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女神の視界に入らないので、霧の鉱山で命令を奪って生き延びます  作者: いねむず
始まり

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第一話:ゴブリン


醜いものは、死ぬ。


それが当たり前の世界に――ボクは転生した。


女神がいて、「美」を定義する。

整った顔。均整の取れた肢体。用途として“正しい”形。

そこから外れた命は、生まれた瞬間に欠陥として処理される。


美しいものは守られ、醜いものは間引かれる。

秩序という名の選別だ。


……前世のボクと同じだな。


だから理解が早かった。

理解した瞬間、腹の底から笑いが出た。


「最高じゃん」


期待されない側。最初から捨てられる側。

だったら遠慮はいらない。

こっちは最初から、奪う前提で生きればいい。


捨てられた鍋の底に映った顔は――緑の肌、鷲鼻、猫背、がに股。

四本指にボロボロの爪。


誰がどう見ても、テンプレのゴブリン。


――弱い。

だから、最初に要るものも決まっている。


『五本指のある手』


指が一本増えるだけで世界が変わる。

掴める。結べる。削れる。組める。“作れる”になる。

武器も罠も、生活も――全部が加速する。


問題は、今のボクが雑魚ってこと。

正面戦闘は論外。勝率ゼロに近い。


だから、勝てる相手だけを狩る。


狙うのは――アルラウネ。


植物系モンスター。擬態部(人型の部分)が幼いほど弱い。

未成熟個体なら、麻痺させて捕食できる。


道具は二つ。

拾った『カミナリヤマアラシの針』と、『竹筒』。


竹筒で簡易の吹き矢を作り、針を撃ち込む。

刺されば麻痺する。痺れたら擬態部と蜜をいただく。


ここで、前世の知識が活きる。

――ただしこの身体は、前世よりずっと終わってる。


腹が、弱い。


一口でも変なものを食えば死ぬ。

ゴブリンの個体差なんて、当たり前に外れを引く。


なのに、ボクの腹は――落ち着いていた。


脳裏に、無機質な説明が浮かぶ。


◆固有スキル『鉄の胃袋』

毒も腐肉も骨も、とりあえず消化する。

即死を防ぐ土台。乱用すれば眠くなるし魔力も削れるが、それでも強い。


「……なるほど」


死ににくい。

それだけで、初手の選択肢が増える。


アルラウネの群生地。

日向で光合成している、ちょうどいいサイズの個体を見つけた。


息を殺し、竹筒を構える。


――すぅ。


吐かない。吸った息のまま、撃つ。


針が、ぷすりと刺さった。

擬態部がびくん、と跳ねて、硬直する。


……いける。


ボクは駆け寄り、腕に噛みついた。

蜜が口に広がる。


……きゅうりだ。完全にきゅうり。

甘いのに青臭い。妙にうまいのが腹立つ。


その瞬間、頭の中に声が響いた。


『――モンスター情報収集率、12%』


祝福でも称賛でもない、ただの事務連絡。

それなのに背筋がゾクッとした。


“食べた”ことで、何かが保存された感覚。

栄養じゃない。味でもない。

もっと冷たい――構造のメモ。


◆固有スキル『悪食あくじき

食べたものを“栄養”じゃなく、“情報”として保存する。


「……食べれば、進む」


なら、もっと食う。


ボクは腕を噛み千切り、さらに蜜を舐め――


次の瞬間。


硬直していたはずの擬態部が、ぎくり、と動いた。


「は?」


麻痺が解けるのが早い。

予想より、ずっと。


擬態部の指が、ボクの首に絡みつこうとする。

植物のくせに、力がある。


ボクは転がって距離を取った。

喉の皮膚に、ぬめった感触が残る。


同時に、少し離れた別個体の擬態部が、ぴくりと動いた。

風向き? 匂い? 蜜の飛沫?


