バンバン叩いてぶち壊す! ~ ストレス発散していたら漆黒の騎士様に溺愛されました ~
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「あの噂、ご存じ?」
「ええ。あの川沿いにある古い教会でしょ」
「時々叫び声とものが壊れる大きな音がするけれど誰の姿も無いのですって」
「グラブラン伯爵の所有みたいですけど……。」
「あの古さなら亡霊がでてもおかしくないわね~」
✿ ✿ ✿
我がグラブラン伯爵家は王都の端に位置し、正門から庭を通り川を越えて邸宅にたどり着く。
簡単に言えば庭に川が流れているのだ。
敷地のすぐ横には川沿いに古い教会があり、以前は王都のはずれにある無人の建物であったため、強盗や諜報員の隠れ家となった事から隣接しているグラブラン伯爵家が管理している。
そしてその噂の元はなにを隠そうこの私。
グラブラン伯爵が娘 ジャスミンである。
「このー!少しぐらい顔がいいからってなんでも許されると思うなよー」
ボカボカ! ガンガン! ガシャーン!
「ふわふわの髪で子供っぽく見えるけどお胸だって他の人より大きいんだから~」
ポカポカポカポカポカ!
私はブンブン腕を回して木製の剣を丸太に打ち付けた。
ガーン!大きな音が響く。
「はあ。はあ はあ はあ」
「お嬢様、気持ちは落ち着きましたか?」
「うーん。ラナまだ、半分くらいしか解消してない」
「ですが、もう時間も遅いですから今日はこのくらいに」
「はーい」
私は渋々邸宅に戻る。
「ねえ。ラナ、こうパンチしても痛くない手袋とか作れないかしら?」
ラナは私の顔を繁々とみてため息をついた。
「なにか考えて、お作りしましょう」
「ありがとラナ♪」
どうして私が教会の地下室で暴れているかと言うと原因はただひとつ!
婚約者のクリス様のせいだ!
クリス様は私の2歳上で19歳、昨年学院を卒業して今は家督を継ぐために侯爵様についてマーカスト侯爵家の仕事を手伝っている。
そして……顔は良いけど性格が悪い。
会うたびにちびだの、子供だのモジャモジャだのと言っては私を馬鹿にして、夜会も入場こそ一緒にするけれど、直ぐにジール子爵家のシャーロット様と連れだっていなくなり、私はいつも一人で壁際に立っている。
シャーロット様はクリス様と同じ年で、背も高くサラサラの銀髪に青い瞳でとても綺麗な人だ。
でもやっぱり性格が悪い。
「私のことを家柄しか価値がないと平気で言ってくる」
むー。私の成績は女子では学年で一番ですけど!自分で立ち上げたブランドも順調ですけど!
私が気に入らないなら婚約辞めたらいいさ!
グラブラン伯爵家の援助がなかったらマーカスト侯爵家なんて潰れちゃうくせに!
金づるを大切にもしないのか!
このストレスを発散するために、私は夜な夜な教会の地下に潜り、いらない荷物に八つ当たりしている。
「ラナ聞いてよ。今日なんて私をクリス様とシャーロット様とさらにはその友人達で取り囲み、ドレスがダサいだの子供には似合わないだの寄ってたかって言うのよ!ドレスは私のブランドの最新作で、売れ行きも上々なのに」
ラナが私の背中をポンポンする。
「はい。お嬢様、ご所望の痛くない手袋ですよ。軽く作るのに苦労しました」
ニコニコしながらラナが私にもふもふした物を差し出す。
私の好きな黄緑色でフサフサの毛に……これは……動物の肉球みたいなぷにぷにした素材がついた大きな手袋!
