金が無い、、、」

「あるよ」

僕は財布から小銭を出した。

「はい」

「良いの?」

「うん」

「やった!」

有馬くんは一発でその子を落とした。さっきの子と被ってるけど、良いのかな?

「内村、こっち上げる」

と先に取った方をくれる。

「え?」

「同じのだし、内村が金出したから」

「、、、ありがとう、、、」

受け取って、ちゃんと見るとその子は生ビールのジョッキを片手に持っていた。

「この子、有馬みたい。生ビール飲んでる」


ふふ、と笑った。


「そうなんだ、それでお気に入り」

「じゃあ、この子を有馬くんって呼ぼ」

有馬くんが顔を赤くして笑った。



*****



 週が明けて月曜日。

「お早よう」

有馬くんから挨拶して貰った。

「お早よう」

自動販売機でコーヒーを買う。

「金曜日、大丈夫だった?」

「大丈夫?」

何が?

「あ、、、女の子じゃ無いから平気だったよね」

有馬くん、いつも女の子にそんな事言うんだ。そりゃあ、モテる様な気がするよ。

「お早ようございます」

美和子ちゃんが挨拶して来た。

「金曜日はお疲れ様でした。欲しい物取れたんですか?」

「あの後、ちゃんと取れたよ」

「良かったですね。あのキャラクター好きなんですか?」

美和子ちゃんは今日もきちんとお化粧をして可愛かった。

 二人がもの凄く盛り上がって来たから、僕は自分の席に戻った。

 


*****



 女の子は可愛くて羨ましい。別に女の子になりたい訳じゃ無い。

 ただ、好きな人に可愛く思われたくて、化粧をしたり可愛い洋服を着ていると、やっぱり羨ましいな。

 僕なんて、振り向いて貰う為にどうしたら良いか分からないよ。



*****



 昼休憩を取っていたら、後ろの席が美和子ちゃんだった。

 愛菜ちゃん達とランチをしている。どうも数人で遊園地に行くらしく、そのメンバーに

有馬くんも含まれているみたいだ。


 良いな、、、有馬くんと遊園地、、、。


 僕も行きたいな、、、。


 自分から「僕も行きたい」と言う勇気も無く、誘って貰える確率も低い。

 女子三人は、どうしたら有馬くんと美和子ちゃんが二人きりになれるか相談を始めた。



*****



 仕事中に有馬くんをチラッと見ると、女の子が来ていた。勿論仕事なんだろうけど、横に立つ女の子は嬉しそうだった。

 座る彼の横から書類を見せながら、髪を耳に掛ける。女の子らしい仕草が、可愛いなって思ってしまう。



*****



 コピー機の前で、有馬くんと話しをしていたら、別部署の女の子が

「週末に旅行に行ったお土産です」

と彼にお菓子を渡した。

「有難う」

と笑った顔が、やっぱり格好良かった。



*****



 廊下で女の子と話す有馬くんは、彼女の肩口に付いたゴミを取って上げたみたいで、女の子が恥ずかしそうにお礼を言っていた。



*****



 有馬くんは誰にでも優しくて、女の子は誰でも彼を好きになっちゃうんだな、、、。


 そう思いながら、遠くから見るしか無い僕、、、。


 僕は、いつもただの友達で、たまに一緒に遊ぶメンバーの一人って感じだった。



*****


 

「はい、お土産」

と有馬くんが僕のテーブルにお菓子を置いた。

「 ? 有難う」

彼を見上げながらお礼を言った。

「休みに遊園地に行ったんだ」

美和子ちゃんが話していたヤツだ、、、。

「楽しかった?」

「遊園地なんて学生の頃に行ったきりだったからね」

彼が笑った。


 美和子ちゃんに告白されたのかな?


「、、、」

「 ? どうしたの?有馬くん」

「あのさ、、、今度、遊園地行かない?」

「え?行ったんでしょ?」

「内村とは行かなかったから」


 そこで、始業の合図が鳴った。



*****



 10時の休憩時間に、有馬くんが席を立ち、僕の方に来そうだった。さっきの話の続きかな?