――やばい。


ボクは腹ばいになり、草の影へ潜る。

心臓の音がうるさい。喉の奥で鳴っている気さえした。


数秒。


視線が逸れた。


その間に、ボクは理解する。


一匹ずつじゃない。

こいつら、群生地全体で“反応”する。


そして、麻痺が思ったより短い。

前世の知識は、前世のバランスのままだ。

この世界のアルラウネは、もう少し“嫌らしい”。


初手の狩りは――失敗。


ボクは撤退した。


『――モンスター情報収集率、18%』


腕一本。蜜少し。

それでも数字は上がった。


上がったが――遅い。


「……このペースだと、何匹必要だ?」


五本指までが遠い。

雑魚のまま周回を続ければ、いずれ運が尽きる。


だから、次は“取り方”を変える。


二回目。


ボクは同じ群生地へ戻らない。

反応が残っている。警戒も残っている。


少し離れた場所。日当たりの弱い端の群れ。

擬態部が小さく、蜜の匂いが薄い――未成熟がいる。


今回は、吹き矢を二本持った。

竹筒を増やしただけ。工夫としては貧乏臭い。

でも初手の火力が倍になる。


狙いは“仕留め”じゃない。

“腕だけ”だ。


麻痺が短いなら、短い前提で刈り取る。


――すぅ。

ぷす。

続けて、もう一発。

ぷす。


二本刺さった。


擬態部が痙攣して、がくりと沈む。

ボクは飛び込み、腕へ噛みつく。


だが。


口をつけた瞬間、擬態部の皮膚が、ぬるりと変質した。

蜜じゃない。粘液。

口の中に絡みついて、歯が滑る。


「……うっざ」


食いちぎれない。

噛むほど、滑って逃げる。


さらに、地面が震えた。


根だ。


アルラウネの本体が、地中から根を這わせてくる。

足首に巻きつき、引きずり込もうとする。


麻痺してても、根は動く。

擬態部じゃなく“植物”としての反撃。


ボクは歯を立て直し、無理やり肉を裂く――


ぶちっ。


取れた。

でも同時に、足首が持っていかれる。


「っ……!」


根が締まる。骨が軋む。

このままじゃ折れる。


ボクは噛みついたままの腕を抱えて、地面を転がった。

腕を引きちぎる勢いで引く。


根が緩んだ瞬間、逃げた。

逃げながら腕を食う。


鉄の胃袋がなければ、喉を通る前に吐いてる。

土と粘液と植物の汁が混ざって最悪なのに、腹は持つ。


『――モンスター情報収集率、41%』


増えた。

でも代償に、足首が痛い。

関節が熱を持っている。


二回目も、完勝じゃない。

ただの撤退戦。


「……このままじゃ、また死ぬ」


ボクは考えた。


収集率は、“食べた量”だけじゃない。

“食べた部位”で増え方が違う気がする。


腕を食ったときは伸びた。

蜜だけのときは伸びが悪い。


まだ確信はない。

でも、試す価値はある。


欲しいのは手。

なら――次は、手しか食わない。


三回目。


群生地のさらに外れ。

風下を取る。匂いが届きにくい場所。


未成熟個体を見つけたら、まず見回す。

近くに“反応の速い個体”がいない群れだけを選ぶ。


そして、今回からはルールを決めた。


蜜は後回し。

胴もいらない。

狙うのは擬態部の“手首から先”だけ。


麻痺が短いなら、短い中で確実に取れるサイズを。


――すぅ。

ぷす。

ぷす。


二連で刺して、硬直を長くする。

飛び込む。噛む。引きちぎる。

すぐ離れる。草影へ。


食う。

指。掌。手首の骨。


『――モンスター情報収集率、58%』


……やっぱり。伸びがいい。


次も同じ。


狩って、手だけ取って、逃げる。

見張りみたいに動く個体がいたら、その群れは捨てる。

欲張って蜜を舐めると、匂いが残る。追われる。


何回かやって、分かった。


こいつらは、ボクが思ってるより“賢い”。

でも、植物の賢さだ。

反応は速いが、学習は遅い。


なら、回せる。


四回目。

五回目。


ボクの胃が重くなる。

鉄の胃袋は万能じゃない。

乱用すれば眠気が来る。魔力が削れる。


視界が少し霞んだ。

身体がだるい。


それでも、やる。


やらなきゃ、ずっと四本指だ。


そして――六回目。


『――モンスター情報収集率100%になりました。どの部位を反映しますか?』


視界に選択肢が並ぶ。


『擬態部(手)』

『擬態部(頭)』

『茎幹部(胴)』


ここで初めて、もう一つのスキルの輪郭が見えた。


◆固有スキル『消化吸収』

悪食で集めた“情報”を肉体へ反映させる。


集めるだけじゃ意味がない。

反映して、初めて進化になる。


迷う理由はない。


「手」


『選択を受け付けました。選択部位:手。変換反映を開始します』


腕が、内側から光った。


骨がずれる。

筋が組み替わる。

皮膚が、引き伸ばされる。


痛みはない。

代わりに気持ち悪いほど“正しい”感覚がある。

欠けていたパーツが、あるべき場所へ収まっていく感じ。


そして――


五本指になった。


しかも、人間の手に近い形だ。

これで作れる。握れる。引ける。

吹き矢だけじゃない。弓も罠も、道具も――生存難易度が、別ゲーになる。


ボクは指を開いて、閉じて、確かめた。

関節の鳴る感じが違う。

力の入り方が違う。


……最高。


だが、オマケはそれだけじゃなかった。


手の皮膚が一瞬だけ、植物の艶を帯びた。

花弁みたいに、ぬらりと光る。


戻る。

また光る。

戻る。


ボクが意識したわけじゃないのに、勝手に“切り替わる”。


直後、声。


『――取得:所有能力『半擬態化』』


『反映した部位を保持し、部分的に変質できる』


「……保持?」


つまり、この手は元に戻らない。

アルラウネの擬態部を“装備”みたいに固定できる。


――外見が人間寄りなのも納得だ。

“擬態”を取り込んだ結果だから。


ボクは笑った。


「最高」


最初に欲しかったものが、少し苦労して手に入った。

罠も武器も、これで作れる。


美しいものが守られる世界?

だったらボクは、醜いまま強くなる。


次は――脚だ。


この世界を歩くための“粘り”を、奪いに行こう。

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