「わあ。ありがとう。かわいい」
今夜はこれで思いきりストレス発散するわー。
私はラナと早々に教会に向かった。
✿ ✿ ✿
アシェル・ランバー伯爵令息 (漆黒の騎士) 視点
「副団長、これがジール子爵家で扱っている違法薬物です。
【アカシアの泉】と言う名前で、紅茶の様にポットで蒸して飲むと、気分が上がり攻撃的になになるようです、さらに依存性も強く今は下級貴族を中心に広く流通しています」
「で、その薬を流通させているジール子爵の娘がマーカスト侯爵令息と内通していると……。」
「はい。マーカスト公爵令息は、グランブラン伯爵家のジャスミン嬢と婚約しているのですが、ジール子爵家のシャーロット譲との仲を知らない者はおりません」
「グランブラン伯爵家に悪い噂は無いが、どうしてマーカスト侯爵家などと縁を結んだんだ」
「侯爵令息はジャスミン嬢が自分を好きだからだと吹いて回っていますが……。伯爵家から利益を得るためではないでしょうか?」
「そこでグラブラン伯爵家が所有する教会の噂を確かめに乗り込むのか。
あの協会は昔、強盗団のたまり場になっていたことがあるからな」
「はい。毎晩のように物が壊れる音や叫び声が聞こえる様です」
「では、少数精鋭で乗り込む。俺とジャックお前もいけるか?それにマイク、この三人で断行する」
俺は、騎士団のえり抜きを伴い、闇に紛れて川沿いの教会に潜入した。
教会の奥には地下に続く階段があり、薄く明かりが漏れている。
地下室のドアに近づくと、女性のしゃべり声が聞こえた。
「お嬢様、もうだいぶ夜も更けましたからそろそろ戻りましょう」
「えぇ~。ラナの作ってくれたこの手袋すごくいいんだもの~。えいえい!えい」
ドアを細く開けて中を覗くと、ふわふわのプラチナブロンドを揺らして、緑色の大きな猫の手で丸太や木箱をボカスカ叩く令嬢が目に入る。
まるで子猫が猫パンチをしているようだ。
「ははっははははは」
俺は思わず腹を抱えて大きな声で笑う。
「副団長どうされました!」
「なにかおかしな薬でも嗅いだのか?」
騎士たちが心配して駆けよるが、さらに笑いがこみあげて止まらない。
あんなかわいい生き物初めて見た。
俺達に気づいて、令嬢がドアからぴょっこり顔を覗かせる。
ヘーゼルアイの大きな瞳が俺達に驚いてパチパチと瞬きを繰り返す。
「ふはははは。今度はウサギみたいだ」
「あ。あの……。どちら様ですか?」
笑い続ける俺を令嬢が見上げながら訊ねると慌てて侍女が令嬢を自分に引き寄せる。
「漆黒の騎士、アシェル副騎士団長様とお見受けします。
私はグラブラン伯爵家でジャスミン様に仕えておりますラナと申します。
こちらの教会はグラブラン伯爵が所有するもの、騎士の皆様はこちらにどのような御用で」
「はは。これは失礼、確かに私は、第一騎士団副団長のアシェル。
今夜は今第一騎士団が調査している案件についてこの教会を確認に来たのだが、詳しい話はグラブラン伯爵にお話ししたいが、お取次ぎ願えるだろうか」
事情を説明すると、ラナと言う侍女は一歩下がり、ジャスミン嬢があのもこもこの手袋のままカーテシーをした。
「私、グランブラン伯爵が娘、ジャスミンと申します。先ほどのご無礼をお許しください」
綺麗なカーテシーともふもふ手袋のギャップにノックアウトされた。この小さなかわいい令嬢は、もしかしたら肩に乗せられるのでは?
思わず肩に乗せた姿を思い浮かべてまた声を出して笑ってしまう。
「副団長様、私のカーテシーなにおかしなところがあったでしょうか?」
「お嬢様、手袋……。」
今度は頬をピンク色に染めて、もふもふ手袋で顔を覆った!
うぅ。抱きしめたい。
俺は衝動に打ち勝ち!話を聞くとジャスミン嬢は夜な夜なマーカスト侯爵令息から受けたストレスを発散するために猫パンチを繰り返していたようだ。
ジャスミン嬢を守りたい……。
✿ ✿ ✿
ジャスミン 視点
あの夜、アシェル様はお父様と話をして帰られた、お父様は私には第一騎士団の極秘の任務だから話せないと詳しいことは教えてくれないが、なんだか私にも関係することだから、屋敷から出てはいけないと厳しく言われた。
数日間はのんびり本を読んだり、ラナとお庭にお花を植えたり楽しく過ごしたけど……。
「今は学院も期末のお休みだし……暇だな~もう10日も敷地から出してもらえてない~」
そうだ!いいこと思いついた。
教会なら敷地内と一緒だし、久しぶりに体を動かしに行こう!
私はラナに見つからない様にこっそりと屋敷を抜け出し、教会の地下室に向かった。
「あー。もふもふ手袋!久しぶり~。さてと今日はどれにしようかな」
私が手袋を着けて、何にパンチしようか考えていると、地下室のドアが開いた。
「え……。」
振り返ると、ドアに手をかけブロンドの髪をかき上げるクリス様が立っている。
「ジャスミン、やっと見つけた」
「ク クリス様……どうしてここに」
「やあ。このところ会いに行っても体調が悪くて会えないと追い返されていたからね、僕を避けているのかい? ジャスミン」
クリス様が一歩一歩近づいて来る。
「あの。来ないでください」
私はじりじりと壁際に追い詰められる。
「ジャスミン。どうして逃げるの?」
「クリス様は、私のこと嫌いですよね」
「はは。なにか勘違いしているね、ジャスミン」
こ……こわい。
「シャ シャシャーロット様みたいな綺麗な人がクリス様は好きなのですよね、私のことは放ておいてください」
私は壁を背に、立てかけてある数本の木の板に手を伸ばす。
「やっぱり誤解しているね。ジャスミン。僕はジャスミンのことが好きだよ、シャーロットは仕事の付き合いで仕方なく機嫌を取っているだけだ」
クリス様が私の髪に触れる。
「僕はジャスミンと結婚したら誰にも見せず、ずっと閉じ込めておきたいと思っている。ちょっと早いけど、僕から逃げようとするならこのまま攫ってしまおうかな、これからはずっと一緒だ。
ジャスミン口を開けて。これは気持が楽にある薬だ飲んでごらん」
クリス様がポケットの中から小さな瓶を取り出す。
「…………!」《無理!》
私は思いきり木の板を引き倒した。
木の板が私達に向けて倒れてくる。
すかさずしゃがんでクリス様をすり抜けドアに一目散。
「ぐあぁ。いたたた」
板が数枚クリス様にあたる。
私は振り向かず階段を駆け上がった。
教会の入り口のドアから出ようとしたがドアが開かない。
ぎゃーーー。このドア、鍵なんてあったの!