 そう思って、僕も立ちあがろうとしたら、有馬くんは美和子ちゃんに話し掛けられていた。

 腰を浮かした僕は、そのまま立ち上がり席を外す。

 チラリと見たら話しが長そうだから、僕は自動販売機にコーヒーを買いに行く。


 自動販売機の前で、コーヒーを飲みながら立ち話をしていたら

「この間岩倉達と遊園地に行ったらさ」

と花房くんが話し出した。

「木川さんがずっと有馬と一緒にいたよ。やっぱり木川さんは有馬が好きなのかな?」

「好きでしょ?どう見ても好きだよね」

永見くんが言う。

 木川さんが美和子ちゃんの事だと分かるのに、少し時間が掛かった。

 僕は話しに加わる事も出来ず、なんと無く聞いていた。

「良い雰囲気だったよな。木川さん可愛いし、有馬とお似合いだよ」


 あ〜、、、。それは分かる、、、。


「岩倉が木川さんと有馬をペアにしたがるから、こっちまで協力しないといけない雰囲気だったよな」

「あ、ほら、、、」

僕が彼の視線の先を見ると、有馬くんと美和子ちゃんが歩いて来る。

「内村っ!」


 僕?


「あのさ!」

と有馬くんが言ったタイミングで、休憩時間が終わった、、、。

 美和子ちゃんは、自動販売機でお茶を買っていた。

 花房くんと永見くんの後ろを有馬くんと歩き、仕事に戻る。

「後でな」

「うん」

と言いながら席に着いて有馬くんをそっと見ると、美和子ちゃんがコーヒーを渡していた。



**********



 12時になるとお昼の合図が鳴る。その時間は電話も受け付けないし、必ず休憩を取らないといけない。

 僕は、食堂に行く事にした。

「内村、食堂?」

有馬くんだ。

「うん、外に買いに行くの面倒で」

「今日はなんの気分?」

「、、、蕎麦かなぁ、、、」

と言うと、僕の方を見て

「もっと沢山食べないと大きくなれないよ?」

と言う。僕は唇が尖りそうになりながら

「だから背が低いとか言うんでしょ?」

と言うと

「内村、細いからさ。俺の半分位じゃない?」

笑う。

「蕎麦かぁ、、、俺も蕎麦にしようかな。天ぷらも食いたいし」


 食堂の給水機でお冷を貰い、席を確保する。目印にハンカチを置いて、食堂の列に並んだ。

 有馬くんは大盛りの盛り蕎麦と天ぷら。僕は普通の盛り蕎麦にした。

 席に戻ると美和子ちゃん達がいた。

「お疲れ様」

美和子ちゃんの隣に有馬くんが座ると、嬉しそうに挨拶をした。

 僕の横には愛菜ちゃん。その横にいつも一緒にいる名前の分からない人、、、こっそり名札を見る。坂田さんって言うんだ。愛菜ちゃんが岩倉さん。

 僕はそっと手を合わせて、頂きますと言ってから蕎麦を啜った。

 はぁ、、、お腹空いたから美味しい、、、。


 木川さんは、チーズハンバーグを切りながら

「土曜日の遊園地楽しかったですね」

と有馬くんに微笑んだ。

「俺も久しぶりにジェットコースター乗ったよ。子供の時より怖かった!」

「私は、コーヒーカップが苦手でした。あんなに気分悪くなるとか思わなくて」

「降りた後、ヘロヘロだったよね」

 二人を見ると、会話も弾んで楽しそうだった。

 たまに岩倉さんや坂田さんも話しに加わり、僕だけが話しに入れなかった。

「ご馳走様」

と小さく言って、席を立つ。

「坂田さん、ここ空くからどうぞ」

と言うと、坂田さんはありがとうと言って移動した。

 僕は食器を片付けて自分の机に戻る。


 お昼を過ぎて、仕事が急に忙しくなった。

 午後の休憩に、自動販売機でコーヒーを買い、直ぐに仕事に戻る。夕方になってもやる事がいっぱいで、脇目も降らず仕事をした。

 19時過ぎになんとか今日の仕事を終えて、パソコンの電源を落とす。

 やっと帰れる、、、。疲れたぁ、、、。


「内村くん。お疲れ様」

「西岡さん、お疲れ様です」

鞄を持ち、二人で

「お先に失礼します」

と言って会社を出る。

「お腹空いたね。何か食べに行かない?」

西岡さんに誘われて、めちゃくちゃお腹が空いていた僕は

「行きたいです。行きます、、、」

と返事をした。

 西岡さんは僕より3つ位年上の女性で、お酒が物凄く好きらしい。


 兎に角お酒が飲みたい西岡さんと、お腹が空いてる僕は、一番近いお店に入った。

 西岡さんは生ビールを二杯頼み、アレコレ適当に頼んでくれた。勿論、苦手な物を聞いてくれて、僕はすごく楽だった。


「あれ?内村」

有馬くんと美和子ちゃんだった。

「今から飯?」

「うん、さっき仕事終わって」

「有馬くんは帰るの?」

「今、会計終わった所、、、俺も一緒に飲んで良い?」

「え?美和子ちゃんは?」

「あ」

有馬くん、美和子ちゃんの存在忘れてたのかな?