それとも…………。よく見ると大きなバドロックがつけられている。
「誰かー。助けて!誰か」
助けを呼ぶが誰の返事も無い。
「ジャスミン、せっかく二人きりになれたんだ。それにこの教会は亡霊が出ると噂されていて、だれも近づかない。さあ、こっちにおいで」
クリス様が階段を上がってきた。
嫌だ~。怖い。気持ち悪い。やだやだやだやだ。
私はもふもふ手袋で教会の天井まで届く大きな扉をバンバン叩く。
毎晩、鍛えたこのパンチで!
バンバンバン!
後ろからクリス様の足音がコツコツ聞こえる。
バンバンバン!バンバンバン!
ガキン!
ゴーン ゴーン。ガゴーン。ドカーン。……ミシミシ……ドカーン。
振り返ると教会のテッペンにある鐘が天井をぶち破り真っすぐ落ちて来た。
ゴーン グオーン。
鐘はそのまま広い部分を下に真っすぐ落ちてきて、真下に居たクリス様をすっぽりと閉じ込めた。
!!!
は!さすがに鐘は3メートル以上あるしクリス様……潰れてないよね……。
大きな鐘の音を聞きつけて、グラブラン伯爵家の護衛とラナが駆け付ける。
「お嬢様!どうされたのですか」
ラナが半べその私を抱きしめ背中をさする。
「怖かったよ~」
安心したら涙がこぼれた。
それから騎士団を呼び、伯爵家に戻り経緯を説明して……。
なぜだか私の隣にはアシェル様がぴったりと寄り添い……さらに腰をホールドされている。
「あの。アシェル様これはいったい……」
始めてお会いした時に、笑顔が素敵な殿方だお思いときめいたけど、美丈夫との距離が近すぎる~。
「10日前にグラブラン伯爵には、ジャスミン嬢への婚約を申し込み了承を得ている。
条件として、ジャスミンには接触せずに第一騎士団が調査中であったマーカスト侯爵家とジーク子爵家の違法薬物の処分を終わらせること。
マーカスト侯爵家に踏み込んだ際にクリスに逃げられたが、ジャスミンが教会の鐘で捕まえてくれた。」
私は突然の話に困って向かいに座るお父様に助けを求める。
「ははは。漆黒の騎士様がこんなに雄弁な方とは知りませんでしたが、娘を大切にしてくれることは十分に理解したよ。
まあ。お手柔らかによろしくお願いしますよ」
「はいお義父さま」
アシェル様が返事をして深々と頭を下げると、お父様はひらひらと手を振り部屋を出て行ってしまった。
アシェル様が私に向き直る。
「ジャスミン。これで俺たちは晴れて婚約者だ」
アシェル様と眼が合う。
サファイアの様にキラキラと輝く瞳に吸い込まれそう。
「アシェル様」
「順序が逆になってしまったが、会った瞬間に俺の心はジャスミンに捕らわれた。
俺と結婚してほしい」
アシェル様が私の手を握る。
少しだけアシェル様の手が震えているのがわかる。
私はにっこり微笑んだ。
「未熟者ですがよろしくお願いします」
「ジャスミン」
アシェル様にギュウギュウに抱きしめられた。
苦しいけど幸せ。
✿ ✿ ✿
「あの。アシュ様……どうして私の頭の上にアシュ様の頬が乗っているのです?」
アシェル様は仕事が終わると毎日グラブラン伯爵家にやってきて夕食と食後のお茶をして帰る。
そして夕食後のお茶は必ず隣に座り、横から私を抱きかかえて私の頭に頬をつけ頭を乗せる。
小さな私はアシュ様にすっぽり包まれる。
「ジャスの髪はふわふわで気持ちいいし。いい匂いがする」
もー。アシュ様との時間は、あまあまで心臓に悪いけど嬉しい。
「もうすぐ教会が新しくなりますね」
半壊した教会は新しく立て直すことになりもう直ぐ完成する。
「ああ。新しい教会のお披露目は、俺たちの結婚式だな」
アシュ様が私の瞼にキスを落とした。
新しい教会には地下室は作らなくてもよさそうです。
~ 終わり ~
誤字脱字などいつもありがとうございます。
マーカスト侯爵家とジール子爵家はちゃんと法に基づき罰せられました。
(#^^#)