「お腹は一杯だけど、飲むだけなら」

 西岡さんも

「どうぞ、どうぞ」

と隣の椅子に置いた荷物を退けた。

 店員さんがそれに気付いて、荷物を入れる籠を持って来てくれた。二人は椅子に座り、アルコールを頼む。

「お疲れ様〜!」

と言いながら、西岡さんはゴキュゴキュと生ビールを煽る。

「おじさんみたいですよ」

と有馬くんが言うと

「良いのよ。これが一番美味しいんだから!」

と言って、追加を頼んだ。 

 料理が届くと、僕は食べる事に夢中になった。

「お腹空いてたんだねぇ〜」

と西岡さんが正面から温かい視線を送る。取り箸で唐揚げを摘み

「食べな、食べな」

と僕の皿に載せる。

 丁度良い感じにお腹が満たされ、僕も生ビールを飲んだ。

「で、さ。有馬くんと美和子ちゃんは付き合ってるの?」


 わ、直球だ、、、。


 チラリと斜め前の美和子ちゃんを見ると、恥ずかしそうに赤くなっている。

 有馬くんは枝豆を摘みながら

「どうでしょうねぇ〜」

と言葉を濁した。

「ふ〜ん。じゃあ、内村くんは彼女いるの?」

「いないです」

「好きな人は?」

「、、、いますけど、、、?」

西岡さんがハンターの様に目を光らせた。


 僕はのらりくらりと質問をかわし、有馬くんが好きだと言う事がバレずに済んだ。


 でも、みんなに彼女がいない、好きな人がいるってバレちゃったんだよな、、、。



 会計を終わらせ、駅まで歩く。有馬くんと行ったゲームセンターの前を通る。西岡さんは巫山戯ふざけながら

「で?内村くんの好きな人はどんな人?」

とか

「職場の人なの?」

「年下?同じ歳?年上?え、私?!」 

ニヤニヤしながら聞いて来る。

 僕も

「教えませーん」

「言えませーん」

「答えませーん」

と返事を繰り返した。


 駅で三人と別れ、僕だけ「お疲れ様でした」と挨拶をして、少し先の駅まで歩く。

 有馬くんは美和子ちゃんを送るのかな?なんて考えていたら

「内村っ!」

と呼ばれた。

「有馬くん?どうしたの?」

「一緒に帰ろうと思って」

「え?あっちの路線だよね?」

「遠回りだけど、こっちからも帰れるんだ」

「面倒じゃ無い?」

「今日、内村とあんまり話しが出来なかったから。どこまで帰るの?」

と聞かれて、最寄駅を答えると、なら大丈夫と一緒に帰る事にした。

「美和子ちゃんは、送らないで平気なの?」

「別に付き合ってる訳じゃ無いし、西岡さんが一緒だから」


 僕は、美和子ちゃんよりも優先してくれたみたいで、ちょっと嬉しかった。


「遊園地、行くでしょ?」

「でも、この間行ったばかりなのに、平気なの?」

「平気、平気。いつなら大丈夫?」

「休日はいつでも平気だけど」

「じゃ!次の土曜日!連絡先交換しようよ」

僕達は個人の連絡先を交換していなかった。改札前で立ち止まって、スマートフォンを翳す。

「オッケー!当日何かあったら連絡して」


 有馬くんは連絡先交換もスマートだった。僕なんて、ずっと交換したかったのに、中々言い出せなくてズルズル先延ばしにして、もう半分諦めていたんだ。人付き合いが上手いんだな、、、。


 

**********



 金曜日、ランチ時間に社員食堂に行く。僕が入って行くと、有馬くんが

「内村、席取ってあるから」

と声を掛けてくれた。

「え?有難う」

僕は有馬くんが席に着くのを確認した。四人掛けの窓際の席。


 昼食を乗せたトレーを持って、給水機でお冷を入れる。窓際の席に行くと、美和子ちゃんと岩倉さん、坂田さんがいた。

「あの、、、」

僕が声を掛けると、岩倉さんが「どうしたの?」と言う顔をした。僕は諦めて移動する。

「内村くん、此処ここ空いてるよ!」

西岡さんに名前を呼ばれて

「有難う御座います」

と目の前の席に座る。

「有馬くん、内村くんの席キープしてあったの?」

「席、取ってあるって、言われたんですけどね」

苦笑いをした。

「丁度三人分空いてるからって、さっさと座り出したから、有馬くんも断れなかったみたいだね。女子は怖いから」

 スマートフォンが揺れた。

 チラリと見たら、有馬くんから

「ごめん、断れなかった」

とメッセージが来てた。僕はスタンプで、大丈夫!と送ったけど、本当は全然大丈夫じゃ無かった。


「あ、、、それ、、、」


西岡さんのスマートフォンに、有馬くんの好きなキャラクターが着いていた。

「あ、この子?可愛いでしょう。見て、この子が持ってる酎ハイが、私の大好きなヤツなんだよ」

アルコール度数9%のレモンハイ、、、西岡さんらしい、、、。

「有馬くんも好きですよ」

「ダメだよ!君は私だけの物だからね?浮気はダメ!」

とスマートフォンに話し掛ける。酔っ払ってる?


 僕はさっきのイヤな気持ちを忘れていた。



*****



 今日は定時で上がれるな。と喜んでいたら、有馬くんが飲みに誘われていた。

 今日は違う部署の女の子だった。

「メンバーは?」

と有馬くんが言うと

「二人きりはダメですか?」

と聞いていた。

「どうせ飲みに行くなら、おお人数の方が楽しいよね」

上手く二人きりを避けている。

「どうしたんですか?」

美和子ちゃんが横から参加していた。


 僕は鞄を持ち

「お先に失礼します」

と言って、横を通り過ぎた。



「あ、内村くんは上がり?」

西岡さんに引き留められて、少し仕事の話をする。数分話して、最後に有馬くんを見ると、三人でまだ話をしていた。



*****



 土曜日の遊園地の件が決まった。待ち合わせ場所、時間、僕は凄く楽しみだった。平日の間に服を買いに行き、ちょっと奮発をした。それに合わせて靴も買ってしまった。馬鹿だな、、、と思いながら、楽しかった。

 前日に、有馬くんから「明日、よろしく」とメッセージが届いて、「僕も楽しみ」と返事をした。

 夜はドキドキして、全然眠れない。

 結局三時間睡眠で、朝も早くから着替えをしてしまった、

 待ち合わせ場所にも、30分前に着いてしまった。早過ぎて笑ってしまう。どれだけ楽しみなんだろう。でも、黙っていればこんなに早く着いた事なんて分からないだろうし、遅れるよりは良いからとそのまま待っていた。


 時間になっても彼は来なかった。

 あれ?今日じゃ無かった?

 彼からのメッセージを確認した。日にち、時間、場所は合っている。遅れると連絡も無い。

 電車が遅れてる?交通状況を調べても、特に遅れていない。

 20分待った。、、、来ない。連絡しようかな、、、。でも、なんて?悪気が有って遅れている訳では無いだろう、、、。有馬くんだって、慌ててるだろうし、、、。

 途中で具合が悪くなったとか?


 、、、心配だな、、、。



「内村っ!ごめん!」

結局40分遅れて彼は来た。

「あ!」

スマートフォンを見ながら

「本当にごめん。メッセージ送ろうとして、送信して無かった、、、」


 え〜、、、。



 有馬くんは、昨日飲み会に参加して、中々帰して貰えなかったらしい。今日の予定があるから、一次会しか出ないと言ったのに、だらだらと一次会が伸び、結局終電を逃し、始発で帰り、シャワーを浴びて仮眠を取ったら寝坊した、、、。と言う訳。


 流石、人気者だな、、、。


 入場口でチケットを買って、取り敢えずジェットコースターに向かう。

 

 え?待って?これに乗るの?


 ちょっと腰が引けてしまう。


「あ、、、あのさ、、、」

有馬くんは涼しい顔をしている。

「有馬くんは、絶叫系が好きなの?」

「内村、苦手?」

「あ、有馬くんが乗りたいなら全然、、、」

平気じゃ無いけど、頑張るよ。


 

 並んでいる時は平気だった。

 他愛も無い話をして、順番を待つ。進みが遅い列も有馬くんと一緒なら平気だったし、思った以上に早く進んだ。

 安全バーが降りても平気だった。

 コースターが走り出しても余裕?

 ただ、長い長い坂を登り始め、頂上に着いて、暫くそこに留まった時、めれば良かったと後悔した。


 何年も乗って無かったから、もう平気かと思ったけど、僕は安全ロックのレバーにしがみ付き、前も見れなかった。ほんの数分で酔ってしまい、降りた時にはぐったりしていた。

「内村、大丈夫?」

と言いながら、有馬くんは横に座った。

「ごめん、絶叫系苦手なの忘れてた、、、」

椅子に浅く腰掛け、目を瞑る。

「有馬くん!」

女の子の声だ。

「お友達大丈夫?良かったら、水、買って来たから」

「お、有難う。幾らだった?」

と言いながら、蓋を開けて

「内村、水、飲みな」

と渡してくれる。

「有難う、、、」

水を飲む為に身体を起こすと、それだけでフラフラした。

「有馬くん、何か乗って来なよ、、、。僕、まだ、暫く無理そうだし」

と言うと、水をくれた女の子が

「じゃあ、折角だしジェットコースター乗ろうよ!」

と誘っていた。

「え、、、」

「僕じゃ、一緒に乗れないから、、、。此処ここで見てるよ」

彼は、彼女に腕を引かれながらジェットコースターの列に並んだ。

 僕の体調は、ちょっと良くなったと思って身体を動かすと、やっぱり気持ち悪くて、椅子から立ち上がる事が出来なかった。


 どうしてジェットコースターになんか乗っちゃったんだろう。、、、そう思いながら、だって、有馬くんと一緒に乗りたかったんだ、、、と、溜息をいた。



 列に並んだ彼等を見て、次辺り乗れるかな?と思っていた。丁度、彼等の前でストップが掛かり、次の乗車になったみたいだ。きっと一番前だろうな、、、。


 

 二人は一番前に座り、僕の前をジェットコースターが走って行った。楽しそうな二人を見て、羨ましかった。


 有馬くんはスマートフォンで「もう一度乗って来る!」とメッセージを送って来た。「良いよ」と返事を送り、貰った水を飲む。ちょっと体調が戻って来たかも、、、。


 二人で楽しそうにベンチに戻って来た。

「内村、大丈夫?」

「うん、大分良くなったよ」

と返事をすると、女の子が

「私も一緒に回っても良いかな?」

と聞いて来た。


 、、、僕の知らない女の子、、、。


 有馬くんに

「内村は平気?」

と言われた。

「僕は別に良いよ」


 イヤとは言えないよ、、、。


 結局、僕達は三人で行動した。三人と言うよりは、僕が後ろを着いて回る感じ。

 あ〜あ、、、ジェットコースターなんて乗らなければ良かった、、、。



 昼食を取りながら

「織田は何で遊園地来たの?」

と有馬くんが聞いていた。

「昨日、有馬くんが遊園地に行くって言うから、なんか行きたくなっちゃって。有馬くんがいるかも知れないから来たんだ」

と笑う。

「一人で遊園地とか行くの?」

「行くよ。一人で水族館も行くし、動物園も行く。でも映画館は行かないかな」

僕は二人の会話を聞きながら食事をした。

「この後、何に乗る?」

と相談を始めたから、僕はパンフレットを見るフリをした。


 織田さんは、有馬くんが好きだと思う。

 美和子ちゃんも有馬くんが好きだ。

 他にも会社に、有馬くんの事を好きな人が何人かいる。


 僕はやっぱりその他大勢の一人なんだろうな、、、。


「ね、観覧車乗ろうよ!」

彼女が言った。夕方になり、もうすぐ日が沈む頃だった。

 きっと、織田さんは有馬くんと二人きりで乗りたいんだ、、、。

 僕が黙って様子を見ていたら、有馬くんが良いよ、と返事をした。

 大きな観覧車の下に行き、見上げる。

「二人で乗って来なよ」

僕が言うと、織田さんは嬉しそうに

「良いの?!」

と言う。

「内村、高い所も苦手?」

「イヤ、、、あの階段を登るかと思うとちょっと」

嘘をいた。

 織田さんからずっと、僕が邪魔だと言うオーラを浴びていたから、疲れてしまった。

「僕は、あそこの店でコーヒーでも飲んでるよ」

と言うと、二人と分かれた。



 一人でお店に入ろうとしたら、女の人に声を掛けられた。地図を見ながら、この場所が何処どこが尋ねられた。僕が地図を見ながら「あ、此処ここですよ。ほら、観覧車が此処ここだから」

と教えるとホッとした様に笑った。



 お店に入って、観覧車の見えない席を選んだ。観覧車が見えたら、僕は有馬くんを探してしまうから。入り口近くの窓から離れた席。

 パンフレットを見たら、一周15分と書いてあった。30分は掛かるかな、、、。

 僕はコーヒーを頼み、スマートフォンで音楽を聞きながらウトウトしていた。



 クスクス笑う声がする。

 目を覚ますと、有馬くんと織田さんが正面に座っていた。

「お帰り」

と言うと

「内村、疲れちゃった?」

と聞いて来る。

「そうだね」


 色んな意味で疲れたよ、、、。


「めちゃくちゃ、気持ち良さそうに寝てたよ」

「ごめん」

と謝って、コーヒーを飲む。あっま?!

「なっ?!」

織田さんが笑った。悪戯で砂糖を沢山入れたんだ。


 はは、、、。疲れたな、、、。


「ごめん、ちょっとトイレ」

僕は鞄を持ってトイレに立った。


 個室に入り、泣いた。


 今日は散々だった、、、。そう思った途端、涙が出た。いつもなら笑って許せる悪戯だった。自分だって、仲の良い友達にやる時もある。


「帰りたいな、、、」


言葉に出てしまった。涙を拭いて、時間を見る。昼から遊んで18時を回っていた。もう帰っても良いだろう、、、。

 僕は深い溜息をいて個室を出た。



 有馬くんが居て、びっくりした。

「ごめん、、、」

「大丈夫だよ」

と言う。

「もう帰る?」

「うん、疲れちゃった」

「お土産は?」

「この間貰ったから、僕は見なくて良いよ。有馬くんは織田さんとゆっくりして」

洗面台で手を洗う。石鹸を使って、綺麗に綺麗に洗った。

「内村、、、こめん」

「僕はこのまま帰るよ」

コーヒー代は食券だったから大丈夫。

「織田さんとご飯食べて、お土産を見ると良いよ」

僕は出来るだけ明るく笑う。



**********



 俺は、調子に乗り過ぎていた。

 内村と遊園地に行ける事が嬉しかった。

 金曜日の飲み会に無理矢理誘われて

「明日は遊園地に行くから早く帰る」

と言っても帰れなかった。皆んなに引き止められ、終電を逃し、遅刻をした。

 最悪だと思いながら、内村にメッセージを送ったのに送信されず、40分も待たせてしまった。

 きっとテンパっていたんだ。

 織田さんに声を掛けられた時は、助かったと思った。内村がジェットコースターで酔ってしまって、どうしたらいいか分からなかった。

 まさか、織田さんが一人とは思わず、何と無く一緒に回る事になったけど、織田さんは上手く俺の横を歩き、内村は後ろを歩いていた。

 内村と観覧車に乗りたかったけど、入り口まで長い階段があった。途中から元気が無かった彼は、一人でコーヒーを飲んで待つと言う。

 一緒に行きたかったのに、、、。そう思って、振り向いたら女の人に話し掛けられていた。

 西岡さんと言い、あの女性と言い、内村は年上にモテるのかな、、、?何だか、胸がチクリとした。



 観覧車を降りて、内村が入った店に行くと、最初に食券を買わないといけなかった。

 織田さんはお腹が空いたと言い、パスタプレートの食券を買う。俺も、生姜焼きを買った。内村には、席で食券を買った話をしようと思った。

 観覧車が見える窓際の席を探したけど、内村はいなかった。

「あ、あそこ」

と織田さんが指差す方向に内村はいた。

 ウトウトしている。

 二人で静かに席に着き、食券を渡す。

 内村は起きない、、、。寝顔が可愛かった。

 織田さんが、内村のコーヒーに砂糖をドバドバ入れた時はびっくりしたけど、驚く顔が見たかった、、、。



 まさか、泣くとは思わなかった。

 織田さんは気付いていない。

 俺が様子を見に行ったから分かったんだ、、、。



 ごめんとしか言えなかった、、、。



**********



 昼食の時間。僕はうどんをトレーに乗せて席を探した。西岡さんが

「内村くん、此処ここ此処ここ!」

と自分の目の前の席を指差す。

「有難う御座います」

「いえいえ」

西岡さんのスマートフォンに目が行く。有馬くんの好きなキャラクター、、、。

「有馬くんと喧嘩でもした?」

西岡さんは視線を落としたまま聞いた。パクリとカレーを食べる。カレーも美味しそうだな、、、。

「喧嘩をする程、仲良く無いですから」

と言うと

「喧嘩をする程、仲悪くも無いだろ?」

と有馬くんが言った。ちょっと前に空いた、僕の横に座る。


 あれから、僕は有馬くんを避けている。

 好きなんだけど、彼は女の子にモテ過ぎる。


 振り向いて貰えないのは分かっているし、女の子と一緒にいる彼は見たく無い。

 どうしようも無い感情を持て余し、振り回されるのに疲れてしまった。


 片思いは辛いな、、、。


「西岡さんって、内村がお気に入りなんですね?」

天丼を頬張りながら有馬くんが言った。西岡さんは黙っている。

「この間も、内村に声掛けてました」


 え? 有馬くん、機嫌が悪い?


 西岡さんも、僕も黙々と食べる。


「前に、「君は私だけの物だからね?浮気はダメ!」って内村に言ってましたよね?」


 ん? そんな事あったかな?

 西岡さんと目が合った。

 彼女も頭の中が ? で一杯みたいだった。

「有馬くん、内村くんは可愛いから揶揄からかい甲斐があるけどね、私のタイプは君だから」

とニヤリと笑った。

 有馬くんはジトリと睨んでいる。

「内村くん、今日、飲みに行こうか?」

「え?あ、はい、、、?」

「俺も、、、俺も行きたいです」

なんで喧嘩腰で参加表明?

「じゃ、6時にこの間に店に。仕事必ず終わらせてね」

と言うと、西岡さんはカレーを食べ終え、席を立つ。

 待って、、、有馬くんと二人きりにしないで、、、西岡さ〜ん、、、。



 僕は、うどんを一本ずつ食べた。気不味くて、音を立てるのも申し訳無かった。

「仕事終わったら迎えに行く」

と言うと、彼は食べ終わった食器を片付けに行った。

 迎えに行くって、同じフロアなんだけど、、、。


 二人の様子がおかしくて、飲みに行くのが怖い、、、。仕事に集中出来なくて、夕方からアワアワしながら片付けた。


「内村、終わった?行ける?」

有馬くんが真面目な顔をしている。ちょっと怖い、、、。

「え?どこか行くんですか?」

美和子ちゃんだ。

「西岡さんとちょっとね」

「私も参加したいです」

いつもなら「いいよ」と言う彼も、今日は

「西岡さんからのお誘いだから」

と断っていた。でも、誘われたのは僕だけなんだけど、、、。

「内村」

呼ばれて鞄を持つ。有馬くんは早足で、何だかいつもと空気が違った。



 10分待っても西岡さんは来なかった。

 20分待っても来ない。

 30分待って、とうとう有馬くんがキレた。

 僕はちびちびお酒を飲む。有馬くんは、西岡さんが来るまで注文をしないで待っていた料理を頼んだ。

 なんでこんなに怒ってるんだろう、、、?

 僕は居た堪れ無くなって、お酒ばかりを飲んでいた。


 有馬くんは料理を粗方食べてから

「内村の好きな人って、やっぱり西岡さんなの?」

て聞かれた。


 やっぱりって何?!


「西岡さんも内村の事、好きみたいだし」


 え!さっき違うって言われてたよね?!

「タイプとしては、有馬くんって言ってたよね?」

「それは嘘だよ。西岡さんの好きな人は内村じゃない?、、、それで、内村も西岡さんの事好きなら、両思いじゃん!付き合いなよ!」

「有馬くん、飲み過ぎだよ。もう出よう」

僕はお会計をお願いして、有馬くんを立たせる。


 駅迄の道則も、有馬くんはずっと西岡さんと僕の話しをした。

「歳の差三つなんて誤差だよ?。姉さん女房で良いじゃない。西岡さんは頼りになるし、内村には似合ってるよ。ちょっと酒が強いけど、上司としても良い人だし。あ、内村は告白されたいタイプ?でも、両思いなら内村から告白しても上手く行くと思うよ?もしダメなら、その時は飲みに行こうよ!」


 うるさいっ!


「あのね!しつこいよ、有馬くんっ!西岡さんは僕の事タイプじゃ無いって言ってたし、僕の好きな人は、君だよっ!」


 あ、言ってしまった、、、。

 言っても如何どうにもならないのに、、、。


「君の周りにはいつも女の子がいるし、君は僕の事、何とも思って無いから言うつもり無かったのに!僕は君なんて好きになりたく無かった!でも、好きになっちゃったんだ!仕方無いだろ?!」

「内村、、、」

「うるさいっ!」

「内村待って!」

彼は両手で僕を掴んだ。

「離してっ!」

「内村っ!!」

一際大きな声で名前を呼ばれた。僕はびっくりして、固まってしまった。

「ごめん、、、ちゃんと話したい。あの、、、」

彼は僕を離さなかった。

「来て、、、」

手を繋いで、足早に裏路地に入る。


 え?


そのまま手を引かれて、小さなホテルに入ってしまった。だ、誰かに見られたらどうするの?!


「ごめん、、、ちゃんと話したかったから」

僕は、こう言うホテルに初めて入った。目の前の大きなベッドが衝撃的でオロオロして来た。ガラス張りのお風呂まで有って、刺激が強過ぎる。

「あああ、あの、あの、あのっ!」

ダメだ、頭が回らない。

「内村?」

名前を呼ばれただけで、顔が赤くなる!

 有馬は冷蔵庫から缶ビールと酎ハイを出した。

「座って、、、」

と言って、テーブルの上のグラスにお酒を注ぐ。

「はい」

と、酎ハイのグラスを渡してくれた。

「あのさ、、、確認なんだけど、、、内村の好きな人って、俺なの?」


 優しい声だった。きっと、嫌われてはいない、、、。


 コクリと頷くと、自然に涙が出た。


 あーあ、、、バレちゃった、、、。


「ど、如何どうして泣くの?」

「知られたく無かった、、、」

「男同士だから?」

僕は首を横に振る。

「君は、沢山の女の子にモテるから、僕なんて、その他大勢の一人に過ぎないでしょ?、、、。気持ちを伝えても迷惑なだけかなって、、、。それに、こんな気持ち叶う訳無いって分かってるんだ」

「そんな事無いよ、、、」


 ふふ、、、と、笑いが出た。


「有馬くんはいつも優しい。気が利くし、それが自然に出来てすごいなって思う」

「、、、」

「でもね、僕にはそんなの必要ないんだ。中途半端に優しくされても困る、、、」

「困る?」

「困る、、、嫌いになれない、、、。もっと好きになっちゃう、、、」

「、、、もっと好きになってよ、、、」

「ヤダよ、、、これ以上好きになりたくない」

目の前に立つ有馬くんが、そっと手を伸ばす。

 彼の指先が頬に触れると、僕は自然に顔を上げ、彼を見る。

 身体を屈めてキスしてくれた。


「何で、、、?」


 僕の手を取り、ベッドに連れて行く。

 彼は腰掛け、僕にも座るように促した。

「今も、俺が上げた「有馬くん」、、、君の家にいる?」

「いるよ、、、枕元に飾ってある」

「俺、、、あの頃から内村の事、好きだった。だから、あの飲み会の日、内村の横に座れて嬉しかったし、飲み会の後も一緒にいたかった」

有馬くんは僕の手を繋いだままだった。

「、、、西岡さんにヤキモチ妬いたんだ、、、」

僕を見て笑う。

「本当は、西岡さんが内村の事好きじゃないって、分かってたんだ。でも、やっぱり、あの人が「内村くん」って呼ぶと嫌な気持ちになった」

「、、、」

「内村の事、、、好きなんだ、、、」


 、、、本当ホントかな?


「信じられない?」


 僕は頷いた。


 彼の顔が近付いて来る。


 え?、、、


「、、、キス、、、しても良い?」


 良い、、、けど、、、


 僕は迫る彼から逃げる様に、身体を後ろに引く。


「、、、キス、、、したい」


 これ以上下がれない。 


 ポスンッ、、、と布団に倒れ込んだ。


 彼は僕に覆い被さる様に、上から僕を見下ろして


「、、、嫌ならちゃんと断って、、、」


 少し淋しそうな顔をした。


「、、、別に良いけど、、、」


 それが精一杯の返事だった。


 彼の顔がゆっくり近付いてくる。思わずギュッと目を瞑る。


 彼のキスは優しかった。

 触れるだけのキス。

 ゆっくり、何度もしてくれた。

 僕の頬を両手で大切そうに包む。


「好き、、、好きだ、、、」


 夢かな?身体がふわふわする、、、。


 彼のキスが少し変わる。唇を優しく噛む。噛んだ唇をいたわる様に舐める。

 僕の唇が少し開くと、彼はもっと大胆になって行く、、、。


 

 僕の知らない世界、、、。

 優しい彼は、僕の身体にも優しく触れた、、、。



**********



 翌日、西岡さんはヘラリと笑って、僕達の前に立つ。

「二人で飲んだ?仲直り出来たの?」

僕は、昨日の晩の事を思い出して真っ赤になった。

「元々、喧嘩なんてしてません。、、、でも、内村は西岡さんの手に入りませんから」


 ぎゃっ!何言ってるの?有馬くんっ!


「ふふぅ〜ん。まぁ、いいや。また、ゆっくり飲みに行こう。三人で」

西岡さんはニヤニヤしながら仕事に向かった。



 今日も有馬くんは、女の子に話し掛けられている。そしてまた、何かのお土産を貰っていた。

 ま、仕方無いさ、、、。と、思いながら昨日のキスを思い出す。


 僕は唇にそっと触れる、、、。


「内村っ!」


 有馬くんに名前を呼ばれて振り向くと

「受け取って!」

下手投げでお菓子を放った。僕はそれを両手でキャッチする。

「俺の愛!」

僕の顔が一気に赤くなり、隣りで西岡さんがコーヒーを吹いた。


 お菓子を上げた女の子が、びっくりした顔をしている。

 その後ろに美和子ちゃんがいた。彼女も、目を見開いて有馬くんを見ていた。




もっともっと二人の愛を深めて下さい。

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